【公式自主企画、怖そうで怖くない少し怖い話】あのとき見たオレンジ色の光はなんだったのでしょうか?

猫とホウキ

第1話

 何年前のことでしたか。正確なところはちょっと思い出せません。最初のコロナ流行が収束した以降の出来事なので、去年か一昨年か(あれ? もっと前でしたっけ)、まあ、とにかく、その頃の出来事です。


 九月初旬。午前五時頃。この時期のこの時間なので、外はだいぶ明るくなっています。


 そんな時間にわたしは何故か──もちろんのせいだと思いますが──目を覚ましてしまいました。


 そして目を覚ました瞬間、混乱してしまいます。部屋の中がからです。


 わたしの寝室はマンションの三階の角部屋にあって、西向きと南向きに窓があります。厚めのカーテンを閉めてあったにもかかわらず、その二つの窓から差し込んできた光によって、わたしの部屋の中はオレンジ色に侵食されていました。


 まるで強い西日の直撃を受けているかのよう。混乱したというのは、「今って夕方だっけ」と思ってしまったからです。


 カーテン越し、あるいはカーテンの隙間から差し込んでくる──夕日を思わせるオレンジ色を浴びながら、寝惚けていたわたしの脳みそは徐々に覚醒していきます。「夕方じゃない、朝だ」と思い出して、スマートフォンで時間を確認して、早朝であることを確かめて──


 え、じゃあ……。


 この光は……なに?


 わたしはベッドから下ります。呆然と──まさに呆然と立ち尽くし、カーテン越しに窓を眺めます。


 夢ではないことには、感覚で気付いていました。実際、夢であったのなら、このあとに『夢であったことに気付くシーン』があるはずですが、それはありません。


 眺めていると、オレンジ色の光以外にも気付くことがありました。カーテンの中央あたりがふわりと少し膨らんでいたのです。パニエで膨らませたスカートのよう──とまではいきませんが、それに近いような膨らみ方をしていました。窓は締め切っていたので、風のせいということはあり得ません。


 わたしはそれにれてみることにしました。今思うと、とても恐ろしい行動を取っていますが、心霊現象のたぐいではないと思いたい──楽観バイアスのかかっていたわたしには、特に怖いと感じられませんでした。


 わたしはカーテンの膨らんだ部分に触れます。その瞬間、「あっ」という声すら出せず、思わず手を離してしまいました。


 んですよね。


 炎のような熱さではなく、『石油ストーブの熱源に徐々に手を近付けて、耐えきれなくなる直前』のような、とした熱さです。仮に真夏の陽光に晒されていたとしても、カーテンがここまで熱せられることはないでしょう。


 またも呆然とします。二分か三分か、それ以上か。わたしはまだ事実を受け入れられず、納得できる理由を探します。


 そしてわたしはさらなる行動に出ました。


 カーテンを開けてしまえば、この光について合理的な理由が見つかるはず。


 その理由を確かめない限り、わたしは現実に帰れません。あり得ないとは思いつつも、この光の正体が朝日だと信じて──わたしはカーテンの端を掴んで、熱いと感じる間もなく、一気にカーテンを開けました。


 それと同時に──ある意味では想定通りに、現実を取り戻します。部屋の中はオレンジ色ではなく、その時間のに満たされました。


 朝日なんて差し込んでくるはずがなかったんですよね。だってその日、わたしの住む関東地方の某県にはありました。空は雲に覆われ、アスファルトには雨粒が降り注いでいます。一瞬すらも太陽が顔を覗かせる瞬間があったとは思えません。


 わたしはまたも呆然と立ち尽くします。雨色あめいろの景色をいくら眺めていても、消えてしまったオレンジ色の正体は分かりそうにありませんでした。


 手に残った熱い感触だけが、そのオレンジ色が現実であったことを伝えます。



***



 しばらくして、わたしはベッドに横たわりました。その状況でよく寝られるな……思われるかもしれませんが、ほとんど思考停止していたせいか、「よく分からないけどとりあえず寝よう」としか思わなかったようです。


 このとき頑張って寝ようとしていた記憶もあるので、やはり夢ではなかったのでしょう。


 不思議というか、不気味というか。これがわたしの経験した『ちょっと怖い』体験でした。




【おわり】

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