22. 台詞の重要性:言葉遣いとリアリティ

 キャラクターの言葉遣いは、そのキャラ自身の個性を表現するだけでなく、人物同士の関係性を表すのにも有用な手段です。



◆関係性の差異・変化


 普段はぼうな口調のAが、Bの前では敬語になる。これだけで、AはBに尊敬をいだいていることが分かると思います。


 馴れ馴れしく話していたクラスメイトが、ある日を境にない話しぶりに変わったら。読者の知らない間に何かが起こったに違いない、と想像できます。



 今まで「お前」だった呼び方が「あんた」に変われば、以前より打ち解けたことが察せられるでしょう。


 「苗字にさん付け」が「下の名前」に。

 「名前呼び捨て」が「あだ名呼び」に。


 呼称の変化や使い分けは、キャラの内面や関係に変化を知らせるのにとても有効です。




◆台詞には文語を使わない


 日常会話を想像した言葉選びをすることで、自然な台詞運びを演出できます。


△「あんじょう、反論は不可能なんだね」

◯「やっぱり、何も言い返せないんだね」


△「以前さぁ、見ず知らずの男性から店員だと誤解されて困惑しちゃった」

◯「こないださぁ、知らないおじさんから店の人と間違われて困っちゃった」



 状況説明を兼ねた台詞であっても、口語主体の表現を心がければ違和感をやわらげるはずです。


△「二年ほど前は親密だったけど、現在は険悪な仲だってさ」

◯「二年ぐらい前は仲良かったけど、今はぎくしゃくしてるってさ」



 逆に、あえて文語的表現を使わせて、堅苦しいキャライメージを押し出すやり方もあります。とくに漫画・ラノベ寄りの作風ではよく用いられる手法です。


◯「いつもベタベタ触ってきて、ホント失礼な奴だなぁ」

◯「度重たびかさなる過度な接触、無礼千万せんばんやからですね」




◆和語と漢語


 大和言葉は情緒的/女性的、漢語は論理的/男性的な印象を与えます。


①「すぐにやめさせなきゃ! 何かヤバいこと起こりそう!」

②「即刻中止させなければ! 不測の事態が発生しそうだ!」


 前者の方は泡を食ったような緊迫感があり、後者はまだ状況をかんする余裕が感じられます。



 台詞に限らず、一人称や三人称一元視点における地の文でも、視点人物の性格や心境を意識した単語選びをすると、より臨場感が増すはずです。


①今さらこんな細かいことにこだわっていて、本当にいいんだろうか。


②このに及んでよう末事まつごと拘泥こうでいするのが、果たして賢明と言えようか。



 また、小説以外のエッセイなどでも、とくに読者の共感を求めたい場合は、大和言葉を中心に文章を組み立てていくとよいかもしれません。




◆女性語の使いどころ


 女性語、いわゆる「~だわ」「~かしら」口調です。「~よね」は、現実の会話でも流れ次第で使う場面があり得ます。


 女性言葉は、今日こんにちでは芝居がかったイメージを感じさせます。それを意識したうえでの演出はむしろ効果的です。リアル寄りな口調の中に一人配置するだけで、異質な人物と印象付けられます。



 言葉遣いには常に注意を払わねばなりません。架空のキャラクターが、我々と同じ血肉を持った人間だというリアリティを感じさせてくれる、大事な要素だからです。

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