23. ロジックとレトリック

 今回は、極めて当たり前の話を再確認しようと思います。



◆「理屈」と「言葉の綾」


 まずロジックとは、そのまま論理性、つまり「理屈」です。


「川沿いを下っていけば、海辺までたどり着く」

「優等生のあの人と同じ学校に入れるよう、私も勉強を頑張ろう」


 とくに前提を知らなくても、これらの文に引っ掛かりを覚えることは少ないでしょう。



 一方で、ここで言うレトリックとはいわゆる「言葉のあや」を指します。


 例えば、


「何億年だって君の帰りを待ち続けるよ!」


 という台詞に対して「いや、その前に寿命が尽きるだろ」と考えるのは、あまりに野暮が過ぎます。


 この場合「何億年でも待ち続けられるぐらい、相手のことが好きなのだな」と読み取るのが、一般的な感性だと思います。



◆会話できる人になろう


「こんなに食べたらお腹が破裂しちゃうよ~」

「尊すぎて天に召されそう……」

「最近は全然眠れないなぁ」


 実際に食べすぎで胃が破裂したり、尊死したり、一秒たりとも睡眠が取れていないと、額面どおり真に受ける人はまずいないでしょう。


 科学的な検証をなあなあで済ませてはいけないのと同様に、日常的な雑談の一言一言に厳密な定義を求めるのは場違いです。



 ネット論客やクソリプマン、カスハラ客やパワハラ上司などは、大抵「理屈」と「言葉の綾」を――意識的か無意識的かにかかわらず――混同させているふしがあります。


「『絶対』だなんて、あり得ないことを口にするのが悪い」

「あなたが『半数』と言う、その根拠は何ですか?」


 相手の言葉を、そのつど自分に有利な方に解釈して言い負かしたり、揚げ足取りをするのはみっともないですよね。

 どうせならば、ロジックとレトリックは、相手を楽しませるために使い分けたいと、私は考えます。



◆言葉を扱う者として


 これまで述べた内容は、以前につづった「説明と描写」(第5回)にも関連してきます。


 説明に必要なのは、情報を正確に伝えるためのロジック=理屈。

 描写に必要なのは、ニュアンスを効果的に伝えるレトリック=言葉の綾。


 それぞれロジックは設定のディテール、レトリックは場面のニュアンスを伝えるものと、私は意識しています。

 物書きの端くれとしては、両者の区別をはっきりと意識したうえで、自覚的に使い分けができるよう目指したいです。



 大事なのは、言葉の厳密な定義そのものではなく、言葉の裏にある発言者の想いであると理解すること。


 言葉を発する人、聞く人、双方が「理屈」と「言葉の綾」の区別を理解できたなら。

 世の中の不幸なすれ違いの九割(←これも言葉の綾)は避けられるのではないかと思うのです。

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