16. 文字数削減、あえてしない選択

 自分の胸倉を掴んで恫喝どうかつします。



◆看板にケチをつけてみる


 当創作論は第一に「文字数削減」を掲げてはいるものの、これはいつ何時も守られるべき鉄則というわけではありません。

 軽快な読み口が売りのライトノベルといえど、短く簡潔な描写だけにとらわれてはいけないと考えています。


 終始ハイペースでかされるよりは、適度に緩急のつけられた展開の方が、読者も読み疲れしないはずです。

 時にはとりとめなく続く会話や情景描写で、キャラの人となりや関係性を示すのも一つの趣向と言えるでしょう。



◆雰囲気で小説を読んでいる!


 読者は作品に明確な「意味」だけを求めているのではありません。「雰囲気」や「ニュアンス」といった、一見捉えどころのない要素に対しても、同様に価値を見出だすものです。

 自分が読み手に回った場合を想像すれば、おのずと理解できるはずです。


 例えば、ファンタジーにおける魔術理論の説明、ミリタリー物での銃器や兵装の解説、バトル展開にあってはオリジナル武術の理合……などなど。

 以前に、避けるべきものとして挙げた衒学げんがく趣味ですら、雰囲気作りには有効と言えます。


 とはいえ、面白さに直結しない設定ならば、無理に開示しなくてよい……というよりも、「するな!」と自分に言い聞かせることが肝要です。



◆それでも削るべきときがある


・「徒歩で学校へ向かう。歩き疲れた私は~」←徒歩で、は要らない


・「私より年上の◯◯先輩は~」←◯◯先輩は~だけでいい


・「俺は水を飲み干した。空になったコップを~」←飲み干したのは空になったコップを見れば分かるので不要



 重複する事実や、誰にとっても自明な事柄はわざわざ書かなくてもいいです。



◆削ってもいいし、削らなくてもいいときもある


「おーい、待ってくれよ」


 降り階段の途中で、上から呼び止められた。振り返った僕は、先輩の姿を一瞥いちべつするや、再び階下へと向かう。


「いい加減、しつこいですよ」

「そんなこと言わずにさ。聞いてくれってば」


 先輩はしつこく僕のそでを引っ張りながら、なおも食い下がってくる。


  *  *  *


 階段の上から話しかけていた人物が、次のカットでは主人公の横で話しています。


 近付いてくる描写を挟むべきでしょうか。


 常識的に見て、歩いて移動したに決まっているのですから、わざわざ書くまでもないことです。突然ワープしたとか、考える方がどうかしています(能力バトル物でもない限り)。



 言うまでもありませんが、書かなくてもいいことは、書いてもいいことでもあります。


 ただ、そのまま「先輩が追いかけてくる」とするのも芸がありません。

 「弾む息と足音が互い違いに僕の隣へと迫ってくる」といった描写に置き換えてみるのもいいでしょう。

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