9. 捨てるべきもの三箇条(2)リアル至上主義にとらわれない

  ①完璧主義を捨てる

  ②リアル至上主義にとらわれない

  ③必然性を最優先しない


 真野まのうおの個人的三箇条の続きです。



②リアル至上主義にとらわれない


 こちらも以前の回で書いた、リアル至上主義への戒めです。


 作者の体験や知識に基づく描写は、読者の没入感を誘い、作品そのものにも深みをもたらします。


 ですが、それも加減や使いどころを誤ると、読者の嫌悪感や反発を招いてしまいます。

 とくに、安易な現実路線は、悪い意味で作品の内外を地続きにしてしまいがちです。



 例えば、若くして目指した夢は、大抵の場合叶いません。

 努力は実を結ばないし、自分の中で手応えを感じたとしても上には上がいるし、諦めずに挑戦を続けたとしてもタイムリミットの方が先にやって来ます。


 ハイスペック御曹司が、冴えない私にだけ優しくしてくれることもあり得ません。

 御曹司は女性たちから引く手あまですし、仮に関係を持てたとしても、二人だけの甘い生活は待ってはいません。嫉妬や二股三股に巻き込まれて泥沼不可避です。



 こうした所謂いわゆる「負のご都合主義」展開を娯楽作品に仕立て上げる方法は、悪役主人公の悲喜劇として描くか、露悪趣味に走るかの二択に絞られます。これらのジャンルで万人に訴えるカタルシスを演出するのは至難の業でしょう。


 エンターテイメントとして、読者を意識することは最優先事項です。

 「夢なんて見るもんじゃない」「これが現実だから」を見せつけて気持ちが良くなれるのは、作者だけだと理解するべきです。



 創作(フィクション)は、現実(リアル)の単なる追認であってはならないと思います。


 フィクションとは、わば現実の二次創作です。約束された悲劇をハッピーエンドへ書き換えることのできる、人類の叡智なのです。

 創作の道を歩む以上、これを有効活用しない手はないと考えます。



 長々と語ってまいりましたが、生き生きとしたフィクションを描くためには、むしろリアリティは必要不可欠です。


 オタクに優しいギャル。

 私にだけ一途なヤンキー。

 学生みたいに純情な社会人カップル。

 彼らがそうなるに至った背景に、説得力を伴った理由付けを施すことで、奥行きのあるストーリーを生み出せるのです。


 現実でのあり得なさを、作中世界でどう成立させるかこそ、作者の腕の見せどころではないでしょうか。

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