いち
あの日も雨だった。
夜に医者のお母さんが病院で倒れたって電話を受けて、傘もささずに気付けば駆け出していた。
ぴちゃぴちゃと足音を立てひたすら走る。
夢中で走っていて人に気付かずぶつかってしまった。
明るい繁華街。そこが小学生にとってどれだけ危険かなんて理解していなかった俺は、すみませんと軽く謝って再び足を動かそうとした。
「ああ?なんだよ?」
だけど数人の大男たちによって阻まれてしまう。
周りの人は気付いていないのか気付かないふりをしているのか、誰も声をかけてこない。
「教育もなってねえのかよ。ガキがよ」
「ちゃんとおにーちゃんたちに謝りましょーね」
「うっ」
ギラギラと光る靴で俺は簡単に蹴られてしまい、後ろに倒れる。
「ご、ごめ」
すっかり怯えきってしまった身体は動くはずもなく、怖くて涙が流れた。
「あ?泣いてんのかよ。ガキのクセに——」
「だ、だめっ!!」
視界に大きな影が落とされる。それが人だとわかったのは、すぐのこと。
ほつれたお団子頭にエプロン姿で、右腕を伸ばしてる。
そこには、あの“シルシ”があった。
「おじょーちゃん邪魔しないでくれる?俺らは今からこいつに礼儀ってもんを———」
「けっ、警察呼びましたから!うちの店長が!」
「は?そんな冗談通じるわけ———」
すると、本当に近くでパトカーのサイレンの音が鳴り響いていた。
「まじじゃね?」
「逃げろお前らっ!」
バタバタと足音を立てて大男たちは逃げて行った。
サイレンはというと、こちらに近づいてくることはなくだんだんと遠のく。
「大丈夫?」
「は、はい」
手を差し伸べられ、俺はそれをとる。
胸元のネームプレートには、『立花』と書かれていた。
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