Ⅶ
リビングルームに通され、真っ白なダイニングテーブルの椅子に座る。
周りを見渡すと、余計なものが置かれていないなと思った。言い方を変えれば、生活感のない部屋。そんな中、一つ異彩を放つものがあった。
少しくたびれたスクールバッグが床に置かれている。
数分後、キッチンからふわりとコーヒーの香りが漂い、心が少しだけ落ち着いていく。
「どうぞ。粗末なものですが」
「いえ……ありがとうございます」
目の前にお花模様のティーカップが置かれ、彼が目の前に腰掛けた。
お言葉に甘えてコーヒーにそっと口をつけると、苦くて甘い味が舌に広がる。それがゆっくりと身体全体に巡り巡っていく。
「……おいしい」
「よかった。俺、コーヒー淹れるのちょっと得意なんで」
そう控えめに笑った姿に、私は見覚えを感じた。なんでだろう、どこかで会ったりしたのかな。
「こんなことを女性に聞くのは失礼かと思うんですが、おいくつですか?」
「……27歳です、けど」
ほんとに突然だな。と思ったけど別に失礼だとは思わなかった。それは言葉に悪意が感じられなかったからだと思う。純粋に知りたいだけなんだと。
「俺は見ての通りです。今年で17になります」
「……じゅう、なな?」
う、うそでしょ。
17ってことは、高校生!?じゃああのスクールバックは……。
ていうよりも私、今未成年の部屋にいるってこと!?
なんで気が付かなかったんだ。察しが悪すぎる。
しかし当の本人は不思議そうな顔をしていた。
「どうしましたか?」
「これ、私、まずいんじゃ……」
と言いかけると、遮られる。
「俺の名前、覚えてますか。さっき言ったんですけど」
「え?えっ、と」
確か、エレベーターの中で名前の話をした気がする。だけど私は思い出せなかった。
「俺の名前は、千尋です。好きになように呼んでください」
「えっと、千尋くん」
「はい」
「私って、名前名乗ったっけ」
「名乗ってない、ですね」
「すみません」
私は名乗らずにこんなところまで来てしまったことに自分の常識のなさを痛感する。
「私は立花景衣子……です」
「景衣子さんって呼んでもいいですか」
「は、はい。どうぞ」
17とは思えない落ち着き。大人っぽい雰囲気。そして、コーヒーと混じる甘く爽やかな花の香り。
それが、私を一夜だけの世界へ誘いこむ。
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