Ⅱ
彼氏だった男、
もともとみんなの憧れって感じで、女子人気もあって彼女も絶えない人だった。
私は大して気にしたこともなかったけど、大学を卒業し22歳の社会人一年目の年に偶然再会した。
クラスメイトだったってだけで関わりなんてほとんどなくて当時も事務的な会話しかしていなかっただろうに、向こうは私のことを覚えていたのだ。
そこから何回か食事に行くにつれて私でもわかるほどの熱烈なアピールを受け、日々仕事のストレスで身体も心もボロボロだった私は、優しくしてくれる彼に簡単に甘えてしまった。
そして再会から一年も満たないうちに私たちは交際をスタートさせた。
あれから五年。今まで気付かなかったのが不思議なくらい。
高校の頃から女の子をとっかえひっかえしていた彼。そんな人が5年という長い歳月で私だけを好きでいるなんておかしい。
浮気をしてるって分かったのは、彼が『仕事で帰れない』とメッセージを送ってきた日。
スーパーで夕食の買い物を済ませた帰り道だった。
スーツ姿の彼と見知らぬ女性が親密な様子で歩いていたのを見かけたのだ。
誰が見てもきっと、恋人だというだろう。
ショックだった。とても。あのときは確か、3年半付き合ったときだったかな。
だけどなぜか、涙は出てこなかった。それはたぶん、昔の彼を思い出して納得してしまったから。
別れられなかったのは、早く結婚して両親を安心させてあげたかったから。
家計が厳しくても仕事で忙しくても、私にたくさんの愛を注いでくれた両親には感謝しかない。だから多少の浮気くらいの我慢、別にどうってことないと思った。
だけど結婚の話なんて出ることもなく5年。ついには正反対の別れ話が出てしまった。
好きだった、のかな。これだけ一緒にいたから、感覚が麻痺して分からない。
このレストランは、私と彼が恋人になったときの一番最初のデートで彼が連れてきてくれた店だ。
わざわざここを選んだのかなと思ったけど。違うだろう。5年前のデート先なんて覚えてるはずない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます