彼氏だった男、根本悠志ねもとゆうしと初めて出会ったのは、高校のとき。

もともとみんなの憧れって感じで、女子人気もあって彼女も絶えない人だった。

私は大して気にしたこともなかったけど、大学を卒業し22歳の社会人一年目の年に偶然再会した。


クラスメイトだったってだけで関わりなんてほとんどなくて当時も事務的な会話しかしていなかっただろうに、向こうは私のことを覚えていたのだ。


そこから何回か食事に行くにつれて私でもわかるほどの熱烈なアピールを受け、日々仕事のストレスで身体も心もボロボロだった私は、優しくしてくれる彼に簡単に甘えてしまった。

そして再会から一年も満たないうちに私たちは交際をスタートさせた。



あれから五年。今まで気付かなかったのが不思議なくらい。

高校の頃から女の子をとっかえひっかえしていた彼。そんな人が5年という長い歳月で私だけを好きでいるなんておかしい。


浮気をしてるって分かったのは、彼が『仕事で帰れない』とメッセージを送ってきた日。

スーパーで夕食の買い物を済ませた帰り道だった。

スーツ姿の彼と見知らぬ女性が親密な様子で歩いていたのを見かけたのだ。


誰が見てもきっと、恋人だというだろう。


ショックだった。とても。あのときは確か、3年半付き合ったときだったかな。

だけどなぜか、涙は出てこなかった。それはたぶん、昔の彼を思い出して納得してしまったから。


別れられなかったのは、早く結婚して両親を安心させてあげたかったから。

家計が厳しくても仕事で忙しくても、私にたくさんの愛を注いでくれた両親には感謝しかない。だから多少の浮気くらいの我慢、別にどうってことないと思った。



だけど結婚の話なんて出ることもなく5年。ついには正反対の別れ話が出てしまった。

好きだった、のかな。これだけ一緒にいたから、感覚が麻痺して分からない。


このレストランは、私と彼が恋人になったときの一番最初のデートで彼が連れてきてくれた店だ。

わざわざここを選んだのかなと思ったけど。違うだろう。5年前のデート先なんて覚えてるはずない。

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