出現
菫野
出現
たそがれの髪暗緑にしづまりて眸のごとき月を待ちをり
美術史のパネルの前を過りゆくマソリーノ・ダ・パニカーレの天使
死の方より生をしづかに眺むれば あなレモンシャーベットに似て
届かざる言葉はなべてとほき火と蠍は云へり 意味こそ灰と
真夜中の卵を割れば落下した竜がお鍋の中で溺れる
紡錘の少女のそびらひらきゆくみづいろのはねとらへがたきを
スノードーム逆さまにして夏の日の聖ニコラウスやさしき倒立
耳の裏に蝶百匹を住まはせてあなたはわたしを涼しくさせる
湯に味噌を溶いてごらんよにごりながら清くなりゆく味のあること
国ほろぶ夜にわたしは生れると云ひし人はも黎明王女
ゆびさきに葉や花でなく爪といふものを生やして人間たちは
アップライトピアノほしくてただひとり午後の夏野で出現を待つ
百億の夜にシーツをかける手に天使があたふ星のバングル
ふたこぶのらくだと少年振り向きぬ世界は存在しはじめるらし
出現 菫野 @ayagonmail
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます