第50話 領域の支配者


 Q:どうしてレジェンドさんはアバターにスキルや装備をつけ忘れたのです?


 A:ふむ……話せば長くなる。我、G級縛りの試合用装備セットをゲームに登録してたんだがアップデートで初期化されてたのだよ。エト嬢


 Q:一文で終わったのです。つまり、今回の件はアップデートのせいだと?


 A:そうだな。だから、我わるくない。


 Q:ここで、おねえさ――――ではなく運営からのメッセージなのです。

『そのアップデートをやったのは半年前で、ちゃんと注意喚起もした。責任をこっちになすり付けんな。ボケ』だそうです。


 A:運営、口悪くない!?…………い、いや、でも、G級戦なんてめったにないし、我って忙しい身だし、忘れても仕方ないと言うか…………


 Q:お次はタレコミがあったのです。匿名希望の【謎のチームメイトTD】さんからなのです。【謎のチームメイトTD】さん曰く――――

『私、何度も言いましたよね?絶対忘れるから先に登録してくださいって。いつもいつも後でやる、と言ってやらないんですから……あと、無様な試合にご立腹なセツがマキシマさんの秘蔵カップ麺食べようとしてますよ』とのことです。


 A:【謎のチームメイトTD】って、きさま東堂とうどうであろう!?隠す気あるの!?そんで、きさまは我の母上か!?あと、セツナ嬢きこえてるッ?それ特別な試合で勝利した時に食べようと思ってた、もう手に入らない希少なカップ麺だから食べないでッ!我、泣いちゃうよッ!?


 Q:最後になにか言いたいことはありますか?


 A:それでも我はわるくないッ!



【アンケートの投票結果】


 :悪いに決まってるのです! 98%

 :悪くはないかも?なのです  2%


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『――――ということで、弁解タイムしゅ~りょ~なのです!』


「ちょっと待って、エト嬢!?このままじゃ我の威厳が無くなっちゃう!チャンスをッ!ワンモアプリーズッ!」


『ダメなのです!』


「即答!?」



【ゲーマー界隈の伝説さん。スキル・装備を忘れちゃった事件】の後。

 弁明させてほしい!というマキシマの提案で始まった裁判Q&A


 運営からの異議あり!とチームメイトの証言で、ほぼ10:0で有罪おまえがわるいという判決になった。

 本人は不服で控訴の構えをとっている。

 もちろんそれは裁判長エトに棄却された。


 陪審員かんきゃくたちは呆れのムードである。


『なにやってんだよ……マキシマぁ…………』


『これが日本一チームのリーダーかぁ…………』


『そんなんだから【マキシマやらかしまとめ】なんてサイト作られんだろうが』


『まあ、マキシマは一戦目やらかすのは伝統芸だからなぁ』


『それでも最後は勝てる不思議。ハンデのつもりなのか?』


『いや、マッキーは本気でやってさー。本人はいたって真面目さー』


『生粋のエンターテイナーだねー』


――――などが観客の反応で、他にもマキシマのやらかしを笑ってる観客もいる。


そんな中、消化不良で一戦目を勝利したリュウセイは――――黙考していた。


『マスター、考えているところごめんなさいなのです。次の対戦始めますか?』


「ん?ああ、そっちの催し物おわったのか?じゃあ、準備――――の前に、エトが感じたマキシマさんの印象聞いていいか?」


『レジェンドさんのですか?う~ん…………流れを作るのがうまい人でしょうか?』


「流れを作るのがうまい?」


「はい。レジェンドさんがスゴイところは――――」



観客と言い合いをしてるマキシマをしり目に語る。


エトはマキシマの優れたところは、周囲の流れをコントロールしていることだと言う。

彼はイベント最終戦でプロ選手としてありえないようなミスをした。

通常のプロなら炎上していたであろうミスを、だ。

実際、観客席の反応を把握しているエトは『』が芽吹きかけてたのを確認していた。


だけど、いま観客の反応を見ればわかるが、呆れてはいても罵倒する者はいない。

ほとんどの観客は彼のやらかしを笑って見ている。

悪意を持とうとした人物を含めてだ。


彼の言葉が、行動が、一挙一投足が、お道化どけるような仕草が笑いを誘っている。

それは意識してか無意識か分からない。

しかし、彼がその流れを作っているのは間違いない。


そんな流れを変える力。

自分が望む方向に持っていける力。

それに気付かせない力。


領域フィールドの支配者』。


それが【MAXIMAマキシマ】こと――――真木島真路マキシマシンジの印象だとエトは言う。



『――――という感じが、エトのレジェンドさんに対する印象ですね』


「おー、エトはすごいな。オレがマキシマさんに感じてた違和感をすぐに言語化してくれたな」


『ほめられたのです!?マスターが素直にほめてくれるなんて珍しいのです!――――んふふ~♪』


不意打ちにほめられてご機嫌に鼻歌を歌うエト。

リュウセイは意識を戦闘に切り替えながら呟く。



「なるほどな。――――」



最終戦二戦目が始まる。





最終戦二戦目。


引き続き、リュウセイは銀装:サジタリウスで近未来的な銃を構える。

対する、マキシマの道化師は――――


先込め単発式のファンタジー風アンティーク銃を両手に構える。


それは現実世界なら現代銃に到底勝てない品物だが、ゲームの中では違う。

基本、このゲームはデメリットが大きいものほど強力なものが多い。

マキシマの銃もその例に漏れず。

装填に時間がかかる。単発しか撃てない。

そんなデメリットと引き換えに強力な一撃を放てるというメリットがある。

単発のデメリットも【オートローダー】があればないようなものだ。


試合開始の合図までマキシマは道化師を操り、アンティーク銃でジャグリングしたり、バトンのようにくるくる回している。

格好と相まってサーカスでも始まりそうな雰囲気があった。


『うむ。今度はちゃんとスキルも装備も万全だ。我、えらい』


「マキシマさん、ひとつ聞いていいか?」


『ん、なんだ?年長者として若者の質問には答えてやりたいが、いまは敵同士。答えてはやれん――――』



「一戦目。?」



その言葉にマキシマはお道化どけた雰囲気は消え。

代わりに獲物を目にした野獣の笑みを浮かべる。

それは少年をと認めたからだ。



『最初からだ』



答えは簡潔。

だが、言葉には出来ない圧力と覇気があった。



『最初からアバターの散るその時まで貴様の銃撃を誘導していた』



それはマジックの一種。

視線で誘導し。

相手の注意を逸らし。

わざと隙を作って誘い込み。


視線・心理・身体、それらすべて使ってリュウセイの行動を操っていた。



「最初からか…………まだまだ未熟だな。気づくのが遅すぎだ』



リュウセイは一戦目の途中からアバター操作に違和感を覚えていた。

無理やり踊らされてるような、そんな感覚を、だ。



『気づいただけで花丸だ。我の【】は大抵の者は気づかない。我のチームメイトでさえ、ひとりを除き気づいてないのだからな』


「それって――――」


『夕闇咲ライラ嬢――――貴様が目指す極天だ。ククク…………』



堪える笑いとともにマキシマの戦意が膨れ上がっていく。

化物少女ライラ以来、見破られたことのない技術を看破する相手が現れたのだから。



『そういえばライラ嬢もわずかな時間で気づいていたな。次世代が着々と育っているということか――――面白いッ!!!』


「ッ!?」



覇気のこもった大音声が仮想の闘技場に響き渡る。

観客は普段とは違うマキシマの雰囲気に息を呑む。




『かかってこいッ!リュートッ!次世代の力、我に示してみろッ!!!』



「ハッ!言われなくても――――やってやらァッ!!!」



最終戦二戦目――――開始。


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 ただいま新作公開中です!


 未来の世界、歌って殴ることが得意な女の子(百歳越え)がダンジョン?みたいなところで、歌ったり、殴ったり、壊す話になる予定です。


 題名は『戦乱闘劇:イクサバ・アスラは修羅道を征く~天上に届け、天下に轟け!世界を救う戦場の歌!修羅と呼ばれた少女の伝説。ここに開幕!~』と言います。


 どうかよろしくお願いします。

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