第49話 ヤツはとんでもないものを忘れていきました
新作予告!
11月14日の21時ぐらいに新作を投稿します。
題名は『戦乱闘劇:イクサバ・アスラは修羅道を征く~天上に届け、天下に轟け!世界を救う戦場の歌!修羅と呼ばれた少女の伝説。ここに開幕!~』です!
よかったら見て頂けたら幸いです。
『ロスト・フォークロア』も『イクサバ・アスラ』も、どっちもエタらせるつもりはないので、どうかこれからもよろしくお願いします。
詳しくは、11/14の昼ぐらいに近況ノートを書きます。
↓以下、本編です
―――――――――――――――――――――――――――――
イベント最終戦。
対戦相手が選ばれる前、観客席は【リュート】を応援するムードだった。
運営の用意した鬼のようなルールを乗り越えてきたからだ。
負けは許さず、難易度はどんどん上昇し、さらには煽りや野次などプレイヤーの精神を削る鬼畜な条件を乗り越えてきた。(※一部は運営のせいじゃない)
ここまでくれば【魔王】に挑戦することをほとんどのプレイヤーが認めるだろう。
だから、最後の対戦相手もサクッと倒してイベントを終わらせることを望む声もたくさんあった。
だが――――今は違う。
選ばれた対戦相手を見た瞬間。
観客席は、配信を見てるリスナーは対戦相手の活躍を望む声で染まっていく。
対戦相手の名は、プレイヤーネーム【
現役では最年長のプロ選手であり、最初にXRゲームのプロになった人物。
そして、XRゲームの黎明期から数々の偉業を残してきた【生きる伝説】だ。
所属は、夕闇咲ライラも名を連ねる最強と名高いプロチーム【トワイライト・ビースト】のリーダーを務めている。
全盛期はとっくに過ぎたが、それでも並み居るプロ選手に負けないほどの実力があり、若かった頃の【MAXIMA】なら夕闇咲ライラでも勝てないと言われるほどである。
ちなみにエンターテイナーとしての側面も持ち、そちらも人気がある。
そんなゲーマー界隈の偉人の登場に観客は沸き立つ。
『マ・キ・シマ!マ・キ・シマ!マ・キ・シマ!』
『マジで!?マジでマキシマなのか!?』
『ゲーマー界隈の大御所がなんで参加してんの!?マキシマさん!?』
『【リュート】応援しようと思ったけど、マキシマさんが出てくるなら話が変わるぞ!』
『最後の最後でとんでもねえ対戦相手がキターーーーーー!』
『これ終わったのでは…………?』
『非公式戦では夕闇咲さんに勝ったこともある人だからな…………』
『【リュート】、お前はここまでよくやったよ。まじで』
『これは運がなかったとしか言いようがないな』
『いや、まだ負けてないからな?決めつけてやるなよ』
『う~ん。いくら【リュート】でもなー…………』
『…………まあ、最後まで見届けてやるか』
などなど、すでに負けが決まったかのような雰囲気だった。
そんな観客の反応にマキシマは澄ました顔をした――――裏でテンパっていた。
(まっずーー!?チームメイトの制止振り切って勢いで参加したけど、我が表に出ればこんな反応になるのは当たり前だった!?これは流石に【リュート】に申し訳ないぞ!イベントの主役を食って、どうすんの我!?どうする!?どうしよう、我!?)
さすがは歴戦のプロ。テンパっても表情をほとんど表に出さない。
欲を言うなら思慮深さも持ち合わせて欲しかった。
「はじめまして……かな?以前、公園でパフォーマンスをしてた【黄昏・ファンタジア】の方ですよね?あの時の人がこんな有名人だったなんて驚きました。観客の反応が気になってるみたいですが、オレは気にしてないので大丈夫ですよ」
マキシマが最初に
失礼なことをされない限り基本いい子なのだ。
ついでにマキシマの心情を、わずかに観客に向ける視線や口角の引きつりを【視て】判断していた。
なぜその洞察力が某元悪役配信者に発揮されないのか不思議である。
『そうか、【リュート】は大人なのだな。我、感心。…………マジで』
(なにこの子!?いい子過ぎる!?我だったら露骨に舌打ちするぞ!?本当に我より大人じゃない?え?でも見た感じ高校生かそれ以下…………我、もしかして未成年以下?しかも、さらっと心読まれてるし。我、自信失いそう…………)
なけなしの大人としてのプライドでなんとか平静を装うが限界が来そうだ。
「はは、そんなんじゃないですよ。気にするようなことじゃないってだけです」
『いや、精神が子どもの域じゃないんだけど……我よりよっぽど大人じゃん……』
「本当にそんなんじゃないですけどねー。だって――――」
『だって?』
「誰が何と言おうと。あなたがどれだけ強かろうと――――やる事は変わらない」
和やかな談笑は終わり――――リュウセイは口角を上げ闘志を覗かせる。
それに気付かないほどマキシマは耄碌してはいない。
鋭くした視線を仮想の黒衣を纏う少年に向ける。
『ほう?』
「『勝つことでしか辿り着けない極天へと至る道』――――このイベントの説明文です。勝たないと
気分の高まりとともに語気が荒くなってなっていく。
「アンタがプロだかレジェンドだか知ったことか。アウェー?観客のほとんどがアンタの活躍を望む?――――ハッ、逆境上等!人気ナンバー1の【魔王】に挑むんだ。その程度の覚悟はとっくに済ませてる」
どんな相手でも、期待なんかされなくても関係ない。
すでに進むべき道はわかっているのだから。
「オレがやる事は唯ひとつ。勝つことだけだ。アンタに勝って、越えて、先に行く!」
一意専心。迷いなどない。
「止めれるもんなら止めてみろッ!!!」
ゲーマー界隈の【生きる伝説】に堂々と啖呵を切ったリュウセイ。
はた目には大言壮語を吐く、身の程知らずにしか見えないだろ。
観客の中には不快に思う者もいたはずだ。
だが、マキシマは――――
『よくぞ吠えた!』
上機嫌にリュウセイの答えを認めていた。
『覇気のある者は我、大好きだ!我の肩書だけでビビる者が多いこと多いこと…………そんな者に勝っても嬉しくもなんともない。やはり対戦ゲームは勝つ気がある者とやらないと楽しくないからな!』
「それは同感だな」
『おお、【リュート】もそう思うか?ここでゲーム談義をしたい――――ところだが、そうもいかないか…………』
「だな。そろそろ始めようか」
互いに向かい合い。
アバターを映し出す。
『改めて、名乗ろう。我は【
「【リュート】だ。アンタに勝って、越えて――――【魔王】に挑戦する」
緊迫の空気が流れ。
両者言葉なく、『準備完了』を選択した。
『あ』
ここではじめて、ふたりを見守っていたエトが声を漏らす。
だが、それに気付かず。
【極天至道:シュラノミチ】最終戦が始まった。
◆
初手、リュウセイは【銀装:サジタリウス】を選択していた。
相手は【MAXIMA】スタイルという、『クイックチェンジ』や『アームドチェンジ』など、自分の戦闘スタイルのベースになった人物だ。
どこまで通用するのか試すつもりだ。
対するマキシマは、道化師のようなアバターで手には何も持っていない。
無手である。体に隠している様子もない。
だが、『クイックチェンジ』や『アームドチェンジ』にはそんなものは関係ない。
いきなり武器が現れるのだから。
警戒しながら銃の引き金を引く。
選択した武器は一番手に馴染んでいるハンドガン。
【
初期に手に入れた物で、少しだけカスタムパーツを追加したものだ。
「フッ!」
距離はそこそこ。
道化師から遠すぎず近すぎずの距離。
この距離がよけにくい距離だとイベントを通して理解していた。
両手の銃をタイミングを変え、相手の行動を先読みしながら撃ち放つ。
移動しながら、相手と一定の距離を保ちながら。
銃口が煌めき、光弾が相手を捉え――――外した。
だが、それ想定済み。
回避先を読むように、一手ずつ詰めていくように、追い詰める。
しかし――――
「マジか…………」
全弾回避。
弾倉が空になる寸前になっても、一発も当たらなかった。
隙は作らないように【クイックチェンジ】と【オートローダー】を使用して、別の銃を構え、弾倉の交換は済ませている。
相手を警戒しながら、刹那の内に考える。
リュウセイはマキシマの実力をある程度予想していたが予想以上だった。
今まででも全弾回避するプレイヤー何人もいた。
しかし、それはスキルありで、だ。
マキシマの道化師はスキルを全く使わず回避した。
驚異のプレイヤースキルだ。
リュウセイが戦った相手では二人目である。
さすがは伝説的プレイヤー。
リュウセイは相手の実力予想を上方修正した。
(ここまで反撃はない……)
相手を盗み見る。
スポンサーロゴの入ったファンタジーな仮想の衣装に身を包んだマキシマは――――不敵に笑っていた。
(なにかを狙っているな…………)
警戒度をあげ、攻撃を続けるか悩んだ。
(カウンター狙いかそれとも――――)
相手の狙いが分からず、考えて考えて――――
「とりあえず離れて撃ち続けるか」
『え』
反撃が来るまで撃ち続けることにした。
この間、三秒。
マキシマの口から言葉が漏れたが気のせいだろう。
銃撃を再開した銀装:サジタリウスは【クイックチェンジ】と【オートローダー】を併用した間断無き撃ちっ放しをしていく。
それを道化師は――――
躱す。
躱す。
躱す。
躱――――あっ、カスった。
体勢が崩れたところに追い撃たれる。
大きなアクションをとり躱す。
地面をゴロゴロ転がりながら躱す。
その後も、躱して躱して躱して…………
ここまで反撃なし。
さすがに「なにかおかしいぞ?」とリュウセイは気付く。
マキシマの顔は不敵なままだが、よく見ると汗がだらだら流れている。
なんとなくエトのほうを向くと。
オロオロした様子で――――
『これ言ったほうがいいのです?でも、試合中の助言はマスターに止められてるからどうしましょう…………』という感じが顔に出ている。
再び、マキシマのほうに視線を戻して言う。
「マキシマさん――――アバターにスキルと装備セットしました?」
その言葉にマキシマは重荷が取れた穏やかな顔で答えた。
『――――我、忘れちゃった。てへっ♪』
その後、無防備な道化師のアバターを遠距離から一方的に処理した。
最終戦一戦目はリュウセイの勝利に終わる。
―――――――――――――――――――――――――――――
当初の予定は主人公に立ちはだかる強大な敵!って展開を考えていたのに、どうしてこうなった?
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