第48話 レジェンド・プレイヤー
【四月五日・午後・eスポーツ施設内食堂】
【魔王】夕闇咲ライラとの試合予定がきまった翌日。
リュウセイはイベント【極天至道:シュラノミチ】最終日のラストスパートを走り抜けようと、朝早くから対戦を始めていた。
さすがに最終日にもなると強敵ぞろいで苦戦を強いられたが、なんとか勝ち抜き。
ノルマの十試合まで、あと一試合のとこまで来ていた。
「――――勝っても負けても、今日でこことお別れか。オレ、元の生活レベルに戻せるかな?あっ、お姉さんおかわりで」
現在は最後の戦闘前に英気を養うため施設の食堂で早めの昼食をとっている。
プロや芸能人御用達しの施設というだけあって料理の味は絶品だ。
しかもサキリからイベント協力の報酬ということで、施設の設備を無料で使うことを許可されている。
なので、当然食堂の利用もタダだ。食べ盛りの彼には一番うれしい報酬である。
忙しくなる時間はずらしてるので食堂はがら空きだ。
だから、食堂で働く人たちも彼に構う暇があった。
「あらー。こんなおばさんをお姉さんって呼んでくれるの?一条ちゃんはうれしいこと言ってくれるね~」
「一条ちゃんはいつもおいしそうに食べてくれるから、お姉さんたちうれしいわ。ここの利用者ってサッと食べてサッとゲームに戻る人ばかりだから」
「そうそう。食べながら【アーク】をいじってたりね。あれ絶対に味が分かってないよ」
「今日で一条くん施設の利用期限が終わりなんだよな?じゃあ、これサービスするから悔いなく食べていってくれ!」
「おー!こんなに!ありがとうございます!いただきます!」
『マスターすでに二人前食べましたよね?さらに倍追加って…………』
姿を隠しているエトに呆れた目で疑問を投げられるリュウセイ。
頭の中で「集中して対戦すると腹が減るんだよ」と返答する。
その後、見事完食。食堂で働く人たちに礼を言って、その場を後にした。
食後は広々とした屋内広場でゆっくりとした休憩時間を過ごす。
それはイベント最終戦前のひと時の休息だった。
短い期間だが世話になった施設に感慨深い思いを抱きながら、イベント中の戦闘を振り返っていた。
「イベント始まる前はG級スキル縛りで取れる手段は限られるから、対策は簡単と思ってたけど――――考えが甘かったよなぁ」
『装備からスキルまで多種多様でしたね。これがF級以降だとさらに選択肢が増えるのです。このルールで正解だったでしょう?』
「だな。今回、対戦したやつだけでも未知のスキルが多かった。さらに選択肢が増えてたら対応できなかった――――そういや、魔法職ほとんどいなかったな?」
『このランクだと魔法職は弾幕を防ぐ手段が乏しいので圧倒的不利ですね。もっと上のランクになると増えるのです』
「ほー、そうなんだ。このゲームの魔法ぜんぜん見てないから楽しみだな」
『魔法使いなら今日も対戦したじゃないですか』
「あれは魔法使いじゃねえ」
リュウセイの脳裏に思い浮かぶのは強化魔法の使い手。
自分にバフをかけて肉弾戦を挑んでくる手強い相手だった。
それだけなら特筆することもないのだが、問題はアバターの恰好だ。
その姿は――――
「あれは魔法少女のコスプレをしたボディビルダーのおっさんだ。蹴りのたびに汚ねえもん見せやがって…………」
蹴りを放つごとに見えるスカートの中身。
それは圧倒的視覚の暴力。
文字通り目に毒だった。
『お相手さん、見せパンだから恥ずかしくない!とか言ってましたね』
「気にするとこはそこじゃねえんだよなあ…………。ていうか、レートが上がるごとに変人との対戦が増えてたよな。あきらかに。上位層は魔窟ってよく聞くけど、もしかして変人が多いとかそういう意味だったのか?」
『そんなことはない――――と思いますよ…………?』
エトは上位層変人の巣窟説を完全に否定できない。
だって肯定する材料が多すぎたから。
マジカルビルダー以外にもたくさんいたから。
だから、上位層=変人の図式が成立しつつあった。
健全なプレイヤーたちの「一緒にしないでもらえます!?」という声が聞こえてきそうである。
『ん~……あっ!上位層にもまともな人がいたじゃないですか!ほら、マスターを追い詰めた格闘家の人です!』
「あ~。たしかにあの人まともだったな。見た目は派手で陽気な人だったけど、中身は武道の精神をちゃんと修めた人って感じだったな。あと一番強かった」
『そうですね。隠しておきたかった【黒】を使わされてしまったのです。プレイヤースキルもダントツでした』
「そうそう。切り札はひとつでも多く隠したかったのにな。本番に備えて――――っと、先のことを気にする前に今日を乗り切らねえと」
『はい。残る試合はひとつ。これを勝てば――――』
「ああ。堂々と正面から【魔王】――――夕闇咲ライラに挑める」
夕闇咲ライラへの挑戦。
あと一歩のところまで来た。
『マスター。エトの試算では次の対戦相手のレートは【レジェンド】ランクから選出されます。おそらく今までで一番厳しい戦いでしょう――――解禁しますか?』
エトの意味深な問いかけにリュウセイは答える。
「いいや、しない」
その言葉に迷いはなく、固い決意が宿っていた。
「切り札をここで晒すようじゃあ、本番で勝ち目はない。最後まで隠し通す。それに――――」
『それに?』
イタズラを仕掛けるような顔で笑う。
「【魔王】さまの驚く顔見てみたいだろ?」
確実な勝利よりも楽しさ優先。
それがリュウセイの答えだった。
◆
休憩が終わり。エトを通じてイベント最終戦の通知を出した。
対戦待機人数は多くない。三桁程度である。
レートが高くなりすぎて参加資格を持つ人数が限られるからだ。
人数は少ないが、その実力はランク戦上位の上澄み中の上澄み。
全員が全員、プロ選手並みの力量を持つ歴戦のプレイヤーだ。
最終戦を締めくくるのにふさわしい相手である。
抽選が終了するまでのわずかな時間。
リュウセイは仮想の衣装を纏い、目を閉じ心を落ち着かせる。
エトは離れたところでその様子を見守っていた。
観戦席が埋まり、ざわつく声は聞こえるが野次を飛ばす者はいない。
誰もがイベントの主役を認めたから。
認めたくないが認めざるをえなかった。
それだけの実力を試合で示し続けたのだから。
【魔王】に挑戦するだけの力があると。
緊迫した空気が流れる中。対戦相手が決まり。
仮想の闘技場中心にホログラムが形成されていく。
誰もが固唾を飲み。最後の相手を見ようとする。
最終戦。最後の対戦相手は――――
『お?マジで当たった?我、ラッキー』
誰かが呟いた『【
その呟きは全体へと伝播していく。
ざわめきは段々と高まり、騒がしくなって――――歓声を上げた!
ワアァァァァァ!!!と歓声で空気は震え。
【MAXIMA】コールが鳴り響く。
訳も分からず一瞬でアウェーになったリュウセイは面を喰らう。
そんな彼に【MAXIMA】と呼ばれた人物は、役者のように大仰な仕草で礼をする。それは明らかに人前に出慣れた動作だった。
『はじめまして【リュート】。我は【MAXIMA】と呼ばれている』
その人物は最年長のプロ選手と呼ばれている。
『最強のプロチーム【トワイライト・ビースト】を率いる長であり――――』
その人物は数々の戦闘技術を創りあげた偉大な人物と語られている。
『夕闇咲ライラ嬢のチームメイトだ。だから――――』
その人物は『クロスリアリティゲームの父』と称えられている。
『貴様がライラ嬢の挑戦者としてふさわしいか。我が見定めてやろう』
その人物は――――子どものまま大人になったやつだと親しい人は言う。
極天へと至る修羅の道。
最後に立ちはだかるのは――本当の意味での
プレイヤーネーム【MAXIMA】こと――――
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