第46話 成長期


【四月三日・早朝・如月水月キサラギミズキの自宅】



「――――ってことは、お父さんはなにも知らないってコト~?」


「ミズキちゃん、そんな役立たずを見る目でパパを見ないで。泣くよ?」


朝食を済ました後の空いた時間。

ミズキはを父親のルークに尋ねた。

しかし、答えは『分からない』という期待外れのもの。

はぁ~っとため息をつき、落胆の目で自分の父親を見ていた。


愛娘にそんな目で見られるルークは涙目である。

家長としての威厳はそこにはなかった。


「でも、聞いたこと全部分からないんデショ?お父さん、会社でそれなりに立場があると思ってたけど、もしかしてちがうノ?」


「うっ。父親としての威厳が揺らいでる!?どうにか挽回しないとッ…………!」


「それを口に出しちゃう時点でダメだと思うけどナー」


「おっほん!それはさておき!ミズキちゃんの質問はパパが働く『開発第一部』とは違う部署の話だから答えられないんだ」


ミズキのダメ出しにルークは誤魔化すように咳ばらいをした。

そして彼が語るのは、ミズキの質問は部署が違うから分からないというものだ。


大企業の【X・Road】はその大きさからいくつもの枝分かれした部門がある。

彼が所属するのは第一から第四まである開発部門のひとつ。

『開発第一部』で部門長として働いている。

そこでは主にAI関連を取り扱ってるのだが――――


「ん~?お父さんの部署はAIを取り扱ってるんだよネ?じゃあ――――」


ミズキが再度、聞きたかった質問を投げる。



?」



それはAIのことなら父親が何でも知っていると思ってからの質問だった。

その質問に対しルークは困った顔で答える。


「確かにパパはAIの開発をしてるけど、あの子は僕が手掛けた子じゃないからね」


「そうなの?てっきりAI関連はお父さんが一度は関わってると思ってタ。だったら、エトちゃんはどの部署が開発したノ?」


「うーん。それはー…………」


「それは?」


「確実なことは分からないんだ。――――って!またそんな目でパパを見ないで!」


再び愛娘に厳しい目を向けられてルークは慌てる。

慌ててすぐさま弁解した。


「確実なことは分からないけど予想出来ることならあるよ!多分、『特別分室』が関係してると思う!」


「『特別分室』?もしかして超越技術オーバーテクノロジーを開発してるって噂ノ?」


「そうそれ!」


真偽は定かでないが、【X・Road】には独立した部門があるという。

それが『特別分室』。

超越技術オーバーテクノロジーを扱う謎多き存在だ。

ミズキがいままで何回かルークに尋ねたことがあるが、いつも言葉を濁してマトモに答えてくれたことがないのだが今日は違った。

愛娘にいいところを見せようと父親として必死である。


「お父さんはその『特別分室』の人たちと交流ないノ?」


「ないなー。あそこは社内で完全に独立したところで機密性が一番高い。そこで働いてる社員もわからないほどの徹底ぶりだ。会社で一番重要な技術を取り扱ってるからそれを聞き出そうとする輩もいる。そんな輩から守るために素性を隠してるんだね。同じ会社で働いてるのに会議ですら顔を合わせたことも――――いや、一度だけあったね」


「すごい、すごい!お父さん会ったことあるんダ!いつ?それってどんな人だっタ?」


情報を引き出すために大げさに褒める腹黒ミズキ。

ルークは愛娘に褒められて満更でもない顔をして続きを話す。

あまりの単純さに自分で仕掛けといて、そんな簡単に会社の秘密を話して大丈夫?と彼女は心配になった。


「会ったのはこないだミズキちゃんがこっちに来た日だね。ほら、パパが緊急の会議で会社で呼び出された日だよ。そこで会ったんだ。さすがにどんな人とか会議の内容は守秘義務があるから教えれないけどね。ごめんね」


「いいヨー。(むしろ話してたらお父さんの倫理観を疑ちゃうヨ。ボソッ)」


「ん?なんか言ったかい?」


「言っテナイヨー」


「そう?まあ、ミズキちゃんの質問はおそらく全部、『特別分室』に関係してると思う。エトのこと、【ニューロアーク】のこととかね。最後の質問の【適合者アダプター】っていうのはよく分からないけど、ゲームの話かい?」


「んーん。知らないならいいノ」


そこでミズキは考え込む。

【ニューロアーク】の質問はジャブで聞いただけで特に意味はない。

エトの質問も以前、父親が自分が手掛けた子じゃない、と言ってたからあまり期待してない。

本命は【適合者アダプター】の件だった。


本社に勤める父親なら何か知っているかと思ったが、空振りに終わった。

自分や幼馴染の親友に関係するかもしれないから調べたかったのだ。

ネットで調べようにも検索履歴で目をつけられる可能性を危惧して試せていない。

アナログな方法で探るしかないのだが手がかりがもうなかった。

どうしたものか考えているとルークから声を掛けられる。


「そうだ。ゲームといえば、【新星領域:ロスト・フォークロア】も『特別分室』が運営してるんだよね。これは確実に」


「そうなノ?ってことは結構、人員がいそうだネ。あれだけの人気ゲームを少数で回せると思わないシ――――ん?噂をすれば【神領】からの通知が来タ。りゅーがイベント試合を始めたみたイ。どれどれ――――」


ミズキは【ニューロアーク】を操作してイベントの観戦画面をひらく。

そこは別名【野次席】。

通常マナー違反なプレイヤーに対する罵倒もリュウセイ限定で許される場所だ。

それがリュウセイが望んだものと聞いて、『また、変なことしてる…………』と感想をミズキはいだいていた。


そこではすでにリュウセイに対する罵詈雑言が飛び交っていた。

ただその内容は主にエトのマスターやれるなんて羨ましいんだよ!というもので、リュウセイが予想してた初心者なのに生意気なんだよ!という声はほとんどない。

その光景にミズキは苦笑しながら観戦をはじめ。

しばらく観ていると――――



「あれ?りゅー、なんか上手くなってない?」



明らかにアバター操作がよくなってるリュウセイの姿だった。





イベント【極天至道:シュラノミチ】に運よくマッチングできたプレイヤー。

中堅上位の実力を持つ対戦相手は困惑していた。

勝てると思った相手に一方的に押されているからだ。



『なんだこれはッ!?話が違うッ!?』



その男は自分の実力にそれなりの自信があった。

その実力はプロに入れる最低ボーダーラインの【マスターランク】一歩手前まで迫っており、いつかはプロ入りできるかもと夢想するほどだった。


彼が、【リュート】相手に勝てると判断したのは【スイゲツ】戦を見たからだ。

初心者同士の試合として観れば文句なしの内容だったが、中堅クラスの視点で観ると粗が目立っていた。

技の駆け引きや、読み合い。パリィや瞬身を透かす必須アーツ【虚撃ホロウ】の練度の低さ。


こんな実力で【魔王】に挑戦するのかと男は鼻で笑っていた。

自分がやれば確実に勝てると思っていたのだ。

そして、男はいわゆる廃ガチャ勢と呼ばれる、ガチャでアバターを強化することに魅了されたプレイヤーでもある。

ガチャとアバターを強化する快感に囚われ。

【リュート】に勝利した時に貰える賞品の貯まっていく【神星の欠片】を物欲しげに眺めていた。

だから、対戦が成立したときに男は喜んでいたのだが――――



『お前、実力を隠していたなッ!?汚ねえぞッ!?』


「いきなりなに言ってんだ?あんた」


『突然なんなのです?この人』



リュウセイはエトと同じことを思いながらも、アバターの操作は乱れない。

いまは【緋装:レオ】状態で、両手に持つ刀が嵐の如く相手を攻め立てる。

それは『虚』と『実』が入り乱れるものだ。


左の刀を受けたと思えば、意識から外した右の刀に切り裂かれる。

逆に右の刀に意識を向ければ今度は左の刀が襲い掛かった。

さらにその合間に混ぜられた【クイックチェンジ】による『不可避の一撃ファントム・ソード』を相手は防ぐことが出来ない。

左右の刀は意思を持った生き物のように自在に動き、相手を刻んでいく。



『クソがああああああああああァァァァァァァァァァ!!!』



あまりに一方的な展開に男は吠える。

男のアバターは防御スキルで受けているがすぐに限界が来るだろう。

すでに男は三試合中一試合を負けている。もう後はない。


だから、決断する。

三試合目に使おうとした切り札を切る決断を。

吠えるは必殺スキル。

強力なるそのスキルの名は――――



『【咆哮・怒号・絶叫。世界よ震えろ!!!【伝承けんげ――――



「いや、隙だらけだぞ?見逃すはずねえだろうが」



焦りからの判断ミス。

そして、決断すぎるのが遅すぎた。


緋装アバターの剣閃が対戦相手のアバターの首を薙ぎ――――静寂が訪れる。

ゆっくり相手アバターの首がずれていき。

頭が落ちる前に光の粒子のエフェクトを散らし砕け散った。



「対戦ありがとうございました」


『え、あ…………対戦……ありがとうございました…………』



リュウセイの締めの言葉に男はつられて言葉を返す。

しかし、男は結果をまだ受け入れられずに呆然としていた。

格下だと思っていた相手に完膚なきまでに負けたのだ。

この試合で男は緋装アバターに傷ひとつも負わせれなかった。

パーフェクトゲームである。


その事実が徐々に理解が追いついてきて――――男は顔を真っ赤にしてリュウセイに詰め寄り――――


『テメェッ!!!実力を隠すなんて姑息な真似しやがっ――――


『ハイハイ。試合が終わったら、さっさと退場するのですよ~。後ろが詰まってるのです』


エトに強制退場される。


「エトもあの手合いの対応慣れてきたな」


『全員じゃないですけど同じようなこと言う人ばかりですから。同じ対応になるのですよ。これだけ見せつけてるのに、なんでマスターの実力を疑う人がいるのか不思議なのです』


「まあ、さっきのやつが言ってたみたいに一昨日、昨日にくらべてオレの実力が変化してるから混乱してんだろ。オレもで成長してるって実感あるし。まだまだだけどな…………」


『大丈夫なのです。マスターなら本番までに間に合うのです!――――あっ!次の対戦相手が来たのですよ!マスター、ファイトなのです!』


「おう。いってくるな」



【リュート】の快進撃は続いていく。

今日を乗り越え、次の日もさらに技に磨きがが掛かった【リュート】が勝ち進み。

そして――――



わずか四日でランク戦の頂点を不動のものにした【魔王】。

夕闇咲ライラとの試合日程が決まった。



―――――――――――――――――――――――――――――


 ここから下は本編に書ききれなかったプチ情報を書いていきます。

 特に重要な情報は書いてないので読み飛ばしてもらってもOKです。


対戦相手の男が使おうとした【伝承顕現】スキルは

【ギガント・ハウル】といいます。

詳細は長くなるので、いつかまとめて書きたいですねー。

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