第45話 光の奔流


 配信サイト【クロスライブ】で生配信してるエトのチャンネルを見て、メリーとオバナはその配信内容を見て驚きを隠せないでいた。



「え?え?メイリさん、配信で流しちゃダメですよね?」


「…………どうやってるのか分からないけど、ひとつだけ分かることは。目のまえで流れてる映像は、【X・Road】が保有するオーバーテクノロジー・【ニューロアークによる思考操作】の謎に迫るものね。へ~、こうなってのねー」


「感心してる場合ですか!?下手したら一条くんたち訴えられますよ!?」



【X・Road】が世界的な大企業と呼ばれている所以ゆえん

 それは――――


 他社には越えることのできない圧倒的技術格差が存在しているからだ


 その技術力は数世代先を言っていると言われており、技術を秘匿されているものは模倣品すら作れない有様だ。

 他社が同じものを作ろうとして失敗する事例は数多くある。

【X・Road】の製品を解体、分析し、同じ素材でそっくりのものを組み上げてもなぜか動作しないのだ。

 どれだけ技術者たちが試行錯誤しても再現できないことから、その技術を畏敬をこめて――――


 現代に存在するオーパーツオーバー・テクノロジーと呼ばれている。


 技術者たちが再現できない理由はほかにもある。

【X・Road】が一部製品の技術公開を嫌って特許も申請してないからだ。

 もし技術を再現できれば代わりに特許申請できるのだが成功した者は皆無だ。

 真似できるもんなら真似してみろ。という【X・Road】側の声が聞こえてきそうである。


 そして、大きな会社にもかかわらず技術流出は一度もなく。

 特に一部技術のセキュリティは非常に固く、機密性が高い。

 真偽は不明だが、噂では産業スパイを何度も返り討ちにしたり、権限が無いものが技術を探ると社会的に消されると言われている。


 そんな怖い噂があるなか。

 エトは配信でそのオーバー・テクノロジーのひとつ。

【ニューロアークによる思考操作】という、ゲームを遊んでるプレイヤーですらなぜこれでアバターを動かせるのか原理が分かっていないものを、【ニューロアーク】とアバターを繋ぐシステムを可視化して説明していた。



『おーー!すごいのです!皆さん見ましたか!マスターとアバターを繋ぐ光の奔流コードの速さを!これがマスターの反応速度なのです!この光の奔流コードの動きがアバターを動かしてるのです!どうですか、アンチさん?これでもエトがアバターを操作してると言うのですか!』


 画面では、リュウセイと銀装アバターをいくつもの煌めく奔流が繋がっている。

 それをエトは光の奔流コードと呼ぶ。

 それは、手・足・胴体・頭に繋がり、動かす部位によって光の奔流コードの速さが変わる。


 速く走ろうと足を動かせば足の光の奔流コードが。

 手に持つ武器を素早く動かせば手の光の奔流コードが。


 この光の奔流コードは操者と繋がって動かすもので、アンチが言うエトがアバターを操作してる説を否定するものだ。

 これを見たリスナーの反応は――――



 :すげえwリュートのコード?の速さって対戦相手の倍以上ないかwww

 :普通車とスポーツカーぐらいの差があったぞw

 :こんだけ反応が良ければ、あの強さに納得だわ

 :まだ比較対象が数試合で少ないから確実なことは言えないが、このレート帯に敵はいないのでは?

 :この配信は【X・Road】公認だからコードとか初めて聞く単語でも信ぴょう性があるんだよなー

 :マスターの活躍を喜ぶエトちゃんかわいいw



初めて聞く単語でもリスナーにはすんなりと受け入れられた。

ひとえに、信頼を積み重ねてきた【X・Road】のおかげだろう。

その恩恵でリュウセイに向けられる疑惑の目は薄れている。



 :アンチさん見てる~www必死にエトちゃんが不正をしてるって言いがかりつけといてどんな気分www

 :元気なアンチならモデレータさんに粗方BANされたぞ

 :エトちゃんに暴言吐いて消されないはずないんだよなぁ

 :なんでアイツらってケンカ売っちゃいけない相手に噛みつくんだ?普通分かるだろ?【X・Road】相手だぞ?

 :分かってたら薄弱な根拠で相手を貶めようとはしないんだよなぁ

 :そんな想像力が足りない人が集まるサイトが昨日一斉に封鎖されたんだよなあ。コレって偶然?

 :偶然じゃないだろうなあ…………こわぁ

 :冗談かわからない犯行予告とか書きこんでるらしい問題のサイトだから、この件関係なく閉鎖されても不思議じゃないけどな

 :そんなことよりエトちゃんに応援されるリュートが妬ましぃぃぃ

 :分かる。ちょっと俺、野次席……じゃなくて観戦席いってくるわ

 :俺も行く。別に他意はないですよ。観戦に行くだけですよモデレータさん

 :目をつけられたくないなら黙っていけw

 :公式でリュートに不満をぶつけられる場所だもんなぁ

 :なんで運営はこんなにリュートに厳しいんだろうな?じつは嫌いなのか?このイベントって罰ゲーム的なアレなのか?

 :知らん。天上人の考えなんて下々にはわからんのだ



などなどコメントが流れる。

その反応を見て、リュウセイが訴えられると思っていたオバナは拍子抜けした顔になる。


「あ、あれ?誰も技術流出の危険性を問題視してないね?あれ~?」


「穂群。固定コメント読んでみ」


「え?」


イツワに言われるままオバナはコメント上部にある固定されたコメントを読む。



【X・Road【公式】@キリ】

:この配信で流れる技術は本社が認めるものだ

 めんどくせーからこっちに確認の連絡すんじゃねぇぞ

 連絡したヤツはこの世から永久BANするからな



「口わるッ!?脅し文句こわっ!?」


「この本社の人ってかなり個性的ね~?こんなことが許されるくらいのえらい人なのかしら?」


「それは分かんねぇですが、気に食わないリスナーが大量に粛清BANされてますねぇ。それが許される立場ってことじゃないですか?」


「うわぁ……独裁者みたいなモデレータだね。私の配信で同じ事したらアンチたちが喜びそうだよ。火種を見つけたって」


「まっ。BANされて当然な奴ばかりだったから反感はないけどな」


「それなら問題ないわね。――――ところでいま何試合目なのイツワくん?」


「え~っと……たしか今終わった試合で二十一試合目ですねぇ」


「二十一試合!?最低試合数の倍以上じゃない!?昨日もそうだけど、なんで一条くんは自分から難易度上げていくの!?今日追加されたルールもそうだし、そういう趣味なの!?」


ただでさえ厳しい条件をさらに厳しくするリュウセイに、系の趣味があるのかと疑うオバナ。

今朝、新しく追加された煽り・野次OKのルールが疑いに拍車をかけた。


「フフフッ。リュウセイ君って本当に戦闘狂ねえ。楽しそうに戦ってるわあ」


「ですねぇ。口元がずっと笑ってらぁ」


「はぁ~…………本人は楽しそうだけど、見てるこっちは冷や冷やしますよ。落ちたら即死の鉄骨渡りを見せられてる気分です」


「フフ、そうね。――――そういえば、いまリュウセイ君勝てば【神星の欠片】がっぽりよね?そろそろが参加するんじゃない?」


「あーそうですねぇ。連勝数×【神星の欠片】100個だから、いまの賞品は4100個ですか。奴らにとって一条はおいしい賞金首のようなものですねぇ」


「一条くん、本当に大丈夫かなぁ…………」



強敵の影が思い浮かび。

オバナは心配そうに画面の向こうで楽しそうにしてるリュウセイを見た。





オバナに心配されてるとは思わず、リュウセイはあれからさらに五戦した。

そして、時間が経ち。いまは雑事を終わらせて寮の自室にいる。


「はぁ~~。今日も乗り切れたな~」


『お疲れ様です。マスター。今日の対戦はどうでした?』


「少しづつ強いやつが出てきて、面白くなってきたな。やっぱ、戦闘は張り合いがないとな!」


『ふふっ、そうですね。――――ですが、気分がいいところ申し訳ありません。本日のなのです』


「――――ああ、わかった」


エトの言葉に、リュウセイは緩んでいた心を引き締めた。

その顔は、今日おこなったどの対戦よりも真剣だ。


「準備はOKだ。いつでもいいぞ」


『それではマスター。ご武運を――――』


その言葉と同時に、エトは【ニューロアーク】のを解放する。

目を閉じるリュウセイ。

本来、静音性の高い【ニューロアーク】が甲高い音を立てて――――静かになった。

音が静まって、目を開いた先に広がるのは――――



地平線が見える真っ白な仮想空間だ。



その中で、リュウセイと銀装アバターが立つ。

眼前に昏い存在が浮かび上がり。

そして――――



『52』



それがその夜、リュウセイが敗北した数だ。

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