第44話 エトにいい考えがあるのです!
二日目の一試合目が終わった。
試合相手は逃げるように退出してもういない。
リュウセイは試合には勝ったのに苦い顔をしていた。
「――――あーー。やっちまった。やりすぎた…………」
思い出すのは試合内容。
苛ついて過剰に相手アバターを破壊したことを反省していた。
「自分で煽り歓迎って言っておいてキレるなんて恥ずかしすぎる…………」
『でも、マスターはエトのために怒ってくれたのですよね?エトはうれしかったのです』
ニコニコした笑顔のエトにそう言われて恥ずかしそうに顔をそっぽ向くリュウセイ。
話を逸らそうと話題を変えることにした。
「そうだ。オレってネットじゃあチート使ってるって言われてんの?」
『…………はい。一部のサイトでそういった書き込みがあるのです。【X・Road】がバックについてるのだから
「スマーフ?」
『上級者が別アカウントを作って、低いランクやレートの初心者相手に無双する事です。初心者は上級者に勝てる見込みはないので、オンライン対戦では嫌われるマナー違反な行為なのです。【ロスト・フォークロア】の利用規約でも禁止されてます。』
「なるほどなー。まあ、初心者が身の丈に合わない目立ち方してたら疑うやつも出てくるよな」
根拠が乏しい理由で非難されてるのにリュウセイに気にする様子はない。
それを見てエトは不思議に思った。
『マスターは不当に非難されてるのに腹が立たないのですか?』
「ん~?まあそうだな。まったく気にしないってことはないが、ほとんど気にならないな。これもばあちゃんの
リュウセイはなにか思い出すように遠い目をして、乾いた笑いをした。
つらい記憶を思い出しているのだろう。
『マスターはすごいのです!エトなんて腹が立って、いくつかアンチサイトを閉鎖に追い込んだのに!エトはマスターを見習わなければいけません!』
「ん?ちょっと待て。いまヤバいこと言わなかったか?」
『大丈夫なのです!ちゃんと潰しても問題のない、問題だらけのサイトしか選んでませんから!』
「いや、そうじゃなくて…………。まあ、問題ないならいいけど、ほどほどにな」
ふんす、と自信満々に答えるエトにリュウセイは注意しておく。
その指摘にエトは腰に手を当て頬をふくらませ、いかにも怒っていますという態度をとる。
『約束は出来ないのです。マスターを不当に貶めようとする人たちにエトは怒っているのです!』
「でも、全員じゃないだろ?」
『――――はい。マスターを応援してくれてる人たちもたくさんいるのです』
「じゃあ、それでいいじゃん。全員を納得させることなんて無理だから、応援してくれる人だけを見ていこう」
『う~~……それでもエトはマスターが悪く言われるのは嫌なのです…………』
「って言ってもなー。人の考えはそれぞれだしな。こういうのは反論すればするほど悪化するって聞くぞ?だから、アンチの言うことなんてほっとけ」
小さな子どもを諭すようにエトに語り掛けるリュウセイ。
このままエトが突っ走って、目につくアンチサイトを潰して回ったら状況が悪化する可能性があるだろう。
だから、リュウセイはエトにアンチは放置しようと伝える。
それでも納得出来ないエトはひとつ提案をする。
『では、せめてチート疑惑だけでも晴らしましょう。マスターの実力が疑われば【魔王】さんと試合が決まった時に邪魔が入るかもしれないのです』
「――――そうだな。それを目標にしてるのに、いちゃもんをつけられたくはないな。でもどうすんだ?やってないことの証明なんて難しいだろ?」
『大丈夫です!エトに考えがあるのですよ!ようは一目でマスターのすごさが分かればいいのです』
エトは胸を張って得意気にひとつの考えをリュウセイに提案した。
その内容は――――
『アバターの思考操作を誰にでもわかるように可視化して配信します!クロスライブの【エト・チャンネル】配信スタートです!』
二日ぶりで二回目の【ETOch.サポートAI―X・Road】配信が始まった。
◆
「ありがとうございました~。またのご利用お待ちしてます~」
メリーに迷惑をかけた禊のため【レコードブック】の新人バイトとして働く人物。
アリスレイタの仮面を被った
オバナはゆっくりと知り合い以外がいないか見回し。
気を抜いた――――
「はぁ~~~。ようやくお客さまの流れが途切れました~」
「ご苦労様、オバナちゃん。今日はこれで終わりよ。バイト初日なのによく動けてたわね」
「【アリスレイタ】状態で働くことを許可してくれたメイリさんのおかげですよ。いつもの私じゃあ、あたふたするだけですから。あ、暗示が解けてふるえががが」
緊張の糸が途切れ、ついでにアリスレイタの仮面もはがれ。
ありのままのオバナが本日した接客を思い出してガタブルと震える。
アリスレイタ状態じゃない人見知りで控えめな性格の彼女には心理的負担が大きすぎた。オロオロして視線が泳ぐ。
「あわわ……。ほ、本当に大丈夫でしたか?私が接客してお客さまは不快な思いしてなかったですか?あれだけのことをしてどのツラ下げて働いてんだとか思ってなかったですか?もしそうならど、ど、どうしよう…………」
「アリスレイタちゃん状態のときとは別人ね~。まあ、そこもかわいいけど。大丈夫、大丈夫。お客さまは不快なんて思ってないから、むしろ今日、来店してくれた人はオバナちゃん目当てで来たんだから」
いままで閑散としていた【レコードブック】が本日にぎわってたのはオバナが前日にした配信のおかげだ。
店の悪い噂を払しょくして、店の良さを教え、店主の素晴らしさを伝えた。
みごと宣伝は成功した。
そして、宣伝した本人の有名な個人配信者【アリスレイタ】と、かつてのトッププロ【MRY】がいる店とSNSで話題になり、さらに人が集まる。
結局、オバナの終業時間まで客は途切れることなく訪れ。
店内AIと自動機械をフル稼働させてもオバナは
接客業に慣れないオバナはもう疲労困憊である。
「ほっ、ご迷惑かけてないならよかったです。――――それにしても疲れました~」
「ふふ、本当にありがとうねオバナちゃん。こんなにお客さまがきたのはオバナちゃんのおかげよ」
「う……はい」
あこがれの人に褒められて顔を赤くして俯くオバナ。
言葉は少ないが内心は舞い上がって、心の中のオバナは両手を天にあげ歓喜の咆哮を上げていた。
そこへ二階のバトルルームで遊んでいたイツワが声を掛ける。
「穂群、バイト終わったのかぁ?」
「うん。終わったよイツワくん」
「そっか。じゃあ、一条の配信見ねぇか?なんか変わったことやってんぞ」
「一条くんの配信?また彼がなにかやらかしたの?昨日みたいに」
オバナが思い出すのはプレイヤー【スイゲツ】との戦闘。
初心者とは思えない技と技の応酬に彼女は度肝を抜かれていた。
「昨日の【スイゲツ】戦はすごかったな――――じゃなくて、今回は一条のAIだな。あっ、配信はAIのチャンネルのほうだからな」
「イベントの特設ページからの観戦じゃなくて、エトちゃんのチャンネルから?」
「あら、またあの子たちが面白いことしてるの?私も見るわ」
「姐さんは店のほうはいいんですか?」
「いいの、いいの。いまはイツワくん以外お客様がいないんだし、休憩も必要だからね」
メリーはそう言うと【ニューロアーク】を操作して、クロスライブからエトのチャンネルを開く。
オバナもそれにつられ、同じくエトのチャンネルを開いた。
そこで繰り広げられる光景を見てメリーは――――
「……………………これ普通に映しちゃいけないものじゃない?」
束の間の絶句と見てはいけないものを見た顔をする。
同じものを見たオバナは――――
「なにやってんの一条くんたち!?【X・Road】に怒られるよ!?」
X・Roadの秘匿技術を映した画面を見て絶叫した。
―――――――――――――――――――――――――――――
オバナがなんでバイトをしているかは、一章と二章の間の閑話に語られています。
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