第41話 適合者なのです



『あー、負けた、負けたーーー!くやしいぃぃィ!』



プレイヤー【リュート】とプレイヤー【スイゲツ】の試合は二本先取した緋想アバターのあるじ【リュート】の勝利で終わった。

最期の散り際に自ら地雷原に飛び込み、【リュート】ことリュウセイの勝利を劇的に飾った【スイゲツ】ことミズキだったが、いまは盛大にくやしがっていた。


リュウセイの勝利を祝う気持ちはあるが、それはそれとしてくやしいものはくやしいのだ。それを彼は得意そうな顔で見ていた。


「はっはあ!【ロストフォークロア】の初対戦はオレの勝ちだな、ミズキ!」


『ぐぬーーーーッ!その顔ムカつく!いまりゅーどこにいるノ!?なにもしないから教えてヨ!!』


オンライン対戦越しで、リュウセイがいま居る場所が分からないミズキが吠える。


「それはなにかするヤツのセリフなんだよなぁ。リアルファイトに持ち込もうとすんな」


『おふた方ほんとうにすごかったのです!エトは感動しました!』


試合が終わって近づいてきたエトが目を輝かせてパチパチと拍手を送る。


『ハイレベルな攻防の数々!まるで熟練のプレイヤーのようだったのです!マスターも、ミズキおねえさんも始めたばかりなのにうますぎなのです!』


「おう、ありがとなエト!――――そういえば、ミズキってなんでそんなに上手いんだ?アバター操作のいるゲームなんてそんなにやったことないだろ?」


リュウセイの知る限りでは片手で数えるくらいしか知らない。


『いまさら?もっと早めに聞く場面あったよネ?』


「戦闘のほうに思考が傾いてるときって細かいこと気にしなくなるからなぁ」


『友人が知らない一面を見せてるのに大雑把すぎるのですよ。マスター』


『エトちゃん、いつものことだヨ。あと、わたしは昔からこういう事は得意だからネ。なんとなくで出来ちゃうんダ。むしろ、りゅ-が上手いことにびっくりだヨ。XRゲーなんて触ったこともないのに、なんでそんなにアバター操作がうまいノ?』


「オレもなんとなく?なんか現実の体よりはるかに動かしやすいんだよ」


『あっ!それ、わたしも分かル。イメージがそのままアバターに反映されるよネ』


「そうそう、そんな感じ。でも、これって一般的じゃあないんだよな?最初はアバターの操作は難しいって話だし。今日、ミズキの前に対戦した相手も操作に苦労してそうだったからな~。――――マジでなんでだろ?」


『う~ん……才能…………?――――っていうのは都合がよすぎるよネー?』


ふたりが答えの出ない疑問に首をひねる。

そうしているとエトが空中にひとつの画面を浮かべた。

それは都市伝説のようなものをまとめたものだ。


『ネットの記事なのですが、おふた方の疑問に関係がありそうなものがあるのです』


「ん~?どれどれ…………」


エトが映し出した画面にはこう記されていた――――



適合者アダプター】と。


曰く――――



技術の進化に合わせて、それに適合した人類が誕生した可能性がある。

彼・彼女たちは仮想世界との親和性が高く、教わらずとも仮想の体を巧みに動かすことが出来た。

それは彼・彼女たちにとって――――


魚が水中を泳ぐように。

鳥が空高く飛ぶように。

獣が地を駆けるように。


当たり前で、自然なことなのだ。

そう本能に刻まれているのだから。


この適応した人類たちは、拡張する現実――――クロス・リアリティの黎明期に誕生したと予想される。一番上の年齢でも十五くらいのはずだ。


これが発覚したのは【魔王】と名高き、夕闇咲ライラ氏の存在がある。



「ん?夕闇咲ライラ?」


『りゅー、まだ読んでるんだから静かにー』


『最後まで読んでみるのですよ。マスター』


「わるい、わるい」


ミズキとエトに注意されて再び画面に目を戻す。



彼女の三千世界に轟く活躍はいまさら語るまでもないだろう。

仮想世界を語るうえで彼女の存在は必ず上がるのだから。

その彼女の呼び方にはいくつも名がある。


その圧倒的な実力から――――【魔王】。

チームメイトからは尊敬の意を込めて――――【姫さま】。

ランク戦の頂点に君臨する――――【覇者】。

若くしてプロライセンスを取ったことから――――【最年少プロ】。

他にもいくつかあるが、その中でひとつを上げるとしたら。

あらゆる仮想空間において、その適性の高さから――――


【仮想世界の申し子】。


それが彼女を表すのに最も適した名だとは思う。


ワタシは彼女に質問をした。

『ナゼ、そんなにも上手くアバター操作をできるのか?』と。

彼女の答えは――――


『…………なんとなく?それ、よく聞かれるけど、私にもわかんないよ』

だった。


隠してるとかではなく、本気で分かっていなさそうな顔だった。

通常なら才能と結論付けてそこで話はおわりなのだが、ワタシはその答えと同じような事を言った【男】を知っていた。


彼も仮想世界に異常な適正を見せており、夕闇咲氏ほどではないがランク戦最上位層クラスの実力を有していた。

しかし、本人曰くエンジョイ勢であり、大きな舞台に出るつもりはないと言う。


そこで彼への興味は薄れたのだが、夕闇咲氏の話を聞いた後ではそれは変わる。

思い浮かんだ想像がワタシの脳内を占め。確認せずにはいられなくなる。

なぜならワタシは調

その想像とは――――



夕闇咲ライラ氏と同じ仮想世界に適合した人物がもっといるのではないか?



誰もが鼻で笑うような荒唐無稽な妄想だが、結果だけ言うと『いた』。

それは何人も。時間をかけて探し出した。

彼・彼女たちは、誰もが仮想世界の適性が高く、仮想世界で生きるために生まれてきたような【子】らだった。


しかし、夕闇咲ライラ氏クラスの適性を持っていても、彼・彼女たちはそれぞれの理由で表舞台には出ていない。

年齢だったり、精神的理由だったり、思春期にかかると言われるやまいだったりだ。


いまはまだ彼・彼女たちは表舞台に出てこようとしないだろう。

だが、ワタシはそれも時間の問題だと考える。

個人で調べられる範囲だけでそれなりの人数を発見したのだ。

この世界にはまだまだいるに違いない。


あとはがあれば決壊してあふれ出すはずだ。

彼・彼女たちを堰き止めている心の壁を壊すくらいの衝撃キッカケが。

それがいつになるか分からない。

けど、いつか世界は彼・彼女たちの存在を知るのだろう。

その時が楽しみだ。


ワタシは彼・彼女たち仮想世界の申し子たちをこう呼ぼう――――



仮想世界に適合した人――――【適合者アダプター】と。



【著者:S・S】




「なんか、軽い気持ちで口にした疑問が異世界に迷いこんだ気分なんだが?なにこれ?」


『【適合者アダプター】とか二年前のりゅーが好きそうな言葉だネ』


「や・め・ろ。人の黒歴史を掘り起こすな。はもうばあちゃんに矯正された。いまはもう大丈夫だ」


『そう?【緋装:レオ】や【不可避の一撃ファントム・ソード】のネーミングとか、の片鱗を感じるヨ?』


無言で目を逸らすリュウセイ。

多少は自覚があった。


『なるほど!マスターはだったのですね!大丈夫なのです!思春期の子は大体通る道だとエトは聞いているのです!どれだけネーミングでもエトはマスターの味方なのです!』


「言葉を濁してたのにわざわざはっきり言ってくれてありがとう、エト。いまお前のマスターは、その味方にザックザックうしろから刺されてるからな」


『?』


「うーん……そのキョトンとした顔は伝わってないなー…………」


『それより、記事の話に戻るヨー』


「おっ。そうだな」


『そうですね』


再び記事に目を通すリュウセイ。

その顔は目の前の内容に対する疑心が大半を占めている。


「――――オレたちの状況とあってる部分があるけど、仮想に適合した人類、【適合者アダプター】とか新人類扱いはなんか飛躍しすぎじゃないか?オレらはただの学生だぞ?それに、この記事だとXRが流行ってからすぐに【適合者アダプター】が生まれたことになるぞ。そんな早く人は適応しないだろ」


『たしかにネー。進化ってかなり時間を掛けてするもんだよネ。そんなすぐに適応できるんならぽこぽこ新人類が湧いて話題になってるはずだヨ。――――そういえば、わたしこの記事の内容初めて見るんだけど、どこで見つけてきたのエトちゃん?これでもわたし、いろんな情報に目を通してるんだけド?』


情報の大切さをマナから教えられているミズキは、政治からエンタメまで幅広い情報を集めている。その彼女が知らない情報に興味を持っていた。


だが、その好奇心が踏み込んではいけない闇に足を入れる。



『これですか?【X・Road】に記事を復元したのです』


「ん?なんて?」


『ん?なんテ?』



軽く言われた、ヘビーな内容にリュウセイとミズキは耳を疑った。

おそらく聞き違いだろう。そうに違いない。

そうふたりは心に念じる。

だって、聞き間違いじゃないなら――――


大企業がわざわざ検閲して削除した文章。

それを見てしまったのだから。

記事の内容が一気に信ぴょう性が増した。


エトはふたりの内心に気づかず、先ほどの内容を繰り返す。



『ですから、【X・Road】に検閲されて削除された記事を復元したのです。おふた方が必要とする情報を探し出したエトはすごいでしょう?さすがエトさん!さすが超高性能なサポートAIとほめてくれていいのですよ?』



ふふん、と得意気に薄い胸を張るエト。

それは褒められるのを待つ犬のようにも見え、パタパタと振るシッポも幻視した。



「エト――――」


『エトちゃん――――』


『はい!』



褒められ待ちのエトは――――



「『なにやってくれてんの(ノ)ッ!?!?!?』」



頭にハテナを浮かべ、ふたりからの叱責を聞いていた。

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