第37話 シュラノミチでシュラバ
リュウセイたちは、イベント――――【極天至道:シュラノミチ】を始めるために、サキリが指定した施設まで来ていた。
――――来ていたのだが、その施設を見て戸惑う。
ここ、いち学生が来ていいとこなの?と。
「――――なあ、エト。指定された場所ってここで間違いないよな?」
『はい、間違いないのです』
「なんか、オレがここにいるの場違いじゃないか?」
リュウセイが戸惑うのも無理はない。
いま彼がいる場所は、X・Roadが経営する会員制のeスポーツ施設。
AR・VR・MRなど様々な
『大丈夫なのですよ。キリお姉さまが指定したのですから。さあ、受付にいきましょう。マスター。この後のことを考えたら、このくらいなんともないのです』
「――――そうだな。このくらいでビビってられねえよな」
『そうなのです。でも、もし不安なようでしたら、このエトにお任せください!』
「待て。なにをする気だ?」
『もちろん!マスターがここにいても場違いじゃないと思えるように、エトがマスターのすごさを喧伝して――――』
「や・め・ろ。そんなことされたら恥ずかしくて、ここにいられねえよ!」
『む~……名案だと思ったのです…………』
「なんでそれがいけると思ったんだ――――」
「――――失礼。お客様。大変恐れ入りますが他のお客様もいますので、玄関付近での大声はお控え頂けますでしょうか?」
「あ……」
『あ……』
いつの間にか施設のスタッフが近くまできていた。
スタッフは騒がしくしたリュウセイに嫌な顔を見せず、笑顔で丁寧に対応してくれる。プロの接客だ。
ちなみに、いまエトの姿はリュウセイにしか見えていないので、彼がひとりで騒いでるように見えていた。
「差し支えなければ、本日のご用件をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「騒がしくてスミマセン。知り合いにここへ来るように言われてきたんですが」
「かしこまりました。それではこちらの受付までお越しください」
受付に案内されたリュウセイはサキリの名前を出すと、仮会員IDを発行されて、XRゲーム対応の対戦個室――――【バトルルーム】に通された。
部屋の中は白一色。十人くらいかるく運動が出来るほど広い。
入ってすぐに【ロストフォークロア】専用デバイスをセットする場所がある。
そこにデバイスを置くことで、室内にアバターを映し出せるとスタッフの人は説明していた。
「それでは一条様。これより天野から映像通話が繋がりますので、室内でお待ちください」
そう言うとスタッフの人は退室して、部屋の中に残ったのはリュウセイとエトのふたりだけだ。
「――――にしても、かなり金が掛かった施設でやるんだな。てっきり、その辺の広場や公共施設でやるもんだと思ってた」
『イベント中はマスターが狙われる可能性がありますから、そんな場所でやってたら妨害とかされそうなのです。あとは身バレ対策なのです』
「あ~、そうか。その心配もしなくちゃいけなかったな。アバターを強化するのに頭いっぱいでそこんとこ考えてなかった――――おっ。来たみたいだな」
部屋の中央に腕を組んで不敵な笑みのサキリのホログラムが現れる。
バァーーーン!っと派手な効果音とともに。
『
彼女のセリフと同時に、室内が広大な闘技場の仮想映像に切り替わっていく。
唐突な登場の仕方にリュウセイは目を白黒させ、エトは目をキラキラさせながら拍手をしている。
『おー、キリお姉さまかっこいいのです!』
『ふふーん!そうだろ、そうだろ。エッちゃんはわかってるな!』
「いや、びっくりするわッ!なんで普通に通話を繋げれねえんだよ!」
『おいおい、初っ端のインパクトは大事だぜ?機先を制したものが主導権を握れんだからよ。一条リュウセイ』
「それはバトルの話で通話には関係ねえよな?」
『あと、普通に登場してもつまんねえし』
「絶対そっちが本音だな」
思い返せば、午前に会った時も技術の無駄遣いして隠れてたな、とリュウセイは呆れ気味に思った。
見た目は大人の女性の雰囲気を出してるが、中身は子どもっぽい人なのだろう。
そんな話をしていると別の女性の声が通話に乗ってきた。
『――――ん?時間がないから巻きでしゃべれ?シバちゃん余裕を持つことは大事だぜ。なんたって「わたくし、昨日から一睡もしていないのですよ?それなのに、これからライラさんの所属する企業と交渉しなければなりませんの。こちらが勝手に決めたイベントに巻き込んだ説明も必要です。他の者には任せられないから、わたくしたちが行かないといけない…………ふふふ、難航して時間がかかるでしょうねぇ。いったい、わたくしはいつ睡眠を取れるのでしょうか?ふふふ……」――――わりぃ。ウチのモンが限界きそうだから手短に話すわ』
「そうだな。手短に終わらせよう」
『シバお姉さまー!ごめんなさいなのですー!』
通話越しでも分かる疲労がたまっている声。
リュウセイは会ったことはないが、その声から苦労人の気配がした。
彼女が睡眠がとれていない元凶の一端であるエトは、相手に見えていないだろうが腰を折って謝罪をする。
『一条リュウセイ。お前には一日十試合以上をやってもらう。負けたらそこで終わり、勝ち続けることを要求されるサバイバルだ。イベント期間中はその施設の設備は無料だ。自由に使って構わない。無茶な要求以外は通すようにスタッフには伝えているからな。イベント【極天至道:シュラノミチ】を始めるときは、これからお前だけに送るデータをダウンロードすれば、専用のイベント項目がメニューに追加される。そこから、いつでも開始可能だ。ここまでで質問は?』
「イベントのルールは?」
「おまえの【ルーキ】ランクに合わせたバトルだ。最大三試合中二本先取したほうが勝ちのBO3。連勝を重ねるたびに少しずつ相手が強くなっていく。開始位置は互いから十五メートル離れた位置から始まる。近すぎると魔法職が不利だからな」
「オレ、武器が銃だからその距離だと有利すぎないか?」
「ハッ!歴戦のプレイヤーをなめるなよ?遠距離武器の対策くらいするさ。しないなら、そいつが悪い。他にはもうないか?」
「もう大丈夫かな」
「そうか。じゃあ己はもう行くが、もし分からないことがあればエッちゃんに言え。すぐには無理だろうが、待てばエッちゃん経由で答えてやるからよ」
「ああ、ありがとう。あんたって本当にいい人だな」
粗雑な口調だが面倒見がいいサキリに、リュウセイは好印象を覚えた。
サキリはその感謝の言葉に手を振り応えて、別れを告げる。
「おう、じゃあな。また、星の巡りが合う日まで」
その言葉を最後に映像通話が切れた。
「なあ、エト。天野さんが言ってる。星の巡りが合う日までってなんだ?午前に別れるときにも言ってたよな」
『あれは、お兄さまとお姉さまたちが別れのアイサツときによく言う言葉なのです。エトもよく分からないのですが、星の巡り合わせがよかったらまた会えるだろうって意味だと思うのです』
「聞いたことないから、別の国のアイサツなのかな?――――っと、そんなこと考えてる前にやることやらねえとな」
『そうですね。ではダウンロード始めます』
「ああ、頼む。――――なんか、わくわくしてきたな」
人によっては、負けてはいけないというプレッシャーで神経をすり減らす苦行のようなイベントだが、リュウセイは違う。
どんな強敵が来るのか心待ちにした表情でダウンロードが終わるのを待っていた。
◆
少し時間が経ち――――
イベント【極天至道:シュラノミチ】を開始して、はや九戦目。
身バレ防止のため【リュート】の仮想映像を纏っていたリュウセイは不満顔で連勝を重ねていた。
なにが不満かというと――――
「歯ごたえがない…………」
今ちょうど、相手アバターの眉間に銃弾を撃ち込んで光の粒子に還したところだ。
相手プレイヤーは「対戦ありがとうございました」と言葉を残し退場する。
少しインターバルを挟み、次の試合を待つ。
『そりゃそうなのです。まだ始まったばかりですよ。キリお姉さまも言ってたじゃないですか、少しづつ強くなると。いまの段階でマスターを手こずらせる相手が出てきたら、イベント終了まで持たないのですよ』
「そうなんだけどさー。少しは期待したいだろ?始めたばかりでも強いやつがいるってさ」
『マスターがそれですから気持ちは分かりますが、期待される相手がかわいそうなのですよ。一戦目のプレイヤーなんて、マスターが最初からフルスロットルでいったせいで開始十秒で穴だらけのオーバーキル。なにが起きたのか分からないまま退場していったのです。初心者にはトラウマものなのですよ』
「うっ!……たしかに、あれは悪いことしたな。あの人、試合が終わったのに呆然としてたもんな…………」
『まあ、負けるわけにはいかないので手を抜かないのは正解なのです』
「はぁっ。仕方ない。今日は練習と割り切って明日以降に期待するか……」
期待していた事との落差にため息をつくリュウセイ。
それを慰めるようにエトが声を掛ける。
『大丈夫なのですよ。マスターが求める相手は必ずイベント期間中には来ますから。それまではスキルの操作精度を高めましょう。ほら、次の相手が来ますよ。ノルマの十試合目なのです』
リュウセイがエトの指さすほうに目を向けると、試合相手とアバターの映像が浮かび上がってきたところだ。
群青と黒のカラーリングで長刀を持つ女性アバター。
プレイヤーの方も同じ色合いで、和風な仮面を被っている。
プレイヤーネームは【スイゲツ】。
その名前を見た瞬間、リュウセイは嫌な予感に襲われる。
彼のよく知ってる人物がその名を好んで使うのを知っているから。
思い浮かぶのは幼馴染で親友。仲間外れにするとすぐに拗ねるその顔。
彼はおそるおそる目の前の人物に尋ねる。その名を。
「え~と?もしかして~――――ミズキか?」
「楽しそうなことしてるネ。りゅー。わたし、全然知らなかったヨ」
りゅー。――――その呼び方をするのはひとりしかいない。
弾むような声で返答があったが、リュウセイには分かる。
ヤベっ、怒ってる、と。
彼には心当たりがありすぎた。
「わたしとも一緒に遊ぼうヨ。いいヨネ?」
楽しげな声に怒気を漲らせながら第十試合目の相手――――
【
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