第36話 困難に立ち向かう者
◆◇
荒れ果てた大地にたったひとりで立つ青年――【アルヴィオ】が猛き叫ぶ。
古代の戦装飾を纏った体のいたる所から血を流して、満身創痍。
右手に持つ石の剣を落とさぬように布できつく縛っている。
周囲には地面を埋め尽くす怪物の死骸が散らばり、壮絶な戦闘が行われたことが予想された。
しかし、まだ戦いは終わっていない。
地平の向こう側から津波のような黒く蠢くものが迫っている。
敵の増援だ。
それを見たアルヴィオは空を仰ぎ目を閉じた。
仲間たちは皆逝き、残るのは彼だけ。
援軍は期待できない。各地で同じような事が起きているのだから。
圧倒的に絶望的な状況。諦めても無理はない。
だが、目を開いて眼前を見据える。その瞳には闘志が宿っていた。
『なあ、最後になるかもしれないから言っておく。今までありがとうな』
彼は虚空に話しかけている。
そこに誰かがいるかのように。
『泣くな。お前のせいじゃない。俺が弱いのがいけないんだ』
不可視の存在はアルヴィオにだけ見えている。
彼は、我が子に向けるような表情でそれと話す。
『むしろ、こっちが謝らねえとな。こんな馬鹿野郎の道連れにしちまって。お前ならもっといい――――わりぃ。そうだな、これは選んでくれたお前への侮辱だ。』
不可視の存在に怒られたのか、彼は自分の言葉を訂正する。
彼はそれに手を伸ばす。一緒に行こう、と言うかのように。
『じゃあ、最期までいこうぜ我が相棒!我が【星】よ!くそったれな運命を押し付ける、理不尽な神モドキどもを一緒にぶっとばそう!』
言い終えた瞬間、彼は星の輝きを纏う。
敵の大群へ目掛け、目にも留まらぬ速度走り出す。
はじまりの英雄は強い意志を持って困難へと立ち向かった――――
◆◇
「――――はぁ~、すげえな。今までで見た中で一番壮大な【物語】だな」
『そうですね。さすがは【ネームド】なのです!』
「あわわ……流れで一緒に見ちゃったけど良かったのかな?この映像の情報だけでもお金が取れるレベルだよ」
「いまさらじゃない?アリスレイタちゃん。取得条件も知ちゃってるんだし、アレもねえ…………もちろん口外はしないけどね」
リュウセイたちは、【レコードブック】三階のトレーニングルームで、手に入れたばかりの【絶望に抗う者・アルヴィオ】の物語を設備を利用して鑑賞していた。
いまので交換で手に入れた物を含めて、全ての【伝承石】の物語を観終わったところだ。
「それで、リュウセイ君。【絶望に抗う者・アルヴィオ】はどんなスキルをもっているのかしら?」
「え~と。いま映しますね」
空中にスキルが記された画面を映し出す。
【G級伝承:題名 《絶望に抗う者・アルヴィオ》】
カテゴリー:【戦闘】
保有スキル:【不撓不屈】 効果:デメリット効果の軽減。
(
(残りHP量で効果が変動。HP10%以下で【星の英雄】を発動)
「【不撓不屈】?デメリット効果の軽減?【星の英雄】?全部初めて聞くものばかり。メイリさんは知ってますか?」
「いいえ。未発見のスキルと効果ね。【探究班】たちが喜びそうな情報だわ」
「【探究班】?メリーさんなんですかそれ?」
「【探究班】――――正式名は【シラベスキー探究班】ていう『シラベスキー』っていうプレイヤーが主導する情報屋集団で、【神星領域:ロスト・フォークロア】の伝承情報を集めてまとめサイトにアップしてるの。そこには有料コンテンツがあって、情報を売買して貴重な情報は高値で買ってくれるわ」
「一条君が配信で真伝スキルを使ってるとこが映ってたから、その内接触してくるかもね」
『マスター、それより強化が完了したアバターの試運転をしてみるです。いつキリお姉さまからイベント開始の合図が告げられるのか分からないのですよ』
いまはまだイベントは始まっていない。
おそらくサキリがリュウセイの準備が整うのを待っているのだろう。
とはいえ、いつまでも準備に時間をかけるわけにはいかない。
しびれを切らせたサキリが開始の合図をあげるかもしれないからだ。
「そうだな、エト。じゃあ、スキルをセットしたら動作テストするか」
リュウセイはステータス画面を開き、スキルをセットしていく。
出来上がったアバターのステータスは――――
プレイヤーネーム【リュート】
・HP 100
・SP 205
・STR 10
・VIT 10
・DEX 110(※セットボーナス+40)
・AGI 55 (※セットボーナス+20)
・INT 10
・MIND 45(※セットボーナス+20)
【スキル】キャパシティ(10/10)
・【星詠みの導き・真伝】 保有スキル:【探知?★1】 DEX+15
・【星詠みの願い・真伝】 保有スキル:【必中?★1】 DEX+15
・【風来の奇術師】 保有スキル:【クイック・チェンジ】 DEX+10
・【武器蔵の大掃除】 保有スキル:【アームド・チェンジ】 DEE+10
・【自動機械の献身】 保有スキル:【オートローダー】 DEX+10
・【暗殺者の極意】 保有スキル:【巧みの
・【戦場の舞姫】 保有スキル:【流麗加速★1】
・【その身は星の瞬きの如く】 保有スキル:【瞬身】AGI+10
・【我が歩みは流れる星の如く・真伝】保有スキル:【瞬身?】AGI+15
・【絶望に抗う者・アルヴィオ】 保有スキル:【不撓不屈】 MIND+15
【風来の奇術師】・【武器蔵の大掃除】・【自動機械の献身】・【暗殺者の極意】・【戦場の舞姫】・【その身は星の瞬きの如く】はオバナと交換したものだ。
スキルの効果は以下の通り。
【クイック・チェンジ】は予備武器に素早く切り替えるスキル。
【アームド・チェンジ】は装備を丸ごと登録したものと入れ替えるスキル。
【オートローダー】は射撃武器を切り替えた際に自動で弾の装填をするパッシブスキル。
【巧みの腕★1】は技量武器を装備したときに10%の補正がつくパッシブスキル。
【流麗加速★1】は回避時にAGIを10%UP上乗せするパッシブスキル。
【瞬身】は任意のタイミングで発動する回避スキル。失敗する可能性あり。
上記以外の【伝承石】はリュウセイが手に入れた物だ。
その中にしれッと紛れ込んでるものがある。
【我が歩みは流れる星の如く・真伝】だ。
これは、リュウセイがガチャで引いたものである。
これが手に入った時はひと騒動あったのだが、いまは割愛。
画面は可視化しているため、この場にいる全員に見えている。
「見事に玄人向け技量戦士だね。回避前提で装甲がないに等しいよ。MINDが高いから魔法には耐性があるけど」
【瞬身】という、タイミングがシビアな回避スキル必須の構成。
躱せなければ、即HP全損は免れない初心者お断りの構成なのだが、リュウセイは躊躇うことなくこれを選んだ。
【視て】から避けるのは得意だから。
「う~ん……本当なら同じスキルは同時にセットできないはずなんだけど、【瞬身】と【瞬身?】は別物ってことかしら?」
『効果は一緒ですけどね。それに、スキルは被ってますけど、この構成が一番ステータスが高いのです』
「そうね。相性がいいもの揃えることでもらえる【セットボーナス】が高いから、現状はこれが最適ね。――――にしても、リュウセイ君が【MAXIMAスタイル】でいくなんてねぇ~…………」
「【MAXIMAスタイル】?」
「【MAXIMAスタイル】はプロ選手のマキシマ=ジョーが考案した戦闘方法だよ。【クイック・チェンジ】・【アームド・チェンジ】・【オートローダー】・【瞬身】を巧みに使う魅せ技が多い戦い方で人気があるんだけど、使いこなせる人がプロだけだから、これが出来ればプロになれる!って言われてるやつだね」
「あいつのいい加減な戦闘方法をリュウセイ君がやるなんて、複雑な気分だわ~…………」
「ん?メリーさん、もしかして知り合いで――――」
『マスター!キリお姉さまからイベント開始の事前連絡が来ました!今から三十分後に指定の場所に来るように、とのことです!』
エトの焦った声にリュウセイは意識を切り替える。
どうやら、動作テストをする時間はないようだ。
これから彼には様々な困難が待ち受けているだろう。
数多のプレイヤーたち。
未知のスキルを使う者たち。
悪意を持って彼に挑む者たち。
上位層のプロ級プレイヤーも出てくるかもしれない。
リュウセイはその全てを乗り越えなければならない。
覚悟はできている。
困難に立ち向かう覚悟が。
「みっともない戦いを見せないように気合い入れないとな」
リュウセイは、これからのこと考えると自然と口角が上がり、笑う。
楽しそうに。
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