第35話 エクストラ報酬
『アイテムがないならガチャをまわせばいい』、オバナはそう言った。
それに対してリュウセイは反論する。
「いや、そんなパンが無ければお菓子を食べればいいじゃない、みたいに言われても、こっちは始めたばっかりだぞ?回す元手がないだろ」
「一条くん、君が昨日やったこと忘れてない?ゲームを立ち上げてメニュー画面の【ギフト】ってところを確認してみて」
「ん~?――――なんかいっぱいあるな…………」
確認すると【初回ログイン特典】や【はじめての戦闘】などの達成報酬が並んでいた。
「それたぶん、ゲーム開始特典やミッション達成の報酬とかだね。まだ受け取ってなかったんだ――――そうじゃなくて、下のほうに私から送られたものがない?」
リュウセイは溜まっているギフト一覧をスクロールしていく。
下のほうに【プレイヤー:アリスレイタからの贈り物】と書かれた項目があった。
そこには――――
「――――なんか、【神星の欠片】×100個ってあるんだけど、なんでだ?」
「やっぱり忘れてる。昨日、配信した企画の副賞だよ。それ」
「ああ!そういえばあったな。すっかり記憶から抜け落ちてた」
『マスター、それがあれば一番安価なガチャ――――【アカシアの宝物殿★1】を10回まわせるのです!』
【神星領域:ロスト・フォークロア】のガチャは、得られるアイテム等が★1~5の五段階で変わる。
数字が低いほうがレア度が低く【神星の欠片】の必要数が少ない。
高いとその逆だ。
プレイヤーのランクでまわせるガチャは制限されている。
ランクを上げることによって、星の数字が高いガチャが解放されるようになるのだ。
★1のガチャはG・F級のアイテム・装備・伝承石などが手に入る。
1回まわすのに【神星の欠片】が10個必要だ。
★5なら50個必要である。
「ゲーム開始特典とかも一括で受け取ればもっと増えるよ。併せたら50回はまわせるんじゃないかな?」
「おお、結構まわせんだな。わかった。じゃあ、全部受け取って、と――――ん?」
一括受け取りのボタンを押したリュウセイは、ずらーっと並ぶ報酬や運営からのプレゼントの中に異質なものが混ざってるのに気づく。
ノーマル報酬や贈り物と書かれたもの以外に、【エクストラ報酬】というものがピカピカ光りながら表示されていた。それが三個もある。
彼はその内容を確認する――――首を傾げた。
「【エクストラ報酬】ってすごそうな報酬があるけど、これがなにか分かるか、エト?」
『おー!それは通常では成しえない偉業を達成したプレイヤーに送られる報酬なのです!マスターの行動が偉業に値するとゲームシステムに認められたのですよ!それを情報なしで取得した人はプレイヤー人口の5パーセント未満のレアな報酬なのです!』
「え!?一条くん【エクストラ報酬】手に入れたの!?というか、それって存在したの!?」
オバナは取得したことがない側らしい。
「すごいわねー、リュウセイくん。昨日の配信での戦闘が認められたのかな?――――ところで、なんで首を傾げているの?」
「う~ん。この【エクストラ報酬】ってやつ三個あるんですけど、変なのがあるんですよ」
「三個もあるの!?」
「――――ゲームを始めて、たった二日で【エクストラ報酬】を三個手に入れるのは前代未聞ね…………それで、その変なやつってなにを達成した報酬なの?」
「みんなに見えるように表示しますね――――っと」
リュウセイは【ニューロアーク】を操作して画面を空中に映し出す。
そこには区別された報酬が新しい順に並んでいた。
内容は――――
▼
【エクストラ報酬】・《最弱の英雄譚》
・達成条件:
G級装備の【ルーキー】が2以上ランクが上の【変化型・伝承顕現】を撃破。
・報酬:
【伝承石(G)】――――【G級伝承:題名 《絶望に抗う者・アルヴィオ》】
【クエスト:原初の英雄】を開放。
(※■■■■が足りません。■■■■を手に入れるまで進行不能)
【エクストラ報酬】・《真実の語り手》
・達成条件:
真伝を内包する【伝承石】をひとつ獲得する。
・報酬:
アイテム【ラプスの写本・第一巻】
【クエスト:全てを見てきた者の写本を蒐集せよ】を開放。
(※達成状況1/7)
■■■・■■・■■■■へのLv1アクセス権を獲得。
【エクストラ報酬】・《■■■■■■■》
・達成条件:
■■■■■■■■■■■■■。
・報酬:
アイテム【■■・■■■■■】を獲得。
■■■■への■■■を獲得。
▼
内容を見たリュウセイ以外の三人は様々な反応を見せる。
目をキラキラさせながらリュウセイを見るエト。
目の前の結果が信じられず口を開けて呆然とするオバナ。
顎に手を当て考え込むメリー。
『黒塗りの部分が多いです!』
「そうなんだよ。特に最後のは全然読めない」
『それでも、分かる部分を読んでみると良いものを手に入ったのが分かるのです!これはすごいモノですよ。マスター!』
「おっ、マジか!」
『はい。マジなのです!なんたって――――』
そこで理解が追いついたオバナが叫ぶようにその名を口にする。
「【ネームド】の伝承石にアイテム!?!?超がつくほどの激レアじゃない!?しかも、どっちも聞いたことのない未発見のやつだよ!?」
「【ネームド】?」
『固有名詞がついたものをそう呼んでいるのです。【ネームド】はゲームの世界観に深く関わる重要なファクターなのです』
「それだけじゃないよ!内包スキルも特別なものが多いし、関連クエストが解放されたり、取得条件の情報代だけで最低でも数十万で取引されることもあるんだよ!」
「マジか!?」
「マジよ!!」
想像以上の結果にリュウセイ・エト・オバナは興奮していた。
そんな中、メリーは深く思考の海に沈んでいる。
それに気付き、彼女に声を掛けるリュウセイ。
「メリーさん大丈夫ですか?なんか険しい顔になってますけど…………」
「――――え?あ、ごめんなさい。また悪い癖が出ちゃったわね」
思考の海から浮上したメリーは、リュウセイに気を遣わせたことを謝る。
「いえ、気にしてないです。ところでなんですけど、これ。黒塗りが多いんですが、なんでなんですかね?」
「それは条件が未達成だからじゃない?ランクが低かったり、キーアイテムが不足してたり、色んな要因が考えられるわね」
「なるほど~。せっかく手に入ったのにクエストが進めなかったり、よくわからないアクセス権とかはお預けですか。最後のは全部黒塗りで全然わかんないですし」
「ふふっ。イベントを乗り越えたらゆっくりと手がかりを探してみるといいんじゃない?」
「そうですね。いまはやるべきことから終わらせていきます。手に入れた物の効果は後で確認するとして、ノーマルの報酬のほうは――――」
エクストラ以外の報酬を確認し始めたリュウセイを見ながらメリーは考える。
最後の黒塗りだらけの【エクストラ報酬】は一体なに対しての報酬なのか。
最初と次の【エクストラ報酬】は理解できる。
激闘を制したゲーム史に残る闘い。
未発見の真伝という【伝承石】の入手。
だけど、最後のやつだけは分からない。
順番的にスタートガチャより前の時間だ。
その時間はアバターを作ったり、オープニングを見ていただけだ。
なにか特別なことを挟む時間はなかった。
もし、特別なことがあるとするなら――――
そこで思い浮かんだ馬鹿馬鹿しい想像を振り払うように首を振るメリー。
あまりにも突飛すぎる想像に苦笑がこぼれてしまう。
フィクションの見すぎだと自省する。
だって、ありえないのだ。
エトと一緒にいること自体に報酬が発生するなんて。
あの子はゲームとはなにも関係ないじゃないか、考えすぎて変な方向に思考が行ってる、と思った彼女は考えるのをやめた。
そんな事よりも、リュウセイたちと一緒にイベントをどう乗り切るか話し合うことにする。
大事なのは今のこの時間なのだから。
◆
「――――それじゃあ、一条くんが欲しいスキルや装備はわかった。わかったけど、本当にそれでいいの?」
リュウセイの定石を外れたスキル構成や武器構成に再度確認を入れるオバナ。
「ああ。たぶん、それが一番性に合ってると思う」
「ん~…………玄人向けな構成だけど、君なら何とかできそうとも思う。――――よしッ!【ストレージ】から引っ張り出して準備するから、その間にガチャをまわして交換用の品物を揃えておいて」
「おう、分かった」
そう言うとリュウセイは店の隅に移動して【アカシアの宝物殿★1】に【神星の欠片】を奉納し始めた。
今回は店の設備を使ってないので、結果はリュウセイにしか見えない。
「それにしても、一条くんが【
『ちがうのです。マスターが考えて、最善だと思ったのがあれだったのです』
時折、リュウセイのいる方向から声が聞こえてくる。
『え?これって最低保証ってやつじゃあ』と。
『エトは知識のアドバイスはできても、戦闘技術に関してはアドバイスが出来ないのです』
「あら意外ね。エトちゃんなら、なんでも出来そうなイメージがあったから」
『出来なくはないのです。【マスターランク】までの技術ならエトでも教えることが出来るのです。でも、それ以降となると難しいのです。。劣る技術をアドバイスしてもマスターが困るのです』
店の隅からリュウセイの苦悶の声が聞こえてくる。
『ぐぐぐ。ウソだろ?二連続で最低保証だ、と?』と。
「ねえ……それって一条くんが【レジェンドランク】の技術があるって聞こえるんだけど…………たしかに彼はすごいけど、上位帯は化け物みたいな実力を持つプレイヤーがひしめく魔境だよ?いくらなんでも、それは――――」
『マスターの【目】はすごいのです。一度見た動きは忘れませんし、どれだけ速くても捉えることが出来るのです』
「へ?」
いきなりリュウセイのすごい所を言い始めたエトに、オバナは目を白黒させる。
一方の話題に上がったリュウセイは、『三度目の正直ッ!ってまたかよッ!?』と三回同じ結果を出していた。
『そして、一度見た動きを再現することが出来ます。エトは見ました。マスターが最初にアバターの動作テストをしたときに、三ヵ月前にマスターのおばあちゃんが実演したものと寸分たがわぬ動きをしたのを。たまたまではなく何度も』
「それって、もしかして【レジェンドランク】の技術も――――ライラちゃんの技術も再現できるってことかしら?」
『はい。エトはマスターならそれが出来ると確信してるのです。そうでなければ、トップ・プロに挑戦するなんて選択肢を選ばないのです』
店の隅でうなだれてるリュウセイは四回目の最低保証を引いていた。
しかし、その目は諦めていない。
『…………このままじゃあ、交換用のアイテムが集まらない――――だけど、まだ最後の十回がある。これにすべてを賭けるッ!』と、まるで最終決戦かのような雰囲気を出していた。
「たしかに、その技能はすごいと思うけど、技術を真似て勝てるほど頂点に立つ者は弱くないわよ」
それは、かつて頂点に立ったことのある者のセリフ。
引退したとはいえ、その言葉には重みがあった。
オバナは固唾を飲んで黙って見ていることしかできない。
「ライラちゃんは技術もすごいけどなにより――――運が良い。まるで神様に愛されてるような子よ。頂点に君臨し続けるにはそういった要素も必要になる」
『はい。なので【秘策】も用意してます。それに――――』
「それに?」
「シャアアアアアッ、オラァッ!!!大当たり引いてやったぞ!!!クソガチャがぁッ!!!」
大当たりの喜びのあまり、大声を出して口が悪くなるリュウセイ。
それをエトは微笑みながら見ている。
『エトのマスターも勝負運は異常に強いのです』
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