第33話 極天至道:シュラノミチ
【道楽・ファンタジア】→【黄昏・ファンタジア】に名称を変更しました。
―――――――――――――――――――――――――――――
【黄昏・ファンタジアside】
ステージから消えるようにいなくなった【黄昏・ファンタジア】のメンバーは、公園の
顔を出して周囲を見渡す。誰もいない。
それを確認したメンバーは仮想の衣装を脱ぐ。
「団長。ここまで離れたら大丈夫でしょう」
「うむ。衣装を脱いで日常に戻るとするか」
「団長、なんでいつも公演のあと隠れるのさ?」
「僕らの正体なんてもうみんな知ってるから、今さら隠しても意味がないんじゃない?」
「いっそのこと本来の衣装でやればいいんじゃないのー?」
メンバーがかねてよりの疑問を団長に聞く。
聞かれた団長は返答する。
「我らは企業の広告塔を担うプロライセンスを持つ集団だからな、本来の姿でやろうもんなら上からお叱りの言葉が来るぞ?こうやって姿を偽ることでギリギリお目こぼしをしてもらっているのだ」
「そうです。こうやって息抜きが出来なくなるの私嫌ですよ?」
「あー、そうか…………企業勤めのつらいとこさ」
「一応、建前で謎の集団って、僕らは名乗らないといけないのか」
「めんどくさいねー」
最後のメンバーの言葉に団長は頷く。
彼・彼女らは退屈を嫌う。
しかし、仕事としてゲームをしていると退屈になる場面が多くなる。
だから、たまに鬱憤を発散させるように【黄昏・ファンタジア】という仮の姿で活動しているのだ。
企業も、彼・彼女らのモチベーションが下がると成績に影響するので、ある程度のことは好きにやらせている。
普段着に戻った面々は公園の外に出て、話をしながら昼食をする場所へ向かっていた。この時、メンバー全員は頭部に動物を模したかぶり物の仮想映像を纏っている。
有名すぎるその身元がばれないように。
アメノハラの外では珍妙なる格好だが、この街では特に気する必要もないありふれた格好だ。
だから、道行く人たちは気づかない。
彼・彼女たちの正体に――――
「――――にしても、いきなり団長――――じゃない、【マキシマ】さんが招集かけるから何事かと思いましたよ」
普段の姿のときは団長呼びはNGである。
その呼び方は【黄昏・ファンタジア】として活動しているとき限定だ。
「【ファンタジア】の活動も、『気が乗らない』って理由でしばらくやってなかったから、今日やるとは思っていなかったのさ」
「理由はなんとなく察するけど、昨日のすごいAIと、そのマスター関連じゃない?」
「マキシマは面白いもの見つけるとテンション上がるもんなー」
マキシマと呼ばれた人物は、それについて口角をあげながら楽しそうに語る。
「そりゃそうだろう?あんなものを見せられたら誰だって奮い立つ。エト嬢の配信もそうだが、そのマスターの戦いぶりは凄かった。最下層のランクでE級伝承顕現を打ち破る姿はゲーム史に残る偉業だ。我、感動した。出来るなら――――」
「あっ。マキシマさんの悪い癖がでそう…………」
「あの【リュート】とかいうエト嬢のマスターと一戦やってみたい」
得物を見つけた獣のように眼をギラつかせるマキシマ。
その様子に一同は呆れた目を向ける。
「プロが一般人を標的にしないで下さい。大人げないですよ」
「その【リュート】はわたしたちの【姫さま】に宣戦布告したけどねー」
その言葉に一同は首をかしげる。
「それって、結局どうなったんだ?我、チームの長なのに何も聞いてないぞ?」
「イベントって噂だけど、ウチらに事前に話が届いてないのっておかしくない?チームメンバーがイベントに巻き込まれてんのにさ」
「【姫さま】もなにも聞いてないって言ってましたね」
「僕のマネージャーも知らないって言ってるから、情報が上で止められているか……もしくは…………」
「X・Road側が一方的に決めたってことー?」
その可能性に一同は一定の納得をする。
「ありえるな…………あそこは、いままでも何回か事後承諾というかたちでイベントを開催してる前科があるからな」
「ウチのお偉いさんもそれに文句言ってたことあるけど、説得に来る綺麗なお姉さんに最後は丸め込まれるんだよ」
「まあ、イベントをやるにしても【姫さま】は忙しいけどね。新シーズンがはじまってリセットされた【レジェンド】の空席の頂点を獲らないといけないから」
「わたしたちは、あとから参戦すればいいけど、【姫さま】は覇者だから一位の座を取り続けないといけないのが大変ー」
「あっ!ゲームメッセージに、いま話題にしてるイベントの情報が追加されてますね」
その場にいる全員がメッセージを確認する。
その内容は――――
▼
【小規模イベント開催予告】
イベント名【
・プレイヤー【リュート】が【カジュアル戦】に出没。
・この【カジュアル戦】は【ルーキー】ランクで行われる。
・イベントは内部レート低い順から対戦相手が選ばれる。
・対戦希望が多い場合は抽選で決める
・【リュート】が連勝を続ければ、対戦相手のレートが上昇。
・出没時間は不明。ただし対戦は最低一日十戦以上あり。
・出没前にはゲームメッセージでお知らせがくる。
・【リュート】に勝てば、【神星の欠片】100個×【リュートの連勝数】GET。
・【リュート】が負けた時点で夕闇崎ライラへの挑戦権を失いイベントは終了。
・開催期間は【リュート】が負けるか、夕闇崎ライラとの試合の日まで。
イベント内容説明:
私たち、X・Roadが懇意にするプレイヤー【リュート】は、無謀にもランク戦の覇者・夕闇咲ライラに挑戦状を叩つけた。
しかし、彼に覇者に挑戦する資格はあるのか?
このふたり以外の全プレイヤーに問う。
プレイヤー【リュート】は彼女に挑戦するに値する
おそらくほとんどのものがこう答えるだろう、否と。
力量不足の者が頂点に挑戦することを許せない者もいるだろう。
新参者が覇者に挑戦することに納得がいかない者もいるはずだ。
だから、彼は証明しなければならない。
自分の力量を。全プレイヤーに向けて。
示さねばならない。その覚悟を。
運命の日まで彼は、
格上のプレイヤーと戦い、勝ち星を上げ続けて。
それが出来ないのなら、挑戦する資格はない。
他のプレイヤーに負けるのなら、彼女に勝つなど夢のまた夢の話だ。
この挑戦に異議を唱えられるのは、運命の日までの空いた期間だけである。
【リュート】が夕闇咲ライラに挑戦するのが不服の者・報酬が目当ての者・彼の力量が知りたい者は
彼がその全てを蹴散らそう。
これから彼が歩むのは修羅の道。
勝つことでしか辿り着けない極天へと至る道。
壮絶なる闘劇。【極天至道:シュラノミチ】開催だ!
▼
「――――なんというか……無茶苦茶な内容ですね…………」
「【姫さま】と試合をするまで、【カジュアル戦】で勝ち続ける?それが一週間後だと仮定して、その間に負けなしはウチらでも無理さ」
「最初は実力が低い相手と戦うとは言っても、難易度が上がっていくらしいですからね。最終日付近はプロ・クラスと当たる可能性がありそうです…………あの運営の性格から考えて」
「このイベントからは、たまに出てくる、無理難題が好きな人が担当してる気配がするー。その人が担当すると難易度が跳ね上がんだよねー。面白いけど」
「【リュート】はやっぱりX・Road側の人間だったのか。懇意って書いてあるもんな。さしずめ、子飼いのプレイヤーに箔をつけたいと言ったところだが…………あそこは運営だからプロチームは持ってない。なんの為に彼を選んだのか、我分かんない。でも、まあ――――」
マキシマは実年齢にそぐわない、少年のような笑みを浮かべた。
楽しみが出来たと言わんばかりに。
「我がこれに参加してもかまわんだろ?」
全員からなに言ってんだこのオッサン、という目で見られる。
「さっきも言いましたけど、プロが一般人を標的に――――」
「我らのチームメイト、ライラ嬢に挑戦するんだ。チームリーダーの我が挑戦者を見定めても問題なかろう」
「マッキー、それで本音はなにさ?」
「面白そうなヤツと一戦やってみたい!」
「おじさんはもう少し欲望を抑えたほうがいいと思う」
「わたしはいいと思うけど――――マキシマ、無様に負けちゃダメだよ?チームの名を背負ってるんだから」
気怠そうにしていた女の子が、真剣な症状を作りマキシマにくぎを刺す。
それだけは許さないと言うように。
マキシマはそんなことは当たり前というような顔をして答える。
醜態を晒すつもりはさらさらないというように。
「分かっている。我ら――――最強のプロチーム【トワイライト・ビースト】の名を傷つけるつもりはない。安心して見ていてくれ!はっはっはっ!」
全員が不安そうな顔でマキシマを見ている。
彼が大一番でポカをするのを何回も見てきたから。
「まあ、
「それは、大丈夫だろう」
「なんでさ?」
マキシマは自信満々に答える。
「我の勘が言ってる。危機的状況に陥ることなく、ヤツは勝ち上がってくるとな」
彼にはリュウセイが勝ち上がる姿しか思い浮かんでいなかった。
◆
その頃、話題になっているリュウセイは――――
「やばいぞ、エト!?スキルや装備を揃えるためのお金がない!?」
『そういえば、昨日アバターを作るのに使ったのでした!?』
「どうすんだ、これ!?」
『どうしましょう、これ!?』
エトと一緒に慌てていた。
まさかの金欠でイベント関係なく危機的状況に陥っていた。
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