第32話 気の向くまま、心の思うまま、自由気まま


 X・Roadの大きなビルから出たリュウセイたち。

 自然豊かな大きな公園のベンチに座って、今後の方針を話し合う。

 エトが有名になりすぎた為、リュウセイだけに彼女が見えるように設定にしている。

 会話は、声を出さずに思い浮かべた言葉で会話ができる【ニューロアーク】の機能をで話すことにした。


『――――では、マスター。これまでの行動のおさらいをして今後の行動を決める話をするのです』


『ああ、頼む』


 リュウセイの言葉に首肯したエトは、前日にやった事の説明をする。


『エトはマスターの一番を目指すという意を汲むため、現・トップの【魔王】さんに挑戦状を叩きつけたのです。無視をされないように全プレイヤーにメッセージを送って』


『改めて聞くと無茶苦茶だよなぁ』


『でもこれで、ゲームの覇者である【魔王】さんは受けざるをえない状況を作り出せました。トップと試合をするための難関はクリアです』


『試合の日程を決めたり場所を決めたりは今日考えようと思っていたけど、天野さんがやってくれるっぽいから、これは考えなくていいか』


『はい。キリお姉さまには感謝なのです。試合のル-ルもエトが考えた方法を採用してくれるはずなのです』


『たしか、オレの【ルーキー】ランクに基準を合わせてスキルもステータスも制限された、プレイヤースキルが重要になるルールだよな?』


 【神星領域:ロスト・フォークロア】はランクごとに差が出るゲームだ。

 ランクが高いほうがスキルもステータスも上等なものになり、ランクが低いとその逆になる。

 だが、それだとランク間の差でプレイヤー同士の戦闘が一方的なものなってしまい、勝負にならない。

 そこで登場するルールが【戦闘は下位ランクに合わせて行われる】だ。

 これは、ルールをカスタムしない限りこの条件で行われる。

 

 このルールを利用して【ルーキー】の状態でトップ・プレイヤーに挑戦する。

 リュウセイがランクを上げない理由がそこにある。


『それが一番勝率が高いのです』


『というか、それしか勝算がないんだよな』


『そうです。ランクが上がっていくごとに、リソースが少ないこちらが不利になるのです。なぜなら――――』


 エトは語る。


 ・ランクごとに使えるスキルや装備などに制限がある。

 ・たとえば、ルーキーならG級スキルまで、ブロンズならG~F級スキルまで。

 ・ランクが上がれば上がるほど選択肢は増え、それを揃えるのに時間がかかる。

 ・万全の状態でトップに挑戦しようと思えば、数年かかるかもしれない。

 ・だけど、いまのランクなら少ない選択肢で勝負できる。

 ・こちらの土俵ランクに持ち込めばプレイヤースキルの比べあいだ。

 ・勝つための【】も用意している。

 だが、たとえこの条件で勝てたとしても――――


『この条件で勝てたとしても、本来のランクの【魔王】さんに勝てたわけではないので、真の意味でトップに勝利したわけではありません。ですが――――』


『初心者がトップに勝つという実績はでかい』


『はい。それはマスターの一番を目指すという目標に必ずプラスになります』


『だな。あとやるべきことはスキル・装備だ。今のランク内で出来る強化を限界までして臨まないとな』


『そうですね。じっくり考えましょう。スキルや装備はメリーお姉さんのお店で揃えればいいとして、方向性をどうするかですね』


『このゲームってスキルや装備の選択肢が多いから迷うんだよな』


『ある程度、方向性が決まったらエトが最適解を考えますが?』


『う~ん……そうだな…………――――ん?あれはなんだ?』



 リュウセイの視線の先には、さっきまでなかった人だかりが出来ていた。

 広い公園の中にあるステージみたいな場所から歓声があがっている。

 気になったリュウセイはエトを連れて覗きに行く。

 そこには【神星領域:ロスト・フォークロア】を使ったイベントが行われていた。



「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!神出鬼行・出没自在。いつ現れるのか、どこで公演をするのか、だれにも分からない。自分たちも分からない。気の向くまま、心の思うまま、自由気ままなパフォーマンス集団。我ら――――」



 五人の派手な衣装の仮想映像をその身に重ねた男女が、アバターを伴い決めポーズをとる。


「「「「「【黄昏・ファンタジア】!!!」」」」」



 背後でバーンッと色とりどりの煙幕があがり、どこからともなく楽し気なBGMが流れる。



「我らの知ってる方はお久しぶり!知らない方は初めましてだ!我ら【黄昏・ファンタジア】ひと月ぶりの公演だああああああああーーーー!!!」



 わああああああ!!!と大音声の歓喜の声。

 リュウセイはそれに驚きながらも、ステージに目を引かれる。

 陽気な音楽に合わせ、ステップやダンスをする演者やアバター。

 その動作・仕草のひとつひとつが洗練されていた。


 ステージに立つ全員が難なくこなしているが、操者とアバターが別々の動きをするのは高等技術である。

 ひとつの頭でふたつの身体を動かすのだから。

 その技術の高さがこれから起こることの期待値をあげていた。


「お金がかかるの?と心配なあなた!だいじょうぶ!お代はあなたの笑顔!」


「我らは楽しむことが本懐!そこに金銭の要求など無粋!」


「僕らの道楽が貴方たちの楽しさに繋がるなら、これに勝る喜びはないね!」


「ウチらは楽しい!あなたたちも楽しい!みんなハッピーで最高さ!」


「観るときの注意点はみっつー!知ってる方は一緒にご唱和をー!」



 演者のひとりが声を上げる。



「じゃあいくよー。ひとーつ!」



「「「「「みんな仲良く、ワイワイ観よう!!!」」」」」



「ふたーつ!」



「「「「「写真・動画、撮影OK!ここにいない人とも話題を共有しよう!」」」」」



「最後―!みーっつ!」



「「「「「大いに盛り上がり、大いに楽しもう!!!」」」」」



 観客の熱気が高まり、【黄昏・ファンタジア】の面々がアバターを使い芸を開始する。それは、スキルを使用した芸だ。

 その発想と工夫を凝らしたスキルの使用方法にリュウセイは瞠目していた。

 たとえば――――


 流麗に水を操り、様々な生物の形を創るもの。

 姿を次々と幻想の生物に変え、最後はクジラに変わり地面へと消えるもの。

 身体強化スキルで、驚異のアクロバット技術を魅せるもの。

 幻影を操り、城や風景などファンタジーな光景を映し出すもの。


 そして――――リュウセイは最後に芸をした人物が一番印象に残った。

 その人物のアバターは拳銃をジャグリングして踊りながら、宙に飛ばしたフリスビー型の的を正確に撃ち抜いていく。

 その間、銃器は目まぐるしく変化していた。

 目を離してないのに、その人物が撃つ瞬間に銃が切り替わる。

 回転式拳銃・散弾銃・小銃、締めには――――


「さあ、私たちの団長は次も的を全部撃ち落とせるのか!」


「あれ?的多くない?我の目がおかしくなった?」


「的の数は出血大サービスで百個!いつもより多く出しているさ!」


「僕らは団長なら出来るって信じてるよ!」


「一個でも落としたら罰ゲームねー」


「団員たちの団長いじめがひどい!?くそおおおおっ!!!やってやらあああぁぁっ!!!」


 ジャグリングと踊りを辞め、軽機関銃を出現させて地面に近づくものから片っ端に撃ち抜いていく。

 緊迫感のあるBGMが流れ。

 それに合わせるようにダダダダダダッと銃声が鳴り響く。

 そして――――見事すべての的を撃ち落とした。

 アバターが軽機関銃の銃口を上にあげ、決めポーズを取る。

 無理難題の成功を祝う音楽が鳴り、観客から万雷の拍手と歓声がわき起こった。

 リュウセイとエトも拍手を送っている。


「やってやったぞッ!!!どうだッ!!!」


「おー、さすが私たちの団長!やる気がある時はかっこいい!」


「やる気がないときはダメダメだけどね。ウチらの公演は団長のやる気次第」


「今回の公演も団長が急にやる気をだしたから突発に始めたんだよね」


がなかったら絶対やらなかったー」


「お前たち!しゃべってないでどんどんいくぞ!」


「「「「りょうかーい!」」」」




 その後も、公演は続き正午を過ぎたあたりで大盛況のうちに終わった。

 自由なパフォーマンス集団【黄昏・ファンタジア】のメンバーは、最後のアイサツが終わったと同時に煙幕を使い消えて、公園に残るのは興奮冷めやらぬ観客だけだ。


 その観客たちは口々に『運がよかった!』と言っている。

【黄昏・ファンタジア】に興味がわいたリュウセイはエトにそのことを聞いてみた。


『彼・彼女ら【黄昏・ファンタジア】は、どこでパフォーマンスを繰り広げるのか予測がつかない集団で有名なのです。メンバー全員が有名人なのですが、になっています。どこで開催するのかSNSで告知もしないので、現地で見たくても見れないファンが多い、レアイベント扱いされているのです』


『じゃあ、オレたちは運が良かったな。いいもん見れたし、


『そうですね――――って参考?』


『ああ。キャラビルドの方向性が決まった』


『おお!でしたら、早速スキル・装備を整え――――の前にキリ姉さまメッセージが来てたのでした。ステージに夢中で忘れてたのです』


『変更したイベント内容が決まったのか?』


『みたいなのです。メッセージ画面を映し出しますね』



 エトが空中に画面を映す。

 そこには【極天至道:シュラノミチ】と書かれたイベント名が記されていた。

 それを読み進めていくうちにリュウセイの口角があがる。獰猛に。

 内容は――――



「ハッ、上等だ!」



【リュート】VS全プレイヤーを対象にしたバトル。

 リュウセイが負ければそこで終わり、【魔王】への挑戦権を失う。

 逃げることを許さず、難易度があがっていくルールもある。

 彼にはサキリが言いたいことが想像できた。



『トップに勝利するつもりならこれくらいできるだろ?』



 リュウセイは頂点に挑戦する資格があるのか。それを問われていた。


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