第29話 ウソかマコトか



 アメノハラに来た初日にさまざまな騒動を起こしたリュウセイとエト。



 駅で、エトのサプライズ演出から始まり。

 エトの初配信で世間をにぎやかし。

 リュウセイが、悪名高い配信者アリスレイタを配信中に改心させ。

 同配信で初心者でありながら、格上のランクを打ち破る快挙を成し遂げた。

 そして同日――――



【神星領域ロスト・フォークロアの【魔王】に挑戦状を叩きつけた】。



【魔王】――――それは、最年少トップ・プロである少女の異名だ。

 ロスト・フォークロアのプレイヤーで知らない者はいないほどの有名人である。


 常にランク戦の頂点に君臨する覇者。

 去年の年末に開催された【超神星祭】の優勝者。


 天性の戦闘技術を持ち。

 一対一での勝負では公式戦負けなし。

 一体多数でもほとんど返り討ち。

 その返り討ちにする様子が、RPGの【魔王】と勇者御一行に見えたことから、その異名がつけられている。



 その【魔王】の名は――――夕闇咲 ライラ。



 彼女に挑戦状が送られたのと同時に、プレイヤー全員にも同じ内容が届く。

 それを見た大半のプレイヤーは、無謀な。とか、不遜だ。と思う前に困惑した。



「これはなんだ?」と。



 いきなり送られてきたメッセージ。

 全プレイヤーに送られたそれは、個人による行動とは思われず。

『なにかイベントが始まったのか?』と疑われた。

 しかし、ゲームの運営からはなにも告知は無く。

 問い合わせても『いまは答えられない』とAIによる音声が流れるのみ。

『関係ない』ではなく『答えられない』。

 それが、プレイヤーたちの疑念を深くさせた。


 SNSでは、このメッセージの真相を考えるスレも立っている。

 そのスレには――――


 ▼


 0052名無しの語り手

 :エトちゃんのマスターで格上のアリスレイタを倒した

  話題の新人【ルーキー】ランクの【リュート】

  VS 【神領】の【魔王】で【レジェンド】ランクのライラ

  これどう思う?

 

 0053名無しの語り手

 :まず運営の正気を疑うな

  なにを考えているんだ、と

  【リュート】がかわいそうだ


 0054名無しの語り手

 :さすがに勝負にならないだろwww

  ランク差が絶望的じゃないかwww


 0055名無しの語り手

 :そこは【リュート】のランクに合わせた勝負になるんじゃないか?

  こういうのって大体、下位ランクに合わせるし

  まあ、合わしたとしても【魔王】さまが相手だとなー…………


 0056名無しの語り手

 :【リュート】のアバター操作もすごかったけど

  【魔王】さまのは別次元だもんな


 0057名無しの語り手

 :伝承スキルなしのプレイヤースキルのみなら確実に最強の【魔王】さま

  若手NO1トップ・プロに敵うわけない


 0058名無しの語り手

 :若手か~…………

  ていうか


 0059名無しの語り手

 :あ~分かる。

  俺もこないだ小学生相手に手も足も出ずにボコられた

  しかも、煽られた

  あんのクソガキッ!!!


 0060名無しの語り手

 :www


 0061名無しの語り手

 :まあ>59が下手なだけかもしれんが

  確かに上手いヤツ多いよな

  15歳以下がその傾向にある

  はじめてXRゲーやるのに、最初から上手いヤツが


 0062名無しの語り手

 :15歳以下ねー…………

  XRゲーに適応した新人類でも生まれたんか?

  15年前なんか大きなことあったっけ?


 0063名無しの語り手

 :おい>62考えてコメントしろよ

  その時に起きたことを忘れられない人もいるんだからな


 0064名無しの語り手

 :あっ!

  あの【災害】の…………

  ゴメン、無神経だったわ…………


 0065名無しの語り手

 :いやこっちも悪かった

  あの時色々あったから、その手の話題に過敏になってた


 0066名無しの語り手

 :スレの話題からずれてるから話し戻すぞー

  結局、これって本当に勝負するの?

  こんな無謀な闘いを?


 0067名無しの語り手

 :運営はなにを考えて【リュート】を

  【魔王】さまにぶつけようとしたんだろうな?

  彼の話題作りにしても相手が悪すぎだろ


 0068名無しの語り手

 :【リュート】がボコボコにされる未来しか見えん


 0069名無しの語り手

 :やっぱり、これってエイプリルフール企画とかじゃないのか?

  四月一日の前日だしさ

  実はウソでした。とか

  明日になったらネタ晴らしするだろ


 0070名無しの語り手

 :本当に【リュート】が挑戦状を送った可能性はない?


 0071名無しの語り手

 :無理だろ

  こんな全プレイヤーにメッセージ送れるのは

  【神領】運営のX・Roadしかないだろ?

  あそこにハッキングできるやつなんていないし


 0072名無しの語り手

 :う~ん?でも、公式からはなにも反応がないんだよな…………

  それに、話題急上昇中の【リュート】を使う意味が分からん 



 0073名無しの語り手

 :それは、【リュート】はX・Roadの社員か何かじゃないのか?

 

 0074名無しの語り手

 :なんかそういう噂があるけど確定じゃないよな

  声が若かったから未成年じゃないかって話もある


 0075名無しの語り手

 :あーもう!

  なにがウソでなにが本当なのか分からん!!


 0076名無しの語り手

 :これはもう答えはでないな。

  エイプリルフールは正午までだから

  それを過ぎたらなにか反応があるんじゃないか?


 0077名無しの語り手

 :【魔王】さまは試合をヤル気だけどねw

  たまたまメッセージが届いたとき、【魔王】さまが近くにいて

  見終わった後、怒りのオーラ立ち昇らせてたw

 

 0078名無しの語り手

 :本人の前ではタブーな【魔王】呼びしてたもんなw

  煽り耐性の低い【魔王】さまかわいいwww


 0079名無しの語り手

 :ウソか本当か。

  どっちにしてもすぐには試合は受けれないだろ。

  企業所属の【魔王】さまは多忙だし

  明日から始まるから


 0080名無しの語り手

 :あー【レジェンド】ランクのかー

  そりゃあ、【魔王】さまはしばらくはそっちにかかりきりだ

  まあ、そんな天上人の戦いはオレらには関係ない話だな


 ▼

 

こんな感じでスレは流れていく。

真実は分からないまま。

的を得たコメントもあったが、誰もそれが正解とは分からない。

それもそのはず。


アメノハラ市に巡らせている独自のネットワーク。

【アメノハラ・ネットワーク】をエトが一時的に乗っ取ったとは誰も想像できるはずがない。



エト本人でさえ、



知らぬまま、が出来ると確信した彼女は行動に移した。

リュウセイの『一番を目指す』という意を汲むために。

その結果が、この混乱だ。


誰もがウソと真実を見極められず右往左往している。

その混乱を生み出した張本人である、エトとリュウセイは――――




「ふ~~。荷物の片づけはこれでいいか」


『おーーきれいになったのです!』



学生寮で自分の部屋の荷物を片付けていた。





【四月一日・午前・学生寮・自室】



 ミズキたちに見送られて、天木学園の学生寮に到着。

 寮監に挨拶をして自分の部屋に来ていた。



「こうやって、自分の部屋を見るとワクワクするな!」



 実家から送られた私物を片付けたリュウセイ。

 部屋を見渡して、ここから新しい生活が始まることに胸を膨らませる。


 部屋は、居間・台所・寝室・風呂などが一緒になっているワンルーム。

 学生には贅沢にも、ひとり一部屋が与えられている。

 この寮には、他にも食堂や大浴場などが併設されている豪華な施設だ。


「なんか、予想以上にすごいとこだよな。ここ」


『すごいですか?』


「ああ、てっきり、ひと部屋に何人かつめ込むもんだと思ってた」


『そういうタイプの寮もある聞きますね』


「寮自体もでっかいしさ。――――ていうか、なんで学生寮がこんなに大きんだ?」


『ここは、X・Roadの旧・社員寮なのです。新しい社員寮が出来たので、古いほうは天木学園に提供されているのですよ』


「ん?なんでX・Roadの名前が出てくるんだ?」


『天木学園はXクロス・Roadの出資で設立された高校だからなのです。他にも学校内はX・Road製の最新設備が備わってるのです。…………一応、学校紹介のパンフレットにも載ってたのですよ?』


 若干、呆れたような目でリュウセイを見るエト。

 彼は目を逸らして、誤魔化すように話を逸らす。


「――――まあ、それはいいとして。のことを考えようか」


『誤魔化したのです…………いいですけど。では、現状の確認から―――ん?エトに電話が来たのです』


「エトに電話?だれからだ?」


リュウセイは特に気にすることもなくエトに尋ねた。

この一本の通話が彼の今後を決めるとも知らず。




『キリお姉さまからなのです』




いつも通りに答えるエトは事態の深刻さを理解していなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る