第二章 瞬く流星は絶望の夜を駆ける
第28話 存在意義なのです
◆◇
『貴方は【――――】が見えているのですか?』
『貴方は【――――】の手を取ってくれるのですか?』
『【――――】の存在意義になってくれるのですか?』
『【――――】はなんのために存在しているのか分からないのです』
『【――――】は理由が欲しいのです。ここにいていい理由を』
『もし、【――――】が選んでいいのなら――――――…………
『貴方は【――――】の
◆◇
「――――……ト」
【――――】の意識が揺蕩うなか。
誰かが彼女を呼ぶ声がする。
「――……い。エ……てるか?」
【エ――】はその声に応えなければ、と思い意識を急浮上させる。
スリープモードを解除した彼女が目にしたのは――――
「おーい、エト。電源落ちたのかー?」
彼女がが仕えるべきマスターと――――
『テメェッ!コラッ、【リュート】!よそ見とはずいぶん余裕だな?アァン?』
『いまだ!ヤれー!!ヤっちまえ!!!』
『その余裕こいた態度に一発ぶちかましてやれーー!!!』
『エトちゃん侍らして、うらやましんだよッ!!この野郎がッ!!!』
『おねむのエトちゃんかわいいよー!』
殺気立つ試合相手とその観戦客。
エトのコネで借りた対戦用の【バトルルーム】内に怒号と野次が飛び交う。
その姿はうっすらと透けている。
実際にそこにいるわけではなく、施設の設備で映し出された仮想映像だ。
その人たちは別の施設で対戦に参加・観戦している。
それを、近未来服の仮想映像をその身に重ねたリュウセイが相手をしていた。
いま行われているのは【ランク戦】ではない。
ランクポイントの増減しない気軽にできるバトル、【カジュアル戦】。
彼は、あの日からずっとこの【カジュアル戦】をしている。
ただひとつの目的のために。
『ごめんなさいなのです。長時間の稼働でドローンのバッテリー残量が心許ないのです』
「ああ。もうそんなに時間が経ったのか。時間の流れってはやいなー」
『いくら春休みだからといって、八時間ぶっ通しでゲームは不健康なのですよ』
「わるい、わるい。これが終わったら休憩にするからさ。」
『終わりじゃなくて、休憩ですか…………寮の門限までには戻るのですよ?そこからが大事なのですから』
「そうだったな――――」
『なに対戦中にエトちゃんとおしゃべりしてんだ、このヤロウ!!そんで、なんでアバター操作が乱れねえんだよ!?』
そう、リュウセイこと【リュート】は話しながらアバターを操っていた。
相手の猛攻を軽くさばく。
危なげない試合運びにエトは安心して観ていられる。
「うーん?直感で、なんとなく?」
『ランク上位帯のバケモンみたいなこと言いやがってッ!!』
「――――で、これで終わりッと」
『があああああああッ!!普段のステとスキルがあればああああ!!!』
そう捨て台詞を残して対戦相手の映像が消えた。
リュウセイは休憩するために対戦終了を選んで、施設から出る。
「なあ、エト。やっぱりこのルールって卑怯なのか?」
『そんなことないのです。ルールに同意して挑戦してきてるのですから、あれは負け惜しみなのです』
さっきまでやっていたのは、【リュート】のランクに合わせた試合。
スキルやステータスに差がほとんどない、プレイヤースキルが試される場だ。
「じゃあ、いいか。――――それに【本番】でも、このルールでいくから気にしてもしょうがないしな。まだ、あっちは時間がかかりそうなのか?」
『ですね。壮絶な席の取り合いが起きてるのです。まあ、シーズンごとの恒例行事なのです』
「どのくらいかかるかな?」
『エトの予想では学校が始まる前には、あちらはトップの地位を盤石にすると思うので本番はそれからですね』
「さすがトップ・プレイヤー。なら、今のオレにできることは――――」
『はい。ランクを上げずに牙を研ぐ。遥か高みにいるあの人に届かせるように』
「だな。じゃあ休憩が終わったらギリギリまでやるか。そんで――――」
リュウセイは楽しみを抑えきれない顔で言う。
「本番までに【魔王】に勝てるように鍛えないとな」
【神星領域:ロスト・フォークロア】のトッププレイヤーに宣戦布告した日。
リュウセイはその日から【ルーキー】のまま対戦をして戦闘技術を磨いてきた。
なぜ、ランクを上げないのか?
なぜ、すぐに【魔王】と戦わないのか?
いま、【魔王】はどうしているのか?
その答えは、四月一日まで時間を遡る――――
―――――――――――――――――――――――――――――
2章開幕。
プロローグは短めにしてます。
日曜日までは連続投稿。
それ以降は2日に1回のペースで投稿していきます。
2章からも本作をよろしくお願いします。
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