第27話 チュートリアル終了。そして、宣戦布告なのです!
9/26改稿済み
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リュウセイたちは
「遅くなったなー。ミズキ怒ってるかな?仲間ハズレにしたーって」
『メッセージが十件ありますが見ます?』
「…………やめとく、帰ったら謝ろう」
『マナおばあちゃんからも来てるのです。『初日からはっちゃけすぎだ』ってきてますね。どうやら配信を見てたっぽいのです』
「なぜばれた?」
『エトが横にいたら特定されて当たり前なのです』
エトに呆れられた目で見られるリュウセイ。
「ばあちゃん、今までああいう配信を見なかったのに…………」
『マスターが何かやらかさないか、アンテナを張ってたのかもしれないですね。派手に活躍したから見つけるのも簡単なのです』
「活躍か…………【真伝】スキルがあったから、なんとかなったな」
『そうですね。そういえば、いまネットでは【心願:星墜とし・真伝】の話題で持ちきりなのです。ハッタリじゃなくて本当に存在するスキルなのか?と。実在するならどんな効果があるのか、過去のスキルデータを参照して調べてるみたいです』
「調べても分からないだろ?【真伝】ですら未知の情報で、オレたちもよく分かってないし、その追加効果も…………」
思い返されるのはアリスレイタとの最後の攻防。
三連続星墜としを成功させたのはまぐれではない。
通常とは違う【真伝】による追加効果。
その追加効果とは――――
『【運命操作】――――因果をわずかに捻じ曲げて望む未来を得る。実際にやってることは【必中】の上位互換なのです。データーベースにはない新発見の効果ですね。調べても正解にはたどり着けないのです』
狙った場所に必ず当てることが出来る効果。
なお、移動不可、毎秒0.5%のスリップダメージ、使用後の硬直が三十秒とデメリットも大きく、気軽に使えるものではない。
『元々、【星墜とし】はこの効果ありきのスキルなのかもしれませんね』
「だな。――――にしてもな~…………」
「どうしたのです?」
「あれしか勝つ方法がないとはいえ、未知のスキルで勝つのはなんかズルした気分になる」
『ん~?別に気にすることはないと思うのですよ?』
「なんでだ?」
『未知のスキルなんて毎月なにかしら見つかってるのです。公式の発表では実装されてるスキルはまだ三分の一も見つかってない、と言ってますね』
「マジでそんなにあんの?いま確認されてるスキルが千以上あるのに?」
エトは首肯して答える。
ゲームがサービス開始を始めて三年半ほど。
その間、たくさんのプレイヤーたちが活動をしている。
たくさんの未知を発見して、たくさんの謎を解き、たくさんの未開を踏破した。
だけど――――それでも足りないほど【神星領域:ロスト・フォークロア】の世界は広く奥深いとエトは言う。
『一シーズンごとに追加要素もありますから、発見が追いつかないのですよ』
「はぁ~。なんというか…………制作側、気合がはいってるな」
『そうですね。執念を感じるほどです』
その後も、他愛のない会話を続けながら家を目指すリュウセイたち。
「まあ、今日は色々あったけど楽しかったなー。アメノハラに来て、まだ一日目なんて信じられないよな。さすが最先端の【仮想都市】!イベントがいっぱいだ」
『…………この街がどうというわけではなく、マスターの行動が……いえ、なんでもありません。――――そういえば、ひとつだけ聞きたいことがあったのです』
「ん?なんだ?」
『配信でリュートを名乗ってましたが、あれはなんの意味が込められてるのです?楽器のことではないのですよね?』
それは少し気になったという程度の質問だった。
リュウセイも特に深く考えず、ただの思い付きでつけた名前だ。
だけど、それがのちに深い意味を持つ。
そんなことは知る由もなく、【物語】は進行していく。
「ん~?適当にRYUSEIとETOの文字を組み合わせてRYUTOってつけた。これから一緒に頑張るから、エトの名前を入れたかったしな」
『――――エトの名前を入れてくれるのですか?』
「なんだその意外そうな顔は。オレはどんだけ冷たいヤツだと思われてんだ」
『違うのです。そうではないのです。そうではなくて――――』
「アリスレイタとの戦いも、オレひとりじゃあ勝てなかった。エトがいてくれたから勝てたんだ。だったら、ふたりいれば敵なしだな。だから――――」
リュウセイは自分の相棒に笑みを浮かべながら告げる。
――――これから続く契約の言葉を。
「リュウセイとエト。併せてリュートで一緒にテッペンを目指そう」
その言葉にエトのホログラムで映された瞳から涙がこぼれる。
それにリュウセイは慌てる。
「どうしたエト!?嫌だったのか!?もしかして、エトの名前を勝手に使っちゃいけない規則でもあったのか!?」
『いいえ、いいえ――――うれしいのです。分からないけど、うれしいのです』
「分からないけど、うれしい?」
『認められてうれしい?役割を持ててうれしい?存在意義が出来てうれしい?わからないのです…………なんでかわからないのにうれしいのです…………うぅ』
まるで人のように感情的に涙を流す
いつもの元気な姿はそこにはなく、その瞳からはボロボロと涙がこぼれる。
失ったはずのものにまた出会えた喜びだと気づかずに。
この時、リュウセイは目の前のエトが作り物の存在とは思えなかった。
それだけ、その表情からは人間らしさがあった。
『……ぐす……エトは、エトが他の
「エト…………」
『ならこの気持ちはバグなのですか?エトには欠陥があるのですか?もうマスターのお役には立てないのですか?重大なエラーがあるエトは処分されるべき――――』
「エトッ!」
リュウセイの怒声にエトは肩を震わせ驚く。
正体不明の感情に振り回されて、AIらしからぬ姿を見せるエト。
その姿は、帰る場所を見失った迷子のようだった。
リュウセイはそんなエトを慰めようと頭をなでようとするが、途中で手が止まる。
忘れそうになるが、彼女はホログラムで映された存在。触れることは出来ない。
それならば、と彼女の目線に合わせる。
そして、言葉を尽くすことを決めた。
エトの【心】に届くようにと。
「エトのその気持ちはバグじゃない。他にない唯一無二の大事なものだ」
『…………はい』
「エトに欠陥なんてあるもんか。ポンコツなところはあるが、それは大事なお前の個性だ」
『…………は、い』
「オレはいつもエトに助けられてる。褒めるのは照れるが、いつも感謝してる」
『マ、スター…………!』
「処分されるべきなんて言うな。エトがおかしくなったとしても、オレは絶対にお前を見捨てる気はないからな」
『は、い……でも、エトは他とはちが――――』
「他のAIなんかと比べるな。お前は――――そこらへんのAIとは一線を画す、超高性能な最新型のサポートAIの【エト】だろ?」
『その言葉…………覚えていたのですか?』
「お前との出会いはインパクトが大きすぎて忘れられねーよ」
『そこらへんのAIとは一線を画す』
それはエトと初めて会った日にエトが言った言葉。
「だからさ――――いつも通りの自信満々なエトに戻れ。そうじゃないと、こっちの調子がくるうよ」
優しく告げられたその言葉にエトは顔を伏せ、体を震わせる。
『――――エトは馬鹿なのです。マスターに心配かけてサポートAI失格なのです』
「だな」
『エトは間違ってました。有象無象を気にする前にやるべきことがあるのに』
「ん?」
『エトには覚悟が足りてませんでしたッ!
「んん?」
顔を上げたエトはもう泣いていなかった。
その代わり、瞳には決意の色が宿っていて、星のように輝いていた。
そして、さっきまでの感情がグチャグチャだったせいか――――
どこか暴走気味だった。
エトの感情の昂ぶりに呼応するかのように周りの仮想世界に変化が現れる。
周囲の仮想世界は煌めく星の輝きを灯して、それはどんどん広がっていき。
アメノハラ市全域を覆い尽くしていく。
その光景はアメノハラ市にいるすべての人が見ることになる。
『
「……………………は?」
あまりの出来事にリュウセイは思考停止していた。
◆
【X・Road社内・某所】
「キリさん、キリさん!!まずいですよ!あの子がリミッター振り切って、アメノハラ・ネットワークを乗っ取りました!?」
「おー。やっぱ、エッちゃんはすげーな。さすが【星の子】」
「何のんきなこと言ってるのですか!?各種インフラの危機ですよ!?」
「大丈夫だって、エッちゃんは悪さなんかしねーよ。それより、なんでこんな事態になったんだ。シバちゃん?」
「…………分からないですよ。そもそも、こんなことはもう出来ないはずなのに」
「エッちゃんが選んだ少年もただの一般人だろ?だから、安心して送り出したんだけどなー――――ヤるか?」
「野蛮な思考はやめてください。、平和に暮らしたいならそんな思考は捨ててください。それにあの子が悲しみます」
「それは困るな。――――ところで、干渉域がアメノハラ市全域に広がってるけど、エッちゃんはなにをするんだろうな?」
「それは――――は?」
「最強への宣戦布告か…………エッちゃん、いつのまにか好戦的になったなあ」
【神星領域:ロスト・フォークロア】のメッセージ機能に届いた映像を見ながらそう呟いた。
◆
【大型のレンタルスタジオ内】
「姐さん。なんか、いま光るノイズみたいなのが入りませんでした?」
「ええ。施設の設備になにか障害が出たのかしら?アリスレイタちゃんわかる?」
「ぐす…………管理AIに確認してみま――――え?」
「ん?こんな時間にゲームメッセージ届いているな」
「私にも来てるわ。内容は――――あらあら、大変なことになるわね。コレ」
「な、な、な、な――――」
「なにやってんだ、一条!?プレイヤ―の大半を敵に回すぞ!?姐さんも笑ってる場合じゃないですよ!?」
「くふふふ――――だって、こんな大々的な挑発、プロ時代含めて初めて見たもの。ここまでされたらあの子も挑戦を受けないわけにはいかないわね。それが初心者相手でも」
「なんで、さっそくピンチに飛び込んでんのーーーーー!?!?!?」
アリスレイタの叫びがレンタルスタジオ内に響いていく。
【アメノハラ市・中央
つまらない。
「まっ…………ちょ、待ってッ!!!」
つまらない
「降参ッつ!!!降参するか……ガッ!!!」
つまらないよ
「流石です、夕闇咲さん!一対五でも敵なしなんて!!」
対戦相手も、纏わりついてくる人も、なにもかもがつまらないよ。
白黒で長い髪をした少女は心の中でつぶやいていた。
作業のような戦闘が終わり、さっさと帰路につこうとしていた、その時。
周囲の仮想世界に、煌めくようなノイズが走る。
そして、耳につけた【ニューロアーク】からアメノハラ市全域にいる【ロスト・フォークロア】のプレイヤーに映像付きのメッセージが送られてきた。
それは――――
近未来的な黒い服と、顔の上半分を隠すマスクをつけた男からの宣戦布告だった。
それは、【リュート】と名乗る男が、現・NO1プレイヤーの少女に挑戦状を叩きつけるような内容。
それだけなら、少女にとっては日常茶飯事でとるに足りないことだ。
無視すればいい。
ただ、メッセージの最後の言葉だけは聞き逃せなかった。
『逃げたければ、逃げればいい。貴方からは誰も逃げれないけど――――』
一拍おいて。
『【魔王】が逃げちゃいけないとは誰も言わない。なあ?夕闇咲 ライラ?』
【魔王】と呼ばれる現・NO1プレイヤーの少女――――夕闇咲 ライラ。
そう呼ばれることを嫌う彼女は売られたケンカを買うことにした。
彼女は煽り耐性がとても低いのだ。
◆
夜の街をふたつの影が走り抜けていく。
人目を避けて。
「エト!?エトさん!?なにやってくれてんの!?!?」
『チュートリアルが終了したので、テッペンに宣戦布告をしたのです』
「上を狙おうって言ったのはオレだけど、普通段階踏むよな!?なんでいきなりトップなんだよ!?しかも、映像のヤツ誰?オレ、あんなこと言った記憶ないんだけど!?」
『映像はアリスレイタさん戦の映像と普段の音声をサンプリングして捏造しました。トップを狙うのは、マスターなら出来ると判断したのです』
「ツッコミどこが多いけど、とりあえず言わせてくれ――――なに言ってんだ!?」
『大丈夫なのです!マスターなら――――マスターとエトのふたりなら向かうところ敵なしなのです!』
エトは輝くような笑顔でそう言った。
そこにもう迷いはない。
そう言われたら、もう何も言えないリュウセイは諦めたように笑う。
「――――それで、勝てる策はあるのか?」
『もちろんなのです!!エトにお任せください!実は――――』
満天の星空の下。
星の光が、楽しそうに語るふたりのゆく道を照らしていた。
――――二章に続く――――
―――――――――――――――――――――――――――――
一章はこれにて終了です。
二章は一章の改稿が終わってから取り掛かります。
遅くても9月中には終わらせるので、どうかフォローを外さずに頂ければ幸いです。
詳しくは、近況ノートに書いてるので気になる方はそちらを見てください。
追記
もしかしたら、二章のまえに閑話とかをはさむ可能性アリ。
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