第26話 万感の想いをこめて
絶体絶命の状況から劇的な大逆転。
リュウセイとアリスレイタの激闘を見守っていた
▼
:うおおおおおおおお!!とんでもないジャイアントキリングだあああ!!
:勝つなんて絶対無理って言ってたやつ誰だよ!!俺だよ!!!
:すげええええ!?この戦力差で勝つなんて前人未踏じゃないか!?
:初だよ初!このゲームに新しい伝説が生まれたぞ!
:定期的にすげえプレイヤーが出るから初心者の試合を見るのがやめれない!
:なんで駄メテオが三連続当たんの!?デレた?駄メテオがデレた??
:なんか狙ったって言ってたけどそんなこと出来るの!?
:無理だろ!駄メテオはそんな仕様になってないよ!
:シンデンとか言ってたけどなにか関係がある?
:そんなことはどうでもいい!!とりあえず今は祝おう!!!
:アリスレイタの本気の顔もかっこよかったよーー!
激闘を制した勝者を祝うたくさんのコメントが流れていく。
それ見ていたリュウセイは――――
「…………」
無言で開いた手を掴むように握る。
いつか願った、星のように遠い場所に一歩でも近づけた気がしたから。
まだスタート地点に立てただけかもしれない。
それでも、リュウセイにとっては大きな一歩だった。
感慨にひたる彼にアリスレイタは声を掛ける。
「君は本当にすごいね。悔いが残らない良い勝負だったよ」
「いや……そんなくやしそうな顔で言われてもな」
「そこ指摘する?空気読んでスルーしてよ」
「空気を読めるヤツはこんな
「フフッ、たしかに」
アリスレイタは自然と笑みがこぼれる。
もう以前までの塗り固めたような笑顔はもうそこにはなかった。
それを見たリュウセイは勝ち誇ったように笑う。
「…………なによ。その顔は」
「やっと、楽しそうに笑ったな。って思って」
「……あ」
指摘されるまで気づかなかった変化。
いつのまにか心が軽くなっている。
楽しさを見失っていた彼女は、再びそれに出会えていた。
「楽しめてなによりだ。これで目的も達成で完全勝利だ。それに――――」
「それに?」
「アリスレイタは自然に笑ってるほうが似合うな」
「~~ッ!?」
リュウセイは特に他意もなくその言葉を口にした。けど――――
まるで口説き文句のようなそれに、彼女は顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。
だが、何も言えない。言葉が出てこない。
今まで感じたことのない気持ちが胸の奥からあふれてくる。
でも、言葉にする前にエトが口を挟む。
『マスター、派手さんを口説いてるとこ申し訳ないのですが、配信はまだ続いてるのですよ?リスナーさんたちがバッチリ見てるのです』
「ッ!?!?!?!?」
「人聞きの悪いこと言うな。どこが口説いてるように見えんだよ」
▼
:いや口説いてましたよね?
:なにを言ってるんだお前は?
:鈍感系主人公ですか?
:これで口説いてないって無理があるでしょ
:マスターさんって声がかなり若そうに聞こえるけど、もしかして本当に若い?
:あー、恋愛より遊びが大事って年頃か?
:おいやめろ。詮索すると大企業に消されるぞ
「は?おまえら、なに言って――――」
「ハイ!企画を見事にクリアしたリュート君にみんな拍手―それとコラボしてくれた【エト・チャンネル】様にも感謝をーってことで今日のご視聴ありがとうございましたー高評価・チャンネル登録よろしくねバイバイ!――――ふ~っ」
『おー。息継ぎなしの早口で言い切ったのです』
パチパチと拍手をするエト。
アリスレイタは恥ずかしさのあまり配信をブチ切りにした。
最後にリスナーが残した『ちょッ!?逃げんな!』というコメントが流れ、配信は終了した。
「あ~、アリスレイタ?一応言っとくけど、口説いてないからな?」
少し気まずそうなリュウセイが、言いづらい感じで話す。
その手の話に疎くて、どうしたらいいのか分からない様子だ。
そんな落ち着きのない五歳も年下の少年を見て、アリスレイタは息を吐き心を落ち着ける。
「分かってるよ。あんなのはリスナーの悪ノリだから気にしなくていいから」
「あー、あれがネット特有の悪ノリか。人をからかってタチ悪いな」
「そうね~。(タチが悪いって意味じゃあ、ある意味で君もそうだけど。ボソッ)」
『マスターは人生経験が足りてないのです』
「エト?なぜ、いきなりディスった?」
『これはマスターが悪いので、自分の胸に聞いてみるといいのです』
エトに諭されて困惑するリュウセイ。
自分の胸に手を当てて、首をかしげている。
この様子を見ると、何が悪かったか気づくのは無理そうだ。
そんなやりとりをしていると再びスタジオの管理AIが来客の知らせを伝えてきた。
「また参加者?さすがにもう疲れたから帰って――――いえ、お通しして」
「新しい参加者か?もう配信が終わったのに?」
「いや、参加者じゃなくて…………その……」
来訪者の姿を見て意見を変えたアリスレイタ。
その様子は、どこか落ち着きがなさそうで、緊張しているようにも見える。
そして、来訪者が入り口から入ってきたときリュウセイは驚く。
「メリーさんと武藤さん!?」
「リュウセイ君、こんばんは。四時間ぶりくらいかな?」
「おう、一条。さっきの勝負すごかったな。感動した」
「なんでふたりが?もしかして――――」
視線をアリスレイタに移す。
彼女は顔を俯き、体が震えている。
ふたりに迷惑をかけたことを謝らないと。
思ってもいない暴言を浴びせたことを謝らないと。
「あ…………あ、の…………」
そう思っているのに言葉が出ない。
彼女は謝罪しても拒絶されるのが怖くて。
頭が真っ白になり、何をしていいのかが分からなくなっていた。
不意に、アリスレイタはメリーに抱きしめられた。
それはとても暖かくて、優しい抱擁だった。
「わかってる。アリスレイタちゃんが頑張っていたのは、配信を見てわかってるから。みんなの期待に押しつぶされちゃったのよね?気づいてあげられなくてごめんね」
「ッ!?ちが、悪いのはわた――――」
「いままでのことが不本意ってことはもう分かった。だから、もう気にすんな。こっちも気にしねぇからよ。あと、色々言って悪かったな」
「な……んで、そっちが謝……るの?謝らないといけないのは――――」
メリィとイツワの暖かい言葉にアリスレイタは目の奥が熱くなっていく。
そして、ずっと言いたかった言葉と共にあふれ出した。
「ご……めん、なさい、ごめんなさいッ。ひどいこと言ってごめんなさいッ、たくさん迷惑をかけてごめんなさいッ、
メリーは胸元で嗚咽をあげて泣くアリスレイタを、黙って優しく頭をなでる。
それを見ていたリュウセイは、この場の邪魔をしないように帰ることにした。
「じゃあ、そろそろオレはお
そう言って【ニューロアーク】を操作して、フレンド申請を送る。
アリスレイタはすぐにそれを許可して、万感の想いをこめてお礼を言った
「…………ぐすっ……ありがとう。どれだけ感謝してもしきれないよ…………だから…………もし君が困ったことがあったら、今度は私が助けになるから。どれだけピンチでも駆けつけるからッ」
息を深く吸い込んで
「ほんとうにありがとうッ!絶対に今日のことは忘れないからッ!また会おう!」
再会を願い笑顔で送り出す。
その涙の跡がついた顔はとても晴れやかなものだった。
「おう!またな!」
『皆さん、バイバイなのです』
リュウセイとエトは手を振って、その場を後にした。
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