第25話 星に願いを
【
対する銀装のアバターは、雷撃による一撃死は避けたが被弾は免れず。
全身に痛手を負い左手欠損・麻痺の状態異常をくらい倒れて、満身創痍。
加えて【
対する銀装のアバターは、二丁あるうち一丁の銃を取り落とし、火力は半減。
誰が見てもこれから起こる結果は明らかで語るまでもない。
そんな空気が辺りに蔓延していた。
だが、
なぜなら
この絶望的な状況を逆転させるただひとつの方法を。
「もうオレが負けたと思ってるヤツよく見とけッ!」
計画通りに進んだことでテンションが上がりまくったリュウセイが言い放つ。
「細工は流々ッ!仕上げを御覧じろってなッ!!」
これから起こることを刮目して見ろ、と。
【
再補充の暇は与えていない。
切り札を撃った【女王】は沈黙した。
でも、すぐに動き出すだろう。
だが、関係ない。
【雷蟲】も【女王】も活動できない、わずかな空白の時間。
発動時に隙が出来るスキルを展開するには十分すぎる。
状況は整った。
なら後は行動に移すのみ。
ボロボロになった銀装アバターが麻痺の状態異常が抜け立ち上がった。
それから天に右手を掲げ、その手を開く。
まるで届かないものに手を伸ばすように。
これから唱えるは、このゲームにおいて必殺のスキル。
全てをひっくり返す可能性を秘めたそのスキルの名は――――
「【いま願うッ、星にッ!!【伝承顕現】ッ!!!】」
その起動
不気味な仮想世界の天井に
満天の星が輝く夜空が広がっていた。
アリスレイタとリスナーたちはそのキレイな夜空を仰ぎ見た。
そして、これから起こることを予想して戦慄する。
数多の敵を屠り、数多の使用者の命を奪ってきたそのスキルを想像して。
「【心願:星墜とし――――真伝ッ!!!】」
ただ、想像とは違い、聞き慣れない単語が混ざっていた
◆
【心願:星墜とし】
それは【星詠み】が星に還った仲間たちにもう一度会うために創りあげたスキル。
字面だけ見れば感動的な話だが、実際やってることは――――
『流れ星にならないと地上に魂が戻ってこない?じゃあさっさと墜として生れ変わらせよう。ついでに敵にぶつければお得だな!』
――――という情緒もへったくれもない考えで行われており。
製作者の性格を体現するような雑なスキルとなっている。
それはゲームの【伝承顕現】スキルにおいても影響が出ていて――――
・星が墜ちてくる場所は完全にランダム。
・敵に落ちる場合もあれば、何もない場所に墜ちる場合もある。
・なぜか使用者に墜ちてくるケースが多い。
・SPを使いきるまで止まらないので、高確率で使用者に当たり戦闘不能になる。
――――などデメリットが多いスキルとして有名だ。
G級という枠では最大級の火力を持っているが、デメリットがひどすぎてジョークスキル扱いになっている。
ついた通り名が――――
「駄メテオ…………」
アリスレイタは仮想の夜空を見ながら呟いた。
そして、刹那の時間でこれからの行動を考える。
(落ち着いて!たしかにあのスキルは威力が脅威。でも、当たる確率は低い!)
彼女は焦った様子で【女王】を操作しようとする。だが、まだ動かない。
(それに直撃はまずくても、防げば一回は耐えれる。ならッ――――!)
ピクッ。
【女王】が少し動いた。
(駄メテオが外れたのを確認してすぐに【雷蟲】を呼び出せば、無防備なリュウセイくんのアバターを討ち取れる!)
ぐぐっと巨躯が震えるように動き――――咆哮した。
『キィエエエエエエエエエエッ――――――――!!!』
「全力を出して君に勝つッ!!どこからでも来い!!!」
彼女はすっかり配信でのキャラを被るのを忘れている。
久しぶりの、なにも思惑が絡んでいない戦闘が楽しくて。
危機的場面に直面しているのに、彼女の顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた。
「良い啖呵だ、アリスレイタ!じゃあ、まず一発目ッ!!!」
『ドーン!』
エトの掛け声とともに夜空の星が瞬き、一瞬で墜ちてくる。
向かう先は――――
「一発目から!?防げ、【女王】!!!」
質量と加速エネルギーを混ぜ合わせて大きな破壊エネルギーを生み出す凶星。
迷うことなく【女王】の直撃コースに乗った。
【女王】は背中の腕を折り重ねて凶星からの衝撃に備える。
着弾――――いま。
仮想世界で硬質なもの同士がぶつかり、膨大な破壊エネルギーがまき散らされる。
その影響でボロボロだった部屋がさらにボロボロに破壊されていく。
轟音が響き渡り、埃が舞い、【女王】の姿を隠す。
埃が落ち着き、見えたその姿は――――
八本中六本、背中の腕が消し飛んだ【女王】だった。
腕は減ったが、いまだ健在なその姿にアリスレイタは安堵の息を吐いた。
「初手直撃はびっくりしたけど、さすがにもう――――」
「さあ、間断なく行くぞッ!!二発目ッ!!!」
『ドドーン!』
次発が準備できたリュウセイの声で彼女の声はかき消された。
彼女は考えるより先にアバター操作をして【眷属産生★2】を発動させる。
もし次、直撃コースに乗った時に守る盾がないから。
再びエトの掛け声とともに夜空の星が瞬き、墜ちてくる。
それもまた直撃コースに乗っている。
「また!?くッ!【雷蟲】――――間に合わない!?」
孵化までわずかに時間がかかる【雷蟲】は間に合わない。
ならば――――
『マスター!?【女王】が卵を残った腕で刺し貫いて盾にしたのです!?』
「うわーえぐい、悪役っぽい…………」
「うっさい、そこ!これしか手がない――――」
そして再び襲い掛かる衝撃。
二度目の轟音と衝撃波が周囲を蹂躙して、砕け散った卵の破片が宙に舞う。
【女王】は今回は健在とはいかず。
盾を貫通した凶星が、残った腕と下半身の半分をえぐり取っていた。
「ガッ!?」
二回連続の着弾。
【女王】と感覚を共有しているアリスレイタにも衝撃が伝わる。
だが、それよりも衝撃的な事を聞くことになる。
『マスター。次でSPが尽きます。狙いを外さないで下さいね!』
「さすがに止まってる的は外さねーよ!」
狙ってやっている。
それは、このスキルを知っている者にとってはありえない話だ。
ハッタリだ。そんな効果はない!などのコメントがたくさん流れていく。
だけど、アリスレイタはそれが真実だと気付いてしまう。
リュウセイの目を見たから。
それは自分の言動を疑っていない、まっすぐな目をしていた。
このままでは負けてしまう…………
アリスレイタはそう思ってしまい――――
「そんな、さびしそうな顔すんな。アリスレイタ」
銀装の
「今日はこれで終わりだけど――――」
天の煌々たる星を掴むように。
「また一緒に遊べばいいだけだろ!!!」
そして――――振り下ろす。最後の一撃を。
その動きに合わせて夜空に変化が起こる。
満天の夜空にひと際煌めく凶星が地上を目指して墜ちていく。
流れる星は光の尾を引き、夜空を切り裂く一条の線となる。
その軌道に迷いはなく。まっすぐ向かい――――
「そうだね。また遊ぼう――――」
柔らかく笑うアリスレイタは目撃した。
【神星領域:ロスト・フォークロア】の伝説に新たな一ページが増えたのを。
最弱だと思われた少年が強大な敵を倒す。
そんな英雄譚みたいな出来事を。
流星に貫かれた【
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