第24話 はじめてのボス戦
【E級伝承顕現】・【
それは【ロスト・フォークロア】内で伝承として語られる災厄の化身。
最先端の映像技術で再現されたその姿はあまりにもリアル。
仮想映像だと分かっているのに一目で逃げたくなるほどの存在感を放っていた。
水底に沈む
各所に生えた棘からは危険な音を鳴らしながら放電を繰り返す。
上半身は女性のカタチに蟲の特徴を持つ異形のヒト型。
下半身に足は無く、そのほとんどは腹部で地面と同化するように張り付く。
その体躯は巨大で、下半身がその巨躯の大部分を占めている。
そして、上半身のヒト型の背中には八本の甲殻を纏った細く、長い腕が生えて。
その腕の先は、触れれば切断されるほど鋭く尖っていた。
【
間違っても始めたばかりの初心者が挑んでいい相手ではない。
挑んでいい相手ではないが――――
「すげえ!はやくやろう!!アリスレイタ!!」
相対するリュウセイは、気持ちを昂らせながら幼子のような笑みを浮かべていた。
早く勝負を!と急かす少年にアリスレイタは呆れた顔で返事をする。
「一般的な初心者は~、これを見ただけで怯えて腰を抜かすのだけど~…………君は一般的な初心者ではないよね~まあ――――」
一般的に考えれば初心者が【絶禍雷蟲ノ女王】に勝てるわけがない。
それは当たり前で、触れることすら難しい。
この絶望的な戦力差で勝つなんて
でも――――もしも、それを成し遂げるなら――――
「はやくやりたいのはこっちも同じだから~――――」
【ロスト・フォークロア】のゲーム史に新たな伝説が誕生するのかもしれない。
「どっからでもかかってきていいよ?」
アリスレイタ心のどこかでそれを期待していた。
◆
リュウセイは挨拶代わりに【女王】の頭部を狙う。
銀装アバターを操作して両手に持つ銃の弾倉を空にする勢いでエネルギー弾を撃ち放つ。
全弾命中。
だが――――
「さすがに、このランクの【女王】にそんな豆鉄砲効かないよ?」
なにも痛痒を感じていない【女王】がそこに佇んでいた。
「まあ、だろうな。――――でも、このゲームにダメージ0はありえない。1でもダメージが通ればいつかは倒せるだろ」
「そうだね~。それができればね?無抵抗でいると思う?」
「思わないなー」
「だよね~。じゃあ、次はこっちの番――――限定スキル【眷属産生★2】」
限定スキル――――特定の条件下でのみ使えるスキル。
今回は【伝承顕現】で【女王】に変化したことで使用が可能になっている。
そのスキルを口にすると同時に【女王】の周囲に三つの卵が現れる。
それは即時に孵化して中から、上半身が蟲、下半身がヒトの【女王】とは逆の存在【雷蟲】が生まれた。
「いくよ~【女王】。続けて限定スキル【統率(王)★2】。――――雷蟲、GO!」
『キイイアアアアアアアアァァッ――――――――!!!』
『ガアアアァァッ!』
アリスレイタの指示で【女王】がスキルで眷属を強化。
スキルバフで体から赤いオーラが湧いた三体の【雷蟲】が突撃していく。
「エト、あいつの情報を頼む!」
『お任せください!』
自分の知識不足を理解しているからこそリュウセイの判断は早かった。
相手の情報が無ければ勝負にならない、と。
『【E級伝承:災禍の仔・雷蟲】、攻撃手段は上半身の蟲部分による噛みつきやひっかき。そして、背中の光る棘からの放電、放出前に音による予兆あり。その射程は2m。くらえば3秒間麻痺の状態異常をになります。見てからは避けれないので、予兆を聞き逃さないで下さい』
「サンキュ!よっ、はっ――――弱点は!あぶなッ!?」
エトの説明を聞きながらアバターを操作して敵の攻撃を避けるリュウセイ。
ところどころで危ない場面があり、合間に銃撃しているが効果はない。
『背中の光る棘です。ですが奴らは背中を見せようとしません。なので――――』
「背中を見せたくなるようにすればいいんだな!!」
囲まれないように立ち回りながら攻撃を避けていた銀装アバターが反撃に転じる。
【雷蟲】の上半身の甲殻は固く、銃弾は弾かれ明後日の方向に飛んでいく。
だが、下半身の守りは薄い。
だったら――――
「ふっ!」
息を吐き、リュウセイは考えを即座に実行する。
膝を一点集中で狙い、体勢を崩して転倒した【雷蟲】の背中に銃弾を叩き込む。
もちろん他の二体がその状況を黙って見過ごすわけがない。
その隙を狙って銀装アバターに放電の攻撃を加えようとバチバチと電気を貯めている。
だが――――
「聞こえてんだよッ!」
その攻撃をリュウセイはずっと警戒していた。
アバターを操作して紙一重で放電を躱して二体の間を通り抜ける。
すれ違いざまにガラ空きな背中にアクロバットな動きをしながら銃弾を撃ち込んむ。
だけど、スキルで生み出したものとはいえE級。
初期ステータスの攻撃で弱点を少し突いたぐらいでは消えたりしない。
でも、倒しきれなかったとはいえ一連の攻防は見応えがあり。
これを見ていたリスナーたちのコメントは盛り上がったいた。
▼
:おおおおおおおおおお!!
:なんだいまの動き!!【雷蟲】たちの攻撃をすれすれで躱してるぞ!?
:なんで二体同時に攻撃されてんのに被弾0なんだよ!?
:しかも返す刀で反撃した!なんかすごい動きをして!?
:そんなのアメコミのヒーロー映画でしか見たことねえぞ!?
:これ本当にエトちゃんがサポートしてるの知識だけ??
:かなり善戦してるけど、やっぱり火力が低いな…………
一部のリスナーが懸念しているように押し切るには火力不足。
アリスレイタも【雷蟲】に思考操作で指示を出して背中への攻撃を警戒させる。
このままでは【雷蟲】の突破は難しく【女王】の元へはたどり着けない。
それならば、とリュウセイは数少ない手札を切る決断をする。
「やってみるか!汎用スキル【必中?★1】発動ッ!!」
その効果で三体の【雷蟲】の背中にターゲットマークが表示される。
スキル効果は弱点部位に命中補正をかけるものだが――――
「リュウセイく~ん。そのスキルは命中力を上げるものだけど~ブーメラン軌道みたいに無茶な動きはしないから背中の弱点は狙えな――――って【必中?】?なんかスキルに疑問符が――――え?――――はあ!?」
アリスレイタはスキル名に違和感を覚えた。
しかし、直後に疑問と驚きで考えていたことが吹き飛んでしまう。
疑問に思ったのは、【雷蟲】から大きく外して何度も撃った事。
驚いたのは、撃った全ての銃弾が【女王】の背中に生える腕の甲殻に当たって反射し、【雷蟲】の背中に吸い込まれていった事。
予想外の一撃を弱点に受けた【雷蟲】は黒い煙となって消えた。
「なにその曲芸!?」
「おー、成功した。銃弾が当たった時に弾いてたからいけると思ったんだよな」
しゃべっている間にも銃撃は続いていき。
カン、カカカンと甲殻や室内オブジェクトに弾かれる音が連続していき――――
「はやいよ!?」
あっという間に、同じ方法で【雷蟲】は駆除されてしまう。
残るは【女王】だけ。
銀装アバターは【女王】の元に駆けていくが――――
「近くで改めて見ると、すごいでかいよなあ――――って、やば!!??」
地面に下半身が張り付いて不動だった【女王】が動き出す。
背中に生えた八本の先が鋭く尖った長い腕を銀装アバターに向けて――――
振り下ろす。
『キィエエエエエエエェェッ――――――――!』
ガガガガガガッとミシンのような音を響かせながらを腕を振り下ろす【女王】。
相手を射殺さんと追い詰めていくが銀装アバターはギリギリで避けていく。
だが、【女王】の攻撃手段はそれだけではない。
『マスター!?離れてください!!!』
「ッ!?」
エトの危険を知らせる声で即座にアバターを退避させる。
だが、間に合わない。
【女王】の巨躯から生えたいくつもの棘から危険な音が高まっていく。
それが最高潮に高まった時――――
「さすがに初見でこれは避けれないでしょ?」
アリスレイタが勝ち誇ったような笑みで告げ――――室内が閃光で真っ白になる。
室内を埋め尽くす放射状の紫電が周囲に広がって仮想世界を破壊していく。
ほぼ隙間なく放たれた雷撃だがリュウセイは無理に避けてHP全損だけは避けた。
だが、その代償は高く、銀装アバターはボロボロになっている。
銀色の外装は所々剥げて中身が見え、左腕は欠損して銃も取り落とした。
完全に満身創痍。
しかし、この一撃で消し飛ばなかっただけでも称賛に値するプレイヤースキルだ。
この勝負はまだ決着がついていない。
けど――――
「私の勝ちね!」
▼
:これはアリスレイタの勝ち確定だな。おめでとう!
:もしかしたら…………と思ったけど、当然の結果か。GG
:マスターさんは頑張ってたけど、もう手はないですね。ナイスゲームでした
:この戦力差はプロでもひっくり返せないもんな
:そもそも初期ステじゃあ【絶禍雷蟲ノ女王】を突破する火力が足りないしなぁ
:そんなことはないぞ!G級最大火力スキルなら可能性はある!
:うわ、こんなとこにもあのネタスキル信者が湧いてら
:可能性はあるって、そう言ってどれだけのプレイヤーが犠牲になったか……
アリスレイタもリスナーもここからほぼ逆転の目はないと確信していた。
『皆さん、もうマスターが負けたと思っているのですか?気が早すぎなのです』
それにエトは否と唱える。
『エトが【女王】の情報をマスターに伝えていないと思っているのですか?』
リュウセイは無策で【女王】に近づいたわけでは無い。
エトは彼に秘匿通話で情報を伝えていた。
【雷蟲】は倒しても補充されることを、接近されたらそれが出来ないことも。
切り札の雷撃を放った後、しばらく動けないことも。
『すべてはマスターの手の内です。アリスレイタさんのターンは終わりました』
そのエトの情報を基にリュウセイは勝つために計画立てた。
唯一の懸念である雷撃での一撃死はギリギリ回避して。
全ての条件はクリアし、理想の状況は整えられている。
ならば――――
『ここからは、ずっとマスターのターンなのです!』
エトは自分のマスターの勝利を確信していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます