第17話 初配信なのです!
9/25改稿済み
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【伝承顕現】スキルの試し撃ちを終えたリュウセイたちは帰路に就く。
強力なスキルを覚えたというのにその顔はあまり嬉しそうではない。
威力も派手さも申し分ない破格なスキルなのだが、それには問題があったからだ。
その問題とは――――
「――――代償がでかすぎるよなぁ…………」
「そうデスねー。デメリットが重すぎてソロじゃあ絶対使えないネ」
『でも、威力はG級の中ではダントツなのです。マスターが使うスキルは少し特別ですが、通常スキルのほうも人気でいろんな動画が――――いえ、違いますね。これはネットのおもちゃにされてるだけですね。ジョークスキル扱いなのです』
エトが空中に映し出した動画には、そのスキルを発動したアバターが爆散していた。動画のコメント欄には草が生い茂っている。
:知ってたwww
:芸術点が高いw
:なぜ、勝ち確の状態でそれを使ったw
:これランダムって嘘だよな?
:使い手に当たる確率高すぎだろwww
:さすが、最も使い手を56したスキルwww
:(使い手を)必殺スキルw
「散々な言われようだな」
『他にも、このスキルを使って【同時に撃ってより多く撃ったほうが勝ち!チキンレース】とか【君は何発まで撃てるか?運試し大会】というイベントを開催してるみたいなのです。別の意味で人気スキルみたいなのです』
「面白そうデス!でも、りゅーのスキルじゃあ出来ないのが残念」
「その残念って、オレが爆散しなくて残念って意味じゃないよな?にしても、なんでこんな扱いづらい効果になっているんだ?」
『星詠みさんが酔っ払った勢いで創ったスキルだからじゃないのです?』
「あー…………たしかに」
リュウセイたちはこのスキルができた経緯を知っていた。
【伝承顕現】スキルは【伝承石】と同じように習得時に物語を観ることができる。
今回習得したスキルの物語は、星詠みが亡くなった仲間を想い創りあげたスキルだ。(酒を飲みながら)
出来たスキルは「なぜそんな発想になった!?」という、とんでもないものである。
「まあ、こんな強力なもの使う機会なんてしばらくこないだろ」
「なんで、そんなフラグっぽいの建てるデスか…………」
そんなフラグを建築しているうちにリュウセイたちはミズキの家に着いた。
しばらくしてミズキの母が帰宅したが、父親のルークは遅くなるという。
なんでも会議中に対策しないといけない案件が増えたらしい。
近年、AIの発達で人材不足の解消。
作業の効率化が進み労働条件が改善されている。
しかし、簡単な作業ならAIにでも任せれるが、重要な案件だけは人の手でおこなわなければいけない。
滅多にないことだが、なぜか今日はお偉いさんから次から次に重要案件が回されてくる。今日中に帰宅が出来ないかもしれないから、新居のお祝い会は自分抜きでやってくれ。と言ったルークは苦渋の決断を下した顔をしていたらしい。
家主がいないお祝い会は気が引けたリュウセイ。
だが、準備した豪勢な食事が無駄になるとミズキに説得され、。
ルーク抜きで食事をいただくことになる。
その後、雑事を済ませたリュウセイは通された客間でくつろぐことにした。
◆
「そういえば、エト。【クロスライブ】の配信とかって結局どうするんだ?」
充電器の上でのんびりしているエトに声をかける。
それは少し気になったという程度の疑問だ。
さすがに本気ではないだろう。という、希望的観測があったからである。
だが、返された言葉は衝撃的なものだった。
『なにを言っているのです?もう始めているのですよ?』
「は?」
エトは、なぜ当然のことを聞くのか?とでも言うように小首をかしげた。
その衝撃が抜ける前にミズキが部屋にノックもせずに飛び込んでくる。
「りゅー!なんか【アメノハラ・トレンドワードランキング】一位がエトちゃんになってるですケド!?」
「はあっ!?」
リュウセイは慌てて【ニューロアーク】を操作して騒ぎの大本を調べた。
空中に【クロスライブ】の動画サイトを投影して、該当のチャンネル。
【ETOch.サポートAI―X・Road】に移動する。
そこでは祭りが開催されていた。
エトがリスナーの質問に答え。
その合間に歌ったり踊ったりのパフォーマンスを繰り広げている。
それを見て盛り上がるコメント欄。
その熱気はアイドルのコンサート会場のようだ。
そして、信じられないのが生配信を表すLIVEの文字。
「え、生配信中?エトがここにいるのに?なんで?」
『あれはエトの分け身なのです。あっちが分身でこっちが本体ですが』
「そんなことができるのデス!?」
『マスターをサポートしながら、バックグラウンドで作業するなんて楽勝なのです』
ふふん♪とドヤ顔をしながら胸を張るエト。
エト曰く、分け身に自我はなくあるのはガワの体だけ。
操作しているのは本体で、ゲームのキャラクターを動かしている感覚らしい。
仮想世界に住むAIだからこそできる芸当だと、エトは言う。
「正直、どこからツッコメばいいか分からないが…………これって、X・Roadが全面的に支援してないか?」
明らかに豪華すぎるステージにBGMなどを見て疑問が口から出た。
「おおー!さすがマスターなのです!実は――――」
エトは、なぜX・Roadが支援しているのか。
なぜこんな配信になったか。
その経緯を話していく。
配信を始めたのは、リュウセイたちが夜の住宅街を【探索】している時。
それまでは、エトの話題で盛り上がっていたSNSに、開設したばかりの【クロスライブ】にある自分のチャンネルに誘導する導線を作りあげていた。
最初はなりすましを疑われていたが、エトのAIとしての能力を披露することで信じてもらえた。と言う。
配信環境はどうしたのかというと、いまのVR環境があればマイクもカメラも必要もなく。
そこから直接配信が可能なので、無料のメタバースで簡素なワールドを使って配信しようとしたが、そこでX・Roadから支援の申し出があった。
なんでも、ウチのエトにそんな粗末な場所で配信させられない。
そうX・Roadの上から通達があり。
急遽、エト専用のメタバースに豪華なワールドが準備された。
配信が始まってからも支援は続き。
エトが必要だといえばそれを準備。
エトに不埒な感情を向けるものがいたらモデレータ権限でBAN。
まるで【お姫様】のような待遇を受けているらしい。
その様子を見ていたリスナーは大企業のX・Roadに目を付けられたくないので、大変お行儀よく視聴している。
「いや、なんで歌って踊ってるんだ?」
『それはリスナーさんが悪いのです。「いくら超高性能な最新型のAIでも歌とダンスはできないでしょ?」ってケンカを売ってきたので、『できるのですよ!』とそのケンカを買ってあげたのです』
ちなみに、曲の著作権は大丈夫だと。
会社の音楽関係の専用AIが即興で作ったものだから、と。
「煽り耐性が低すぎる…………それ文字通りリスナーに踊らされてんじゃねえか」
「というか、お父さんが帰ってこないのって、これ関係じゃあ…………」
『え、そうなのです?じゃあ、そろそろやめたほうがいいのです!』
エトが配信をやめるのを決めたと同時に画面のエトが終了の挨拶を始めた。
▼
『みなさーーん!
エトの終了の声に滝のように流れるコメント欄がさらに勢いを増す。
:ええーーーーーーー!?
:まだエトちゃんに質問したいことがあるのに!?
:まだそんなに時間は……え?もう二時間経ってる?
:ウソだろ!?キン〇・クリムゾンか!?
:エトちゃーん!次の配信はいつですかー!!
:アーカイブは残りますかー!
:収益化してたらスパチャできたのにッ
『次の配信は未定でアーカイブは残るのです!あと、エトは利益を受け取る行為全般を禁止されてるので、収益化はしないのです!』
これだけ盛り上がる配信に、まさかの収益化なし宣言。
コメント欄にはなんで?という声であふれた。
:収益化なし?マ?
:この配信だけで収益化条件達成してるよね。なんで?
:↑マジレスすると、現状【クロスライブ】でAIアカウント
の収益化は許可されてない
:あ エトちゃんAIだったわ
:ホントだ マジで忘れてた
:一般のAIみたいに不自然さがないからな
:エトちゃんはただのAIじゃなくて超高性能な最新型のAIだぞ
『ここで終わるのですが、みなさん最初に行ったこと覚えてますか?合間にもちょくちょく言ってたけど、もし知らない人がいたら教えてあげるのです。せ-の!』
それは、エトが配信を始めた理由。
これを周知させるためにたくさんの人を集めたのだ。
:YES!マスター&エトNO!タッチ
:YES!マスター&エトNO!タッチ
:※このコメントは削除されました
【X・Road【公式】@キリ】
:口に気をつけろよ クズ
:ひぇ
:恐ろしく速いコメント削除 俺じゃなきゃ見逃しちゃうね
:また馬鹿がモデレーターさんに目をつけられたか
:モデレーターさんがすごい怖い件
『はい。YES!マスター&エトNO!タッチ。想像するのは自由ですが、現実のマスターとエトに会っても、触ってはいけません!迷惑をかけてもいけません!もし迷惑をかけたら本社にいいつけるのです!』
言い方はかわいいが、報告された際の結果を想像してコメント欄は戦慄する。
:本社=X・Road マジで洒落にならない
:これほど怖い告げ口はない
:ぐぐぐ エトちゃんのマスターがうらやましいッ
:モデレーターさん!エトちゃんタイプの
AIの発売日はいつですか!
【X・Road【公式】@キリ】
:知るかボケ エッちゃんを見てんだから邪魔すんな
:あ この人ただのリスナーだわ
:本社のほうに問い合わせが殺到しそうだな……
『それでは終わりなのです。ばいばいなのです!おやすみなさい!』
最後に満面の笑みで腕を振っていたエトが画面から消え、配信が終わった。
コメント欄にはこの配信に対しての賛辞と別れの挨拶で埋め尽くされる。
――――一部を除いて。
:おやすみー
:いい配信でした8888
【X・Road【公式】@キリ】
:さてアーカイブ周回するか
【X・Road【公式】@シバ】
:なにやってるのですかキリさん
あなたのせいでやる事がいっぱいあるのだから
仕事にもどりますよ
【X・Road【公式】@キリ】
:やべ 逃げよ
【X・Road【公式】@シバ】
:ちょッ!逃げんな!!
:なにやってんだ本社の人…………
―――― この配信は終了しました ――――
▼
「なんか、こわー」
『エトの初配信を観た感想の第一声がそれなのですか、マスター!?』
「いやー、これはりゅーに同感デス。あの熱狂は少しこわいデスよ」
『ふむ?もしかしてやりすぎちゃいました?』
自覚のないエトにミズキは無言で【アメノハラ・トレンドワードランキング】を空中に映し出す。
そこには一位から五位までエト関連のワードが並んでいた。
エトはそれから目を逸らした。
『ま、まあ、マスターたちに手を出すことのリスクは周知させたので、目的は達成したのです』
「それに関しては本当に助かる。ありがとな、エト」
『マスター…………!んふふ♪褒められたのです!』
嬉しそうにするエトにリュウセイは聞きたいことがあるのを思い出した。
「そういえば、配信のコメントに出てきたモデレーターって、エトが言ってたキリお姉さ――――」
『マスター!なんかゴブリンさんが変な髪色の人に絡まれているのです!!』
リュウセイが言葉を言い切る前にエトが緊急の知らせを伝える。
警戒している【アリスレイタch】を監視していたら配信の枠が立っており。
そこには――――
【レコードブック】で会った武藤イツワらしき人物が映っていた。
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