第16話 不可侵区域



ゲームマップの端にある反応が消えそうな【伝承石】のアイコン。

リュウセイはすかさずマップ機能のマーカーを打った。

それは【同行者モード】でゲームマップを共有しているミズキにも伝わる。


「りゅー、なんで何もないところに……いや、あるデスね。目を凝らさないと分からないようなのが…………」


「これかなり運がいいんじゃないか!?【伝承石】が発生したってことは――」


『はい!の条件を達成したということなのです!』


【伝承石】は普段は隠されており特定の条件を満たさないと出現しないことを、リュウセイは調べて知っていた。

行動か、人数か、時間か、もしくはそれ以外か。なにがトリガーになったかは分からないが、たまたま発見したそれに、さっきまでしていた勝負のことなどすっかり頭から消えていた。


「エト、ミズキ!時間経過で無くなるやつもあるって話だから、はやくいこう!」


『ちょっ!マスター、はやいのですよ!エトはそんなにはやく飛べません!』


「ふふ、元気デスねー。あれ?でも、この場所って――――」


せっかく見つけたお宝を逃すまいと駆け出すリュウセイとそれを追うエト。

ミズキは最後尾で微笑ましそうに眺めていたが、あることに気づく。


その場所はゲーム上の【不可侵区域】じゃなかったか?と。





【ロスト・フォークロア】は、アメノハラという街を探索をメインとするゲームだが、当然、探索できない場所も存在する。

私有地、ドローンを飛ばせない場所、立ち入り禁止区域などなど、それらをまとめて【不可侵区域】と呼ぶ。


【不可侵区域】はゲームマップで黒表示されているのでゲーム上存在しない場所になっているのだが、今回はその場所にアイコンが配置されている。

ミズキは位置ずれだろうか?と疑問に思いながら、リュウセイたちの後を追う。


目的の場所にたどり着いた。そこは、住宅街の中にあることが不思議なもの。

それは、コンクリで舗装された道に囲まれた、小山の上に建つ小さなやしろだった。


「ここか?なんで住宅街のど真ん中に、社が?それにこれって――――」


「だいぶ古い建物デスね。アメノハラに


『アメノハラにと言っていいのです。小さな社ですが、厄除けのご利益があることで有名みたいなのです』


「厄除け…………確かに、ご利益がありそうデス。を乗り越えて、こうやって残っているのデスから」


『住宅街の真ん中にあるのもそれが理由かもしれないのです。この社の近くなら災厄から守ってくれるかもしれない、と』


「ん?そういえば【伝承石】はどこなんだ?」


その言葉で、他のふたりもここにきた目的を思い出した。


『反応は【不可侵区域】――――社の方からしてます。バグなのです?』


「このゲームでそんな話は聞いたことないデスけどねー。とりあえず、ここまで来たならおまいりしてみるデス?特にりゅーは厄まみれデスから」


「だれが厄まみれだ。ただちょっとツイてないだけだろ」


『マスターはラノベの無自覚系主人公なのですか?今日だけでトラブルに遭いまくったのですよ。もし、この社のご利益が本物なら厄を寄せ付けなくなるのです』


「まあ、どっちにしろ【伝承石】の手がかりが欲しいから行くけど」


「じゃあ、GOデス!」


ミズキの号令で鳥居をくぐり、階段を上がっていくリュウセイたち。

エトに参拝の方法を聞いて実践しよという段階で気づく。


賽銭用の現金がない。


「そういえば、オレたち電子マネーしか持ってないもんな」


「じゃあ、3Dオブジェクト化したお金でも入れてみるデス」


「やめろ。ご利益どころかバチが当たるわ」


「お詣られる方も、もう少し気を聞かせてほしいデスよ。せめて時代に合わせて電子決済を採用してほしいデス」


「神様にそんな要求するやつ初めて見たよ。ん?エト、どうした?」


そこには綺麗な二礼二拍手一礼を終えたエトがジト目で見ていた。


『お賽銭がないなら『心』を込めてよく祈るのですよ。こちらはご利益という加護をもらう立場なのですから。ふざけていたら神様に失礼なのです』


まさかAIに参拝について説教されるとは思わなかった人間二名。

唖然とするが、言っていることはもっともなので真面目に祈りを捧げた。

参拝が終わった後もなにかイベントが起こるわけでもなく、階段を下りながらリュウセイが疑問をつぶやく。


「いまだにゲームマップに表示が出てるのに、見つからないのはなんでだ?」


「届きそうで届かない…………モヤモヤするデス!!」


『一回ここを出て、周囲を探索してみ――――あっ』


「どうしたデス――――お!」


「そういうギミックか…………」


は、鳥居の外。不可侵区域のエリア外に鎮座していた。


「参拝が決め手か――――不可侵区域もギミックに使うとか普通分からねえよ」


とは無色の小さな結晶――――【伝承石】だった。





「りゅー、りゅー、はやくどんな効果がある【伝承石】か見せるデス!」


「エトも気になるのです!ギミックがめんどくさいやつほど、レア度が高いと聞くのです!」


「おう、じゃあ確認するぞッ!!」


キラキラとした目をふたりから向けられ、手に入れたばかりの【伝承石】の名前と効果が見えるようにメニュー画面を操作する。

そこには――――


【G級:コスト1:【星詠みの願い・真伝】】


 カテゴリー:【アクセサリー】

 保有スキル:【必中?★1】 

       効果:射撃武器に必中?効果を付与

 (SP:5消費。効果範囲5m以内。効果時間10秒。CT10秒)


その名称が見えた時、リュウセイは驚く。


「また、真伝?しかも、星詠み!?なんか作為を感じるぞ!?」


『もしかして、【星詠みの導き・真伝】が発生の条件だったのではないのです?』


「それか!でも、星詠みかー…………」


「え?なんでりゅーは顔しかめてるデス?真伝ってすごいレアなのデスよね?」


ミズキはまだゲームを始めてないことから、真伝の価値が分かっていない。もし分かっていたら、「超レア当てといてなにが不満なんだッ!」と怒っていたはずだ。


「いや、そっちはいいんだ。スキルも優秀だし。でも、星詠みがな―…………」


「たしかエトちゃんの話じゃあクズなんデスよね?」


『でも、まだ伝承をひとつ見ただけなのです。この【星詠みの願い・真伝】では星詠みさんが改心してる可能性もあるのですよ』


「そうだな、エト。最初から決めつけるのはよくないよな。よし、使ってみるか!」


リュウセイは覚悟を決め【伝承石】の取り込みを開始した。





満天の星空の下、ひとりの男が星を見上げている。おそらく寂しそうに。

前回もそうだったが、。正確には顔の上半分が見えない。

【伝承石】の等級が低いから情報が少ないのか。それとも別の理由が――――

そう考えている間にも物語は進んでいく。


男の周りには無数の剣が墓標のように立っていた。男は誰に聞かせるでもなく呟く。手元のリングを廻しながら。


『なあ…………お前ら、知っているか?ヒトは死んだら魂が星になるらしいぜ』


『そんでな、流れる星になって地上に還り、生まれ変わるらしい』


『お前らも、いつか還ってくるのか?また、お前らと――――』


最後、男がなにを言ったのか聞こえなかった。だけど、リュウセイには――――


「――――遊べるのか?」


そう聞こえた気がした。


『マスター?』


エトの声で、リュウセイはハッと我に返る。


「悪い。物語に入り込んでたみたいだ」


「その様子だと、悪くない内容デスか?」


「ああ……星詠みの印象がだいぶ変わったな…………」


リュウセイは物語の内容をふたりに語る。

この物語は、星詠みが仲間の魂が還ってくることを期待して再会を願うものだと。


『星詠みさんに何があったか気になる内容なのです…………』


「そうだな。【伝承石】を集めていけば、その答えが分かるかもな」


「hey!しんみりとした空気はここまでにするデス。こんなお通夜みたいなムードで家に帰ったらお母さんが心配するデス。」


「おっと。わるい、ミズキ。じゃあ、話題変えるか。なんか楽しいやつ」


『そうですね。では、先ほどの【伝承石】をアバターに装備させましょう。カテゴリーがアクセサリーになっていたので、どんなものになるか気になるのです』


エトの提案を採用してアバターに装備をつけていく。ついでに、メリィからギフトでもらった【G級:【反逆者の銃】】も取り込み装備させることにした。


そこで、ある変化が起きた。


特に狙ったわけではない。

攻略サイトを見たわけでもない。

その組み合わせは本当に偶然だった。


【星詠みの導き・真伝】、【星詠みの願い・真伝】、射撃武器。


この三つの組み合わせで、ひとつのスキルが生み出された。


それは――――【伝承顕現】。


【神星領域:ロスト・フォークロア】における必殺スキルである。





新しく得た【伝承顕現】スキルの試し撃ちを終えたリュウセイは、その物語内容と目の前の光景を見て思う。


「星詠み……いろいろと台無しだよ…………」


星詠みに呆れていた。

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