第11話 伝承顕現

9/25改稿済み

 ―――――――――――――――――――――――――――――


 【ロスト・フォークロア】のアバターにはステータスの概念はある。

 それは初期状態ではどれも一律固定であり。

 プレイヤーが任意でこれを変えることは出来ない。

 これはランクアップしても変わらず、【キャパシティ】の量が増えるだけだ。

 強化させる手段は、装備によって強化するか。

 もしくは――――



 【伝承石】の組合わせによってステータスが強化するか。



 プレイヤーは、【キャパシティ】を超えなければ最大10個まで【伝承石】をセットすることができて、この構築によってステータスが決まる。


【キャパシティ】は最高ランクで最大32、最低ランクで10だ

【伝承石】にはコストがあり、A級で8、G級で1。

等級に対してコストは1刻みで上がる。


 ステータス画面に表示されるのは――――

STR・VIT・DEX・AGI・INT・MINDの六種が六角形のグラフ。

これは【伝承石】をセットすることでこの値は変わっていく。

なお、HP・SPはVITやMINDに依存する。


【伝承石】には変動する値は記されておらず、

取り込んでステータスを確認するまでどの値が上がるかは分からない。

ただし、たくさんのプレイヤーによる知識の蓄積によって、既存の【伝承石】による効果は明らかにされており。

ネットの攻略サイトにその情報が載っている。


 基本的には、等級が低いものは効果が低く。等級が高いものは効果が高い。

 もちろん、ただ等級の高いものをつけていれば強くなるわけではなく。

 大事なのは相性を考えることだ。

 【伝承石】には相性によって反発することがある。

 それらをセットすると本来の半分しかステータスにプラスされなかったり。

 逆にマイナスになることもある。


 これは元となる物語の影響を大きく受けるためだ。

 つまり、低い等級でも相性の良い【伝承石】を組み合わせることで、より強力なステータスを得ることもできる。

 さらには組み合わせで【スキル】を覚えることもあり、これでしか手に入れることが出来ないスキルもたくさん存在する。


 なお、これから行われる練習試合には構築を作り上げるほどのリソースはなく。

 ただ単純にプレイヤースキルが試される場となる。




 ◆




「エト、武藤さんにちゃんと謝りなさい」


『…………はい、わかったのです。ごめんなさいなのです、ゴブリンさん。なにが悪いかわからないのですが、エトはちゃんと謝れるいい子なのです』


「煽ってんのかこのアホAIッ!!ゴブリンじゃねぇよ、人間だよ!――――ってお前ら、なに野次飛ばしてやがる!」


 怒るイツワに友人ふたりが野次を飛ばしてからかっている。

 それに反応する彼を楽しむように笑っていた。

 ムキになった彼はふたりのほうに向かおうとして――――メリーに止められる。


「キミたちはいつも賑やかねえ。でも、リュウセイ君も待ってるからそろそろ始めましょうか」


『そうなのですよ。待ちくたびれるのですよ!』


「いや、エト。もとはといえばお前のせいだからな」


『?』


「なんで、私なんかやっちゃいましたか?って顔してんだよ」


 AIだから人の心が分からないのか、ポンコツだから分からないのか微妙な線だ。

 リュウセイは、良識を教えるのは後回しにして、目の前のことに集中する。


「ったく、もういい!この鬱憤は一条にぶつけてやるぁ!!出てこい、俺の分身アバターッ!!」


 その号令でイツワの腰にあったドローンが浮かび上がる。

 そして、ひとつの幻影を創りあげていく。

 それは【古代】をベースにしたと思われる粗末な服の上に皮鎧を着ていた。

 左手には小盾、右手には鉈のような武器を持った小柄な人影だ。

 その耳は尖って、その口は大きく、その目は鬼眼で、その肌は緑色。

 その姿はまるで――――



「いや、ゴブリンじゃん」



 つい口に出てしまったリュウセイ。


「俺をベースにしてAIの自動生成したらコレだったんだよ!何回やってもなぁ!!」


 イツワが語るには、キャラクリに自信がないからAIによる自動生成をしたらこれができたらしい。

頭にきて、自力で作り上げようとしたが名状しがたいモノしか出来なかった。

なので、妥協でこの姿になっている。


『ほら、マスター。普通のAI生成の末路があれなのです。マスターもエト以外のAIがアバターを作ったら、目つきがヤバい殺人鬼アバターが出来てたはずなのです』


「それ、オレが殺人鬼のような顔って言ってるよな」


『言ってないのです』


 フイッと目を逸らすエト。

 それを見てリュウセイはため息をつく。


「はぁ~…………流石におふざけはこのくらいにしといて、真面目にやるか」


 アバター用ドローンは思考操作で浮かび上がった。

 ドローンがリュウセイのアバターを創りあげていく。


【近代】ベースの銀色の光沢を放つ外装を纏ったヒト型アバター。

 重厚な装甲に、表面に赤い文様が刻まれている。

 頭部にはバイザー付きのフルフェイスがつけられて。

 バイザーの奥から鋭い眼光のような青白い光が漏れていた。

 そして、その手には――――


「――――銃か…………いいのかよぉ、そんな武器で」


 銃はその格好良さと中距離から一方的に攻撃できることから、初心者や銃愛好家に人気だが、イツワの認識では微妙なものだ。

 弾速は確かに早いが、引き金を引く瞬間を意識すれば【アシスト機能】が自動で防いでくれる。

さらに、近づけば大抵の使い手は何もできなくなるから、そんな武器で大丈夫か?と意味合いを込めたが、リュウセイには届かなかったようだ。


「ええ、せっかくガチャで当たったから使ってみたくて」


 そう言いながら手慣れた感じで銃のチェックをしていく。

 それは、現実に存在する銃ではなく、ファンタジーと融合したような銃だった。

 大きさは拳銃サイズ。

 その銃は実弾を撃ちだすわけではなく、エネルギーのような弾を撃つ出す。

 弾倉はエネルギーパックのようだ。


「すごいな…………細部まで作りこんでる」


 装弾数は見た目より多く。弾倉の予備は腰の両側に箱状のものに入っていた。

 それは自動的に新しい弾倉が突き出るよう設計されている。

 弾倉が抜けた状態の拳銃をそれに振り下ろすることで、片手でも弾倉交換が可能になっている。

 リュウセイはその銃を二丁出している。

 ひとつは手に持ち、もうひとつは腰の後ろにつけていた。


 イツワはその様子を見守っていたのだが、あまりにも堂に入ったその姿。

 リュウセイの目つきの悪さも理由に加えて「あれ?手慣れすぎじゃね?もしかしてか?」と、疑うほどだった。

 そう考えているうちにリュウセイの準備が終わったようだ。


「よし、準備できました。いつでもいいですよ」


「おう。にしても、なんだぁ?さっきから言葉が丁寧になってねぇか?」


「さすがに四月から先輩になる人にタメで話せませんよ」


 そこでイツワは、リュウセイが同じ高校に通うことを知る。

 ならば、とイツワは新しくできる後輩にかっこ悪いところは見せられないと気合を入れた。



「――なら、なおさら負けらんねぇなッ!!先手は譲ってやる。どこからでもかかってきな!!」



 そして、練習試合がはじまった。



 ◆



 試合はお互い向かい合って三メートル離れた位置で開始した。

 リュウセイはイツワの言葉に甘えて、先に動く。


「じゃあ、いきますよッ!」


 リュウセイのイメージ通りに銀装アバターが動き出す。

 素早く体を半身に構え、腕を突き出すような形にし、利き手でグリップを握り、もう片方の手で銃を固定した。

 そしてフルオートで弾倉内のエネルギーを全て吐き出す。

 初撃から容赦のないエネルギー弾の雨がイツワの小鬼アバターを襲う。


 その弾は小鬼アバターの胸に吸い込まれていき――――小盾で全て弾かれる。


「ハッ、軽いなッ!じゃあ今度はこっちの番だ、なッ!!」


 すでに弾倉交換を終えていた銀装アバター。

 単発で頭を狙って撃ったがこれも弾かれる。

 イツワは余裕そうな態度を崩さなかったが、内心では戦々恐々していた。

 「いくらなんでも殺意がたけぇよッ!?防がなかったら今ので終わってたぞ!?」と、顔には出さなかったが背中に冷や汗をかきながらリュウセイを見る。


 攻撃の全てを防がれたのに笑っていた。

 楽しそうに笑っていた。

 相手が強いほうが面白いのだというように。


「すげえ!?戦闘でアバターを動かすってこんな感じなんだ!?」


 その楽しそうな姿に、「ビビッて、腰の引けたつまらねぇ姿はみせれねぇな」と、イツワは気合を入れ直し、小鬼アバターを突撃させる。

 そのアバターの動きは速く、それでいて緩急をつけ。

 相手の狙いづらい位置を選びながら弧を描いて近づいていく。


 だが、リュウセイはその動きに即座に対応して銀装アバターを動かす。

 体勢を変えながら、正確に狙い撃つ――――が、これも弾かれる

 そして、小鬼アバターが攻撃に移れる間合いにたどり着いた。


「近づけば銃なんて怖くねぇ、この距離ならこっちのもんだ!!」


 手に持つ鉈を、銃を握った腕に振り下ろす。


「させねえよッ!!」


 丁寧な言葉遣いが崩れたリュウセイが腕をコンパクトに畳む。

 鉈をかいくぐり、逆に近距離まで接近して、大腿部・腹部・頭部へ順番に向け撃ち放つ。



「ハアッ!?」



 まさかの接近に驚くイツワのアバターに襲い掛かる銃弾。

 鉈の一撃が空振り、体勢を崩しているところにおこなわれたその反撃。

 迎撃は間に合わない。大腿部・腹部にクリーンヒットを許した。

 けど、頭部への致命的な一撃だけは【アシスト機能】がおかげで防ぐことができた。

 小鬼アバターの上にあるHPバーが三割ほど減り、この試合で初めてのダメージを知らせる。


 流石に、たまらないと一度距離を取る小鬼アバター。

 その隙に弾倉交換をおこなう銀装アバター。


 互いに動きが止まり、にらみ合う形になった。


「――――一条よぉ……お前、本当にカタギか?その目つきといい、その動きと言い裏社会からやってきました。って言われても信じるぞ」


「ひどくねえ!?オレの目、そんなに怖いの!?」


「冗談だよ。しっかし、こんなにやれるとは思わなかったぜ。こっちはランクを調整しているとはいえ、【シルバーランク】相当――――そっちのふたつ上になるランクのステータスがあるのに、始めたばかりのほとんど伝承石の恩恵がないルーキーにここまで一方的にやられるとはよぉ」


「そう褒められると照れくさいな…………」


 言葉遣いはすっかり崩れ、照れた顔で頭をかく。

 その仕草が、イツワの目には年相応の少年に見え。

 先ほどまでの、高レベルな戦闘技術を披露した姿とのギャップに笑ってしまう。

 だが、すぐに笑みを消し、真剣な表情に変える。


「きっと、続ければオイラの負けは確定だろ」


 直接対峙して、イツワはリュウセイにプレイヤースキルで負けていることを実感していた。

 最後までやらずに諦めの言葉を吐くイツワに、リュウセイは顔を厳しくさせる。


「武藤さ――――」


「まあ、待て。最後まで言わせろ。確かに負けは確定だな。。だから、見せてやるよ。このゲームの神髄をッ!」


 それに、と呟く。


「このまま終わっちゃあお前も楽しくねぇだろッ!」


 そして、イツワは両手を大きく広げながら叫んだ。


「――――【来やがれ、俺の影どもッ】!!!」


 その起動詠唱キーに応えるように、彼のアバターから大きなオーラが立ち昇る。



「【伝承顕現】ッ!!【ゴブリン・レイジ】ッ!!!」



 その影から現れたのは、無数の怒りの形相をしたゴブリンたちだ。

 その数は十匹ほど。

 それぞれ片手には刃こぼれしたショートソードや、粗末な木の棒を持っている。

 さらにその後ろには弓をもったゴブリンが矢をつがえていた。



 「かつて存在した伝承の再現ッ!!とくと楽しみやがれ!!」



 獰猛なゴブリンの群れが、いまリュウセイに襲い掛かる。



 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 この下から本編に書ききれなかったプチ情報を書いていきます。

 特に重要な情報は書いてないので読み飛ばしてもらってもOKです。



●初期ステータス

 HP・SPは100

 STR・VIT・DEX・AGI・INT・MINDは10

 話の中でも書きましたが、これらすべての数値は固定です。

 ランクが上がっても数値に変動はありません。

 素体の状態では貧弱なので、伝承石を取り込んで強化します。

 取り込んだ伝承の付け替えは自由なので、様々な組み合わせを試せます。

 ちなみにG級伝承石の上がり幅は、どこか一カ所が5上がります。

 リュウセイが手に入れたG級真伝も例外ではありません

 HPはVIT依存。SPはMIND依存になります。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る