第10話 最初の相手はやっぱりゴブリンだよね(※諸説あり)
【G級:コスト2:【星詠みの導き・真伝】】
真伝――――はじめて見る表記にメリィは混乱していた。
彼女は仕事柄、ゲームの情報は逐一確認しているが、これに関する情報は持っていない。発見しているプレイヤーが隠している可能性もあるが、ゲームが始まって三年くらい経って全く情報が出てないのはおかしい。大会などで使用すれば注目が集まり、一躍人気プレイヤーになれるチャンスがあるのに。
そもそも、"スタートガチャ"で出ていいものじゃないはずだ。
【神星領域:ロスト・フォークロア】は等級間の差はあっても、等級内の差はほとんどない。【伝承石】の相性で有利をとれることはあっても、【伝承石】の力の差で圧倒することはできない。そんなことをすればゲームバランスが崩壊してしまう。
それに、"スタートガチャ"で出てくる等級がG級で固定されているのは、レア度の差でプレイヤー間の差をつけないためだ。場所によって取得数に差はあるが、これは全プレイヤーに平等に選べる機会があるし、言い方は悪いがG級程度ならすぐに見つけることができる。しかし、今回のコレは同じG級でも価値が全く違う。
下手したら全プレイヤーの中で初めての取得者かもしれない。それはいらぬ嫉妬や争いの原因になる可能性がある。かの"ドラゴン"を手に入れた少女がそうだったのだ。リュウセイに同じ思いをして欲しくない、そう思いメリィは彼のほうを見た。
「なあエト!この"真伝"ってやつなんかすごそうじゃないか!」
『おお、ほんとなのです!≪データベース検索中――――ヒットなし。≫マスター!これデータベースにも載ってないやつなのですよ!!』
「まじか!?」
年相応にはしゃぐリュウセイに、トラブルになるから使わないほうがいいとは言えない。せっかく楽しむためにゲームを始めたのだ、そんなつまらない理由で台無しにするわけにはいかないし、ゲームは楽しむものというメリィの信条にも反する。
せめて取得の条件さえわかればリュウセイから目を逸らせれるが、その条件が見当もつかない。まだ始めたばかりだし、いままでこの店で似た現象が起きてないことから"行動"も"場所"も関係ないはずだ。
どうしたものかと悩んでいると、メリィの様子がおかしいことに気づいたリュウセイが声をかける。
「メリィさん大丈夫ですか?なんかずっと考え込んでますけど……」
その心配そうな顔を見て、自分はなにをやっているんだ、とメリィは自分を恥じた。
この仕事をしているのは、ゲームで遊んで楽しそうな顔を見るのが好きだからだ。
こんな顔をさせるためじゃない。そう思い、なんでもない顔で返答をする。
「――――いやー、あまりにすごいモノが出たからびっくりしてたのよ。私も長いこと、このゲームを見てきたけど初めて見るもの!」
とりあえず問題は後回しにして、今はこの場を楽しむことをメリィは優先した。
「やっぱりこれすごいものなんですね!やったぞ、エト!かなり幸先いいな!!」
『そうなのです!あっ、マスター!早く取り込んでみるのです。それは装備しないと効果がないのです!』
「そうだな!それじゃあ……取り込み開始ッ!」
エトの指摘でリュウセイはわくわくしながら、メニュー画面を操作して【インベントリ】からひとつしかない持ち物――【伝承石(G)】を選んで取り込みを開始した。
◆
取り込んだ瞬間、リュウセイの前には一人の男がいた。
いや、男の前にも膝をついて懇願するような体勢をとる、たくさんの貧しい恰好をした人たちがいた。
男は微笑み――ではなく、片方の口角をあげ、あくどい笑みを浮かべながら語る。
『ちげーんだよ。オレ様が欲しい誠意は態度じゃなくて、金だよ、か・ね』
『額が大きすぎる?そりゃあ仕方ねえだろ。この【星詠み】様の導きを受けれるんだぞ?倍でもいいくらいだ。ギャハハハハ』
『どーすっかなー。帰ろっかなー。えっ、払う?毎度あり―♪』
そこで短い映像は終わり、リュウセイはしょっぱい顔になる。
【星詠み】がクズすぎる……さっきのわくわくを返せ、と内心で思った。
「ねえねえリュウセイ君、どうだった?【伝承石】の内容は使用した人しか分からないから、こっちにはなにも伝わってないのよ」
『エトも気になるのです。やっぱりすごい【伝承石】は、すごい内容だったのですか?』
リュウセイは二人の期待のまなざしにいたたまれない気持ちになりながら、話を逸らすことにした。
「あー……そういえば、これ真伝ってありますけど、普通のやつもあるんですか?」
「ええ、あるわよ。G級でもレア寄りの珍しいやつね」
「珍しいんですね。……ちなみに内容は?」
「もしかして話の内容を比較したいの?たしか……貧しい人々を心優しき【星詠み】――――たぶん予知能力者?が慈悲深き笑顔で導いて救う、って話ね。G級で話が短いからわかるのはこのくらいだけど……その顔は、話がぜんぜん違うって感じね」
リュウセイはしかめた顔で話を聞いていた。
心優しき【星詠み】とは誰のことだ?あの映像に出てきたのはただの銭ゲバだ。
慈悲深き笑顔って、あの悪人面が?
ただ一つだけわかったことがある。真伝って――――
「真伝って…………ただの暴露話じゃねぇかーーーーーー!!!」
『ひぇ!?びっくりするのですよ、マスター!』
「どうしたの、リュウセイ君!?」
知りたくなかった物語の真実にリュウセイは吠える。
その後、ふたりに真伝の内容を話すと、ふたりともしょっぱい顔になる。
『マスター大丈夫なのです!どれだけ【星詠み】さんがクズでも、大事なのはその効果なのです!』
「そうだな!メリィさん、通常のやつと比べてみたいので効果を教えてもらってもいいですか?」
「いいわよ。え~と……これね。【星詠みの導き】は探索系の【伝承石】ね。保有スキルはひとつで【探知★1】、探索範囲を半径5メートル広げれるわね。この★は数字が高いほど効果があがるわ。最大は5よ」
「なるほど!じゃあ……これは――――」
【G級:コスト2:【星詠みの導き・真伝】】
カテゴリー:【探索】
保有スキル:【探知?★1】 効果:探索範囲を半径5メートル拡大
「なんにも変わってないじゃん!?」
『いえ、マスターよく見るのです!探知のあとにハテナがついてるのです!』
「疑問になってんじゃねーか!!」
そのコントのようなやり取りを眺めながらメリィは内心ほっとしていた。
これなら使っていても目立つこともないし、ゲームバランスを崩す特別な効果もない。
【探知?】というスキルはすこし気になるが、ジョークのようなスキルは他にも存在するから、大丈夫だろう結論付けた。
「はぁ~……まあいいか。変な効果がついてるわけじゃないし、珍しいもんが手に入ったと思えばいいよな」
『そうなのです、マスター。気持ちの切り替えは大事なのです。なので、それを使って探索してみれば気も晴れるかもなのです』
「だな!じゃあ早速行くか――――」
「はい、待ちなさい。まだやることがあるでしょう?」
『「やること?」』
リュウセイとエトがハモる。
メリィは指を下にさしながら言った。
「トレーニングルームにいるんだから、アバターの動作チェックくらいしなさい」
◆
"ロスト・フォークロア"のプレイヤーは、マップや情報を使い、街に点在する仮想モンスターと戦ったりするのだが、仮想のものは仮想のものにしか触れることができない。その時に必要になるのがアバターだ。
アバターは"アーク"とリンクしており、専用のデバイスを経由して操作することが可能。そのデバイスは、手のひらサイズでカメラ付きの球状ドローンで、起動すると操縦者の周りを浮き、その前方にアバターのホログラムを投影させる。
このドローンはエトのものと似たものらしい。
アバターは操縦者の脳波をキャッチして直感的な操作が可能で、【アシスト機能】によるサポートも充実している。
ドローンのカメラと操縦者の視覚を共有して、アバターの視点で戦闘などを行うことで、自分がヒーローになったかのような気分を味わえたりもする。
他にも、リンクした"アーク"によって触覚を体に伝えることも可能。痛覚は再現できないが衝撃を感じることはできる。
物理的な制約がない分、実際の体以上の動きを実現させることも可能で、eスポーツ大会に出るほどのプロは、超人か?と疑うくらいのキャラコンを披露できるほどだ。
無論、はじめたばかりの初心者がそんなことができるはずもないので、練習が必要であり、そのためにトレーニングルームがあるなのだ。
――――あるのだが、メリィは信じられない光景を目の当たりにしていた。
「はっはぁッ!エト、次は槍を試そうぜッ!デコイももっとだ!!」
『はいなのです!≪練習モード――武器を槍に変更。デコイ数の増加≫どうぞ、マスター!』
「っしゃあ!いくかぁ!!」
練習前とは別人のように豹変したリュウセイが、気勢をあげアバターを操作する。
部屋の中央では、近未来感のある銀色の外装を纏ったヒト型アバターが、十体以上の剣を持ったデコイに囲まれた状態で、身の丈以上の槍をふるう。
相手は動かない状態とはいえ、その距離で槍は振りにくいかに思われたが、リュウセイは巧みに槍を廻し相手の得物を落としていく。その後、前方のデコイに足払いを仕掛けたあと、包囲を脱出して倒れたデコイに鋭い一撃を入れた。
メリィは驚きを隠せないでいた。
これまでにリュウセイは、片手剣・大剣・短剣・弓などいろんな武器を巧みに扱っていた。これはあきらかに初心者の動きではない、体の動かし方をわかっている動きだ。それだけでも驚きだが、一番の驚きは――【アシスト機能】を使ってないことだ。
一般的な初心者は【アシスト機能】なしではアバターを動かすこともままならない。
生まれたばかりの赤ん坊のようなもので、【アシスト機能】という外部の力を借りることでようやく立てるようになるのだ。
間違っても初心者が、「これ動きずらいですね」と言って外すものではない。
メリィは、自分が【アシスト機能】なしでこれほどまでに動けるようになったのはいつだったかを考えたところで、リュウセイが最後のデコイを三段突きで沈めた。
「よしっ、これで終わり!じゃあ、次の武器は本命の――――」
「いやあ、リュウセイ君には驚かされっぱなしねえ。エトちゃんに、うちでの登録に、新発見の【伝承石】もそうだけど……そのアバターの操作技術、もしかして別ゲームの経験者なのかしら?」
「あっ!?すいません、テンションがあがって恥ずかしいとこ見せました……あと、XR(クロスリアリティ)のゲームは初めてです」
『マスターはマナおばあちゃんに護身術を習っているので、体の使い方がうまいのです。武器の使い方は、マナおばあちゃんの趣味です!』
エトが言うには、リュウセイの祖母がアニメや映画で見た技を再現しようと、いろんな武器(模造品)を集め、リュウセイを巻き込んで特訓していたらしい。
いや、現実の身体操作とアバターの操作は別物だから、「そうはならないでしょ」、とメリィは思ったが、どこからか「なってるじゃない!」、とツッコミが聞こえた気がした。
「アバター操作は大丈夫そうだし、このくらいにしとく?」
「ん~……まだ本命の武器を試してないないですから、このままやりたいんですが…………」
「ですが?」
「動く相手が欲しいんですよね。できればすばやい奴が」
「すばやい相手ね。それならいい相手がいるわ」
◆
「――――で、オイラが呼ばれた訳ですか。姐さん」
「お願い聞いてくれてありがとう、イツワ君。今度なんかサービスするから」
二階で、リュウセイのスタートガチャの結果を楽しみにしていた三人組が、メリィに呼ばれ三階に上がってきた。
そのうちのひとり、ゴブリンっぽい少年――改めイツワが、サービスの部分に反応する。やましい妄想を振り払うかのように、頭を振り赤い顔でメリィのほうに向く。
「んで、
『マスター、この人顔が赤いのです。きっと、いやらし――――』
「さっすがに始めたばかりのGランクには負けねよぉ、オイラはッ!!!っていうか、そのAI黙らせとけ、明星!!」
エトの言葉にかぶせるように大声を出すイツワ。
メリィは特に気にした様子はなく、大人の余裕で流していた。
「いや、なんかゴメン。ウチのポンコツAIが……エト、口にチャックしておけ」
『はいなのです!ジーーーーーー……』
「あらあら、エトちゃんかわいいわね」
あざとい感じで口にチャックのポーズをとるエトを、メリィはペット動画を見るような眼差しで見ている。
「……変わったAIだな。本当にAIか?まあいい……で、明星の練習相手ですが、オイラ手加減うまくねぇですよ?」
「そこはFランクまで、"伝承"のコストを抑えてもらえたら、いい感じになると思うのよ。ウチで一番速い"伝承構築"はイツワ君しかいないから」
イツワの友人ふたりはウンウンと頷いていたが、イツワだけは首を傾げる。
「いや一番速いのは…………いや、なんでもないです。姐さんにそこまで言われたら頑張らないわけにはいきませんからね」
イツワはメリィに向けていた笑顔とは違う、好戦的な笑顔をリュウセイに向け宣言する。
「“私立・
ゴブリンっぽい少年、イツワはリュウセイが四月から通うの高校の先輩だった。
『…………ジーーーーーー。イツワ……五輪……ゴリン……武……ゴ……ブ……リン、ゴブリン!やっぱり彼はゴブリンだったのですよ、マスター!』
勝手に口チャックを解くエト。
リュウセイは目の前で何かがブチ切れる音が聞こえた気がした。それがなにかわからないが、この練習は激しくなる予感があった。あと、このポンコツAIは本気で
―――――――――――――――――――――――――――――
この下から本編に書ききれなかったプチ情報を書いていきます。
特に重要な情報は書いてないので読み飛ばしてもらってもOKです。
●ランクと等級
本作にでてくるランクの呼称は、プレイヤーをA~Gランク、伝承石をA~G級の呼称で分けています。
ややこしい分け方ですが、最初に考えてたものはもっとややこしい分け方だったので、今の形にしています。最初は伝承石なら民話級とか神話級などでした。
A~Gのほうがすごさが伝わりやすいんですよねぇ。
●護身術
リュウセイがマナから教えてもらっている護身術には3つの心得があります。
簡単に説明すると
①危険に近づくな
②危険から逃げろ
③どうしようもねえ時は、戦え
優先順位は上から高く、最後のは最終手段になります。
ただ、リュウセイ本人に自覚はないですが、トラブルを引き寄せることが多いため③の状況になることがほとんどです。
なので、それを知っているマナは実戦を想定した稽古に力を入れていました。
ちなみに、リュウセイが危険がありそうな裏路地に入ったのは、新天地で舞い上がった気の緩みからで、3対1の不利な状況で突っ込もうとしたのは、助けを呼ぶ間に女の子に危害を加えられる可能性を考えたためです。
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