第10話 最初の相手はやっぱりゴブリン(※諸説あり)
9/25改稿済み
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【G級伝承:題名【星詠みの導き・真伝】】
真伝――――はじめて見る表記にメリーは混乱していた。
彼女はゲームの情報は逐一確認しているが、これに関する情報は持っていない。
発見しているプレイヤーが隠している可能性もある。
しかし、ゲームが始まって三年くらい経って全く情報が出てないのはおかしい。
大会などで使用すれば一躍人気プレイヤーになれるチャンスがあるのに。
「なあエト!この【真伝】ってやつなんかすごそうじゃないか!」
『おお、ほんとなのです!データベース検索中――――ヒットなし。マスター!これデータベースにも載ってないやつなのですよ!!』
「まじか!?」
年相応にはしゃぐリュウセイ。
逆にメリーは難しい顔をする。
【真伝】というものが、ゲームの根幹に触れるものかもしれないから。
このゲームに最終目標というものはない。
いや、ないとメリーは思っていた。
『戦闘や探索などをずっと楽しめるゲーム』
彼女のゲーム評価はそんな感じだ。
それが、【真伝】の登場で一変する。
真実の伝承を集めろ、というのはゲーム開始から使われてきた言葉だ。
彼女はそれをただの宣伝用の言葉としか捉えていなかった。
『だけど、それが違うなら?』
根底が覆るかもしれない情報に、彼女は思考の海へと沈む。
最初からこれを集めることがゲーム目的だった?
今まで入手報告がなかった?これが初めて?
効果は?ゲームバランスが崩壊しないか?
入手条件は?何かトリガーがある?
これを集めたらなにが――――
「メリーさん大丈夫ですか?なんかずっと考え込んでますけど…………」
その心配そうな顔を見て、メリーはハッとして自分を恥じた。
この仕事をしているのはゲームで遊んで楽しそうな顔を見るのが好きだからだ。
こんな顔をさせるためじゃない。
そう思い、なんでもない顔で返答をする。
「――――いやー、あまりにすごいモノが出たからびっくりしてたのよ。私も長いこと、このゲームを見てきたけど初めて見るもの」
とりあえず問題は後回しにして、今はこの場を楽しむことをメリーは優先した。
「やっぱりこれすごいものなんですね!やったぞ、エト!かなり幸先いいな!!」
『ですね!ちなみに、それはどんな【スキル】を覚えれるんですか?』
「それは、私も気になるわね。通常のやつとはちがうみたいだし」
「通常のもあるんですか?」
「あるわよ。【星詠みの導き】――――ある意味人気のスキルだしね」
「おー、人気なんですね。比べてみたいんで通常版の効果を教えてもらっていいですか?」
「わかったわ。ちょっと待ってね。え~と、これね。効果は――――」
メリーは空中に情報が載った画面を映し出した。
そこには――――
【G級伝承:題名【星詠みの導き】】
カテゴリー:【探索】
保有スキル:【探知★1】 効果:探索範囲を半径5メートル拡大
「★1の探索系のスキルね。★は数字が高いほど効果があがるわ。最大は5よ」
「探索系ですか~…………オレ、戦闘系がよかったです」
「そう言わないの。これは便利なスキルなんだから。それで【真伝】の効果は?」
「ん~…………これだけをどうやって表示するんだ?エト頼めるか?」
『はい!エトが出すのです!――どうぞ!』
【G級伝承:題名【星詠みの導き・真伝】】
カテゴリー:【探索】
保有スキル:【探知?★1】 効果:探索範囲を半径5メートル拡大
「なんにも変わってないじゃん!?」
『いえ、マスターよく見るのです!探知のあとにハテナがついてるのです!』
「疑問になってんじゃねーか!しかも、わかりにくい!?間違い探しか!?」
そのコントのようなやり取りを眺めながらメリーは内心ほっとしていた。
ゲームバランスを崩す特別な効果はない。
【探知?】というスキルは気になるが、ジョークのようなスキルは他にもある。
だから、そう簡単に手に入るものでもないから大丈夫、と彼女は結論付ける。
「はぁ~……まあいいか。変な効果がついてるわけじゃないし、珍しいもんが手に入ったと思えばいいよな」
『そうなのです。誰も持っていないから自慢できるのです!』
「だな。ミズキに見せびらかしてみるか」
幼馴染の親友がくやしがる姿を想像してリュウセイは笑う。
「ああ、そうだ。リュウセイくん。【伝承石】って物語を内包してるって言ったわよね?」
「はい、言ってましたね」
「この物語って、【伝承石】の使用時に視聴することになるから、フロアに映してもいい?通常版と真伝版の違いがあるのか観てみたいの」
「そうですね。一緒に観ましょうか」
「ありがとう!私、このゲームの作りこまれた物語が好きなのよね~♪」
『マスター、映像出力の準備はいいのです』
「よし。じゃあ、いくぞ!」
リュウセイは初めて観る物語に少しワクワクしている。
そして、メニュー画面を操作して【星詠みの導き・真伝】を選んで使用した。
◆
リュウセイの前には一人の男がいた。
いや、男の前にも膝をついて懇願するたくさんの貧しい恰好の人たちがいた。
男は微笑み――ではなく、片方の口角をあげ、あくどい笑みを浮かべながら語る。
『ちげーんだよ。オレ様が欲しい誠意は態度じゃなくて、金だよ、か・ね』
『額が大きすぎる?そりゃあ仕方ねえだろ。この【星詠み】様の導きを受けれるんだぞ?倍でもいいくらいだ。ギャハハハハ』
『どーすっかなー。帰ろっかなー。えっ、払う?毎度あり―♪』
そこで弱者から金銭を毟り取る短い物語は終わった。
それを観てリュウセイたちはしょっぱい顔になる。
【星詠み】がクズすぎる……さっきのわくわくを返せ、と内心で思った。
『【星詠み】さん、クズですね』
いつになく辛辣なエト。
「…………あ~、リュウセイ君?ちなみに、通常版は貧しい人々を心優しき【星詠み】――――たぶん予知能力者?が慈悲深き笑顔で導いて救う、って話なんだけど…………」
リュウセイはしかめた顔で話を聞いていた。
心優しき【星詠み】とは誰のことだ?あの映像に出てきたのはただの銭ゲバだ。
慈悲深き笑顔って、あの悪人面が?
ただ一つだけわかったことがある。真伝って――――
「真伝って…………ただの暴露話じゃねぇかーーーーーー!!!」
『ひぇ!?いきなり大声はびっくりするのですよ、マスター!』
「まあ、気持ちは分かるわ」
知りたくなかった物語の真実にリュウセイは吠え、メリーは同意する。
「ふ~…………まあ、いいか。大事なのは物語の内容じゃなくてスキルの効果だ」
そう自分に言い聞かせるように言葉を吐く、リュウセイ。
『そうなのです、マスター!気持ちの切り替えは大事なのです。なので、それを使って探索してみれば気も晴れるかもなのです』
「だな!じゃあ早速行くか――――」
「はい、待ちなさい。まだやることがあるでしょう?」
『「やること?」』
リュウセイとエトがハモる。
メリーは指を下にさしながら言った。
「トレーニングルームにいるんだから、アバターの動作チェックくらいしなさい」
◆
【ロスト・フォークロア】のプレイヤーは、街に点在する仮想モンスターと戦ったりするのだが、仮想のものは仮想のものにしか触れることができない。
その時に必要になるのがアバターだ。
アバターは【ニューロアーク】とリンクしてる。
それは専用デバイスを経由して操作が可能。
デバイスは、手のひらサイズでカメラ付きの球状ドローンだ。
起動すると操縦者の周りを浮き、その前方にアバターのホログラムを投影させる。
アバターは操縦者の脳波をキャッチして直感的な操作を可能にしている。
その他にも【アシスト機能】によるサポートも充実だ。
ドローンのカメラと操縦者の視覚を共有しており。
アバター視点で戦闘を行うことで、自分がヒーローになった気分を味わえる。
他にも、リンクした【ニューロアーク】によって触覚を体に伝えることも可能。
痛覚は再現できないが衝撃を感じることはできる。
物理的な制約がない分、実際の体以上の動きを実現させることも可能。
大会に出るほどのプロは、超人か?と疑うくらいの技術を披露できるほどだ。
無論、はじめたばかりの初心者がそんなことができるはずもないので、練習が必要であり、そのためにトレーニングルームがあるなのだ。
――――あるのだが、メリーは信じられない光景を目の当たりにしていた。
「はっはぁッ!エト、次は槍を試そうぜッ!デコイももっとだ!!」
『はいなのです!≪練習モード――武器を槍に変更。デコイ数の増加≫どうぞ、マスター!』
「っしゃあ!いくかぁ!!」
別人のように豹変したリュウセイが、気勢をあげアバター操作をする。
部屋の中央では、近未来感のある銀色の外装を纏ったアバターが配置され。
十体以上の剣を持ったデコイに囲まれた状態で、身の丈以上の槍をふるう。
相手は動かない状態。
しかし、その距離で槍は振りにくいかに思われた。
だが、リュウセイは巧みに槍を廻し相手の得物を落としていく。
その後、前方のデコイに足払いを仕掛け。
包囲を脱出して倒れたデコイに鋭い一撃を入れた。
メリーは驚きを隠せないでいた。
これまで彼は、片手剣・大剣・短剣・弓などいろんな武器を巧みに扱っていた。
これは明らかに初心者の動きではない、体の動かし方をわかっている動きだ。
それだけでも驚きだが、一番の驚きは――【アシスト機能】を使ってないことだ。
一般的な初心者は【アシスト機能】なしではアバターを動かすことも出来ない。
生まれたばかりの赤ん坊のようなものだ。
【アシスト機能】という外部の力を借りることでようやく立てるようになるのだ。
間違っても初心者が、「これ動きずらいですね」と言って外すものではない。
彼女は、自分が【アシスト機能】なしでこれほどまでに動けるようになったのはいつだったかを考えたところで、リュウセイが最後のデコイを三段突きで沈めた。
「よしっ、これで終わり!じゃあ、次の武器は手に入れたばかりの――――」
「いやあ、リュウセイ君には驚かされっぱなしねえ。エトちゃんに、うちでの登録に、新発見の【伝承石】もそうだけど……そのアバターの操作技術、もしかして別ゲームの経験者なのかしら?」
「あっ!?すいません、テンションがあがって恥ずかしいとこ見せました……あと、XR(クロスリアリティ)のゲームは初めてです」
『マスターはマナおばあちゃんに護身術を習っているので、体の使い方がうまいのです。武器の使い方は、マナおばあちゃんの趣味です!』
エトが言うには、リュウセイの祖母がアニメや映画で見た技を再現しようと、いろんな武器(模造品)を集め、リュウセイを巻き込んで特訓していたらしい。
いや、現実の身体操作とアバターの操作は別物だから、「そうはならないでしょ」、とメリーは思ったが、どこからか「なってるじゃない!」、とツッコミが聞こえた気がした。
「アバター操作は大丈夫そうだし、このくらいにしとく?」
「ん~……まだ本命の武器を試してないないですから、このままやりたいんですが…………」
「ですが?」
「動く相手が欲しいんですよね。できればすばやい奴が」
「すばやい相手ね。それならいい相手がいるわ」
◆
「――――で、俺が呼ばれた訳ですか。姐さん」
「お願い聞いてくれてありがとう、イツワ君。今度なんかサービスするから」
二階で遊んでいたていた三人組が、メリーに呼ばれ三階に上がってきた。
その内のひとり、ゴブリンっぽい少年――改めイツワがサービスに反応する。
やましい妄想を振り払うかのように、頭を振り赤い顔で彼女のほうに向く。
「んで、一条の練習相手ですか。言っちゃなんですがランク差で勝負になんねえと思いますよ?」
『マスター、この人顔が赤いのです。きっと、いやらし――――』
「さっすがに始めたばかりのルーキーには負けねよぉ、俺はッ!!!っていうか、そのAI黙らせとけ、一条!!」
エトの言葉にかぶせるように大声を出すイツワ。
メリーは特に気にした様子はなく、大人の余裕で流していた。
「いや、なんかゴメン。ウチのポンコツAIが……エト、口にチャックしておけ」
『はいなのです!ジーーーーーー……』
「あらあら、エトちゃんかわいいわね」
あざとい感じで口にチャックのポーズをとるエト。
それをメリーはペット動画を見るような眼差しで見ている。
「…………変わったAIだな。本当にAIか?まあいい……で、一条の練習相手ですが、オイラ手加減うまくねぇですよ?」
「そこは【シルバーランク】まで、【伝承石】のコストを抑えてもらえたら、いい感じになると思うのよ。ウチで一番速い【伝承構築】はイツワ君しかいないから」
イツワの友人ふたりはウンウンと頷いていたが、イツワだけは首を傾げる。
「いや一番速いのは…………いや、なんでもないです。姐さんにそこまで言われたら頑張らないわけにはいきませんからね」
イツワはメリーに向けていた笑顔とは違う、好戦的な笑顔をリュウセイに向け宣言する。
「私立・
ゴブリンっぽい少年、イツワはリュウセイが四月から通うの高校の先輩だった。
『…………ジーーーーーー。イツワ……五輪……ゴリン……武……ゴ……ブ……リン、ゴブリン!やっぱり彼はゴブリンだったのですよ、マスター!』
勝手に口チャックを解くエト。
リュウセイは目の前で何かがブチ切れる音が聞こえた気がした。
それがなにかわからないが、この練習は激しくなる予感があった。
あと、このポンコツAIは本気で
―――――――――――――――――――――――――――――
この下から本編に書ききれなかったプチ情報を書いていきます。
特に重要な情報は書いてないので読み飛ばしてもらってもOKです。
●護身術
リュウセイがマナから教えてもらっている護身術には3つの心得があります。
簡単に説明すると
①危険に近づくな
②危険から逃げろ
③どうしようもねえ時は、戦え
優先順位は上から高く、最後のは最終手段になります。
ただ、リュウセイ本人に自覚はないですが、トラブルを引き寄せることが多いため③の状況になることがほとんどです。
なので、それを知っているマナは実戦を想定した稽古に力を入れていました。
ちなみに、リュウセイが危険がありそうな裏路地に入ったのは、新天地で舞い上がった気の緩みからで、3対1の不利な状況で突っ込もうとしたのは、助けを呼ぶ間に女の子に危害を加えられる可能性を考えたためです。
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