第9話 スタートガチャ
9/24改稿済み
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「――――じゃあ、いちおう説明だけはしておくわね」
ここは【レコードブック】の三階、トレーニングルーム。
一見は何もない大きなフロアにしか見えない。
しかし、よく見てみると天井や壁には仮想映像を映すための最新機器がある。
これは模擬戦の相手や移動する的などを仮想映像で再現するための装置だ。
アバターの動作確認や戦闘の練習ができる場所になっている。
リュウセイは必要なデバイスを購入しゲームの登録を済ませていた。
今は、【アーク】にゲームアプリをダウンロードしている最中だ。
その空いた時間に、メリーはゲームの基本的な情報を確認する意味をこめて説明をはじめた。
「【ロスト・フォークロア】のプレイヤーにレベルは存在しないわ。その代わりになるのは――――エトちゃんなにかしら?」
『はい!はい!【ルーキー】から【レジェンド】までのランク制なのです!』
エトが元気よく答える。
「そうね、【ルーキー】が最低ランクで始めたばかりはみんなこれよ。【レジェンド】が最高でこれは全プレイヤーの頂点で一握りしかいない上澄みになるわ。このランクは八段階あるけど、いまは説明を省くわね。じゃあ、このランクはどうやって上げていくのか――――リュウセイ君?」
「たしか、【ランク戦】で競い合って上げたり、探索・生産・各種行動でポイントを昇格の規定値まで稼いであげていくって聞いています」
リュウセイが聞きかじった程度の情報を話す。
「ええ、そうよ。手っ取り早いのは【ランク戦】だけど、それをしなくてもゲームで遊んでるだけで勝手に上がっていくから、戦闘が苦手な人でも楽しめるわ。【ランク戦】なしでも【レジェンド】に到達する人もいるしね」
『このランクを上げていくことで、やれることが増えるのです!』
「その通り。このランクは色んなゲーム要素に関係する重要なものだから、上げることをおろそかにしてはダメね」
「ランク上げですか…………オレは【ランク戦】で頑張っていきたいですね」
「ふふ、まあ分かるわ。私も【ランク戦】好きだし。このゲームの花形だもんね」
『このゲームの一番人気プレイヤーが【ランク戦】の覇者だから、新規プレイヤーは戦闘方面を選ぶ傾向があるってアンケート結果があるです』
空中にデータの映像を映しながら説明をするエト。
そこには、有名プレイヤーの名前と異名が載っている。
その異名は――――
「【魔王】?物々しい異名だな」
「その子はこのゲームのプレイヤーで一番有名な子ね。まあ、本人はその異名を嫌がっているけどね…………」
「ん?メリーさん知り合いですか?」
「あー。――――ちょっとね」
そこで、視界にゲームのダウンロードが完了した知らせが来た。
『マスター、きたのです!』
視界の端に見えるアイコンの下に神星領域と書かれた新しいアイコンが増える。
リュウセイは、高揚で高鳴る胸を押さえながらアイコンにタッチした。
そのタイミングでエトはメリーにフロアの使用許可をもらう。
リュウセイの【アーク】とフロアの機器をリンクさせるために。
【ロスト・フォークロア】のオープニングをフロア全体に映せるようにした。
◆◇
それは、ひとつの星を全体からとらえたトコロからはじまった。
星のいたる所で光が瞬き、消えていく、そのひとつに視点が近づいていく。
それは、荒れ果てた大地で起きている戦いの光だった。
超常の存在と、姿かたちはそれぞれ違うがヒトだとわかるものたちが戦っている。
その姿や持っている武器から、文明は進んでないことが予想された。
ヒトたちは限りなく劣勢だが、その瞳は決して諦めていない。
超常の存在がもたらす壊滅的な一撃がヒトたちに迫る――――
というタイミングで場面は切り替わる。
次は、広大な海だった。
海から突き出る巨大な触手。
水平線上の先まで見える海面下の大きな影。
それに立ち向かう大量の砲を備えた木造大型船の艦隊。
船員の服や装備、船の技術からさきほどの文明よりかなり進んだようだ。
大砲と魔法を撃ちながら前へ出るが、触手によって次々と船は沈められていく。
たった一隻の大型船が光を纏いながら、船としては考えられない速度で直進する。
そこで海面が盛りあがり、山を飲み込むほどのアギトがその船に向かう。
船員は絶望するどころか咆哮をあげ、さらに速度を増す。
一番豪華な服を着た人物が船首に上がり、剣に極光を宿してアギトとぶつかる――――前にまた場面が切り替わる。
今度は空だ。
青空ではない、日が沈む黄昏時の空。
分厚い巨大な暗雲の先。
さらに大きな輪郭がぼやけた夜空色のナニカが
そのナニカから距離を取り飛空艇が周りを警戒するように旋回する。
空を浮かぶヒトもいるようだ。
日が沈むにつれナニカと空の色は同化して見えにくくなる。
しかし、ナニカの輪郭は逆に鮮明になってきている。
それは――――夜空色の鱗を持ったドラゴンだった。
ドラゴンが姿を現した時点で、飛空艇は攻撃に移った。
機銃の周りに魔法陣が輝き、想像以上の威力で撃ち出されていく。
空を浮かんでいたヒトも攻撃を開始した
だがドラゴンの鱗はすべてを弾く。
そして、ドラゴンからあふれた闇がすべてを覆い――――
そこで画面は引いていき、黒い結晶が現れる。
周囲にもさまざまな色の結晶が浮かび、ひとつづつゆっくり消えていく。
すべての結晶が消えた時、周りは真っ暗になった。
いや、奥のほうに光が見える。光がだんだん近づいていき。
【大人の男と7人のこどもが見え、振り向いたと思ったら消えた】
光の先には見知った街だった。
そう、アメノハラだ。
最後にゲームロゴが出てオープニングが終わった。
◆◇
「いやあ~……すごかったですね。情報量が半端ないです」
「そうよね~。この作り込みようは製作者のこだわりをかんじるわー」
【ニューロアーク】とリンクが切られたフロア。
興奮冷めやらぬまま感想を言い合うふたりだ。
「あの最後のほうに出てきたドラゴンって以前、大会で見たことありますけど、あれってオープニングに出るくらいに大物だったんですね」
「そうそう、あのドラゴンはまだひとりしか所持を確認されてない。レア中のレアね」
「そのあとの結晶が消えていくのも意味深ねでしたね」
「そうそう、あれは失われていく伝承を表現しているって考えられているわ。ほかにも、あのオープニングには謎が散りばめられてるから考察のし甲斐があるのよね」
「あー、たしかに。暗くなった後に出てきた、大人の男と7人のこどもとか完全に謎な存在でしたね」
「そうそ……え?」
『マスター、次はキャラクリエイトなのですよ』
「わかった。ちゃちゃっと終わらせようか」
リュウセイとメリーの会話にしびれを切らせたエトが割り込んできた。
離れていくふたりを見ながら彼女は考える。
「大人の男と7人のこども?そんなのいたかしら?」
その呟きはふたりには届かなかった。
◆
ゲームをプレイするには、そのゲームの中で活躍する自分の分身がいる。
それが、【アバター】だ。
これを作らないとゲームは始められない。
キャラクリエイトが苦手な人は適当に作るか、専用AIに自動作成を頼む。
リュウセイもこれが得意ではないので、専用AIに作ってもらおうとした。
もらおうとしたのだが――――
『じゃーんなのです!』
「エト、これはなんだ?……え?これが、オレのアバター…………?」
目の前には、作った覚えのないものがそこにあった。
見た目は、近未来を感じさせるフォルムに重厚感のある銀色の外装だ。
頭部にはバイザー付きのフルフェイスがつけられている。
表情は分からないが、バイザーの奥から鋭い眼光のような青白い光が漏れていた。
アメコミのヒーローみたいな外見のアバターがそこに存在していた。
リュウセイなキャラクリエイトに時間をかけるつもりはなかった。
だから、初めからAIによる自動作成を頼むつもりだったのだが、問題は――――
『はい!時代のベースを【近代】に設定にして、細部までこだわったエトの力作なのです。頑張りました!褒めてくれていいのですよ、えっへん!』
エトはリュウセイの様子に気付かないまま続ける。
『マスターとメリーおねえさんが話している間に作ったのですよ。そのわずかな間にここまでのものを作れるエトは、優秀なスーパーサポートAIなのです!』
「うん、たしかに出来はすごいし、かっこいいな。けどな――――これにいくら使ったんだ?」
目を逸らすエト。
キャラクリエイトにはいくつかの時代を設定することができる。
様々な時代の伝承を集めるゲームの性質上。
その時代ごとの服装や髪型のパーツなどを用意しよう、と運営は考えたらしい。
ついでに見た目にこだわるプレイヤ―の心理を利用して課金要素を追加しよう、と。
一番人気がない【古代】はほとんど課金要素がないが、【近代】は人気で一番課金要素が多かった。
『大丈夫なのです!本日の予算からは一円たりともオーバーしてないのですよ。メリーさんのお店で安く購入して浮いた分のお金もあったのですから!』
(ボソッ 予算は一円残らず全部使っちゃいましたけど)
「聞こえてんぞ!?このポンコツAI!見た目は強そうだけど、キャラクリに強さとかは影響しないんだぞ!」
『見た目は重要なのです!マスターはいずれ大きな舞台に立つ人なのです!そのときにそこらへんのAIが適当に作ったアバターなんて、かっこ悪くて笑われてしまうのです。そんなのエトは我慢できません!』
「お、おう……」
予想外の反論にたじろぐリュウセイ。
ほほえましいものを見たという顔で、メリーが間に入る。
「はいはい、そこまでよ。メインイベントが残っているんだから、じゃれあいはまた今度にしましょ。」
「メインイベントですか?」
「ええ、メインイベント――――【スタートガチャ】よ」
◆
【スタートガチャ】――――正式名を【アカシアの宝物殿への招待】。
【アカシアの宝物殿】
それはこのゲームすべての宝がそこに集まる施設。
アイテム・武器防具などの様々なものが収められている。
プレイヤーはここで対価を捧げることでランダムに宝を得ることが出来る。
――――という設定のガチャを引くためのシステムだ。
「初回は無料で十回引けて、次回からは有料よ。ランクによって手に入るものが変わって、対価の額も変わるわ」
「ガチャでですかー…………オレみたいな金のない学生にはきつくないですか?」
「ふふ、そんな嫌な顔しなくても大丈夫よ。対価ってのは現実のお金じゃなくて、ゲーム内通貨や引換券みたいなのでおこなわれるから」
「おー。それならいいかも――――ん?引換券みたいなもの?」
「アメノハラの街を【探索】していると、【神星の欠片】ってのが落ちているから、それを集めると対価代わりになるのよ」
「それは探索し甲斐がありそうです」
そこでメリーは何かを思い出したかのように説明を付け足す。
「あっ!あと、この【スタートガチャ】の当たり枠は【伝承石(G)】ね」
「【伝承石(G)】?」
「【ロスト・フォークロア】内の色んな物語が刻まれた石で、装備するとその石が内包する物語にちなんだ【スキル】を使えるわ。装備できるのは最大十個。Gは最下級ってことだけど、たまに未発見のものが出るわ」
「はー。覚えることが多いですね」
「そうね。じゃあ、つまらない説明はこのくらいにして楽しい【スタートガチャ】を引きましょうか」
『また、フロアとリンクするのです』
その合図とともに、また【ニューロアーク】とフロアとリンクさせた。
室内の景色は一変し、薄暗い通路の先に装飾された大きな扉が現れる。
ゆっくりと開いていく、その中は荘厳な空間であった。
宙に浮かぶ大小の様々な色づいた結晶、汚れのない真っ白な床。
その床には、様々な財宝が転がっている。
「この瞬間はいつ見てもドキドキするわね」
宙に浮かぶ小さな結晶だけが動き出しリュウセイの周りを回り始める。
この後の展開はメリーから聞いている。
小さな結晶が手元に来るからうけとるように、と。
結晶は回り続ける……まだ回り続けて……まだ……長くない?
あきらかに長すぎるそれは、そばで見守っているエトとメリーを心配にさせる。
このゲームでバグなどほとんど聞いたことがないメリーは、中断させて良いものか考えはじめた。
そこで変化が訪れる。
周りの結晶が消え、リュウセイの前に光りが集まっていく。
それは段々と形ができあがって、十個の無色結晶となって彼の前に出された。
「なんかイレギュラーがあったみたいですけど無事終わりましたね」
「見てるこっちはハラハラしたわよ。それよりも、あんな演出はじめてみたわ。
もしかして――――とんでもないレアだったりするのかしら」
『レアなのですか!?エトも見たいのです!』
「おお、レアだったらうれしいな!メリィさんどうですか?」
期待が高まり結晶の前に集まっていく。
リュウセイは二人に見えるようにメニューを操作した。
内容などの画面を見せていく。
そこには――――
・下級体力回復薬×2
・下級異常回復薬
・下級精神回復薬×2
・【遠見の鏡】 ――離れた場所の隠れたアイテムを映す。(使い捨て)
・【地図の欠片】 ――8枚集めると【伝承石】の場所を示す。
・【反逆者の銃】×2 ――武器カテゴリー・遠距離。
・【伝承石(G)】 ――【G級伝承:題名【星詠みの導き――――
そこまで見てメリーは少し落胆した。
最後の【伝承石】は数こそ少ないが【レコードブック】でも取り扱っている。
イレギュラーが起きたにしては結果が平凡。
しいて言えば、武器がダブるのが珍しいくらいか。
それをリュウセイに伝えようとふたたび画面に目を戻した。
「え?なに…………これ……?」
最後まで見たそれに、目を疑ってしまう。
【G級伝承:題名【星詠みの導き・真伝】】
真伝。
はじめて見るその表記に、このゲームのある言葉が思い浮かんだ。
『失われた【真実の伝承】を集め、塔を目指せ』
【真実の伝承】――――もしかしたら自分はとんでもない場面に立ち会ってるのでは?と、メリーは考えた。
―――――――――――――――――――――――――――――
ここでは本編に書ききれなかったプチ情報を書いていきます。
特に重要な情報は書いてないので読み飛ばしてもらってもOKです。
●【レコードブック】の従業員
このお店で働いてる人は店長のメリィしかいません。
単純作業やお客なんかは対応はすべてAIを搭載した機械がやってくれています。
この話でメリィがリュウセイの対応しているときは、1階にヒト型のホログラムをだしており、レジ・客の案内を任せていました。
どうしてもAIで対応できないときはメリィに連絡がいくようになっています。
店内スペースには商品もないので盗難の心配もありません。もし、商品があるバックヤードに押し入ろうとしたら、契約している警備会社の人がすっ飛んできます。
これはこの店だけではなく、アメノハラ全体がこんな感じです。
人材に悩まされないのはうらやましいですね。
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