第8話 神星領域:ロスト・フォークロア
9/24改稿済み
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【神星領域:ロスト・フォークロア】
それは、現実のアメノハラを舞台にしたゲームだ。
その設定は――――
とある噂話がアメノハラ市に広まるところから始まる。
曰く、『アメノハラには誰にも辿り着けない【塔】がある』
曰く、『それは地球のものとは違う。別の文明のものである』
曰く、『その文明は神々が住む星から来たものである』
曰く――――
『その【塔】にたどり着けば、神々が願いが叶えてくれる』
誰が言い出したのかも分からない馬鹿らしい噂話。
【塔】など、アメノハラを見渡してもどこにもそんなものはない。
通常ならそんな空想を垂れ流した話など誰も信じない。
それでも、アメノハラの住民はそこになにかがあるのは確信していた。
なぜなら――――
不可思議な現象が始まったからだ。
住人は誰もが夢の中で不思議な体験をする。
鎧を纏った騎士として悪鬼を討つもの。
怪しげな場所で魔法の研究しているもの。
異形の怪物となって人を襲うもの。
これらはただの夢として片付けられるものだ。
しかし住民が共通して夢の最後にある言葉を聞いた。
『失われた【真実の伝承】を集め、塔を目指せ。求めるものは全てそこにある』
夢から起きた住人たちは、自分たちの変化に気付く。
騎士の夢を見ていたものは、手に煌びやかな剣を持ち。
魔法研究の夢を見ていたものは、念じることで魔法を出し。
異形の怪物の夢を見ていたものは、怪物に変身する力を得た。
そして、街にも大きな変化が出ていた。
街の一部は夢で見たような光景に変わって怪物が徘徊していた。
夢で得た力で怪物を倒すと、怪物は綺麗な結晶の塊を落とす。
それに触れてみると情報が洪水のように流れてくる。
それはまるでひとつの【物語】のようだった。
すべてを見終わった時、さらに体から力が湧いてきた。
また、別の場所では、ステージで歌っていた歌手の前にも現れる。
この現象はあらゆる行動をきっかけに発生して、それが街のいたるところで現れたことで住民は理解した。
これが夢で語っていた、【伝承】なのだと。
これを、集めることによってなにが起こるのかは誰にもわからなかった。
それでも、人々はそれぞれの想いを胸に動き出す。
英雄に憧れるもの。
未知への挑戦に惹かれるもの。
富と名声に執着するもの。
元の平穏を望むもの
理由は様々だが、目指すべき場所はひとつ。
神々が住む星の領域となったアメノハラで人々は与えられた力をふるい。
失われた伝承を集め、塔を目指した。
こうして、アメノハラを舞台にした壮大な
「――――っていう設定のゲームなの!【神星領域:ロスト・フォークロア】は!!」
ここは【神星領域:ロスト・フォークロア】専門店【レコードブック】の一階。
その奥のスペースでひとりの女性が熱弁していた。
ゲームのPV(プロモーションビデオ)を大きな液晶ディスプレイに映して。
興奮気味に解説していたのが、
通称メリーさんだ。
「おおー、かっこいいです!このPVはじめて見ます!まるで映画みたいだ!」
「でしょ!最近、新規の人向けに新しく作られたの!とくにここのシーン!!ここが一番好きなのよね~。それとね――」
リュウセイの反応に気を良くしたのか、饒舌になるメリー。
どうやらメリーは、【神星領域:ロスト・フォークロア】オタクらしい。
先ほどから止まらない勢いで話している。
そこで、『彼女はなぜプレイヤーじゃなくて店を経営しているのか?』
それが気になって彼は質問してみた。
「私がこの店をはじめた理由はもっと【ロスト・フォークロア】で遊ぶ人を増やしたいと思ったからなの。二年前は私もいちプレイヤーとして遊んでたんだけど、そのころは今みたいにプレイヤー人口が多くなくてね」
「そうなんですか?今の状況から全然予想できないです」
アメノハラを歩いていれば【ロスト・フォークロア】に関連するものを見つけられない方が難しい。
「そうなのよ。今でこその人気だけど、当時は専用デバイスもまだ高価だったから敷居が高かったし、情報が少ないから新規の人が最初でつまづくってのもあったわね」
「このゲームにもそんな時代があったんですね」
「そうね。だから、そんな人たちをサポートしたくて、プレイヤー時代に稼いだお金でお店を作ったの。いい製品・情報を安く提供して、遊ぶ人を全力で応援したくてね。まあ、こんな土地にしかお店が建てられなかったから、いまの現状なんだけど…………」
そう言ってリュウセイは店の立地を思い出す。
大通りから外れた薄暗い路地裏の奥。
普通に歩いてるだけでは見つけるのは至難の業である。
「でも、私のお店は貢献できなかったかもしれないけど、ゲームは初期環境を乗り越えて流行ってくれた。それだけじゃないわ。今もなお、プレイヤーがたくさん増えてるのよ。ほんっと嬉しいわーーーー!」
「メリィさんはなんでそこまでこのゲームに思い入れがあるんですか?」
「う~ん?そうね~、はじめてやったXRゲームだとか、仲間たちとの思い出とか、いろいろ理由はあるけど――――」
一拍おいて恥ずかしそうに笑いながら口を開く。
「一番の理由は私がこのゲームを大好きだからかな」
そう語る彼女の笑顔はとても輝いていた。
リュウセイは素直に羨ましいと思う。
ここまで情熱を注げるものがあることを。
一方、その隣にいるエトはあまり関心を示していないようだ。
『メリーおねえさん、すこしだけ見ていかない?って言ったからついてきたのに、ずっとしゃべってるのです……エトのプランがパーなのです…………』
横でしょんぼりとするエト。
「まぁ、そう言うなよ。メリィさんは楽しそうだしさ。エトのプランはまた明日にでも行こうぜ」
『うぅ……仕方ないのです。今日は我慢するのです』
「それに、俺も興味があるし。こんなに熱く語る人を初めて見たからさ」
そこで我に返ったメリィが恥ずかしそうに咳払いをした。
それから仕切り直しとばかりに姿勢を正す。
「私ったら、つい熱が入っちゃったみたい。そういえば、まだ君たちの名前も聞いてなかったわね。」
「そうでしたね。オレは、一条リュウセイ。四月からこっちの高校に通います。それでこっちのちっこいのが――――」
『はい!エトの名前はエトって言うのです!名前の言えない某Xな大企業につくられた、最新型のスーパーAIなのです!』
「よろしくねリュウセイ君とエトちゃん。あとエトちゃん、名前の言えない某Xな大企業ってほとんど答え言ってるからね」
メリーはボソッと「見れば見るほどすごいわね、いったいどうやって……」とつぶやきながら、エトを観察している。
「メリーさん?」
「ハッ、またやっちゃった!ごめんなさいね、私ってば集中すると周りが見えなくなっちゃて…………ところで、リュウセイ君は【ロスト・フォークロア】に興味があるのよね?よかったらウチの商品を見ていってよ」
「……そういえば、【ロスト・フォークロア】専門店って言いましたけど、商品が店内に見えないですが……」
そう言われて店内を見渡す。
内装はキレイで清潔感があり明るい空間だった。
だけど、肝心の商品が見えない。
「ん~?【アーク】はつけてるから……カメラ関係の設定かな?」
『あっ……!さっき『フィルター』をかけたままにしてたのです。いま解除します!』
外の騒動の際、三人組の姿を仮想映像だと誤解したときに『フィルター』をかけたままにして忘れていたのだ。
そのエトの発言のあと、視界の景色は一変する。
鮮明な3Dオブジェクトで出来た室内装飾。
ゲームで使用する周辺機器、本棚のようなものまで現われた。
リュウセイは本日何度目かも分からない驚きを経験する。
説明では、展示されている3Dオブジェクトから商品を選んで購入する。
そうするとバックヤードにある商品が出てくるシステムになっていると言う。
その並んでいる商品の中には本日買う予定だったものまである。
リュウセイはその下に光るアイコンをタップしてみた
すると商品のスペックなどの情報が表示され、値段の情報を見て驚く。
「え、マジ!?エトが作った買い物リストのヤツよりも十%も安いぞ!?」
『本当なのです!?この値段で売ってくれるお店があるのです!?すごい優良店なのです!穴場なのです!!』
あまりの安さに二人ではしゃいでしまった。
その様子を見ていたメリーは自信満々に答える。
「そうでしょ、凄いでしょ!この価格にするために独自の仕入れルートを確保しているからね。他にも品揃え、品質はどれをとっても自慢できるレベルよ!こんな辺鄙な場所じゃなければもっと繁盛してると思うのだけどね。ふふん♪」
「すごいです!でも……こんなにいい店なのにお客さんがまったくいないのって…………さっき外で話した『悪い噂』に関係がある?」
『そういえば、エトが調べたときここは低評価の口コミが多かったのです』
「うぐっ……そ、それは~……」
店内には、リュウセイ・エト・メリーの他にさっきの三人組しかいない
メリィが目を泳がせ話にくそうにしていた。
そこで、ここまで黙っていた三人組のひとりが口を開く。
「姐さんに非なんてねぇよ!なにも知らねえ奴らが勝手に言ってるだけだッ!!」
他のふたりも同調するように頷く。
「なにもかも全部、あいつのせいじゃ――――」
「ストップ、そこまで。ここはゲームを扱う遊びの場だよ。そんな暗い話しちゃだめじゃん。ほら、するなら楽しい話をしよう」
優しい口調で止めるメリー。
その言葉にハッとして謝罪をする。
「すみません、姐さん」
「いいのよ。怒ってくれたのは嬉しかったから」
ゴブリンっぽい見た目の少年が、リュウセイの前にまで歩いてきた。
「一条っていったか?騒がしくして悪かった…………だけどこれだけは言わしてくれ、メリー姐さんはなんも悪くねえ。口コミはデタラメばかりだ。この店――――【レコード・ブック】は最高の場所なんだ」
そう言い残し、元の場所まで戻っていく。
メリーに嬉しそうな視線を向けられ照れたのか、耳が少し赤い。
その一連の流れを見ていたリュウセイはひとつの決意をする。
「最高の場所、か…………エト、わるい。明日のプランは無しにしてくれるか?」
リュウセイは、明日に行こうと決めていた予定の取り消しを提案する。
エトはすべて分かってるという顔で、微笑んでうなずいた。
『はい。エトはマスターのやりたいことをサポートするのが使命なのです。だから、マスターは気にせず自分のやりたいことをして下さい』
「ありがとな。ポンコツなとこもあるけど、ほんとうにお前は良いやつだな」
リュウセイの普段は鋭い目つきがやわらかくなる。
そして、エトの頭を撫で――――ようとして手がエトをすり抜けた。
かわりに、ホログラムを投影しているドローンをなでる。
『なにをやってるのですか…………エトに実体はないのですよ』
「いやあ……お前と話してると、たまにホログラムだってことを忘れるよ」
あきれた風にため息をつくエト。
それがまた人間ぽくて思わず笑みがこぼれる。
「えっと、リュウセイ君?もしかしてなんだけど、今の話の流れって…………」
「はい。ここでゲームの登録をしようと思います」
その言葉に、メリーはパァッと笑顔になる。
「いいの!?こんな潰れる寸前の店でも登録してくれるの!?」
「あ、やっぱり潰れそうなんですか?」
「だ、大丈夫よ!まだまだもつから!――――あと半年は」
『それは結構ヤバいのでは?』
「うっ……やっぱり、やめとく?」
今までの明るい雰囲気は消え、自信なさそうに目を逸らすメリー。
「大通りの店のほうがサポート充実してるし。もしウチで登録しても潰れたらサポートが出来なくなる…………それなら最初から大通りの店で登録したほうがいいよ」
「いえ、それよりもせっかく出来た
「それに?」
「オレもここがいい店だと思うので。なのでここで登録お願いします」
笑顔でそう答えるリュウセイに、メリーもうれしくて笑みを浮かべてしまう。
「ありがとう。――――新しい【語り手】の誕生を当店は心より歓迎いたします」
メリーは微笑みながら恭しい姿勢で礼をした。
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ここでは本編に書ききれなかったプチ情報を書いて行きます。
特に重要な情報は書いてないので読み飛ばしてもらってもOKです。
●普通のAI
本作の普通のAIは人間っぽくしゃべったりしますが、そこには温かみはなく会話を続けていると違和感を覚え、これはAIだな、と大抵の人は気づきます。
今回、メリーが疑問に思ったのはエトの会話に違和感を覚えなかったからです。
仕事上たくさんのAIを見たり情報を集めている彼女だからこそ、その異常性に気づいています。
ちなみにリュウセイはポンコツだけどすごいAIだなー、ってくらいにしか思っていません。
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