第一章 チュートリアル~星たちの物語~

第6話 一級フラグ建築士


9/24改稿済み

 ―――――――――――――――――――――――――――――


「――――はぁ~、いやー凄かったな!さっきの試合!」


「うんうん!野良試合なんて話で聞いたことがあるだけだったから、実際見れてラッキーだヨ!」


「あれが【】ってやつなのか?」


『いえ、あれはデモンストレーションの模擬戦ですね。新入生が入ってくる時期ですから、ああやって【神星領域:ロスト・フォークロア】をアピールして、新規ユーザーを増やそうとしてるのです。今回は企業じゃなくてプレイヤーが主体みたいです』


「そんなことしなくても勝手に増えそうだけどネ」


 試合が終わり、人がまばらになってきた。

 それでも、リュウセイの住んでいた地元と比べものにならないくらい人がいる。

 行き交う人は多いし、人種も多種多様な人が歩いている。

 観光客らしき外国人は現地人に負けないぐらい多い。

 彼は、目の前の人口密度に圧倒されながらも、興奮を抑えきれないでいた。



「これがアメノハラか……すげえ!【アーク】をつけるだけで景色がまったく違う!」



 【ニューロアーク】が見せる景色にリュウセイは感嘆の声をあげる。

 現実世界に仮想の景色をプラスしたその景色に。


 先ほどの手汗握るストリートファイト。

 近未来的なビル群には木々が生えて緑豊かな街並みなっており。

 建物は洋風なレンガ作りの建物、中には木造に見えるものもあった。

 車道にいたっては地面がアスファルトではなく、石畳になっている

 道行く人たちは、ファンタジーなオプションパーツをつけており。

 なにもつけていないリュウセイが目立つくらいだ


 なによりも違ったのは空だ。

 小型の飛行船のようなものが、広告をつけて飛び回り。

 なによりドラゴンが空を飛んでいる。

 まるで異世界のような光景だが、これら全てが仮想映像だ。


【仮想都市】の名前に恥じないその景色。

 リュウセイは目を輝かせ、キョロキョロしながら楽しそうにはしゃぐ。

 それを微笑ましく見ながら、ミズキは言う。


「感動するのはいいけど、まずやることがあるデショ?」


 興奮して辺りを見回すリュウセイの肩を叩きながら注意を促す。


『そのとおりなのです!感動的な【エト劇場】の感想を求めるのです!「エトさんすごい!」、「さすが超高性能な最新型のサポートAI!」、そんな感想をプリーズなのです!』


「その言動で台無しだよ……。まぁ、そうだな。正直、感動した。ありがとな、エト」


『マスター…………!』


「エトちゃんのれ言はほっとくヨ」


『ミズキおねえさんひどいですっ!エトのスピーチでワクワク、ドキドキしなかったのですか!?』


「警備の人がとんでこないか、別の意味でドキドキしたヨ」


 エトは目を逸らした。

 超高性能な最新型のサポートAIさんは、後先のことを考えてなかったらしい。


「ともかく、まずは新居に移動するヨ」


 ミズキの家族は、アメノハラ市内の新しい家に一足はやく引っ越している。

 リュウセイは、学校の寮に住むことになっている。

 けど、今日は一緒にミズキの新居で祝おう事になっているのだ。


 普段のリュウセイなら、そのままミズキの家にお邪魔していた。

 だけど今日は――――そう考えていたとき、一台の車が近づいてきてた。


「やあ、久しぶり」


 運転席から出てきた壮年の男性は、爽やかな笑顔をむけてきた。

 グレーの髪をうしろにに撫でつけ、スーツを着こなしている。

 アゴにヒゲが生えているが不潔さは感じない。

 ひとめで、欧米人だとわかるその顔は、彫りが深い。

 目尻にシワがあって実年齢はそこそこいっているだろう。

 その人物は――――

 

「親父さん、お久しぶりです」


「お父さん、迎えにきてくれたノ?連絡はまだしてないけど……」


 ミズキの父親のルークだ。


「いやあ、また家族でいっしょに暮らせると思ったら、居ても立ってもいられなくてね。ミズキちゃんが電車に乗った時間から予測して、近くをウロウロしてたんだよ」


「不審者ムーブはやめてよ……職質されるお父さんをもう見たくナイ…………」


 過去になにかあったようだ。


「リュウセイ君も、久しぶり。【スターロード】の調子はどうだい?ちょくちょく、使用の感触やデータなんかを送ってもらってたけど、ちゃんと使えてる?不具合とかない?」


「全然大丈夫です。むしろ良すぎるくらいです。【スターロード】を貸してくた親父さんには感謝しかないですよ」


「そうかぁ……不具合はないかぁ……」


 リュウセイは感謝を伝えたが、ルークの様子がどこかおかしい。

 そこで、以前から感じていた疑問を聞く。


「そういえば、これを使い始めて随分たちますが、これの製品化の情報がぜんぜんでてこないんですけど、なにか問題が?」


「ああ……うん、実はね――――」


 ルークは言いづらそうに、【スターロード】に問題があることを教えてくれた。

 曰く、一番の特徴である、サポートAIシステムに、致命的なバグがあるらしく、その問題を解決するために、製品化は見送られているとのこと。


『ちょっと待ってください!それってどういうことですか!?エトにバグなんてないのですよ!?』


「うん、そうだね。なぜか君だけは正常に動いているんだよね。君はからかな?それに、これは――――本当なら、本社に連れていって調べたい……」


 その言葉に、リュウセイの顔色が変わる。

 それを察して、ルークが言葉をつづけた。


「心配しなくても大丈夫だよ。上からそのまま使ってくれって、言われてるんだ。ウチでテストしたものが全滅したからねぇ……だから、別の方法で成功している君たちに、会社が関与することで問題がおこることを避けているのさ。」


「じゃあ――――」


「ああ、データは送ってもらうけど、それ以外はこれまで通り普通にすごしてくれ」


 リュウセイはその言葉を聞き胸をなでおろした。

 そこでミズキが話にはいる。


「話がすんだのなら、新居にいこうヨ~」


 待ちくたびれたミズキはもう車に乗っていた。

 ルークも運転席に座り、リュウセイを誘ったが――――


「スミマセン。ちょっと街を見て回りたくて…………あとで伺うので」


「ああ、いいよ。この街は面白いものでいっぱいだからね。ゆっくりしておいで。家の位置はデータで送っておくから、遅くなる前にくるんだよ」


「え~、りゅーこないの?」


「わるい。ちょっと街を歩きたいんだ」


「仕方ないナー。ただし、なにかあったら連絡すること。か・な・ら・ず・するようニ」


 なぜか念押しされることに疑問におもいながら、リュウセイは返事をする。


「ん?よく分からないけど、了解」


『ミズキおねえさん、またあとでなのですよー!』



 離れていく車に、エトは手をふった。

 そうして、ミズキたちとわかれたリュウセイたちは人が多いほうに歩いていく。

 車の中では、先ほどのやり取りをみていたルークは、苦笑した。


「ミズキちゃん。もしかして、まだリュウセイ君は……」


「トラブルによく巻き込まれるヨ。そういう星の下に生まれてるみたいに…………なにもなければいいけど…………」



 そのセリフは完全にフラグだった。




 ◆




 リュウセイは物珍しそうにまわりを見ながら、エトに質問する。


「そういえばエト、駅の中で『これより先は、神々がお住まいになる星の領域~』って、言ってたけど、あれはどういう意味だったんだ?」


『それはですねー。アメノハラ駅周辺が、【神星領域:ロスト・フォークロア】の世界観を再現したエリアになってるからですよ。【アーク】をつけて、はじめてあの駅を降りた人が見る風景が異世界のような街ですから、新世界の入り口って、呼ばれてるのですよ』


「え、そうなのか!?たかが、いちゲームの世界をあんな大規模に再現したのか!?」


『マスターは考え方が古いのですよ。たかが、ゲームと思われていたのは、もう昔の話なのです。いまではXR(クロスリアリティ)ゲームの普及によって、世間の認識は大きく変わっているのです』


 エトは語る――――


 XRゲームの普及率は先進国で八割を越えている。

 幅広い世代で楽しまれるとともに、eスポーツも盛んにおこなわれており。

 大規模な世界大会で活躍する人気のプロ選手は、年俸何十万ドルも稼いでいる。

 それにあこがれ、なりたい職業ランキング第一位なのだという。


 そして数あるゲームの中で、【ロスト・フォークロア】は別格なのだと。

 他のXRゲームの追随をゆるさない圧倒的な

 仮想映像だと忘れるほどの迫力に、多くの人が引き込まれる。

 一番大きな大会は、国内外の放送で高い視聴率を叩きだしていた。

 そこで輝かしい活躍する選手は、全プレイヤーのあこがれの存在だ。


 VR空間を除いて、現実のアメノハラでしかプレイできないゲーム。

 しかし、これだけをプレイするために国内外からたくさんの人が集まる。

 なので、集客ために一部地域をゲームの世界に変えるくらいのことはするらしい。


「はぁ~……ある程度はわかっていたけど、【ロスト・フォークロア】って、予想以上にすごいんだな」


『マスターって、受験に集中するためにゲームの情報を断ってたから、いろいろと知識不足ですね……ところで、けっこう歩いたですが、目的地はあるのです?』


「いや、特に決まってないな。ゲームのデバイスが売ってる店とかは気になるけど…………」


 そこでエトはなにか聞いて欲しそうな顔をしてソワソワしていた。


「どうした、エト?」


『こんな時こそのサポートAIなのです!実はこんなこともあろうかとあらかじめ調べておいたのです!口コミ・価格・立地の総合評価で、もっとも高評価の店をピックアップしたのですよ!』


「興味はあるけど、今から行って商品を選んでたらミズキの家に行くのが遅くならないか?」


 太陽はもう真上まで昇って少し傾き始めている。


『それもご心配なくっ!マスターの予算から考えて、買うべきものリストを作ってるのです!それを選べばすぐに買い物なんて終わります!』


「おお、いつになく優秀だな!」


『えっへんなのです!最短ルートも割り出してるのです!』


「そうだな、そこまで言うならいくか!


『はい!がない限り、問題ないのです』



ふたりはせっせと立派なフラグを建築していた



 ◆



 薄暗い路地の裏。

 へたり込む女の子。

 それを囲む怪しい男たち。

 通りすがりのリュウセイ。

 


「…………まじか」



 こうしてリュウセイたちの長い一日が始まった。


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