第2話 星へと至る道

9/23改稿済み

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【仮想都市】アメノハラ。

 最先端のXR(クロスリアリティ)技術をあらゆる場所に惜しみなくつぎ込んでおり、現実と仮想が融合した都市になっている。

 中学三年で受験を控えてる少年は、この都市に心を奪われて。

 祖母に【仮想都市】アメノハラへの進学をお願いしたのだが――――



「はぁ?ダメに決まってんだろうが。起きたばっかなのに寝言を言ってんじゃねーよ」


「ばあちゃん!?かわいい孫がこんな真剣に頼み込んでんのにひどくない!?」



 朝早くに起きて、祖母に頼み込んだが一蹴されてしまった。


 少年の名は、一条リュウセイ。

 天然パーマで目つきだけは鋭いが、勉強とスポーツは可も無く不可も無くという、どこにでもいる普通の少年だ。


 リュウセイの目の前にいるのは、祖母の一条マナ。

 リュウセイの両親が亡くなった時に引き取ってくれた人である。

 年齢は60越えたぐらいだが、見た目は30代前半にしか見えない。

 小さな護身術の道場を開いて、趣味で知り合いに教えている。

 ちなみに、リュウセイも小さい頃から護身術を習い、この話のあとは稽古だ。


「だれがかわいい孫だ。大体お前、【アメノハラ】がある場所は……」


 そこで言葉を止めて、考え込むように顎に手を当てた。

 嫌なこと思い出すように目を細め、眉間にしわが寄る。


「ばあちゃん、どうしたの? 」


 リュウセイが心配になり声をかけると――――


「いんや。なんでもねえ」


 と、首を横に振って誤魔化した。

 何かあるのだろうが、リュウセイは深くは聞かないことにする。

 今までTVやネットで【仮想都市】の話題が出るたびに、マナが険しい顔をしていたことに関係あるのだろうと察したからだ。

 リュウセイも、マナのそんな様子からその情報を避けてきて、世界の話題の中心と言っても過言でない【仮想都市】のことをほとんど知らなかった。


 両親の顔を覚えてないリュウセイにとって、マナはたったひとりの大事な家族だ。

 不快になるような話題は避けたい。

 でも、頭からあの日のことが離れない。

 あこがれを捨てられない。

 だから――――



「ばあちゃんゴメン。ばあちゃんが【アメノハラ】をよく思ってないことはわかってる。理由は知らないけど話したくないのもわかってる。」


 それでも……と続ける。


「どうしても行きたいんだ。頼むよ、ばあちゃん」


 そう言って誠意を示すために頭を下げる。


「…………」


 無言の時間が流れる。


 頭を上げたリュウセイの目に入ったのは、やわらく微笑んでるマナの姿だった。

 そして、彼女は口をひらき――――



「今日の稽古、いつもの三倍だ」



 地獄が始まった。




 ◆




「おはよーございまーす。師匠ー、りゅーいますデスー?」


 リュウセイの家に併設された道場に声が響く。

 扉を開けて顔をのぞかせるのは、この道場に通うリュウセイの幼馴染みで友人。

 

 如月きさらぎミズキ。

 ハニーベージュ色のウェーブしたショートボブの髪型に、くりっとした碧眼の小柄な少女だ。


 母親が日本人、父親がアメリカ人のハーフ。

 一時期は海外に住んでいたせいか、語尾が独特。

 愛嬌があり元気いっぱいで無邪気そうに見えるが、けっこう腹黒い。

 マナが護身術を教えている生徒のひとりだ。


「おう、おはよう。今日は遅かったな」


「申し訳ないデス。ちょっと野暮用があって……、なので、学校サボっ……休んで稽古頑張るデス!」


「いや、ちゃんと学校に行け。勉強しろ。お前、今日は稽古なしでいいぞ。今日はリュウをしごかなきゃいけねえからな。いつものメニュー三倍だ」


「さ……さんばい……」


 ミズキは普段のきつい稽古を思いだし顔を引きつらせる。

 その返事に彼女が先日、リュウセイを【仮想都市】に連れ出したことを思い出す。

 彼がマナを気遣って、その話題を避けていることは知っている。


 それでも、ミズキは幼馴染にあの街の凄さを知ってほしかった。

 世界には、こんな輝くような場所があるのを伝えたかった

 それを知らないのはもったいないと。

 それに――――



 ミズキは【仮想都市】に進学する予定になっている。

 進学したら、地元で受験するつもりのリュウセイとは別の道を歩むことになる。


 小さい頃から一緒に育ってきた仲。

 自分の性格の悪さを知っても変わらずに接してくれる親友と離れてしまう。

 それを寂しいと思ってしまったミズキは、あの街の良さを伝え。

 あわよくば、彼の進学先を変えられないかと考えてしまった。


 それは、少し魔が差した程度の考え。

 本来の目的は、親友とあの街で楽しむことだった。

 進学先を変えるなんて二の次、三の次である。

 それに頑固な側面がある親友はそう簡単に意思は変えないと思っていた。

 なのに――――


 予想外に成功してしまった。

 大成功すぎてリュウセイのテンションがヤバかった。


 ミズキは外面がよく、大多数の人からいい子だと思われている。

 けど、自分の本性は結構ひん曲がっていることを自覚していた。

 それでも、大事な親友を操るようなマネをしたいと思うほど腐ってはいない。

 だから、ミズキは自分のしたことを後悔した。

 謝らないと――――そう思い、も用意している。



「あれ?そういえば、りゅーはどこに?」



 視線を巡らし床の隅の方を見ると――――

 そこには、汗だくで息も絶え絶え、ボロぞうきんのようなリュウセイがいた。


「え? ちょ!りゅー大丈夫!?」


 慌てて駆け寄り声をかけると、リュウセイは力なく右手を上げて親指を立てた。


「へへ……だいじょうぶさ……オレ、この稽古がおわったら…………【アメノハラ】に行くんだ…………」


「なに死亡フラグ立ててるノ!? それと今日は学校があるから【アメノハラ】には行けないって!」


 そう言いながらも、リュウセイが冗談を言えるぐらいなら平気なのかなと思いほっとした。


「じゃあ、稽古は終わりにするから学校行ってこい。」


「え? これで終わり? ばあちゃん、ありがとう!」



 喜んだのもつかの間



「残りは帰ってからだ」


「あ、うん。そうだよね……」



 一瞬にして絶望した。




 ◆




「その……りゅー、ごめん……」



 登校途中にしょんぼりしたミズキに謝られたことにリュウセイは、操作していた年期を感じさせる旧型情報端末の液晶画面から目を離した。



「ん? なんか謝られることあったか? 」


「わたしが、【アメノハラ】に誘ったせいで進路が変わったり、師匠に怒られてたりしたカラ…………」


「ああ、それのことか。別に気にすることはないだろ。むしろ誘ってくれたことに感謝だ、感謝」


 そう言ってリュウセイは笑みを浮かべた。


「それにしても、りゅーホントに変わったネ。前は、『進学先考えるのめんどくせー』って言ってたノニ」


「そりゃあ、あんなもん見せられたら人生変わるって!ばあちゃんも理解してくれればいいのになー…………」


「んー……師匠はやっぱり反対してタ?」


「いや……話をはぐらかされた……問答無用で稽古させられた」


「あー…………」


 マナが話を逸らしたということは、話すつもりはないのだろう。

 ミズキは、これ以上の詮索はやめた方がいいと感じ、話題を変えることにした。


「ところでさっきからなにを見てるノ?」


 そう聞かれたリュウセイは、旧型情報端末の液晶画面をミズキに見せた。

 そこには、先日アメノハラで見たゲームの紹介がしてあった。


『いま話題のゲーム【神星領域:ロスト・フォークロア】!』


『現実と仮想が交わるアメノハラ市を舞台に、失われた星の伝承は紡がれる』


『 未知なる世界への冒険を、最新デジタル技術が実現させる新時代の物語!』

 と見出しが出ていた。


 記事には、ゲームの世界観。

 その舞台であるアメノハラのことが事細かに書かれている。

 動画もあってそれを再生する。

 


 そこにはファンタジーやSFのような戦闘。

 街中を歩いて探索をしてアイテムを見つける場面。

 プレイヤーズイベントやアバターを使ってのパフォーマンス。

 遊び方は無限大と紹介されてる。

 最後に、先日行った【大型イベント】の光景が映し出され――――


「いつかはおれも――――」


 動画を視聴していたリュウセイは呟く。

 そのまなざしはあまりにも真剣だった。

 それを見ていたミズキは、リュウセイに協力することに決めた。


「わたしも協力するヨ!アメノハラの事で聞きたいことがあれば、いくらでも教えるカラ!」


 そう言った彼女は、耳の後ろにつけたオレンジ色の情報端末デバイスを起動させ。

 周りにたくさんのアメノハラの情報が載ったデジタル映像を空中に浮かべた。


「はぁ~……こないだ貸してもらったけど、アメノハラ製の最新デバイスってすっげーな。どういう仕組みで動いてるのかさっぱり分からん。この画面なんでオレにも見えるんだ?」


「なんか近くに居る相手の網膜に直接投影させるとかなんとかって、お父さんが言ってタ。これでもすごいけど、アメノハラ外だと通信技術なんかが違いすぎて、性能を充分に発揮できないらしいケド」


 ミズキの言葉を聞きながら、リュウセイは改めて技術の進歩に感動した。


 リュウセイの目標には最新型ではないにせよ。

 それなりにスペックのある情報端末が必要で、そういったものは総じて高価だ。

 一介の中学生には手の届かない価格である。

 リュウセイの目指す場所はまだ星のように遠かった。


「は~、いいなー。それだけ性能が高いやつ持ってるの、クラスでミズキだけだろ」


「ふふ~ん。これが大企業で働く父を持つ娘の特権なのデス」


「親父さん、そんな高価なものを…………娘に甘すぎだろ」


 リュウセイはミズキの最新デバイスを羨ましく見ている。

 そんな彼を見て、ミズキはニマッっと笑う。



「そんな物欲しそうに見ているりゅーにサプライズ!きっと気に入るヨ!」



 ミズキはカバンからひとつの高級そうな黒い箱を取り出す。

 そして、それをリュウセイに差し出した。

 彼はその箱に刻まれた会社のロゴを見て目を見開いた。


 その会社を知らない者などいない。

 世界最高峰のXR(クロスリアリティ)技術を保有する大企業の【Xクロス・Road】。

 二重になったXRのロゴは最先端の技術を惜しみなく注ぎ込んだ製品の証だった。

 震える手で開けたその中身は――――



 【Xクロス・Road】製ウェアラブルデバイス 【ニューロアーク】。



製品名――――【 Star Road  type proto 】



 星にすこしだけ近づいた気がした。

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