神星領域:ロスト・フォークロア ~超高性能な最新型のポンコツサポートAI【エト】と一緒にテッペンをめざします!~
ココカラ ハジメ
プロローグ~物語をはじめましょう~
第1話 星に手を伸ばして
◆◇
『現実は退屈ですか?』
『現実は窮屈ですか?』
『現実は苦痛ですか?』
『現実は醜いですか?』
『現実に可能性は無いですか?』
『いいえ』
『現実は驚きに満ちてます』
『現実は果てがないほど広大です』
『現実は楽しいことに溢れています』
『現実は言葉に出来ないほど美しいです』
『現実の可能性に限りはありません。無限大です』
『綺麗事に聞こえますか?』
『もし疑うかたがいましたらこちらの街へお越し下さい』
『【新世界】があなたのご来訪をお待ちしております』
"アメノハラ市 広報より一部抜粋"
◆◇
「はやく!はやく!もう始まってるヨ!」
「待てって!お前に貸してもらったデバイスの設定が難しいんだって!」
「そんなの、【AI】が自動で調整してくれるカラ!」
「そうなのか?最新のデバイスってすげーな」
とある街の最先端技術をつめ込んだ広大なスタジアム。
その中にある長い通路をふたりの影が走っていた。
貸し出された慣れないウェアラブルデバイスの設定に四苦八苦する少年。
そんな少年を友人が急かしながら通路を駆け抜けていく。
「せっかく人気イベントの席が取れたのに、遅れるってどういうコト!?」
「ここ人混みが凄くて迷うんだよ!なんだよこの規模!地元が恋しいぞ!」
「あんな田舎と比べなイ!ここは――――」
友人の言葉は、観客席に続く通路からもれる歓声にかき消される。
観客席に行くための扉を開くと、そこには――――
熱狂する観客、鳴りひびく歓声、大気が震えるほどの轟音。
そして――――
現実とは思えない幻想的な光景が広がっていた。
物語で語られるような有名な生物、ドラゴン・巨人・ゴブリン。
SFに出てくるような、カラクリの身体を持つ大型の機械兵。
アニメでしか見たことがない豪華な武装をした戦士や魔法使い。
そんな、物語から抜け出したかのような存在たちが戦いを繰り広げていた。
【現実世界】に【仮想世界】を重ね合わせて実現させた【新世界】の光景。
それは、まるで異世界に迷い込んだかのようだ。
「なんだ……これ…………」
少年はその光景に目を奪われる。
いま見ているのは、とあるゲームの大規模eスポーツ大会。
少年はこのゲームに興味はなかった。
世界的に有名とは噂で知っている。
見たことはないけど、なんとなくスゴイのだろうなと予想していた。
だけど、まさかここまでとは思わなかった。
少年の想像のはるか上を超えていた。
まるで現実に本当に存在しているように見える精巧な映像。
まるで現実でおこなわれているような臨場感のある音声。
まるで現実の出来事のような肌を刺す緊張感、匂いさえ感じる。
それが、耳の後ろにつけた小さなウェアラブルデバイス。
その機械から体に、五感に、情報として伝えてくる。
「ほら、ボーっとしてないで席に行くヨ」
「あ、ああ…………」
友人に注意されながらも少年はその光景から目が離せないでいた。
技術の進歩に感動し、今までの人生で体験したことがない高揚感が体を巡る。
そして、まばたきを忘れるほど目の前の光景に魅入っていた。
「なあ…………これのゲーム名ってなんだっけ?」
「……それ、ここに来る前に言ったヨ?興味がないから聞き流してたデショ?」
「あ~…………わるい。右から左に話が抜けてた」
「このッ……!……まあ、いいけド。いまは興味あるみたいダシ。三度目は言わないからネ?このゲーム名は――――」
【神星領域:ロスト・フォークロア】
いまもっとも人気のあるゲームだ。
「【神星領域:ロスト・フォークロア】…………」
「『失われた伝承』って意味らしいヨ。それより試合を観ようヨ」
「わるい、わるい。」
スタジアムの中では撮影用のドローンが飛びまわり。
撮影した映像が、空中のホログラムスクリーンに映し出される。
映像の中では――――
ドラゴンのブレスと魔法使いの魔法が空中でぶつかり合い。
巨人の大地を割るが如き拳の一撃を戦士が剣ではじき返す。
機械兵による弾幕にゴブリンの軍勢が
流れ弾が少年の居る観客席前まで飛んできて――――
見えない壁にぶつかったようにハジけた。
仮想での出来事とはいえ、観客は絶叫マシンに乗ったような悲鳴を上げる。
その様子はみんな楽しそうだ。
それは少年と友人も同じようで楽しそうに声を上げている。
「すげえーーーーーーー!!!」
「ヒャーーーーーーーー!!!」
次第に一体、一体と舞台から姿を消し、光の粒子へと還っていく。
そして、それは試合の終わりが近いことを教えてくれる。
舞台に残るは夜空のような鱗に覆われた巨大なドラゴン。
それに対峙するのは赤銅の肌に燃え盛る髪を持つ巨人。
一瞬の静寂。
そして――――轟音とともに激突した。
そこからは言葉に表すことが出来ない。
ただただ凄まじいまでの力のぶつかり合いが始まる。
それは、まるで神話の一ページのような光景だった。
長い攻防が続き、そして――――戦いの終わりが訪れる。
ドラゴンの放った全霊を注いだ一撃が、巨人を撃ち抜いた。
巨人の巨躯がひび割れていき――――膨大な光の粒子を溢れさせ、爆散した。
ドラゴンの勝利の咆哮がドーム内に響き渡る。
夜空の鱗に光の粒子をあびる様は、まるで星空のようだ。
会場中から割れんばかりの拍手と、ファンファーレが響き渡り。
激戦を制した勝者を称えた。
そして、その主役であるドラゴンと選手の少女が表彰台へ向かう。
「そういえば、これって人が操作してるんだった」
「そりゃそう。NPCバトルじゃあないんだカラ」
ここで初めて少年は、その少女の存在を知った。
とても綺麗な少女だ。少年と同じくらいの年頃だろうか?
その外見はアニメから抜け出したかのような格好だ。
黒と白が混ざる長い髪に、頭には黒い片角のようなアクセサリー。
所々に鎧を着けた黒を基調としたドレスに禍々しい外套を羽織った姿。
まるでラスボスのような格好だ。
友人に聞けば、あの姿は仮想映像を本人に重ねたものと言っていた。
表彰式がはじまり彼女以外の選手も集まっていた。
激戦の健闘をたたえる者。
不甲斐ない結果に自分自身に腹を立てている者。
一歩及ばずに悔し涙を流す者。
楽しかった!と満面の笑顔でいる者――――皆様々な表情を浮かべていた。
「選手のみんな…………なんかすごいな…………」
そんな彼・彼女らは姿は少年には輝いて見えた。
こんなにも一生懸命になれるものがあることを羨ましくて。
もし叶うのなら自分もこの舞台に――――
そう思わずにはいられないほど、その光景は少年にとってはまぶしかった。
表彰式が終わる。
でも、興奮冷めやまぬ観客達はしばらくその場に残り、他の観客たちとの 会話を楽しんでいた。
「わるい。オレちょっと体を動かしたい気分だから、走って帰る。今日は誘ってくれてありがとうな。本当に楽しかった!」
「走って帰る!?ここから地元までどんだけ離れてと思ってるノ!?!?あ、待て。おーーーい――――」
少年はすぐに帰ると言い出し、借りていたデバイスを返してその場を離れた。
友人はそんな少年を引き留めようとするが――――もう遅い。
少年は制止の声を振り切り走り去ってゆく。
その顔には笑みがあった。
少年は帰路を走った。
ひたすらに走った。
少年の実家は今いる場所から足を使って戻るにはかなり遠い場所にある。
それでも、今は興奮を少しでも発散させるために走り続けた。
どれだけ走ったか分からないが日はもう落ちている。
息が上がり足は限界まで疲労して動かない。
空を見上げれば夜空には星が輝いて。
今日の試合を少年は思い出した。
自然と空の星に手を伸ばして、ひらいた手を―――
握りしめた。
決意する。
いつかあの輝くような舞台に出ることを。
あの舞台に立つことが困難なのは少年でも知っている。
今の少年には見上げた先にある星のように遠い場所だ。
どれだけ頑張っても届かない場所かもしれない。
それでも諦めるつもりはない。
届く、届かないはもう関係ない。
燃えるような想いが止まる選択肢を与えない。
再び、空の星に手を伸ばして強く握る。
少年は願う。
この願いが届くようにと。
この願いが叶えられるようにと。
この日を境に、少年――――
◆
「ばあちゃん、お願いします! オレ、【仮想都市】の学校に進学したい!」
「はぁ? ダメに決まってんだろうが」
…………始まるかな?
―――――――――――――――――――――――――――――
9/23改稿済み
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