[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

３９．釣り

■３９．釣（つ）り

　ラニアを迎（むか）えに行（い）く。

　まず草（くさ）を確保（かくほ）した俺（おれ）たち3人（にん）は、ドリドン雑貨店（ざっかてん）に出向（でむ）いた。

「ドリドンさん、あのさ、釣（つ）り竿（ざお）ある？　できれば人数（にんずう）分（ぶん）」

「あぁ、確（たし）かあっちの奥（おく）に、ほらあるある」

「やった」

「釣（つ）り竿（ざお）か、魚（さかな）でも釣（つ）るのか？」

「他（ほか）に何（なに）に使（つか）うんよ」

「そりゃそうだな、あはは」

　もうドリドンさんったら。

　ということで、本日（ほんじつ）の目的（もくてき）は釣（つ）りだ。

　たまには魚（さかな）も食（た）べたい。

　アジとかサバが恋（こい）しいというのもあるが、そういう大（おお）きな魚（さかな）は無理（むり）だ。

　海（うみ）がないし。

　この世界（せかい）の川（かわ）にも魚（さかな）がちゃんといる。

　この辺（あた）りは川（かわ）の水（すい）質（しつ）も悪（わる）くなく、泥臭（どろくさ）くもないから食（た）べられるだろう。

　街（まち）の中（なか）では数人（すうにん）いるらしい漁師（りょうし）が捕（と）ってきた魚（さかな）が一部（いちぶ）で食（た）べられている。

　メルバドル魚料理（さかなりょうり）店（てん）という有名店（ゆうめいてん）があるのだ。

　スラム街（がい）の住人（じゅうにん）である俺（おれ）はメニューまでは存（ぞん）じていないが、美味（おい）しいらしいとは聞（き）いている。

　自分（じぶん）で取（と）ってくれば、高（たか）い魚（さかな）を買（か）わなくてもいい。

　自給自足（じきゅうじそく）はこの異世界（いせかい）では節約（せつやく）ポイントなのだ。

　日本（にほん）では専門（せんもん）職（しょく）の人（ひと）に大量（たいりょう）に処理（しょり）してもらったほうが結果的（けっかてき）に量産（りょうさん）効果（こうか）で安（やす）くなったりするが、異世界（いせかい）ではそうでもない。

　農家（のうか）しかり、漁師（りょうし）しかりなのだ。

　お肉（にく）やお魚（さかな）も自分（じぶん）でとってくれば丸儲（まるもう）けと。

「お買（か）い上（あ）げありがとうございました」

「ドリドンさん、ありがとう」

　こうして釣（つ）り竿（ざお）と疑似餌（ぎじえ）を手（て）に入（はい）れて、トライエ市（し）のすぐ南側（みなみがわ）を流（なが）れるメルリア川（がわ）に行（い）く。

　ここは以前（いぜん）、ミーニャときゃっきゃうふふの水浴（みずあ）びをしたところだ。

　河川敷（かせんしき）にはノイチゴがまだたくさん残（のこ）っている。

　これも近々（ちかぢか）採（と）りに来（き）たいのだけど、今日（きょう）は魚（さかな）だ。

「んじゃそういうことで」

「エド、よくわかんない！」

「簡単（かんたん）、簡単（かんたん）！　釣（つ）り竿（ざお）持（も）って、糸（いと）の先（さき）を水（みず）の中（なか）に入（い）れるだけ」

　俺（おれ）が自分（じぶん）の竿（さお）で実演（じつえん）してみせる。

　ミーニャとラニアもそれを見（み）て、恐（おそ）る恐（おそ）る真似（まね）をする。

　流（なが）れはそれほど急（きゅう）ではない。

　ゆったりした川（かわ）に釣（つ）り糸（いと）が垂（た）れていた。

「釣（つ）れないよ？」

「ミーニャ、そんなすぐ釣（つ）れないって、待（ま）つんだ。待（ま）つのが基本（きほん）だから」

「そうなんだ、わかった！」

　こうしてみんなで釣（つ）りをする。

　今日（きょう）も空（そら）には小型（こがた）のワイバーンが偵察（ていさつ）飛行（ひこう）をしているのが見（み）える。

　あれは北（きた）の山（やま）を住処（すみか）にしていて、縄張（なわば）りの見回（みまわ）りをしているのだ。

　猫（ねこ）が近所（きんじょ）を歩（ある）いて回（まわ）るのに似（に）ている。

　ワイバーンはそんなにかわいいものではないけど。

　もっと近（ちか）くでは鳥（とり）も飛（と）んでいく。

　なんの鳥（とり）なのかはよくわからない。

　エッグバードでないのは確（たし）かだ。

　ビクンビクン。

「おっ、きた」

「にゃぁああ」

　俺（おれ）の竿（さお）がヒットする。

　隣（となり）で見（み）ていたミーニャがびっくりして声（こえ）を上（あ）げた。

　引（ひ）きはそこまで強烈（きょうれつ）ではない。

　でも糸（いと）を引（ひ）っ張（ぱ）っていて、今（いま）までの平和（へいわ）が嘘（うそ）のようだ。

　手作（てづく）り感（かん）満載（まんさい）の異世界（いせかい）のリールを巻（ま）いて糸（いと）を手繰（たぐ）る。

　最後（さいご）に竿（さお）をピッと立（た）てると、糸（いと）がビューンと伸（の）びて魚（さかな）が水面（すいめん）から上（あ）がってくる。

「おぉおっ、お魚（さかな）。お魚（さかな）ついてる！」

「お魚（さかな）さんですね」

　こうして俺（おれ）が最初（さいしょ）の一（いっ）匹（ぴき）を釣（つ）り上（あ）げた。

　いつものあれ。鑑定（かんてい）タイム。

【メッシーマス　魚（さかな）　食用（しょくよう）可（か）】

　うむ。マスだからサケの仲間（なかま）だろう。

　サケと呼（よ）ぶときは海（うみ）へ行（い）って戻（もど）ってくるタイプ。

　マスは川（かわ）で一生（いっしょう）を過（す）ごすグループの名称（めいしょう）だ。

　長（なが）さは20cmくらいか、そこそこ大（おお）きいと思（おも）う。

「すごい、すごいにゃ」

　ミーニャが大興奮（だいこうふん）。

　猫（ねこ）獣人（じゅうじん）みたいだが、確（たし）かエルフだったよな。

　顔（かお）を見（み）てみるも、うん、耳（みみ）が尖（とが）っているエルフだ。

　口（くち）はω（おめが）の形（かたち）になっていて、よだれを垂（た）らしそうなのはいつも通（どお）り。

　やはり前世（ぜんせ）は猫（ねこ）か猫（ねこ）獣人（じゅうじん）だったのだろう。

　記憶（きおく）がなくても性質（せいしつ）を継（つ）いでいるように見（み）える。

「こんな感（かん）じで、人数（にんずう）分（ぶん）は釣（つ）らないとな」

「うんっ」

「はい。えいえい、おう！」

　さてまた釣（つ）り糸（いと）を垂（た）らして、通常（つうじょう）モードへ戻（もど）る。

　また平穏（へいおん）だ。特（とく）に何（なに）もしない。

　竿（さお）は常（つね）に手（て）で持（も）っているので、内職（ないしょく）ができないのが少（すこ）し残念（ざんねん）だ。

　とにかくこんな感（かん）じで、みんなで釣（つ）りをして、そこそこの数（かず）の魚（さかな）が釣（つ）れた。

　みんなメッシーマスだった。

　理由（りゆう）はよくわからないが、他（ほか）の魚（さかな）は釣（つ）れなかった。

　餌（えさ）の種類（しゅるい）、というか疑似餌（ぎじえ）なんだけど、その大（おお）きさとか季節（きせつ）とかいろいろあるのかもしれない。

　家（いえ）に帰（かえ）ってくる。

　ラニアも一緒（いっしょ）に、お昼（ひる）ご飯（はん）としよう。

　魚（さかな）の腹（はら）側（がわ）にナイフを入（い）れて内臓（ないぞう）を取（と）ってしまう。

　アイテムボックスだから傷（いた）んではいないが、内臓（ないぞう）が食（た）べられるかよくわからないし寄生虫（きせいちゅう）とかも怖（こわ）いので、安全（あんぜん）を考（かんが）えて取（と）り除（のぞ）く。

　異世界（いせかい）は自己（じこ）責任（せきにん）なので。

　よくアユなんかは内臓（ないぞう）が一番（いちばん）おいしいという人（ひと）もいる。

　さて最低限（さいていげん）の下（した）ごしらえはこれだけだ。

　魚（さかな）の串焼（くしや）きといきたいが、魔道（まどう）コンロはそういうふうにはできていない。

　フライパンに並（なら）べて塩（しお）を振（ふ）って焼（や）いていく。

　じゅわあ。

　いい匂（にお）いがしてくる。

　ミーニャが鼻（はな）をひくひくさせている。

　やっぱり前世（ぜんせ）は猫（ねこ）獣人（じゅうじん）だろう。

　ラニアも目（め）を丸（まる）くして、注目（ちゅうもく）してくる。

　今日（きょう）はメッシーマスのハーブ焼（や）きだ。

　生臭（なまぐさ）いとイヤなのでハーブ系（けい）の香草（こうそう）を少（すこ）し入（い）れた。

　野生（やせい）の香草（こうそう）だがなかなかいい匂（にお）いがして、侮（あなど）れない。

　味（あじ）つけはシンプルに塩（しお）となっている。

「いただきます」

「「いただきます」」

　みんなで並（なら）んでメッシーマスを食（た）べる。

「美味（おい）しい、これははじめて食（た）べる！」

　ミーニャは平常（へいじょう）運転（うんてん）だ。

　みんなも美味（おい）しいと言（い）ってくれた。