[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

３５．ゴブリンズ

■３５．ゴブリンズ

　金曜日（きんようび）。

　今日（きょう）も教会（きょうかい）の鐘（かね）で起（お）きる。

　転生（てんせい）の記憶（きおく）に目覚（めざ）めてからもう少（すこ）しで三（さん）週間（しゅうかん）か。

　朝（あさ）ご飯（はん）を食（た）べて、今日（きょう）はまた森（もり）へ行（い）こうと思（おも）う。

「ミーニャ、今日（きょう）は森（もり）ね」

「はいにゃ」

　相変（あいか）わらず金髪（きんぱつ）ストレートが美（うつく）しい。

　そろそろ服（ふく）を買（か）ったほうがいいな。

　あと防具（ぼうぐ）。

　ラニアの家（いえ）に寄（よ）って確保（かくほ）する。

「ラニア、今日（きょう）は森（もり）ね」

「はい」

　どこかで聞（き）いたような台詞（せりふ）を再（ふたた）び告（つ）げて、移動（いどう）開始（かいし）だ。

　本日（ほんじつ）はゴブリン討伐（とうばつ）隊（たい）の気分（きぶん）だ。

　討伐（とうばつ）隊（たい）の騎士（きし）の有志（ゆうし）一同（いちどう）は、スラム街（がい）をRPGのキャラのごとく出陣（しゅつじん）パレードする。

　もちろん見（み）ている人（ひと）はほぼいない。

　魔法（まほう）の杖（つえ）と剣（けん）を持（も）っているから、ちょっと目立（めだ）つけど、あまり気（き）にされていない。

　寂（さび）しい。

　切（き）り株（かぶ）の草原（そうげん）に着（つ）いたので、ちょっとだけ今日（きょう）の分（ぶん）の野草（やそう）を収穫（しゅうかく）する。

「よし、いよいよ森（もり）だね」

「「はい」」

「ミーニャ、いつものよろしく」

「はいにゃ」

　ミーニャが真剣（しんけん）な顔（かお）になり、俺（おれ）たちはそれに相対（そうたい）する。

「ラファリエール様（さま）、私（わたし）たちをお守（まも）りください」

　ミーニャがそう言（い）ってから右（みぎ）、左（ひだり）、右（みぎ）と手刀（てがたな）で聖印（せいいん）を切（き）る。

　何回（なんかい）かやっているし、慣（な）れたものだ。

　なんとなく神聖（しんせい）な気分（きぶん）になるから、不思議（ふしぎ）だ。

「さて、エクシス森林（しんりん）を探検（たんけん）します」

「「はーい」」

　ここの森（もり）、一応（いちおう）名前（なまえ）があってエクシス森林（しんりん）という。

　だいたいは単（たん）に森（もり）と呼（よ）んでいるけど、他（ほか）と区別（くべつ）したりしたいときにはそう言（い）う。

　街道（かいどう）はエルトリア街道（かいどう）という。よくわからないけど、エルダニアとトライエの合成語（ごうせいご）らしい。

　旅（たび）をすることになったら、聞（き）きかじることもあるかもしれない。

　ほどよい日陰（ひかげ）の森（もり）の中（なか）を進（すす）む。

　大（おお）きなハート形（がた）の葉（は）っぱがある。

「おっと、サトイモ発見（はっけん）」

【サトイモ　植物（しょくぶつ）　食用（しょくよう）可（か）】

　うん。サトイモだ。

　実（じつ）は地球（ちきゅう）にはサトイモっぽい葉（は）っぱでも毒（どく）イモ、クワズイモなどがある。

　だから油断（ゆだん）は禁物（きんもつ）だ。

　サトイモは在庫（ざいこ）切（ぎ）れになるところだったので、うれしい収穫（しゅうかく）だった。

　そのまま北（きた）へ進（すす）む。

　今度（こんど）は倒木（とうぼく）の根本（ねもと）に、キノコが生（は）えていた。

【ウスベニタケ　キノコ　食用（しょくよう）可（か）】

　薄（うす）ピンクのヒラタケのようなキノコだ。

　色（いろ）は微妙（びみょう）だけど、食（た）べられるらしい。

「キノコですね」

「これも食（た）べられるらしいよ」

「食（た）べられるんだ、楽（たの）しみ」

　2人（ふたり）とも美味（おい）しいキノコを食（た）べた経験（けいけん）上（じょう）、ヨダレが出（で）そうな顔（かお）をしている。

「味（あじ）はわかんないけどね」

「そう、ですか」

　そのまま、チェックポイントの青（あお）リンゴの木（き）を通過（つうか）。

　この木（き）はこの前（まえ）、傷（いた）んでいるもの以外（いがい）を採（と）ってしまったので、もうリンゴはほとんどなっていない。

　前回（ぜんかい）ゴブリンが出（で）てきたところにも、ほど近（ちか）い。

「なんか魔物（まもの）の気配（けはい）を感（かん）じます」

「そう、なの？」

「はい」

　青（あお）髪（かみ）のラニアがそう言（い）う。

　物理的（ぶつりてき）な気配（けはい）ではなく、おそらく魔力（まりょく）的（てき）なものだと思（おも）う。

　魔法（まほう）が得意（とくい）というマギ族（ぞく）には、そういう魔力（まりょく）感知（かんち）的（てき）なスキルがあるのかもしれない。

「私（わたし）もなんとなく、不穏（ふおん）な気（き）を感（かん）じるような気（き）がする」

　ミーニャも真剣（しんけん）な顔（かお）をしていた。

　聖女（せいじょ）とか巫女（みこ）に近（ちか）いミーニャたちエルフも、やはり何（なに）か感（かん）じるらしい。

「ギギ」

「グギャギャ、ギグ」

　ゴブリンの鳴（な）き声（ごえ）だ。

　すぐに草（くさ）むらをかき分（わ）けて、ゴブリンが出（で）てきた。

　今回（こんかい）は鉢合（はちあ）わせではなかった。

　その数（かず）4匹（ひき）。多（おお）い。

　ミーニャを下（さ）がらせて、俺（おれ）とラニアが剣（けん）と杖（つえ）を構（かま）える。

　俺（おれ）だって、空（あ）き時間（じかん）に剣（けん）の素振（すぶ）りを続（つづ）けている。

　少（すこ）しは成長（せいちょう）した、はずだ。

「おりゃあああ」

　先頭（せんとう）のゴブリンにこちらから斬（き）り掛（か）かる。

　ゴブリンは余裕（よゆう）だと思（おも）っていたのか、不意（ふい）を突（つ）かれたらしく、右肩（みぎかた）辺（あた）りに深（ふか）く突（つ）き刺（さ）さった。

「ギャアアア」

　ゴブリンが泣（な）き叫（さけ）ぶが、俺（おれ）は冷静（れいせい）に剣（けん）を引（ひ）く。

　残（のこ）りの3匹（ひき）はいきなりの攻撃（こうげき）に、てんてこ舞（ま）いになっていた。

　ばた。

　先頭（せんとう）のゴブリンはそのまま泡（あわ）を吹（ふ）いて倒（たお）れた。

　まずは1匹（ぴき）だ。

「燃（も）え盛（さか）る炎（ほのお）よ――ファイア」

　冷静（れいせい）にラニアが魔法（まほう）を唱（とな）えて、向（む）かって右側（みぎがわ）のゴブリンに火球（かきゅう）が命中（めいちゅう）する。

「ギャイヤア」

　火（ひ）に包（つつ）まれて、どうすることもできないまま2匹（ひき）目（め）が倒（たお）れる。

「ギャッギャギャ」

「ギャギャ」

　残（のこ）りのゴブリン2匹（ひき）がようやく棍棒（こんぼう）を構（かま）えて、防御（ぼうぎょ）姿勢（しせい）を取（と）った。

「私（わたし）だって活躍（かつやく）するんだもん」

　ミーニャが魔法（まほう）の杖（つえ）、聖杖（せいじょう）を叩（たた）きつける。

　ゴブリンは一応（いちおう）防御（ぼうぎょ）したものの、棍棒（こんぼう）ごと叩（たた）きつけられて、かなりのダメージのようだ。

　そこへ俺（おれ）が追撃（ついげき）の剣（けん）を振（ふ）り下（お）ろして、斬（ぎ）り裂（さ）いた。

「ギャアア」

　悲鳴（ひめい）を上（あ）げたものの、なすすべもなく3匹（ひき）目（め）が倒（たお）れた。

「凍（い）てつく氷結（ひょうけつ）よ――アイス」

　そして4匹（ひき）目（め）が防御（ぼうぎょ）体勢（たいせい）をしていても、魔法（まほう）は防（ふせ）げない。

　氷結（ひょうけつ）の魔法（まほう）で氷（こおり）の塊（かたまり）が直撃（ちょくげき）して、そのままお亡（な）くなりになった。

　俺（おれ）たちの圧勝（あっしょう）だ。

「お、終（お）わったのか……」

「はい、エド君（くん）、私（わたし）たちの勝利（しょうり）です」

「勝（か）ったにゃ、勝（か）ったにゃん」

　ラニアとミーニャがよろこんで、抱（だ）き合（あ）っている。

　そのまま二人（ふたり）が俺（おれ）のところに来（き）て、俺（おれ）まで抱（だ）き着（つ）かれる。

　温（あたた）かくて、いい匂（にお）いがする。

　肉付（にくづ）きはあんまりよくないけど、ちょっと柔（やわ）らかい。

「エド強（つよ）くなった！」

　まあウサギのときは逃（に）げられてたからな、俺（おれ）。

　今回（こんかい）は、ちゃんと攻撃（こうげき）を当（あ）てられた。

　進歩（しんぽ）ではなかろうか。

　ゴブリンにナイフを使（つか）って、胸（むね）の魔石（ませき）を回収（かいしゅう）する。

　そういえば、レベルっぽいものも上（あ）がった気（き）がする。

　なんとなく、強（つよ）くなったような感覚（かんかく）がある。

　レベルまたは経験（けいけん）値（ち）システムはあるのかもしれない。表示（ひょうじ）されていないだけで。