[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

３４．ノイチゴ

■３４．ノイチゴ

　木曜日（もくようび）。

　今日（きょう）も朝（あさ）ご飯（はん）を食（た）べたら出発（しゅっぱつ）だ。

　ミーニャを連（つ）れ、スラム街（がい）を抜（ぬ）けて草原（そうげん）の様子（ようす）を見（み）に行（い）く。

「お、やっぱり、なってる、なってる」

　草原（そうげん）にはぽつぽつと間隔（かんかく）を空（あ）けつつ、赤（あか）い実（み）がなっていた。

【ノイチゴ　植物（しょくぶつ）　食用（しょくよう）可（か）】

　二（に）週間（しゅうかん）前（まえ）はまだ白（しろ）い花（はな）だった。

　それが一斉（いっせい）に実（み）になろうとしている。

　まだ完熟（かんじゅく）になり始（はじ）めで、今日（きょう）あたりからしばらく収穫（しゅうかく）できそうな感（かん）じになっている。

　問題（もんだい）はスラム街（がい）の草原（そうげん）は、子供（こども）たちの縄張（なわば）りであり毎年（まいとし）ノイチゴだけは、みんなで採（と）って食（た）べるという習慣（しゅうかん）があることだった。

　このノイチゴを集（あつ）めてジャムにすれば、かなり儲（もう）かる。

　しかしみんなに声（こえ）を掛（か）ければ、ジャム作（づく）りが露見（ろけん）するし、代金（だいきん）の分配（ぶんぱい）も必要（ひつよう）だ。

　勝手（かって）に自分（じぶん）だけで採（と）れば大（だい）顰蹙（ひんしゅく）を買（か）うことは間違（まちが）いない。

　ということで切（き）り株（かぶ）のある草原（そうげん）は諦（あきら）めようと思（おも）う。

　しかしどういうわけか、抜（ぬ）け道（みち）があった。

　それは道（みち）を渡（わた）った川岸（かわぎし）の平地（へいち）にも、草原（そうげん）ほどではないけど、ノイチゴはなっているということだ。

　子供（こども）たちは食（た）べたいには食（た）べたいが、そこまでして採（と）りに行（い）くほどでもないということなのか、なぜかこちら側（がわ）の分（ぶん）は基本（きほん）スルーしている。

「ひっそりと川岸（かわぎし）の平地（へいち）のノイチゴを集（あつ）めます」

「はーい」

　そうと決（き）まればラニアを迎（むか）えに行（い）こう。

「ラーニーアーちゃーんー」

「は、はーいっ」

「川岸（かわぎし）でノイチゴを集（あつ）めてジャムにします。子供（こども）たちにバレないように、そそくさと」

「わ、わかりました」

　ということでスラム街（がい）を通（とお）って街道（かいどう）を渡（わた）り、南側（みなみがわ）の川岸（かわぎし）へ。

「なってる、といえば、なってるね」

　確（たし）かに草原（そうげん）ほどたくさんはなっていない。

　しかし集（あつ）めればかなりの数（かず）になるのは間違（まちが）いない。

　切（き）り株（かぶ）の草原（そうげん）より、川岸（かわぎし）のほうが広（ひろ）い。

　前世（ぜんせ）のおかげで、算数（さんすう）は得意（とくい）だ。

　心（こころ）の中（なか）でそろばんをはじいた。

　一（ひと）つのイチゴの低木（ていぼく）に到着（とうちゃく）。

　さっそく摘（つ）んでいく。

　一（いっ）か所（しょ）に何個（なんこ）もなるので、一度（いちど）見（み）つけるとそれなりに採（と）れる。

　また次（つぎ）のイチゴの株（かぶ）に移動（いどう）、摘（つ）んでいく。

　合間（あいま）にタンポポ草（そう）なども採取（さいしゅ）しつつ、どんどん集（あつ）めた。

　潰（つぶ）れる前（まえ）にミーニャとラニアの分（ぶん）を定期（ていき）回収（かいしゅう）する。

「はい、エド」

「エド君（くん）、どうぞです」

「ありがとう」

　別（べつ）に俺（おれ）が貰（もら）うわけではないけど、なんとなくお礼（れい）を言（い）う。

　ミーニャは俺（おれ）によろこんでもらえるのをよろこびとしているので、すごくうれしそうだ。

　ラニアも多少（たしょう）なりとも、そんな感（かん）じはある。

　お金（かね）になるというのも、これが集（あつ）まればジャムになるというのも、うれしいのだろう。

　赤（あか）とオレンジのノイチゴが大量（たいりょう）に集（あつ）まった。

　色（いろ）は違（ちが）うけど、一緒（いっしょ）にしてしまう。

　午前中（ごぜんちゅう）ぎりぎりいっぱい、今日（きょう）の分（ぶん）は集（あつ）め終（お）わった。

　かなり採（と）れたと思（おも）う。

　アイテムボックスも残（のこ）り容量（ようりょう）も減（へ）っている。

「はい、ミーニャ、ありがとう、終（お）わりにしよう」

「うにゃあ」

「ラニア、ありがとう。終（お）わりだよ」

「はいです」

　それぞれ声（こえ）をかける。

「家（いえ）に帰（かえ）ってお昼（ひる）を食（た）べたら、ジャムにしよう」

「やったっ」

「楽（たの）しみです」

　いやあやっぱりジャムは格別（かくべつ）だ。

　しかも美味（おい）しいのはわかっている。イチゴだもんね。

　ストロベリーじゃなくてラズベリーに近（ちか）いけれど、イチゴジャムとパンとの相性（あいしょう）は前世（ぜんせ）でも保証（ほしょう）済（ず）みといえる。

　家（いえ）に帰（かえ）ってきて、いつものように野草（やそう）のお昼（ひる）ご飯（はん）にする。

「さて、ジャムを作（つく）ります」

「はーい」

「いよいよですね」

　イチゴを鍋（なべ）に投入（とうにゅう）。少量（しょうりょう）の塩（しお）、水（みず）を加（くわ）える。

　イチゴのいい匂（にお）いがする。

　赤（あか）いイチゴの色（いろ）がおいしそう。

「「（ごくり）」」

　二人（ふたり）とも我慢（がまん）できないという顔（かお）をして、見（み）てくる。

　まだ早（はや）い、もうちょっとだ。

「完成（かんせい）！」

「「わーい」」

　いつの間（ま）にかパンを用意（ようい）している。

　ナイフで切（き）ってあげる。

　そして薄切（うすぎ）りにしたパンにイチゴジャムを塗（ぬ）って、一口（ひとくち）。

「「おいしー」」

「お、うまいじゃん」

　なかなか。ほどよい甘（あま）さ。ちょっとの酸味（さんみ）がまた美味（おい）しさを引（ひ）き立（た）てる。

　このバランスが素晴（すば）らしい。

　あと匂（にお）い。イチゴのいい匂（にお）いがいっぱいだ。

　やっぱりジャムといえばイチゴ。イチゴといえばジャムなのだ。

　俺（おれ）は二人（ふたり）がまだ食（た）べたそうにしているのを尻目（しりめ）に、次（つぎ）のイチゴジャムの作成（さくせい）にかかる。

　そうしてイチゴジャム第（だい）一（いち）弾（だん）が完成（かんせい）した。

　ビン詰（づ）めもしてドリドン雑貨店（ざっかてん）に向（む）かった。

「ドリドンのおっちゃん、おっちゃん」

「お、なんだエド」

「イチゴ、ジャム」

「お？　確（たし）かにそろそろそんな時期（じき）だが、子供（こども）のおやつだったろ」

「そうなんだけど、川岸（かわぎし）のほうは採（と）らないから」

「なるほど。それでいくつだ？」

「20、ですね」

「味見（あじみ）は？」

「あるよ」

　俺（おれ）は味見（あじみ）用（よう）のイチゴジャムを渡（わた）す。

　さっそく売（う）り物（もの）の黒（くろ）パンを薄切（うすぎ）りにすると、奥（おく）さんを呼（よ）び出（だ）した。

　パンにジャムを塗（ぬ）る。

　食（た）べる。

「美味（おい）しいわ」

「美味（うま）いな」

　奥（おく）さんもドリドンさんも、味（あじ）には満足（まんぞく）のようだ。

「問題（もんだい）は値段（ねだん）だな。ブドウよりも俺（おれ）は好（す）きだ」

「私（わたし）もそうかもしれないわ」

「6,000ダリル、手取（てど）り5,000ダリルでいいか？」

「いいよ」

　俺（おれ）は二（ふた）つ返事（へんじ）をする。ブドウと同（おな）じだった。

　もっと高（たか）くても売（う）れるだろうけど、素人（しろうと）の砂糖（さとう）なしの値段（ねだん）としては、これぐらいが限界（げんかい）かもしれない。

「では、販売（はんばい）よろしくお願（ねが）いします」

「おお、まかせろ」

　ドリドンさんと腕（うで）を突（つ）き出（だ）すポーズで、お互（たが）いの健闘（けんとう）を称（たた）えて別（わか）れた。

　さてどうなるかな、イチゴジャム第（だい）一（いち）弾（だん）。

　そう、これは第（だい）一（いち）弾（だん）なのだ。

　まだ収穫（しゅうかく）前期（ぜんき）で、もう1回（かい）か2回（かい）は作（つく）れる。お金（かね）は倍（ばい）ドンだ。

　もちろん、ラニアにもひとビン渡（わた）した。