[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

２８．見張り山

■２８．見張（みは）り山（やま）

　引（ひ）き続（つづ）き火曜日（かようび）、午前（ごぜん）中（ちゅう）。

　森（もり）に入（はい）る直前（ちょくぜん）でいつものようにミーニャに声（こえ）を掛（か）ける。

「神様（かみさま）へのお願（ねが）い、祝福（しゅくふく）よろしくミーニャ」

「あ、はい」

　三（さん）人（にん）が向（む）き合（あ）い、ミーニャが真剣（しんけん）な顔（かお）で祈（いの）る。

「ラファリエール様（さま）、私（わたし）たちをお守（まも）りください」

　シュパシュパッと右（みぎ）から左（ひだり）、左（ひだり）から右（みぎ）へと手刀（てがたな）で、聖印（せいいん）を切（き）る。

　祝福（しゅくふく）完了（かんりょう）だ。

　いつもは森（もり）が深（ふか）くなる北（きた）へ向（む）かうが、今日（きょう）は東（ひがし）に向（む）かう。

　森（もり）に入（はい）ると、山（やま）そのものは木（き）で見（み）えない。

　森（もり）に入（はい）り平地（へいち）を進（すす）む。

　しばらく進（すす）むと突然（とつぜん）、登（のぼ）り坂（さか）になってくる。

「ここから見張（みは）り山（やま）だね」

「そうだね」

「初（はじ）めて来（き）ます」

　山（やま）ったって100メートルだ。

　登（のぼ）るのはだるいが、これくらいは余裕（よゆう）だろう。

　ここには街道（かいどう）からの登山道（とざんどう）があるので、道（みち）なりに進（すす）む。

　ぐるぐる回（まわ）って、上（うえ）まで行（い）くようだ。

　一角（いっかく）ウサギ、はいるかなぁ。

　お肉（にく）が欲（ほ）しい。

　別（べつ）に干（ほ）し肉（にく）も悪（わる）くはないが、たまには違（ちが）うものが欲（ほ）しい。

　経験（けいけん）もしたい。

「エド、あれっ、ウサギ」

「お、お出（で）ましか」

　一角（いっかく）ウサギだ。

　普通（ふつう）のウサギより大（おお）きい。倍（ばい）くらいある。

　色（いろ）は茶色（ちゃいろ）。

　『鑑定（かんてい）』

【(名前（なまえ）無（な）し)

　2歳（さい）　オス　F型（がた）　一角（いっかく）ウサギ

　Eランク

　HP147/152

　MP102/129

　健康（けんこう）状態（じょうたい）：A(普通（ふつう）)

】

　俺（おれ）たちより健康（けんこう）じゃん。

「キュピキュピ」

　お、鳴（な）いた。わりとかわいいが、こいつはお肉（にく）なので。

　モンスターなので。

「ラニア」

「はい。燃（も）え盛（さか）る炎（ほのお）よ――ファイア」

　火球（かきゅう）がウサギめがけて飛（と）んでいく。

「グニャア」

　イチコロではないですか、ラニアさん。

「はい一撃（いちげき）」

「そ、そうだな」

「すごいね」

　ウサギちゃんは目（め）を回（まわ）しているようだ。

　すでに倒（たお）れて動（うご）かないが、俺（おれ）が剣（けん）でとどめを刺（さ）すと完全（かんぜん）に死亡（しぼう）した。

　さすがにレベルアップはないか。

「よっし、まずは一（いっ）匹（ぴき）、収納（しゅうのう）」

　こういうとき、アイテムボックスは信（しん）じられないほど便利（べんり）だ。

　お肉（にく）を、ゲットしたぞ。

　引（ひ）き続（つづ）き、山登（やまのぼ）りを再開（さいかい）する。

　内心（ないしん）すでにクエストクリアの気分（きぶん）だ。

　ギルドのクエストはオマケで、お肉（にく）確保（かくほ）がメインといってもいい。

「キュピ」

「お、また出（で）たわ」

「そうだな」

「どうしますか？」

「俺（おれ）が剣（けん）で倒（たお）す！」

　たまには勇者（ゆうしゃ）の雄姿（ゆうし）を見（み）るがいい。

　剣（けん）を振（ふ）る、くぅ、ウサギちゃんは回避（かいひ）する。

　なかなかすばしっこい。

「まだまだぁ」

　剣（けん）を振（ふ）る、シュパパパーン。

　あっさりかわして、大（だい）ジャンプ、逃（に）げていく一角（いっかく）ウサギ。

「逃（に）げちゃったね」

「逃（に）げていきました」

　二人（ふたり）から突（つ）っ込（こ）まれてしまった。

「す、すまん」

「いいよぉ」

「別（べつ）に、大丈夫（だいじょうぶ）ですよ」

　優（やさ）しいねぇ、うれしい。

　さて気（き）を取（と）り直（なお）して、再（ふたた）び登（のぼ）っていく。

　坂（さか）が思（おも）ったより急（きゅう）できつい。

「ウサギっ」

「はい」

「ラニアよろしく」

「凍（い）てつく氷結（ひょうけつ）よ――アイス」

　ババンッと氷（こおり）の塊（かたまり）が飛（と）んでいき、ぶち当（あ）たる。

「ピギャア」

　ウサギちゃんは倒（たお）れて動（うご）かなくなった。特（とく）にとどめも要（い）らなそう。

「じゃあ、南無三（なむさん）、収納（しゅうのう）」

　二（に）匹（ひき）目（め）ゲット。

　ラニアしか戦（たたか）っていないじゃないか、とかいうのはなしね。

　ミーニャについては、杖（つえ）で殴（なぐ）るしかできないし。

　俺（おれ）に至（いた）っては、剣（けん）を持（も）ったばかりですよ。

　さて登（のぼ）るか。

「もう少（すこ）しだと思（おも）う」

「頑張（がんば）ろう！」

「そうですね」

　余裕（よゆう）のパーティー。

　冒険（ぼうけん）はやっぱりこうでないと。

　山（やま）を登（のぼ）っていく。

　と、いきなり木（き）がなくなり、平坦（へいたん）になってきた。

「やった山頂（さんちょう）だわ」

「登（のぼ）りきったのですね」

「ふぅ」

　一息（ひといき）いれる。

　山頂（さんちょう）の中央（ちゅうおう）には平屋（ひらや）の小屋（こや）と、二階建（にかいだ）ての見張（みは）り台（だい）の高（たか）い床（ゆか）が見（み）えている。

　見張（みは）り台（だい）の上（うえ）には二人（ふたり）いて、こっちを見（み）ている。

　軽装（けいそう）だけど胸（むね）に騎士（きし）団（だん）の紋章（もんしょう）、トライエ騎士（きし）団（だん）だ。

「こんにちはぁ」

「どうしたあ、坊主（ぼうず）たちいぃ」

　挨拶（あいさつ）をすると大（おお）きい声（こえ）で呼（よ）びかけてくる。

「お手紙（てがみ）の配達（はいたつ）に来（き）ました」

「お、珍（めずら）しいな、こんな小（ちい）さい子（こ）が」

「えへへ」

　降（お）りてきて、出迎（でむか）えてくれた。

　小屋（こや）からも一人（ひとり）出（で）てくる。

　全員（ぜんいん）若（わか）い二十（にじゅう）代（だい）の隊員（たいいん）だろう。

「はい手紙（てがみ）です。それからこっちが物資（ぶっし）です」

　この任務（にんむ）では手紙（てがみ）と一緒（いっしょ）に物資（ぶっし）の運搬（うんぱん）もあるのだ。

　ちょろまかすことがないように、ギルド員（いん）専用（せんよう）のクエストとなっている。

　物資（ぶっし）の中身（なかみ）は黒（くろ）パン、干（ほ）し肉（にく）、飲料（いんりょう）水（すい）、ドライフルーツ。

　ドライフルーツは今（いま）はオレンジとリンゴだね。

「お、わりいな」

「それから、僕（ぼく）たちからのおすそ分（わ）けです、ブドウジャムです」

「ジャムか、そりゃあいい、でもいいのか？　こんな高（たか）いもの」

「いいんです。砂糖（さとう）不（ふ）使用（しよう）なので。早（はや）めに食（た）べてください」

「悪（わる）いな」

「いえ、その代（か）わり、一角（いっかく）ウサギの解体（かいたい）を教（おし）えてくれないかなぁと」

「ん？　そんなことか、いいぜ」

　その前（まえ）に見張（みは）り台（だい）に登（のぼ）らせてくれるというので、登（のぼ）ってみる。

「わーたかーい」

「おお、よく見（み）える」

「見晴（みは）らしがいいです」

　遠（とお）くまで見（み）える。

　ラニエルダのスラム街（がい）からトライエの城壁（じょうへき）と城門（じょうもん）。街区（がいく）それから貴族（きぞく）街（がい）。

　貴族（きぞく）街（がい）には緑（みどり）の庭（にわ）と大（おお）きな家（いえ）が並（なら）んでいる。

　北（きた）の方向（ほうこう）には山脈（さんみゃく）、その右側（みぎがわ）、北東（ほくとう）の奥（おく）のほうに旧（きゅう）エルダニアもかすかに見（み）えた。

　あれがエルダニア。城壁（じょうへき）などはもちろん残（のこ）っている。

　今（いま）は事実上（じじつじょう）、廃虚（はいきょ）となっていて、人（ひと）はほとんど住（す）んでいないと聞（き）く。

「ありがとう、遠（とお）くまで見（み）えました」

「はいよ」

　地面（じめん）に降（お）りて作業（さぎょう）開始（かいし）だ。

　ということでバッグから出（だ）すフリをしてウサギを二（に）匹（ひき）出（だ）す。

「おお、新鮮（しんせん）だな」

「はい。今（いま）狩（か）ってきました」

「なぜかこの辺（へん）多（おお）いからな」

「そうですよね」

「俺（おれ）たちも狩（か）ってもいいんだけど、調理（ちょうり）器具（きぐ）がないからな」

「そうですね」

「火（ひ）を焚（た）いて、狼煙（のろし）と間違（まちが）えられたら大目玉（おおめだま）だし」

「あぁ、それは困（こま）りますね」

　確（たし）かに。