[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

２５．魔法師の武器

■２５．魔法（まほう）師（し）の武器（ぶき）

　引（ひ）き続（つづ）き月曜日（げつようび）、午前中（ごぜんちゅう）、冒険者（ぼうけんしゃ）ギルド。

　資金（しきん）は残（のこ）り金貨（きんか）三（さん）枚（まい）と銀貨（ぎんか）が数（すう）枚（まい）。

　もちろん全額（ぜんがく）使（つか）って、すっからかんになる気（き）はない。

「ミーニャは杖（つえ）とか欲（ほ）しい？　聞（き）いてほしい。単独（たんどく）でもゴブリンを倒（たお）せるようになってほしい。できればもっと強（つよ）い敵（てき）も」

「もちろん救世主（きゅうせいしゅ）様（さま）がお望（のぞ）みとあらば、このミーニャ、なんでもしてみせるよ」

　なんでそこまで俺（おれ）に忠誠（ちゅうせい）を誓（ちか）っているのか、ミーニャよ。

　一宿一飯（いっしゅくいっぱん）の恩義（おんぎ）、とかでもあるまいに。

「杖（つえ）がいい？　それともヒーラーだけど剣（けん）にする？　メイスがいい？」

「うーん、正直（しょうじき）なところ、よくわからないわ」

「そうだよね」

「ラニアちゃんかママに相談（そうだん）したいかもね」

「そっか、じゃあラニアを呼（よ）びに行（い）くか？」

「うんっ」

　冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドまで頑張（がんば）って来（き）たけど、一度（いちど）戻（もど）るか。

　二度手間（にどでま）だとはいえ、ラニアがいないのに気付（きづ）いた時点（じてん）で戻（もど）らなかった俺（おれ）が悪（わる）い。

「ありがとうございました」

「いえいえ、頑張（がんば）ってね」

　売店（ばいてん）のお姉（ねえ）さんに応援（おうえん）してもらって、ちょっと鼻（はな）の下（した）を伸（の）ばしつつ、冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドを出（で）る。

　ふう、今日（きょう）も悪漢（あっかん）に絡（から）まれたりはしなかったな、案外（あんがい）大丈夫（だいじょうぶ）なのか、冒険者（ぼうけんしゃ）ギルド。

　とぼとぼ歩（ある）いて城門（じょうもん）を素通（すどお）りし、ラニアの家（いえ）に行（い）く。

「ラーニーアーちゃーんー」

「は、はーい、今（いま）、出（で）ます」

　ラニアだった。今日（きょう）は俺（おれ）たちよりいい服（ふく）、青（あお）と白（しろ）のワンピースを着（き）ている。

「ラニアどうしたの？　服（ふく）」

「えへへ、買（か）っちゃいました」

「金貨（きんか）で？」

「ううん、銀貨（ぎんか）のほうです」

　服（ふく）は一番（いちばん）高（たか）いと金貨（きんか）だけど、掘（ほ）り出（だ）し物（もの）を探（さが）せば色染（いろぞ）めしてあっても、中古（ちゅうこ）なら銀貨（ぎんか）で買（か）える。

　茶色（ちゃいろ）い量産（りょうさん）品（ひん）の服（ふく）はもっと安（やす）い。その中古（ちゅうこ）ならなおさら。

　やっぱり女（おんな）の子（こ）なんだなぁ。かわいいなぁ。

「似合（にあ）うよ、ラニア」

「そう、やったっ」

　うれしそう、かわいいなぁ。

「実（じつ）はこれ、魔法（まほう）付与（ふよ）で攻撃（こうげき）魔法（まほう）アップ。貴族（きぞく）のお嬢様（じょうさま）のおさがりだけど、需要（じゅよう）がないらしくて、掘（ほ）り出（だ）し物（もの）の特売（とくばい）品（ひん）。お母（かあ）さんが昨日（きのう）買（か）ってきてくれたんです」

「へえ、すげえ」

「でしょでしょ、すごいんです」

　俺（おれ）も切断（せつだん）の剣（けん）、見（み）つけてきたけどな。

　張（は）り合（あ）っても仕方（しかた）がないか。パーティーメンバーの戦力（せんりょく）増強（ぞうきょう）はよろこぶべき出来事（できごと）だ。

「俺（おれ）もな、切断（せつだん）の剣（けん）買（か）っちゃった。金貨（きんか）一枚（いちまい）」

「すごいじゃん、でも高（たか）いね」

「まあ、そうだな」

　剣（けん）をアイテムボックスから出（だ）して見（み）せる。

　別（べつ）に腰（こし）に下（さ）げててもいいんだけど、一応（いちおう）、隙（すき）を見（み）て収納（しゅうのう）してあった。

　街中（まちなか）だと出（だ）し入（い）れすると目立（めだ）つから、仕方（しかた）ない出（だ）しておくか。

　金貨（きんか）一枚（いちまい）の品（しな）には当然（とうぜん）、腰（こし）下（さ）げ紐（ひも）が付属（ふぞく）していた。

　腰（こし）で縛（しば）って留（と）める。なんだか落（お）ち着（つ）かない。

　改（あらた）めてラニアの青（あお）と白（しろ）の服（ふく）を見（み）る。

　少（すこ）しワンピースセーラー服（ふく）ちっくなデザインで、スカートにタックがあってかわいい。

　なるほどこれが魔法（まほう）師（し）、いや魔法（まほう）少女（しょうじょ）の服（ふく）なのね。

　しかも新品（しんぴん）で買（か）えば金貨（きんか）十（じゅう）枚（まい）ぐらいの特注（とくちゅう）品（ひん）だ。それが中古（ちゅうこ）の特売（とくばい）で銀貨（ぎんか）だったと。俺（おれ）でも衝動買（しょうどうが）いしそうだ。

　おめかししたラニアを連（つ）れて、再（ふたた）び城門（じょうもん）を通（とお）る。

「おいエド」

　門番（もんばん）に止（と）められた。ちなみに名前（なまえ）を知（し）られている顔見知（かおみし）りである。

　気（き）のいいおじさんだ。

「はいはい」

「その剣（けん）はどうした？」

「買（か）っちゃった」

「騎士（きし）にでもなりたいのか？　無理（むり）はするなよ」

「無理（むり）はしない。命（いのち）大事（だいじ）に。どっちかというと冒険者（ぼうけんしゃ）だね」

「騎士（きし）、ではないのか、そっか冒険者（ぼうけんしゃ）ね、ふーん」

「なんだよ」

「いや、別（べつ）にいい。頑張（がんば）れ」

「ああ、ありがとう」

「通（とお）っていいぞ」

　まあ毎週（まいしゅう）のように通（とお）っていれば、顔（かお）くらい知（し）っているよね。

　門番（もんばん）も交代（こうたい）制（せい）とはいえ、何人（なんにん）もいるわけではないし。

　ミーニャとラニアが後（うし）ろで会話（かいわ）をしている。

　ガールズトークかと思（おも）いきや内容（ないよう）は武器（ぶき）に関（かん）して。

　ロッドがいい、いやメイスのほう。

　杖（つえ）ならワンドかな、やっぱり、というような。

　杖（つえ）の違（ちが）いが俺（おれ）にはわからない。

　ロッドのイメージは先端（せんたん）に大（おお）きな宝石（ほうせき）の付（つ）いた杖（つえ）だ。

　ワンドは魔術的（まじゅつてき）な杖（つえ）だと思（おも）う。

　メイスは先端（せんたん）に重（おも）りのついた槌（つち）、打撃（だげき）武器（ぶき）だ。

　どれも殴（なぐ）るのにも使（つか）える。

　前世（ぜんせ）地球（ちきゅう）では魔法使（まほうつか）いのおっさんがひたすら杖（つえ）で殴（なぐ）る話（はなし）もそういえばあった。

　冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドに到着（とうちゃく）した。

「どうも」

「こんにちは」

「おじゃまします」

　三者（さんしゃ）三様（さんよう）の挨拶（あいさつ）をしてギルドに入（はい）る。

　ガランガランとカウベルが鳴（な）る。

　普通（ふつう）のお店（みせ）に入（はい）る機会（きかい）が少（すく）ないので礼儀（れいぎ）がよくわからないが、前世（ぜんせ）では店（みせ）に入（はい）るのに挨拶（あいさつ）しないことも多（おお）かった。

「お、なんだ坊主（ぼうず）、一丁前（いっちょうまえ）に剣（けん）なんて下（さ）げて」

　きたああああ。

　暴漢（ぼうかん）、荒（あら）くれ者（もの）、先輩（せんぱい）冒険者（ぼうけんしゃ）、古株（ふるかぶ）……。

　呼称（こしょう）はいろいろあるが、ヤバいおっさんだ。

　髪（かみ）の毛（け）ぐしゃぐしゃで白髪（しらが）交（ま）じりヒゲ面（づら）の四十（よんじゅう）代（だい）、おじさん。

　服装（ふくそう）もスラム街（がい）の住民（じゅうみん）かと思（おも）うくらいボロい。

　ただし上半身（じょうはんしん）に部分（ぶぶん）鎧（よろい）は装備（そうび）しているのが冒険者（ぼうけんしゃ）らしい。

「ええまあ」

「お使（つか）いじゃないのか？」

「いえ、臨時（りんじ）収入（しゅうにゅう）があったので、彼女（かのじょ）たちの杖（つえ）が欲（ほ）しくて」

「ほほう」

　おちょくっていた顔（かお）から、一気（いっき）に切（き）れ者（もの）みたいな表情（ひょうじょう）に変（か）わった。

　目（め）が、目（め）がさっきと違（ちが）う。

「よし、お兄（にい）さんが見（み）てあげよう」

「お兄（にい）さん？」

「おじさんじゃねえ、俺（おれ）はまだ三十（さんじゅう）代（だい）だ」

「そう、ですか」

　嘘（うそ）だあ。とは言（い）えない。顔（かお）は真剣（しんけん）だったし、怖（こわ）いので。

　普通（ふつう）に左側（ひだりがわ）の売店（ばいてん）に連（つ）れていってくれる。

「杖（つえ）、白（しろ）いのと黒（くろ）いのな」

「え、あ、はい、白（しろ）魔法（まほう）師（し）と黒（くろ）魔法（まほう）師（し）用（よう）の杖（つえ）ですね、初心者（しょしんしゃ）、子供（こども）用（よう）の」

「そうだ」

「あったかなぁ」

「ないとは言（い）わせない」

「はいっ」

　売店（ばいてん）のお姉（ねえ）さんをビビらせてるんじゃねえよ、おっさん。

　怖（こわ）いから言（い）えないけど。

　というかおっさんに白（しろ）と黒（くろ）なんて言（い）ってないのにわかるのか。

　伊達（だて）に長年（ながねん）冒険者（ぼうけんしゃ）やってないってことか。

　ちょっとだけおっさんの評価（ひょうか）を上方（じょうほう）修正（しゅうせい）する。

「これとか」

「ダメだ長（なが）すぎる。身長（しんちょう）考（かんが）えてやってくれ、引（ひ）きずっちまうぞ」

「そう、ですよね」

　ミーニャは俺（おれ）より小（ちい）さい。

　だから長（なが）い杖（つえ）はダメだ。

　おっさん、見（み）る目（め）はあるらしい。眼光（がんこう）が鋭（するど）い。

　お姉（ねえ）さんビビってるから。もう少（すこ）し優（やさ）しくできれば、いい人（ひと）なんだろうけどなぁ。

　ミーニャには短（みじか）めの白（しろ）い木（き）の杖（つえ）の先端（せんたん）に赤（あか）い宝石（ほうせき）。

　ラニアには真（ま）っ黒（くろ）の謎（なぞ）物質（ぶっしつ）の杖（つえ）で先端（せんたん）に飾（かざ）りと青（あお）い宝石（ほうせき）。

　それぞれ選（えら）んでくれた。

「すごい、かっこいぃ」

「はい、うれしい、です」

　ちなみに値段（ねだん）は金貨（きんか）二枚（にまい）。

　本当（ほんとう）は金貨（きんか）三（さん）枚（まい）なのだが、なぜかおっさんがギルドカードのポイントで金貨（きんか）一枚（いちまい）分（ぶん）の割引（わりびき）を使（つか）ってくれた。

　あれ、本当（ほんとう）に面倒見（めんどうみ）がいい人（ひと）なのか……。

　お、おう、人（ひと）は見（み）かけによらない。

　ラニアは自己（じこ）負担（ふたん）をするという話（はなし）をする前（まえ）に、俺（おれ）とおっさんで話（はなし）をつけてしまったため、払（はら）いそこなって金貨（きんか）二枚（にまい）は俺（おれ）の財布（さいふ）から払（はら）った。

　女（おんな）の子（こ）に大金（たいきん）払（はら）わせるとか、命（いのち）も預（あず）かってるのに、男（おとこ）が泣（な）くわ。