[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

２４．金貨の投資先

■２４．金貨（きんか）の投資（とうし）先（さき）

　はぁ、また月曜日（げつようび）だ。

　学生（がくせい）ないしオフィスワーカーには毎週（まいしゅう）くるこの曜日（ようび）がつらい。

　異世界（いせかい）にも同様（どうよう）の考（かんが）え方（かた）はある。

　曰（いわ）く「悪魔（あくま）の月曜日（げつようび）」。

　一（いち）日（にち）休（やす）んだだけで仕事（しごと）に行（い）くと、何（なに）か問題（もんだい）が発生（はっせい）しているというジンクスらしい。

　ボーン、ボーン、ボーン、と今日（きょう）も鐘（かね）が鳴（な）る。

「むにゃぁ、あ、エドおはよう」

「ミーニャ、おはよう」

　頭（あたま）をぐりぐりして甘（あま）えてくる。

　本当（ほんとう）にこの金髪（きんぱつ）頭（あたま）は綺麗（きれい）だ。

　俺（おれ）が手櫛（てぐし）で寝（ね）癖（くせ）を直（なお）している横（よこ）で、ミーニャが母親（ははおや）のメルンさんに高価（こうか）な櫛（くし）で梳（と）かしてもらっている。

　背中（せなか）の途中（とちゅう）まである、綺麗（きれい）なストレートの金髪（きんぱつ）。

　エルフに連（つら）なるものの特徴（とくちょう）だ。

　ギードさんも長髪（ちょうはつ）というほどではないが、ボブカットぐらいなので、人（ひと）族（ぞく）の男性（だんせい）に比（くら）べたら長（なが）くしている。

　やはり綺麗（きれい）な金髪（きんぱつ）だったりする。しかも顔（かお）もイケメン。

　絶対（ぜったい）、創造（そうぞう）主（しゅ）は人（ひと）族（ぞく）とエルフを作（つく）るときにエルフを贔屓（ひいき）したはず。

　それでも我（われ）らがラファリエール様（さま）はえらいし、尊敬（そんけい）する主神（しゅしん）様（さま）だ。

　基本的（きほんてき）にはラファリエ教（きょう）は一神教（いっしんきょう）だけど、土着（どちゃく）の神々（かみがみ）と言（い）われる、数多（かずおお）くの神様（かみさま）がこの世界（せかい）にはいる、とされる。

　ただ他（ほか）の神様（かみさま）は下（した）の位（くらい）で正確（せいかく）には同（おな）じ神（かみ）とは思（おも）われていない。

　他（ほか）の神（かみ）は、上級（じょうきゅう）精霊（せいれい）という扱（あつか）いらしい。

　ラファリエール様（さま）が事実上（じじつじょう）の唯一神（ゆいいつしん）なのだ。

　ささっとメニューがちょっと豪華（ごうか）になった朝食（ちょうしょく）をいただく。

「さて、行（い）ってきます」

　本日（ほんじつ）向（む）かうは、勝手（かって）知（し）ったるドリドン雑貨店（ざっかてん）だ。

「ねえ、ドリドンさん」

「お、エドか。朝（あさ）からなんだい？」

「俺（おれ）でも買（か）える剣（けん）とかある？」

「普通（ふつう）のでよければ、これとか、あとはこっちの木刀（ぼくとう）だけど」

「木刀（ぼくとう）ねえ、ゴブリンに木刀（ぼくとう）で勝（か）てるかな？」

「木刀（ぼくとう）舐（な）めちゃダメだよ。殺傷（さっしょう）能力（のうりょく）はある。でもゴブリンなら鉄（てつ）の普通（ふつう）の剣（けん）のほうがおすすめ」

「だよねえ」

　そう言（い）って、ドリドンさんは奥（おく）の隅（すみ）のほうに放置（ほうち）された、剣（けん）と木刀（ぼくとう）に指（ゆび）を差（さ）す。

　鉄（てつ）の剣（けん）、まだ使（つか）えるけど、放置（ほうち）されすぎて錆（さ）びてないですかね。

「そうだなぁ、俺（おれ）んとこの剣（けん）は十（じゅっ）歳（さい）くらいの年齢（ねんれい）の初心者（しょしんしゃ）向（む）けなんだ」

「それで？」

「六（ろく）歳（さい）だと身長（しんちょう）がな、冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドなら子供（こども）用（よう）があるかもしれんが」

「子供（こども）用（よう）か、んんー」

　できれば長（なが）く愛用（あいよう）したいけど、下取（したど）りでも安（やす）くはないだろう。

　また冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドか、コミュ障（しょう）にはきついが、行（い）くか。

「わかった、おっちゃん、ありがとう」

「すまんな、置（お）いてなくて」

「いいっての」

　ミーニャを連（つ）れて、城門（じょうもん）を通（とお）る。

　途端（とたん）に景色（けしき）が街（まち）になる。

　冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドまでまっすぐ進（すす）むだけだ。

「あ、ラニア連（つ）れてくるの忘（わす）れた」

「あーあ、知（し）らないんだ」

「ミーニャそんな」

　冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドでは前回（ぜんかい）、ラニアが対応（たいおう）してくれたので、今回（こんかい）は俺（おれ）かミーニャがしなければならないが、ミーニャはちょっと苦手（にがて）そうだ。

　ミーニャはコミュ障（しょう）ではないが、まだ幼（おさな）い。あとあのエルフの受付嬢（うけつけじょう）がじっと見（み）てきて苦手（にがて）そう。

　噴水（ふんすい）広場（ひろば）に到着（とうちゃく）した。

「しょうがない、入（はい）るか」

「うん」

　ミーニャが俺（おれ）の服（ふく）の裾（すそ）を掴（つか）んでいる。

　不安（ふあん）なのかもしれない。

　こういう態度（たいど）をされるとコミュ障（しょう）の俺（おれ）でも、なんだか守（まも）ってやらないと、という気（き）になってくる。

「ごめんください」

「おじゃまします」

　ガランガランとカウベルが鳴（な）る。

　中（なか）はこの前（まえ）より人（ひと）が多（おお）く、受付（うけつけ）もガラガラではない、列（れつ）に並（なら）んでいる。

　順番（じゅんばん）待（ま）ちカードみたいなものはない。

「し、失礼（しつれい）します」

　素直（すなお）に列（れつ）に並（なら）ぶ。

　なおフォーク並（なら）びとか徹底（てってい）しているわけもなく、受付嬢（うけつけじょう）ごとに列（れつ）があった。

　俺（おれ）たちが並（なら）んだ先（さき）を見（み）ると、げ、例（れい）のエルフちゃんだ。

　隣（となり）の列（れつ）のほうが長（なが）い。そちらは優（やさ）しそうな人（ひと）族（ぞく）っぽい女（おんな）の子（こ）が受付嬢（うけつけじょう）だった。

　あっちの子（こ）のほうが第一（だいいち）印象（いんしょう）はいいもんね。

　もちろんエルフも見（み）た目（め）はいいけど、性格（せいかく）が尖（とが）っていると思（おも）われている。

　だが、ミーニャに気（き）を使（つか）いまくっている以外（いがい）は普通（ふつう）だった。

　列（れつ）は三（みっ）つ。もう一（ひと）つは歴戦（れきせん）の勇士（ゆうし）っぽいスキンヘッドのオジサンだった。

　そちらの列（れつ）はそっちの趣味（しゅみ）なのか筋肉（きんにく）戦士（せんし）とか、あとオジサン好（ず）きの腐女子（ふじょし）っぽい子（こ）とかが並（なら）んでいる。

　あーあ、俺（おれ）も純真（じゅんしん）な子供（こども）の目（め）で、オジサンの列（れつ）を評価（ひょうか）したかったわ。

　どうしても地球（ちきゅう）の知識（ちしき）が邪魔（じゃま）をして、素直（すなお）な評価（ひょうか）はできない。

「列（れつ）、長（なが）いね」

「うん」

　ミーニャの感想（かんそう）を聞（き）きつつ、再（ふたた）び観察（かんさつ）する。

　オジサンの列（れつ）は別（べつ）に腐女子（ふじょし）ではなく、実益（じつえき）重視（じゅうし）の人（ひと）が多（おお）いっぽい。

　並（なら）んでる側（がわ）もどうやら慣（な）れてるベテラン勢（ぜい）なのか、説明（せつめい）も短（みじか）いのだろう列（れつ）の進（すす）みが早（はや）い。

　俺（おれ）もそっちにしておけばよかったが、もう半分（はんぶん）進（すす）んでいると、今更（いまさら）並（なら）びなおす利益（りえき）はない。

「はい、次（つぎ）の人（ひと）ぉ。あっ、エルフ様（さま）ではないですか？　どのような御用（ごよう）ですか？」

　明（あき）らかにミーニャに聞（き）いているが、耳（みみ）を赤（あか）くして俺（おれ）に隠（かく）れてしまう。

　だから俺（おれ）が答（こた）えるほかない。

「あの俺（おれ）でも持（も）てるゴブリン討伐（とうばつ）とかが可能（かのう）な剣（けん）が欲（ほ）しいんですけど、金貨（きんか）一枚（いちまい）以内（いない）ぐらいで」

「そうですか。それなら奥（おく）の売店（ばいてん）コーナーですね。すみません。そちらで聞（き）いてください」

「はい」

　散々（さんざん）並（なら）んだのに、たらい回（まわ）しだった件（けん）。

　確（たし）かに右側（みぎがわ）が酒場（さかば）、左側（ひだりがわ）が売店（ばいてん）になっている。

　左側（ひだりがわ）奥（おく）には、武器類（ぶきるい）も置（お）いてあった。

　そこのお姉（ねえ）さんに聞（き）いたところ、俺（おれ）に合（あ）いそうな剣（けん）を四（よん）振（ふ）り出（だ）してくれた。

　どれも子供（こども）用（よう）の木刀（ぼくとう）、鉄（てつ）の剣（けん）、装飾（そうしょく）がある鉄（てつ）の剣（けん）、そして貴族（きぞく）様（さま）ご用達（ようたし）ミスリルの剣（けん）。

　どう見（み）ても鉄（てつ）の剣（けん）しかないよね。

　問題（もんだい）はどっちにするかだけど。

　装飾（そうしょく）がただの飾（かざ）りで高（たか）いだけならシンプルな鉄（てつ）の剣（けん）一（いっ）択（たく）となる。

「こちらのシンプルなほうは銀貨（ぎんか）七（なな）枚（まい）です。普通（ふつう）の子供（こども）用（よう）の鉄（てつ）の剣（けん）です」

「はいっ」

　特筆（とくひつ）することはない、鉄（てつ）の剣（けん）。鑑定（かんてい）。

【子供（こども）用（よう）の鉄（てつ）の剣（けん）　武器（ぶき）　普通（ふつう）】

「こちらの装飾（そうしょく）がある鉄（てつ）の剣（けん）は、少（すこ）しお金（かね）があるおうちの子（こ）が愛用（あいよう）するような剣（けん）ですね」

「んんー」

「でもこれ見（み）た目（め）がいいだけじゃなくてですね、魔法（まほう）付与（ふよ）がしてあってね」

「魔法（まほう）付与（ふよ）」

「そうね。【切断（せつだん）】の魔法（まほう）付与（ふよ）ですね。これは実戦（じっせん）向（む）けなんです」

「おーすごい」

【銘（めい）「クイックカッター」

　子供（こども）用（よう）の鉄（てつ）の剣（けん）　武器（ぶき）　良品（りょうひん）

　魔法（まほう）付与（ふよ）：切断（せつだん）

】

　お、いつもより鑑定（かんてい）が詳（くわ）しい。

　名前（なまえ）が付（つ）いていて、人（ひと）みたいに詳細（しょうさい）が出（で）ると。

　なるほどね。

「これは切断（せつだん）の剣（けん）。銘（めい）がクイックカッター。お値打（ねう）ち品（ひん）ですね、金貨（きんか）一枚（いちまい）ちょうどです」

「やっぱり金貨（きんか）か、くぅ」

「コスパは最強（さいきょう）です。いかがです？　ミスリルのほうは丈夫（じょうぶ）ですが、残念（ざんねん）ながら攻撃力（こうげきりょく）は見（み）かけ騙（だま）しですね」

「ぐぬぬ、商売（しょうばい）がうまい。切断（せつだん）の剣（けん）、買（か）った」

「お買（か）い上（あ）げ、ありがとうございます」

　切断（せつだん）の剣（けん）を買（か）った。

　これは遊（あそ）びや趣味（しゅみ）ではない、自分（じぶん）への立派（りっぱ）な投資（とうし）なのだ。

　断（だん）じて、言（い）い訳（わけ）ではないぞ、言（い）い訳（わけ）では、ぐぬぬ。

　このままでは、ぐぬぬ族（ぞく）になってしまいそう。