[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

２２．天ぷら

■２２．天（てん）ぷら

　日曜日（にちようび）。

　ゴーン、ゴーン、ゴーンと三（さん）の刻（こく）、午前（ごぜん）六（ろく）時（じ）の鐘（かね）が鳴（な）る。

「むにゃむにゃ、エドぉ、おはようぉ」

「ああ、おはよう、ミーニャ」

「にゃはーん」

　ミーニャが寝（ね）ぼけて今朝（けさ）も抱（だ）き着（つ）いて、甘（あま）えてくる。

　朝（あさ）の支度（したく）をして、朝（あさ）ご飯（はん）を食（た）べる。

「さてお金（かね）も入（はい）ってきたし、もう少（すこ）し食生活（しょくせいかつ）を豊（ゆた）かにするべく、今日（きょう）も草原（そうげん）に行（い）こう」

「はーい」

　まずはラニアを掴（つか）まえよう。

　城壁（じょうへき）沿（ぞ）いにちょっと進（すす）んだ先（さき）の家（いえ）だ。

「ラーニーアーちゃーんー」

「は、はーい」

　照（て）れ照（て）れで返事（へんじ）をしてくる。かわいい。

　ラニアの家（いえ）はうちより裕福（ゆうふく）だけど、当初（とうしょ）は貧乏（びんぼう）だったのか、家（いえ）はうちよりもボロい。

　引（ひ）っ越（こ）したりしないんだろうか。

　この辺（へん）は城門（じょうもん）にも近（ちか）く、スラムの中（なか）でも一番（いちばん）治安（ちあん）がいいので、手放（てばな）したくないというのもわかる。

　うちもそうだ。実際（じっさい）には貧乏（びんぼう）で引（ひ）っ越（こし）しようがないんだけど。

「今日（きょう）は草原（そうげん）で、サラダや香味（こうみ）野菜（やさい）、特色（とくしょく）のある植物（しょくぶつ）とかを探（さが）します」

「「はーい」」

　本日（ほんじつ）も勇者（ゆうしゃ）パーティーはRPGのようにマップチップを進（すす）み、スラム街（がい）の道（みち）を歩（ある）いていく。

　先頭（せんとう）の人（ひと）の後（あと）を、後続（こうぞく）がついていく。

　本当（ほんとう）はスラムの道（みち）も狭（せま）いには狭（せま）いが三（さん）人（にん）くらいは横（よこ）に並（なら）べる。

　ただし馬車（ばしゃ）は安全（あんぜん）に通（とお）れるほど広（ひろ）くはない。

　あと家（いえ）より道（みち）のほうが低（ひく）くなっているため、雨（あめ）が降（ふ）ると道（みち）は川（かわ）みたいになる。

　下水（げすい）はないので、道（みち）が排水溝（はいすいこう）代（か）わりなのだ。

　家（いえ）が水浸（みずびた）しにならないようにする、生活（せいかつ）の知恵（ちえ）だ。

　いつからそういう造（つく）りになったかは知（し）らない。物心（ものごころ）ついたときには、すでにそうだった。

　家並（いえな）みも途切（とぎ）れ、切（き）り株（かぶ）のある草原（そうげん）に出（で）た。

　まず目（め）についたのはこれ。鑑定（かんてい）。

【サニーレタス　植物（しょくぶつ）　食用（しょくよう）可（か）】

　玉（たま）にならないレタスだ。

　タンポポ草（そう）も悪（わる）くはないが、いかんせん葉（は）が小（ちい）さめなので量（りょう）を採（と）るのが大変（たいへん）だ。

　これはいい。

　葉（は）っぱも大（おお）きめ、そして苦（にが）くもなく癖（くせ）がない。

　サラダに最適（さいてき）だ。

「これはサラダにすると、青臭（あおくさ）くもなくて美味（おい）しい」

「にゃあ」

「なるほど、ですね」

　この辺（へん）には結構（けっこう）生（は）えてるな。

　葉（は）っぱを何枚（なんまい）も取（と）って、そして庭（にわ）に植（う）える用（よう）に根（ね）っこごといくつか採取（さいしゅ）する。

　さて、他（ほか）にはないかな。

　お、これなんかいいじゃん。

　雑草（ざっそう）より大（おお）きい葉（は）っぱ。単子葉（たんしよう）類（るい）。

【ショウガ　植物（しょくぶつ）　食用（しょくよう）可（か）】

「これはピリッと辛（から）い」

「へぇ」

「これは若（わか）い株（かぶ）だから、洗（あら）って生（なま）でいける」

「へぇ」

　若（わか）い「葉（は）ショウガ」は生（なま）のまま味噌（みそ）を付（つ）けて食（た）べると美味（うま）いんだけど、残念（ざんねん）ながら味噌（みそ）はない。

　甘酢漬（あまずづ）けとかにもするらしい。

　どう使（つか）うか考（かんが）えものだけど、どうしようか。

　さて他（ほか）には何（なに）かないかな。

「ねえねえこれは？」

　単子葉（たんしよう）類（るい）。葉（は）っぱがまっすぐに伸（の）びている。

　お、いいじゃないですか。

【タマネギ　植物（しょくぶつ）　食用（しょくよう）可（か）】

「これは焼（や）くと甘（あま）い。生（なま）だとちょっと辛（から）い。どっちも美味（おい）しい」

「ふーん」

「野菜（やさい）の定番（ていばん）ベストテンには入（はい）る、ナイスだ」

「やった。褒（ほ）められちゃった」

　ミーニャが期待（きたい）した目（め）で見（み）上（あ）げてくる。

　あーはいはい。

「なでなでー」

「はわわわ」

　頭（あたま）を撫（な）でるとすごくよろこぶ。

　お父（とう）さんはあんまり頭（あたま）を撫（な）でてくれないもんね。

　いやあの人（ひと）、ミーニャがかわいすぎて、頭（あたま）に触（さわ）るのも避（さ）けてるみたいで。

　触（さわ）っちゃダメだと思（おも）っている節（ふし）がある。

　もういいかな、いつもの葉（は）っぱ類（るい）も収穫（しゅうかく）したし。

「よしでかした。おうちへ帰（かえ）ろう」

「「はーい」」

「ラニアも食（た）べていくでしょ？」

「はいっ」

　ということで帰還（きかん）する前（まえ）に、ドリドン雑貨店（ざっかてん）に寄（よ）っていく。

「ドリドンさん、オリーブオイルと小麦粉（こむぎこ）ください」

「はいよ。なんだい料理（りょうり）に目覚（めざ）めたのかい？　前（まえ）はイルク豆（まめ）ばかりだったのに」

「あはは、ちょっとそうなんですよ」

「それがいい。豆（まめ）だけなんて、とてもすすめられないよ」

「そうですよね、もっと言（い）ってやってください」

「まあでも貧乏（びんぼう）だとイルク豆（まめ）一（いっ）択（たく）だよね、わかるよ」

「そう、なんですよね」

　ということで油（あぶら）と小麦粉（こむぎこ）をゲット。

　いままでこれすらなかったという貧乏（びんぼう）っぷりだったのだ。

　今度（こんど）こそ家（いえ）に帰（かえ）る。

「ただいま」

「ただいまぁ、ママぁ」

「おじゃまします」

　さてお昼（ひる）の料理（りょうり）だ。

　イルク豆（まめ）、カラスノインゲンを茹（ゆ）でる。

　それからサラダ用（よう）のレタスを適度（てきど）なサイズにちぎっておく。

　あとは定番（ていばん）、天（てん）ぷら「かき揚（あ）げ」をしようと思（おも）う。

　タマネギ、ショウガを薄切（うすぎ）りにする。

　細切（こまぎ）りまでにはしない。

　タマネギのかき揚（あ）げ。

　タマネギ、イルク豆（まめ）、インゲンのかき揚（あ）げ。

　ショウガのかき揚（あ）げ。

　タンポポ草（そう）の天（てん）ぷら。

　それから、じゃじゃーん。エルダタケの天（てん）ぷら。

　また密（ひそ）かに一株（ひとかぶ）だけ見（み）つけたので、天（てん）ぷらにする。

　マイタケの天（てん）ぷらとか美味（おい）しいので、たぶんこれもいける。

　水（みず）に小麦粉（こむぎこ）を溶（と）き、それに具材（ぐざい）を混（ま）ぜる。

　ヘラで一（いっ）個（こ）分（ぶん）を取（と）ると、オリーブオイルを深（ふか）さ2センチぐらい入（い）れた熱（ねっ）した鍋（なべ）に入（い）れる。

　じゅわあああ。

　油（あぶら）で揚（あ）げる音（おと）がする。

「なにこれ！　なにこれっ！」

「これが天（てん）ぷらだよ」

「「天（てん）ぷら」」

　テンプラが完成（かんせい）した。油（あぶら）を切（き）り、べたべたしないように気（き）をつける。

　天（てん）つゆもいいけど、塩（しお）も悪（わる）くない。

　ここには塩（しお）しかないけど。

　主食（しゅしょく）のイルク豆（まめ）とは別（べつ）に天（てん）ぷらを置（お）き、手（て）で食（た）べる。

　あーね、スプーンで天（てん）ぷらは食（た）べにくいからね。

　ぱく。

「おいしー」

「美味（おい）しい、ですね」

「おお、すごいじゃないか、エド君（くん）」

「美味（おい）しいですね」

　みんなに大好評（だいこうひょう）だ。

　タマネギの甘（あま）いのもいい。

　ショウガのピリッとしたものもいい。

　タンポポ草（そう）の葉（は）も悪（わる）くはない。

「キノコもおいしぃ」

　やっぱエルダタケだな。

　ムラサキキノコほどではないが美味（うま）い。

「ああぁあああ」

「どうしたの？」

「せっかくだから、タンポポは花（はな）を摘（つ）んでくればよかった」

「花（はな）を食（た）べるの？　面白（おもしろ）そうだし綺麗（きれい）ね」

「でしょ、でしょ」

　いつものように葉（は）っぱだけしか摘（つ）んでこなかったから、ち（・）かたないね。

　金貨（きんか）が飛（と）び交（か）う殺伐（さつばつ）とした日（ひ）もいいけど、こういう美味（おい）しい日（ひ）があってもいいと思（おも）うんだ。

　というかブドウジャムはまだビン一（いっ）個（こ）分（ぶん）だけ作（つく）っただけで、残（のこ）りのブドウは家（いえ）に保管（ほかん）してある。

　十（じゅう）ビンくらいは在庫（ざいこ）を捌（さば）けばできる。

「じゃあ、午後（ごご）はブドウジャム作（づく）りにしようか」