[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

１５．ミーニャとヒール

■１５．ミーニャとヒール

　引（ひ）き続（つづ）き水曜日（すいようび）、午後（ごご）。

　水浴（みずあ）びを終（お）える。

　服（ふく）をギュッと絞（しぼ）る。ただしあまり強（つよ）く絞（しぼ）ると、破（やぶ）れてしまう。

　毎日（まいにち）着（き）ているうえに古着（ふるぎ）なので、繊維（せんい）が元々（もともと）傷（いた）んでいるのだ。

　濡（ぬ）れた服（ふく）だけど、そのまま着（き）る。他（ほか）に方法（ほうほう）がない。

　雨（あめ）に濡（ぬ）れたら風邪（かぜ）をひくというのは、たぶん迷信（めいしん）だと思（おも）う。

　ただし水（みず）に濡（ぬ）れた結果（けっか）、体温（たいおん）が下（さ）がって、免疫力（めんえきりょく）が下（さ）がるということは、あると思（おも）う。

　今（いま）は春（はる）だし、暖（あたた）かいからすぐに乾（かわ）く。

　この辺（へん）の気候（きこう）はわりと乾燥（かんそう）気味（ぎみ）かもしれない。

　そういえば、昨晩（さくばん）は夜中（よなか）に雨（あめ）が降（ふ）ったもよう。

　日本（にほん）は夏（なつ）の湿度（しつど）がものすごいけど、こっちはそうでもない。

　ミーニャは髪（かみ）の毛（け）も一応（いちおう）洗（あら）うので、水浴（みずあ）びも結構（けっこう）長（なが）い。

　俺（おれ）も頭（あたま）まで水（みず）に浸（つ）かって頭（あたま）も洗（あら）ってある。

「エド、私（わたし）も終（お）わったよう」

　俺（おれ）がミーニャのほうを見（み）ないようにして黄昏（たそがれ）ていたら、そちらも終（お）わったようだ。

「ねえねえ、私（わたし）、綺麗（きれい）になった？」

「お、おう、綺麗（きれい）だぞ」

「やったっ！」

　うんうん、水（みず）も滴（したた）るいい女（おんな）ってね。まあ幼女（ようじょ）だけど。

　ちょっと濡（ぬ）れ透（す）けになっていて、見（み）た目（め）がヤバげだけど、こっちの人（ひと）はこれで普通（ふつう）のこととしてスルーしているから、俺（おれ）も黙（だま）っていよう。

　何（なに）か発言（はつげん）したら、俺（おれ）の人権（じんけん）が剥奪（はくだつ）されてしまう危険性（きけんせい）がある。

　ちょっと直視（ちょくし）するのは厳（きび）しい。

　まあなんだ、胸（むね）はまだない。六（ろく）歳（さい）だもんな。そりゃそうか。

　さて、何（なに）しようか。

　頭（あたま）の中（なか）の予定（よてい）表（ひょう）は、ある程度（ていど）消化（しょうか）してしまった。

「ああそうだ、思（おも）い出（だ）した」

「え、なにが？」

「ミーニャ、メルンおばさんのところいくぞ」

「え、ママ？」

「うん、そう、マッマのとこだ」

　家（いえ）に帰（かえ）ります。

　ということで、戻（もど）ってきた。

　愛（いと）しの我（わ）が家（や）。

　床（ゆか）の木（き）の温（ぬく）もりが捨（す）てがたい。

　なお調理場（ちょうりば）以外（いがい）は土足（どそく）禁止（きんし）だ。床（ゆか）に毛布（もうふ）を敷（し）いて寝（ね）るので。

　羊（ひつじ）の毛（け）の毛布（もうふ）はなかなか温（あたた）かい。

　が実（じつ）を言（い）えば毛布（もうふ）より、抱（だ）き枕（まくら）にしてるミーニャのほうが温（あたた）かい。

「あのさ、メルンさん、お願（ねが）いがあるんだ」

「なんですかぁ」

「ミーニャに、いや俺（おれ）も一緒（いっしょ）に習（なら）ってみるけど、ヒール、回復（かいふく）魔法（まほう）を教（おし）えてほしい」

「そうですね、そろそろ、そういう年齢（ねんれい）ですもんねぇ」

　あっさり承諾（しょうだく）してもらえた。

「じゃあ二人（ふたり）とも、まずはヒールの体験（たいけん）からしてもらいましょう」

「「はーい」」

「そういえば、ラニアちゃんが私（わたし）を仲間（なかま）外（はず）れにしないでって言（い）ってなかった？」

「ラニアにも覚（おぼ）えられるなら覚（おぼ）えてほしいけど、あの子（こ）は攻撃（こうげき）魔法（まほう）専門（せんもん）だから、別（べつ）にいいかなって」

「そうかしら、まあいいわ」

　そういえば、家族（かぞく）とか鑑定（かんてい）していなかった。

　いやワザと避（さ）けていたんだけど、この際（さい）だ確認（かくにん）しておこう。

　覚悟（かくご）を決（き）める『鑑定（かんてい）』。

【メルン・ラトミニ・ネトカンネン・サルバキア

　105歳（さい）　メス　B型（がた）　エルフ

　Bランク

　HP575/582

　MP560/763

　健康（けんこう）状態（じょうたい）：B(痩（や）せ気味（ぎみ）)

】

　おばちゃん105歳（さい）、なのか、これは人間（にんげん）の尺度（しゃくど）で測（はか）ったらあかんやつですね。

　年齢（ねんれい）についてはタブーと肝（きも）に銘（めい）じておこう。

　MPが結構（けっこう）使（つか）われている。ヒールのMP消費（しょうひ）が多（おお）いのだろうか。

　それとも結界（けっかい）とか祝福（しゅくふく）とか、何（なに）か高等（こうとう）魔法（まほう）を普段（ふだん）から使（つか）ってるのかもしれない。

　やっぱり痩（や）せ気味（ぎみ）なんですね。

　もっと肉（にく）を！！

「では、ミーニャ、ヒールを掛（か）けるわね、よく見（み）て、よく感（かん）じるのよ」

「はいママ」

　俺（おれ）も見（み）る。ちゃんとヒールを掛（か）ける瞬間（しゅんかん）は、まだ見（み）たことがない。

　いつも遊（あそ）び歩（ある）いていたので。

「癒（いや）しの光（ひかり）を――ヒール」

　緑色（みどりいろ）の光（ひかり）が集（あつ）まってくる。

「ほわわわ」

　ミーニャに光（ひかり）が吸収（きゅうしゅう）されていく。

「どう？」

「あっ、なんだか暖（あたた）かくて、気持（きも）ちよかったです」

「よかったわ」

　腕（うで）にあった小（ちい）さな切（き）り傷（きず）が、なくなっている。

　女（おんな）の子（こ）なんだから、とは思（おも）うものの、草原（そうげん）とか森（もり）を連（つ）れまわしているのは俺（おれ）です。

　すまんなミーニャ。

「次（つぎ）はエドね」

「ああ、よろしく」

「よろしくされますね」

「癒（いや）しの光（ひかり）を――ヒール」

「おおぉおお」

　なんだこれ、空前（くうぜん）のリラクゼーション効果（こうか）。めっちゃ気持（きも）ちいい。卑猥（ひわい）な意味（いみ）ではなく。

　横（よこ）になって、腰（こし）モミモミとかしてもらって、このヒールとか掛（か）けたら、もうマッサージ師（し）なんて目（め）じゃないくらい、すごい。

　これで17歳（さい）くらいの清楚（せいそ）黒髪（くろかみ）ロングおっぱおの美少女（びしょうじょ）だったら完璧（かんぺき）だったな。

　はあ、前世（ぜんせ）の記憶（きおく）が俺（おれ）を刺激（しげき）してくる。

「さ、今度（こんど）はあなたたちよ。お互（たが）いに掛（か）けてみて」

「「はーい」」

「い、癒（いや）しの光（ひかり）を――ヒール？」

　ぽわわと弱（よわ）いけれど緑（みどり）の光（ひかり）が俺（おれ）を包（つつ）む。

　ちょっとだけ気持（きも）ちよかった。

「なんで疑問（ぎもん）形（けい）やねん」

「えへへ、なんとなく？」

「でも成功（せいこう）してるじゃん。すごい」

「え、私（わたし）すごい？　えらいの？　やったっ」

　頭（あたま）を撫（な）でてやる。

「にへらぁ」

　うれしそうにする。かわいい。

「俺（おれ）もやる」

「はい、お願（ねが）いします」

　ミーニャに手（て）をかざし、こう念（ねん）じるように。

「癒（いや）しの光（ひかり）を――ヒール」

　失敗（しっぱい）か。

　もう一（いっ）回（かい）だ。

「癒（いや）しの光（ひかり）を――ヒール」

「ヒール……」

「ヒール……」

「ヒール……」

「もう一（いっ）回（かい）、癒（いや）しの光（ひかり）を――ヒール」

　ミーニャを黄緑色（おうりょくしょく）の光（ひかり）が包（つつ）む。

「ほわわっ、あふん」

　なんだその、あふん、ってのはちょっとえっちだな。

　成功（せいこう）だ。

　俺（おれ）も成功（せいこう）した。

　ミーニャの存在（そんざい）意義（いぎ）が怪（あや）しいけど、自分（じぶん）で自分（じぶん）に掛（か）けることは出来（でき）ない、もしくは難（むずか）しいらしいので、俺（おれ）には必要（ひつよう）だ。

　伝統（でんとう）およびオタクグッズでは「正副（せいふく）予備（よび）の三（さん）系統（けいとう）」と決（き）まっている。

　予備（よび）はまだない。

　観賞（かんしょう）用（よう）、保存（ほぞん）用（よう）、布教（ふきょう）用（よう）ともいう。

「にへらぁ、私（わたし）ヒールでエドを応援（おうえん）するねっ」

「ああ、ほどほどに頼（たの）むよ」

「うんっ」

　マジほどほどでいいですよ。

　ミーニャが本気（ほんき）で祈（いの）ると、奇跡（きせき）が起（お）きちまいそうなんでな。

　せこせこスプーンを作成（さくせい）しているギードさんも鑑定（かんてい）してみるか。

【ギード・ラトミニ・ネトカンネン・サルバキア

　98歳（さい）　オス　B型（がた）　エルフ

　Bランク

　HP601/612

　MP695/705

　健康（けんこう）状態（じょうたい）：B(痩（や）せ気味（ぎみ）)

】

　ふむ。まあメルンさんとそれほど変（か）わらない。

　ちょっと若（わか）い。

　メルンおばさんは家（いえ）にいるのに、実（じつ）は一番（いちばん）強（つよ）いのか。

　鑑定（かんてい）は無慈悲（むじひ）に真実（しんじつ）を映（うつ）す鏡（かがみ）である。