[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

１６．果実

■１６．果実（かじつ）

　木曜日（もくようび）。

　今日（きょう）も朝（あさ）の鐘（かね）が鳴（な）り、ミーニャが目（め）を覚（さ）ます。

　俺（おれ）はそれよりちょっと早（はや）く目（め）を覚（さ）ますけど、ミーニャを起（お）こさないようにじっとしていた。

「おはよう、エドぉ」

「おはよう、ミーニャ」

　ちょっと豪華（ごうか）になった朝（あさ）ご飯（はん）を食（た）べて、出発（しゅっぱつ）だ。

　ラニアの家（いえ）に寄（よ）って、連（つ）れてくる。

「本日（ほんじつ）も、また森（もり）へ行（い）きたいと思（おも）います」

「「はーい」」

　良（よ）い返事（へんじ）だ。

　ゴブリンはそうそう出（で）ないとは思（おも）うけど、まあラニアなしで挑（いど）むのはやめよう。

　スラム街（がい）を通過（つうか）して、草原（そうげん）に到着（とうちゃく）。

　カラスノインゲン、ホレン草（そう）、タンポポ草（そう）を採取（さいしゅ）する。

「お、見（み）てみ、エルダタケ発見（はっけん）」

「あ、美味（おい）しいキノコだ」

「本当（ほんとう）ですか」

「まあ待（ま）って、今（いま）確認（かくにん）するから」

　焦（あせ）らなくてもキノコは逃（に）げない。

　『鑑定（かんてい）』。

【エルダタケ　キノコ　食用（しょくよう）可（か）】

　よし本物（ほんもの）だ。

　ドクエルダタケモドキがあるからな、慎重（しんちょう）に鑑定（かんてい）はする。

　本職（ほんしょく）のキノコ採（と）りでも、キノコを識別（しきべつ）する「同定（どうてい）」は熟練（じゅくれん）を要（よう）する、もしくは顕微鏡（けんびきょう）が必要（ひつよう）と聞（き）いたことがある。

　素人（しろうと）判断（はんだん）は危険（きけん）だ。

　一株（ひとかぶ）だけど、日本（にほん）のスーパーのシメジくらいのサイズがあるので、みんなで分（わ）けても、分（わ）け前（まえ）はある。

　今日（きょう）は幸先（さいさき）がいい。

　おとといの晩（ばん）、雨（あめ）が降（ふ）ったからだろうか。

　森（もり）と草原（そうげん）の境目（さかいめ）に到着（とうちゃく）した。

「ミーニャ、この前（まえ）と同（おな）じあの祝福（しゅくふく）。神様（かみさま）へのお願（ねが）い、してもらってもいい？」

「え？　いいよ、それくらい」

　よくわかっていないミーニャが同意（どうい）してくれる。

　やってる本人（ほんにん）が効果（こうか）を理解（りかい）していないとか、もったいなさすぎる。

「ラファリエール様（さま）、私（わたし）たちをお守（まも）りください」

　シュパシュパっと右（みぎ）から左（ひだり）、左（ひだり）から右（みぎ）へと手刀（てがたな）で、聖印（せいいん）を切（き）る。

　普段（ふだん）はのほほんとしているが、このポーズをやるときは妙（みょう）に真剣（しんけん）で凛々（りり）しく、パワーを感（かん）じる。

　ラニアもほんの少（すこ）しでも変化（へんか）を感（かん）じ取（と）ったのか、神妙（しんみょう）な顔（かお）つきをしていた。

「ありがとうミーニャ。ラファリエール様（さま）もありがとうございます」

　元々（もともと）無神論（むしんろん）者（しゃ）だった前世（ぜんせ）持（も）ちの俺（おれ）だってこうまでされれば、神様（かみさま）の信奉者（しんぽうしゃ）になるわ。

　森（もり）を歩（ある）いていく。今日（きょう）の目標（もくひょう）は「果実（かじつ）」だ。

　めっちゃうまい果物（くだもの）は、動物（どうぶつ）に先（せん）を越（こ）されていることも多（おお）いが、残（のこ）っていることもある。

　人間（にんげん）も食（た）べるけど、森（もり）は危険（きけん）なので、あまり人（ひと）は立（た）ち寄（よ）らない。

　冒険者（ぼうけんしゃ）はくるけど、もっと奥（おく）へ行（い）く人（ひと）が多（おお）いので、この辺（へん）の浅（あさ）いところはある意味（いみ）、穴場（あなば）なのだ。

「ということで実（み）を探（さが）そうと思（おも）う」

「はーい」

　森（もり）を進（すす）む。

　一（いっ）本（ぽん）の茎（くき）の先端（せんたん）に、1センチくらいの赤（あか）い実（み）が固（かた）まってなっている。

「はいはいはい。赤（あか）い実（み）がいっぱいなってる」

「ああ、これはマムシグサだな。毒（どく）だよ」

「毒（どく）なんだ……」

「喉（のど）を切（き）り裂（さ）くような痛（いた）みがあるらしい」

「ひえぇ」

　ミーニャちゃん、しょんぼりへにょりん。

　アホ毛（げ）がしおれちゃう。

　一応（いちおう）鑑定（かんてい）してみるか。

【マムシグサ　植物（しょくぶつ）　食用（しょくよう）不可（ふか）(毒（どく）)】

　まあ、そのまんまだな。

　日本（にほん）と非常（ひじょう）に似（に）たような植生（しょくせい）だから助（たす）かる。

　そこそこ美味（おい）しそうに見（み）えるけど、どちらかといえば、ヤバいやつだ。

　さらに進（すす）む。

「はいはい。赤（あか）い実（み）がぽつぽつ、なってるよ？」

「ああ、これは、たぶん、いいやつだ」

「やった。甘（あま）い？　甘（あま）い実（み）、すき！！」

「残念（ざんねん）だけど、思（おも）ってるのとは違（ちが）う」

「そうなんだ」

【サンショウ　植物（しょくぶつ）　食用（しょくよう）可（か）】

　そう山椒（さんしょう）の実（み）だ。

　熟（じゅく）すと赤（あか）い小（ちい）さな実（み）をつける。

　しかし、甘（あま）いわけもなく、フルーティーな匂（にお）いは若干（じゃっかん）するらしいが、これは「辛（から）い」に属（ぞく）する刺激（しげき）がある。

　いや、その辺（へん）の甘（あま）いものもうれしいけど、これだって、大（だい）発見（はっけん）だぞ。

　かなりうれしい。

「でも、これ俺（おれ）好（ず）きなんだ。大（だい）発見（はっけん）だ。でかした、ミーニャ」

「やった、にゃは」

　頭（あたま）をこっちに向（む）けてくる。

「ほーれ、なでなで」

「ほわわ」

　頭（あたま）を撫（な）でると、途端（とたん）にうれしがる。犬（いぬ）か。

　実（み）といってもリンゴ、オレンジ、ブドウ、で終（お）わるわけないよ。

　進（すす）む。

「これはどうですか？　紫（むらさき）の実（み）がたくさん」

「ああ、これはあれだな、ブドウ」

「ブドウ」

「美味（おい）しいはず。酸（す）っぱいかもしれないけど」

　鑑定（かんてい）さんカモン。

【ヤマブドウ　植物（しょくぶつ）　食用（しょくよう）可（か）】

　やった。これは当（あ）たりだ。

　大（だい）繁殖（はんしょく）していたら、ワインにすると大儲（おおもう）けできるが、さすがに醸造（じょうぞう）する場所（ばしょ）とかもないか。

　この辺（へん）では、ワインは高級（こうきゅう）品（ひん）だ。

　一般人（いっぱんじん）は安（やす）いエール。中級（ちゅうきゅう）品（ひん）なら蜂蜜（はちみつ）酒（しゅ）のミードが主流（しゅりゅう）。

　ウォッカ、ウィスキーとかの蒸留酒（じょうりゅうしゅ）はほとんど流通（りゅうつう）していない。主（おも）にドワーフが造（つく）っているとは聞（き）く。

　子供（こども）が飲（の）んではいけない法律（ほうりつ）はないが、あまり褒（ほ）められたものではない。

　コーヒーとかと一緒（いっしょ）だね。

「全部（ぜんぶ）、採（と）っちゃおうか」

「え、いいの？」

「うん」

「わーい」

「採（と）ったらこっちに渡（わた）して。アイテムボックスに入（い）れるから」

「わかった」

　アイテムボックスのことは、この前（まえ）、ちょろっと教（おし）えておいた。

　隠（かく）し通（とお）すのも難（むずか）しいし、これは便利（べんり）なので。

　山（やま）ブドウを採（と）りまくる。

　日本（にほん）なら山（やま）ブドウの季節（きせつ）は、10月（がつ）ごろだろうか。

　アイテムボックスなら潰（つぶ）れる心配（しんぱい）もない。

　背負（せお）いバッグに入（い）れてたら、ブドウが染（し）み出（だ）して大変（たいへん）なことになる。

「食（た）べてみてもいい？」

「いいよ」

「あ、んっ、甘（あま）い！　これ甘（あま）いよ」

「どれどれ。甘（あま）いな、確（たし）かに美味（おい）しい」

「美味（おい）しいです」

　ブドウはなかなかのお味（あじ）でした。

　次（つぎ）に見（み）つけたのは、青（あお）リンゴだった。

「これ、赤（あか）くないけど、おっきい実（み）だよ」

「ああ、これは。どれどれ」

【アオリンゴ　植物（しょくぶつ）　食用（しょくよう）可（か）】

　リンゴで終（お）わるわけない、とか言（い）ったけど、リンゴだったよ。

「え、まだ熟（じゅく）してないんじゃないの？」

「これは、青（あお）いまま、もしくは黄色（きいろ）くらいにしかならないんだ」

「へぇ、そうなんだ」

　協力（きょうりょく）して木（き）に登（のぼ）り、青（あお）リンゴを収穫（しゅうかく）した。

　大量（たいりょう）だ。

　一（いっ）本（ぽん）の木（き）には200個（こ）近（ちか）くなっている。

　全部（ぜんぶ）は採（と）らないけど、100個（こ）くらいになった。

　日本（にほん）では青（あお）リンゴの季節（きせつ）は夏（なつ）から秋（あき）だ。

　その辺（へん）は違（ちが）うらしい。

　アイテムボックスがいっぱいだな。少（すこ）しみんなで分（わ）けて背負（せお）う。

　俺（おれ）も半分（はんぶん）は偽装（ぎそう）で背負（せお）いバッグを装備（そうび）している。

　今日（きょう）の収穫（しゅうかく）は、山椒（さんしょう）、山（やま）ブドウ、青（あお）リンゴ。上々（じょうじょう）ではなかろうか。

「素晴（すば）らしい、素晴（すば）らしいよ、諸君（しょくん）」

「わーい、やった、褒（ほ）められた」

「やりました」

　いい感（かん）じで森（もり）を離脱（りだつ）、家（いえ）に戻（もど）ってきた。