[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

１３．犬麦茶

■１３．犬（いぬ）麦茶（むぎちゃ）

　火曜日（かようび）。

　腹案（ふくあん）の一（ひと）つ、スプーンの生産（せいさん）はいち段落（だんらく）した。

　今日（きょう）はもう一（ひと）つのほうを解決（かいけつ）しようと思（おも）う。

　ハーブティーがあまりお好（す）きじゃない人（ひと）対策（たいさく）。

　結論（けつろん）から言（い）えば、麦茶（むぎちゃ）ないしそれに類（るい）するものを出（だ）す。

　実（じつ）は草原（そうげん）で、いま一番（いちばん）勢（せい）力（りょく）が強（つよ）い雑草（ざっそう）は、草原（そうげん）全体（ぜんたい）に生（は）えていて、穂（ほ）が出（で）ているイネ科（か）麦（むぎ）系（けい）の植物（しょくぶつ）である。

　それに目（め）をつけている。

　おそらく毒（どく）はない。粉（こな）でパンを作（つく）って主食（しゅしょく）にするには、量（りょう）が足（た）りないと思（おも）う。

　でも、麦茶（むぎちゃ）ならどうだろうか。

　ゴーン、ゴーン、ゴーンと朝（あさ）の三（さん）の鐘（かね）が鳴（な）る。午前（ごぜん）六（ろく）時（じ）だ。

「おはよう、エド～」

「おはようミーニャ」

　ミーニャがぐいぐい抱（だ）き着（つ）いてくる。

　今日（きょう）も朝（あさ）から元気（げんき）がいい。

　さっと鑑定（かんてい）をしておく。

【ミーニャ・ラトミニ・ネトカンネン・サルバキア

　6歳（さい）　メス　B型（がた）　エルフ

　Eランク

　HP120/120

　MP230/230

　健康（けんこう）状態（じょうたい）：B(痩（や）せ気味（ぎみ）)

】

　昨日（きのう）はスキル「祝福（しゅくふく）」を使（つか）ったためMPが減（へ）っていた。

　自然（しぜん）回復（かいふく）もしくは寝（ね）ると回復（かいふく）はするらしい。

　あと祝福（しゅくふく）の状態（じょうたい）異常（いじょう）も解除（かいじょ）されている。

　レベルアップでもしたのか、HP、MPの最大（さいだい）値（ち）が少（すこ）し増（ふ）えている。

　今朝（けさ）のご飯（はん）メニュー。

　イルク豆（まめ）とサトイモの水煮（みずに）。

　カラスノインゲンとホレン草（そう）と干（ほ）し肉（にく）の炒（いた）め物（もの）。

　フキの塩煮（しおに）。

　ハーブティー。

　朝（あさ）も、豆（まめ）だけのご飯（はん）は卒業（そつぎょう）だ。

　サトイモは多（おお）くはないが、一人（ひとり）二（に）個（こ）くらいでもあれば全然（ぜんぜん）違（ちが）う。

「おいちぃ」

「ああ、おいしい」

　ミーニャもギードさんも朝（あさ）から満足（まんぞく）そうだ。

　メルンさんは自分（じぶん）で調理（ちょうり）したのに、信（しん）じられないような顔（かお）をして食（た）べている。

　フキは採（と）ってきてすぐに水（みず）に浸（つ）けて、アク抜（ぬ）きしてある。

　これは調理法（ちょうりほう）を知（し）らないと、不味（まず）いまま食（た）べてしまう危険性（きけんせい）のある植物（しょくぶつ）だ。

　文化（ぶんか）の発展（はってん）と継承（けいしょう）を願（ねが）おう。

「あの苦（にが）いフキが、食（た）べられる味（あじ）になっている」

　メルンさんはアク抜（ぬ）き前（まえ）のものを一応（いちおう）といって試食（ししょく）してみたので、不味（まず）いのは知（し）っている。

　野菜（やさい）とかは都市（とし）内（ない）で買（か）うと、それなりにお値段（ねだん）がする。

　野菜（やさい）は外（そと）の農家（のうか）が作（つく）って輸送（ゆそう）してくるか、狭（せま）い城内（じょうない）で栽培（さいばい）するほかないので、需要（じゅよう）に対（たい）して、供給（きょうきゅう）が少（すく）なめなのだ。

　当然（とうぜん）のようにスラム街（がい）で食（た）べる習慣（しゅうかん）はほとんどない。

　しかし俺（おれ）たちの家（いえ）の後（うし）ろにはすぐに草原（そうげん）と森（もり）があるので「危険（きけん）さえ無視（むし）すれば」食（た）べ物（もの）はある。

　問題（もんだい）は、普通（ふつう）の人（ひと）だと危険性（きけんせい）を排除（はいじょ）する方法（ほうほう）があまりないということだ。

　一（ひと）つは、食中毒（しょくちゅうどく）。もう一（ひと）つはモンスター。

　鑑定（かんてい）と攻撃（こうげき）手段（しゅだん）が揃（そろ）えば、怖（こわ）いものはそれほど多（おお）くなくなる。

「「行（い）ってきます」」

　ミーニャを連（つ）れて、ラニアの家（いえ）に行（い）く。

　もうバレてしまったので、ラニアにも一枚（いちまい）かませろと言（い）われてしまった。

　別（べつ）に利益（りえき）をかっさらいたいわけではなく、仲間（なかま）外（はず）れにしないで、という意味（いみ）らしい。

　ラニアの家（いえ）に行（い）って連（つ）れてくる。

「おはよう」

「おはようございます」

　ちなみにラニアの家（いえ）は、うちよりはご飯（はん）が元（もと）から豪華（ごうか）なので、朝（あさ）からパンだったらしい。

　そういえば豆（まめ）をやめてパンにしてもいいけど、豆（まめ）は豆（まめ）でタンパク質（しつ）も摂（と）れるので、メニューから外（はず）しにくい。

　スラム街（がい）を抜（ぬ）けて、草原（そうげん）に出（で）る。

　どこにでも生（は）えている穂（ほ）を鑑定（かんてい）する。

　一（いっ）本（ぽん）の茎（くき）に左右（さゆう）斜（なな）めに順番（じゅんばん）にムギのように種子（しゅし）が並（なら）んでいる。

　ちょっと種子（しゅし）の先端（せんたん）が尖（とが）ったヒゲが余計（よけい）ムギっぽい。

『鑑定（かんてい）』

【イヌムギ　植物（しょくぶつ）　食用（しょくよう）可（か）】

　これ以上（いじょう）の情報（じょうほう）が欲（ほ）しいんだけど、わからんものはしょうがない。

　たぶん地球（ちきゅう）のイヌムギとは違（ちが）うけれど、表示（ひょうじ）上（じょう）はこうなるもよう。

「イヌムギです。今日（きょう）はこれを採（と）って集（あつ）めます。穂（ほ）だね」

「わかったぁ」

「わかりました」

　性格（せいかく）の違（ちが）う返事（へんじ）を聞（き）きつつ、作業（さぎょう）を進（すす）める。

　とにかくまずは採（と）って集（あつ）めるのだ。

　どこにでも生（は）えている。

　他（ほか）のホレン草（そう）とかが、生（は）えているところと、まったく生（は）えてないところとまばらなのに対（たい）して、イヌムギはそこらじゅうに生（は）えている。

　あっという間（ま）に、バッグいっぱいになった。

　あ、そうそうアイテムボックスを使（つか）えるので、そっちに入（い）れてある。

　背負（せお）いバッグも一応（いちおう）装備（そうび）している。

「いっぱい採（と）れたぁ」

「すごいですね」

「ああ」

　二人（ふたり）もたくさん集（あつ）めてくれた。

　これをさっさと持（も）って帰（かえ）る。

「それじゃあ乾燥（かんそう）させます」

「あれだね、ハーブと一緒（いっしょ）」

「そうだね」

　庭（にわ）に毛布（もうふ）を敷（し）いてその上（うえ）にイヌムギを広（ひろ）げる。

　脱穀（だっこく）をしてしまう。

　茎（くき）を左手（ひだりて）で持（も）ち、右手（みぎて）をスライドさせる。

　すると種子（しゅし）の部分（ぶぶん）が外（はず）れて毛布（もうふ）の上（うえ）に落（お）ちていく。

　そうして庭（にわ）の毛布（もうふ）にはイヌムギが一面（いちめん）に広（ひろ）がった。

　また泥棒（どろぼう）スズメを警戒（けいかい）しつつ、乾燥（かんそう）させる。

「のどかだね」

「そうだね」

「うふふ、はるうららだわ」

　ピーチチチとスズメが飛（と）んでいく。

　お昼（ひる）を挟（はさ）んでギードさんとスプーンを量産（りょうさん）しつつ、イヌムギを見守（みまも）る。

　最近（さいきん）は暖（あたた）かい日（ひ）が続（つづ）いて、過（す）ごしやすい。

　この辺（へん）は冬（ふゆ）もそこまで寒（さむ）くないから、スラム街（がい）でも生（い）きていけるが、北（きた）のほうは厳（きび）しそうだ。

　エルダニアからトライエに逃（に）げてきた理由（りゆう）の一（ひと）つは、こちらのほうが暖（あたた）かい気候（きこう）だからというのも、あるらしい。

　乾燥（かんそう）させたものを回収（かいしゅう）する。

　茎（くき）がついていたときは山盛（やまも）り二（に）杯（はい）だったけど、今（いま）は一杯（いっぱい）に減（へ）っていた。

　これだけあればパンにもできそうだけど、今回（こんかい）の目的（もくてき）を見失（みうしな）ってはいけない。

　とりあえず試飲（しいん）用（よう）に少量（しょうりょう）加工（かこう）しよう。

　鍋（なべ）にイヌムギを入（い）れて炒（い）る。

　焙煎（ばいせん）するといったほうが近（ちか）いかもしれない。

「あぁ、いい匂（にお）いするぅ」

「そうですね」

　炭水化物（たんすいかぶつ）の焦（こ）げるような匂（にお）いは、パンの匂（にお）い、普通（ふつう）の麦茶（むぎちゃ）かウーロン茶（ちゃ）にも近（ちか）いかもしれない。

　とにかくいい匂（にお）いがしてくる。

　焦（こ）げないように注意（ちゅうい）しつつ、見極（みきわ）めて火（ひ）からおろす。

　そしてお湯（ゆ）で淹（い）れると、薄茶（うすちゃ）から黄緑（きみどり）の液体（えきたい）が出来上（できあ）がった。

　犬（いぬ）麦茶（むぎちゃ）だ。

　香（こう）ばしい匂（にお）いと、草（くさ）のフルーティーな匂（にお）いがしている。

　優（やさ）しい香（かお）りがする。

「なにこれ、美味（おい）しぃ」

「美味（おい）しいです。私（わたし）はハーブティーよりはこっちが好（この）みですね」

「これもうまいな」

　なかなか好評（こうひょう）だった。

　これは売（う）れる。買（か）ってもらえればだけど。