[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

９．黒い少年と青い少女

■９．黒（くろ）い少年（しょうねん）と青（あお）い少女（しょうじょ）

　引（ひ）き続（つづ）き月曜日（げつようび）。

　さて、今日（きょう）は草原（そうげん）よりは、ほんのちょっぴし危険（きけん）だけど、森（もり）へ行（い）こう。

　貴族（きぞく）街（がい）=>平民（へいみん）街（がい）=>城壁（じょうへき）=>スラム街（がい）=>草原（そうげん）=>森（もり）

　つまりこういうふうになっていると。

　森（もり）は俺（おれ）たちの生活圏（せいかつけん）ではないので、ほとんど行（い）ったことがない。

　しかし俺（おれ）の母親（ははおや）はちょっと変（か）わっているらしく、俺（おれ）を十（じゅっ）回（かい）ほど森（もり）に連（つ）れて行（い）って、指導（しどう）をしたことがある。

　もちろんミーニャも一緒（いっしょ）だった。

　だからスラム街（がい）育（そだ）ちの中（なか）では森（もり）に詳（くわ）しいと思（おも）う。

　さて今日（きょう）は少（すこ）しパーティーメンバーに不安（ふあん）があるので、一人（ひとり）増員（ぞういん）しようと思（おも）う。

　俺（おれ）は魔素（まそ）占（うらな）いにより嫌（きら）われているが、友達（ともだち）ゼロ人（にん）ではない。

　スラム街（がい）の外壁（がいへき）ぎりぎりを歩（ある）いてすぐのところ。

　彼女（かのじょ）の家（いえ）はある。

「おーい、ラニア、ラニアいる？」

「はーい。あらあら、エド君（くん）、久（ひさ）しぶり、最近（さいきん）遊（あそ）んでくれないから」

「いやちょっと、忙（いそが）しくて」

「そうなんですね」

「それで、君（きみ）の力（ちから）が必要（ひつよう）になった。今回（こんかい）の任務（にんむ）は『森（もり）』だ」

「森（もり）？　森（もり）に行（い）きたいの？　じゃあ私（わたし）も必要（ひつよう）ですね」

「そういうことだ」

　青（あお）髪（かみ）青眼（あおめ）、肩（かた）までのストレートの美少女（びしょうじょ）、ラニア、五（ご）歳（さい）。

　いや、ついこの前（まえ）誕生（たんじょう）日（び）で今（いま）は同（おな）じ六（ろく）歳（さい）かな。冬（ふゆ）生（う）まれだ。

　誰（だれ）かさんのように、抱（だ）き着（つ）くわけではなく、ハイタッチを交（か）わす。

　基本（きほん）は女（おんな）の子（こ）らしいが、知性（ちせい）があり、ちょっとだけ冒険家（ぼうけんか）のような逞（たくま）しさがある。

　そんな子（こ）だ。

　せっかくだから、鑑定（かんてい）しておこう。

『鑑定（かんてい）』

【ラニア・エスフィス

　6歳（さい）　メス　O型（がた）　マギ族（ぞく）

　Eランク

　HP150/155

　MP155/160

　健康（けんこう）状態（じょうたい）：B(痩（や）せ気味（ぎみ）)

】

　おお、おまえもか。痩（や）せ気味（ぎみ）なんですね。

　それ以外（いがい）に特徴（とくちょう）はない。

　いやいやいや、スルーしそうになったけど人（ひと）族（ぞく）じゃなくて、マギ族（ぞく）じゃん。マギ族（ぞく）。

　攻撃（こうげき）魔法（まほう）を得意（とくい）とする、魔族（まぞく）とのハーフなのではとか言（い）われている、マギ族（ぞく）。

　実際（じっさい）には魔族（まぞく）ではないらしいけれど、ちょっと恐（おそ）れられて避（さ）けられているのは本当（ほんとう）だと思（おも）う。

　見（み）た目（め）ほぼ人（ひと）族（ぞく）との違（ちが）いはわからんから、こういう鑑定（かんてい）とかでないと区別（くべつ）はつかない。

　あーね、すべてそれで説明（せつめい）できるね。

「攻撃（こうげき）魔法（まほう）なら、私（わたし）に任（まか）せてくださいっ。ゴブリンなら一撃（いちげき）だし」

「おっおう、ばしっとやっちゃってくれ」

「そうね。私（わたし）たち最強（さいきょう）ですもんね」

「そうだ、そうだな」

「あばばば、紅蓮（ぐれん）の炎（ほのお）で焼（や）き尽（つ）くしてくれるわ」

　そういう子（こ）だ。こいつは魔法（まほう）師（し）というやつだ。

　メルンさんが治療（ちりょう）師（し）、ミーニャもその血（ち）なら白（しろ）魔法（まほう）師（し）、ラニアはその対極（たいきょく）の黒（くろ）魔法（まほう）師（し）。

「むぅ、エドのバカ」

　ちなみにラニアと俺（おれ）が会話（かいわ）で盛（も）り上（あ）がっていると、たいていミーニャの機嫌（きげん）にややトゲが見（み）える。

　不機嫌（ふきげん）まではいかないけど、嫉妬（しっと）だわな、嫉妬（しっと）。

　小（ちい）さくても嫉妬（しっと）しまくりんぐ。わかりやすい。

　でもラニアがべたべたして甘（あま）えてくるタイプじゃなくてよかった。

　そんな行動（こうどう）されたら、ミーニャが爆発（ばくはつ）しちゃう。

　白（しろ）魔法（まほう）師（し）とか天使（てんし）とかいうけど、その実（じつ）、メイスで撲殺（ぼくさつ）するのが、ヒーラーというものだし。

　血（ち）を見（み）たくない、気（き）をつけよう。

　でも残念（ざんねん）ながら、ミーニャちゃんはまだ白（しろ）魔法（まほう）に目覚（めざ）めていない。

「さて、森（もり）へ出発（しゅっぱつ）します。点呼（てんこ）確認（かくにん）。一番（いちばん）、エド、準備（じゅんび）よし、次（つぎ）っ」

「はいはいはい、二（に）番（ばん）、ミーニャ、準備（じゅんび）よし、次（つぎ）っ」

「さ、三（さん）番（ばん）……ラニア、準備（じゅんび）よし、ですよ」

「はーい、ありがとうございます。では出発（しゅっぱつ）です」

　スラム街（がい）を並（なら）んで進（すす）んでいく。

　縦（たて）に並（なら）ぶと、RPGをプレイしているみたいに、マップチップ上（じょう）を移動（いどう）するキャラを思（おも）い浮（う）かべてしまう。

　勇者（ゆうしゃ）、魔法（まほう）師（し）、ヒーラー。いいバランスだ。

　ただしヒーラーはヒールが使（つか）えない！

　黒（くろ）、青（あお）、金（きん）が並（なら）んで歩（ある）く。

　スラム街（がい）を抜（ぬ）けた。家（いえ）がなくなり切（き）り株（かぶ）の並（なら）ぶ草原（そうげん）に出（で）る。見通（みとお）しがいい。

　目的（もくてき）地（ち）はここではないけど、今日（きょう）もいいものがあったら採（と）って歩（ある）こう。

　背負（せお）いバッグも装備（そうび）している。

　特（とく）に食用（しょくよう）キノコが欲（ほ）しい。

「救世主（きゅうせいしゅ）様（さま）、左方向（ひだりほうこう）、毒（どく）キノコ発見（はっけん）！」

　ヒーラーのミーニャがびしっと指（ゆび）を差（さ）す。

　確（たし）かに禍々（まがまが）しい紫（むらさき）の10センチサイズのキノコが、切（き）り株（かぶ）に寄（よ）り添（そ）うように生（は）えている。

　それにしても救世主（きゅうせいしゅ）様（さま）はやめてくれ、恥（は）ずかしい。

「どれどれ」

　俺（おれ）は興味（きょうみ）本位（ほんい）で鑑定（かんてい）を掛（か）ける。

『鑑定（かんてい）』

【ムラサキメルリアタケ　キノコ　食用（しょくよう）可（か）(美味（びみ）)】

　！！？？

　見（み）たか。俺（おれ）ははっきり見（み）た。「美味（びみ）」って書（か）いてある。初（はじ）めてだ。

「おい、青（あお）娘（むすめ）と金（きん）娘（むすめ）」

「あおむすめ……」「きんむすめ……」

「これ、食（た）べられる。しかも、美味（うま）いらしい」

「「ええぇぇ」」

　衝撃（しょうげき）の事実（じじつ）だろう。

「持（も）って、帰（かえ）りますか？」

　恐（おそ）る恐（おそ）るラニアが聞（き）いてくる。その顔（かお）には「本当（ほんとう）に食（た）べるのかしら」と書（か）いてある。

「もち、食（た）べよう。お昼（ひる）に使（つか）おう。それまでに探索（たんさく）だ」

「えええぇぇぇ」

「ラニアちゃん、あのね、エドは天才（てんさい）だから、大丈夫（だいじょうぶ）だよ……たぶん」

「たぶん……」

　そこはかとない不安（ふあん）に顔（かお）を青（あお）くするラニア。

　鑑定（かんてい）は嘘（うそ）つかない。

　生（なま）で食（く）えるかまでわからないけど、嘘（うそ）をつかれたことはない。

　転生（てんせい）神（しん）のアカシックレコードに嘘（うそ）は書（か）かれていない、俺（おれ）は神様（かみさま）を信（しん）じている。

　せっかく転生（てんせい）したんだし、まだ死（し）にたくない。

　信（しん）じてるからな、神様（かみさま）、頼（たの）んだよ。

　今日（きょう）の分（ぶん）のカラスノインゲン、ホレン草（そう）、タンポポ草（そう）も無事（ぶじ）採取（さいしゅ）した。

　ラニアは少（すこ）し不思議（ふしぎ）な顔（かお）をしていた。

　顔（かお）には今度（こんど）は「こんな草（くさ）どうするのでしょうか」と書（か）いてある。

　ラニアの顔（かお）はわかりやすい。

　森（もり）と草原（そうげん）の境界（きょうかい）にたどり着（つ）いた。

「いよいよ森（もり）だ」

「ええ、腕（うで）が鳴（な）ります」

「私（わたし）、後（うし）ろからついていくね。絶対（ぜったい）、置（お）いていかないでね」

　ミーニャは以前（いぜん）、森（もり）に行（い）ったときに迷子（まいご）になりかけたことがある。

　それを思（おも）い出（だ）したのだろう。

　あれはミーニャが妖精（ようせい）を見（み）たとか言（い）って、ぼーっとしていたのが悪（わる）い。

　「エルフに連（つら）なるもの」のミーニャに妖精（ようせい）が見（み）えるのは、本当（ほんとう）かもしれないけど。

「妖精（ようせい）いるといいな」

「そうね」

「うっ、うん……」

　軽（かる）くおちょくっておこう。

　忠告（ちゅうこく）にもなるし、今度（こんど）はよそ見（み）ばかりはしないと思（おも）う。

「ラファリエール様（さま）、私（わたし）たちをお守（まも）りください」

　思（おも）いのほか、真剣（しんけん）な顔（かお）になって、神頼（かみだの）みを始（はじ）めるミーニャ。

　この国（くに）の人（ひと）はだいたいラファリエ教徒（きょうと）だ。

　シュパッと聖印（せいいん）を切（き）る。

　ちなみに、右（みぎ）から左（ひだり）、左（ひだり）から右（みぎ）に手刀（てがたな）で切（き）る仕草（しぐさ）がそれだ。

　気（き）が付（つ）くと、木漏（こも）れ日（び）のような光（ひかり）の柱（はしら）が降（ふ）り注（そそ）いでいて、さらに光（ひかり）の粒子（りゅうし）が舞（ま）っている。

　木漏（こも）れ日（び）はたまたまで、粒子（りゅうし）は塵（ちり）なんだろうけど、周（まわ）りの神聖（しんせい）度（ど）が上（あ）がった気（き）がする。

　すごいな、ミーニャ。こんなことできたんだ。本当（ほんとう）に聖職者（せいしょくしゃ）なのかな。

　ヒールができないヒーラーとかバカにしてごめんな。

　とりあえずステータス、詳細（しょうさい）は出（で）ないけど見（み）てみるか。

『鑑定（かんてい）』

【ミーニャ・ラトミニ・ネトカンネン・サルバキア

　6歳（さい）　メス　B型（がた）　エルフ

　Eランク

　HP110/110

　MP188/220

　健康（けんこう）状態（じょうたい）：B(痩（や）せ気味（ぎみ）)

　状態（じょうたい）異常（いじょう）：祝福（しゅくふく）

】

　出（で）た。出（で）ました。神様（かみさま）認定（にんてい）、状態（じょうたい）異常（いじょう）「祝福（しゅくふく）」。

　あとMPが減（へ）っている。何（なに）かを【使（つか）った】証拠（しょうこ）だ。

　ミーニャ、恐（おそ）ろしい子（こ）。

　青（あお）い少女（しょうじょ）、ラニアが全部（ぜんぶ）持（も）ってく回（かい）に今日（きょう）はなると思（おも）ってたのに、持（も）っていったのは穴馬（あなうま）のミーニャだ。

　聖女（せいじょ）であり穴馬（あなうま）のミーニャ、今後（こんご）ともよろしくお願（ねが）いします。