8.パンツとナイフ

■8.パンツとナイフ


 月曜日げつようび

 またかねまえめた。


「エドぉ、むにゃむにゃ」


 相変あいかわらずミーニャは寝言ねごとっている。おもおれ関連かんれんの。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン、とかねる。

 さんこくだ。


 おどろいたはとんでいきばたくおとがする。


 夜中よなかれいからかぞえて、午前ごぜんいちこく午前ごぜん四時よじこくばれる。

 かねるのは午前ごぜんろくさんこくさんかねから午後ごごろくまでで、夜中よなからない。

 おひるろくこくろっかいる。

 つぎ午後ごごかねかずいっかいもどり、いちかねだけどななこくばれている。

 夕方ゆうがた午後ごごろくきゅうこくかねかずさんかいだ。


 つまりひょうにするとこんなかんじ。


  午前ごぜん  いちこく

  午前ごぜん  こく

  午前ごぜんろく  さんこく さんかね

   ……

  正午しょうご十二じゅうに ろくこく ろくかね

  午後ごご  ななこく いちかね

  午後ごご  はちこく かね

  午後ごごろく  きゅうこく さんかね(2かい)

  午後ごごはち  じゅうこく

  午後ごごじゅう  十一じゅういちこく

  午後ごご十二じゅうに 十二じゅうにこく (日付ひづけ変更へんこう)


「あ、あさだぁ、エド、おはよぅ」

「ああ、おはよう、ミーニャ」

「うん、にへぇ」


 かおをゆるゆるにすると、ガバッといてくる。


「んふんん、エド、すきぃ~」


 まだぼけているらしい。あまえまくってくる。

 まあかわいいからいいけどねっ。


 あまえんぼうタイムがわるとおれきる。


 スラムに個室こしつがあるはずもなく、衣食住いしょくじゅうひと部屋へやごす。

 すみにキッチンスペースがべつつくってあるだけだ。

 にん雑魚寝ざこねしかできない。


 適当てきとうぐしかみととのえる。ちょっとからまってるところがある。

 水瓶みずがめからみずすくって、ちょろっとそとかおあらってわりだ。


 なお自分じぶんかおかがみたことはないので、前世ぜんせているか、それともイケメンなのかはらない。

 かみくろで、ひとみたことはないがくろだとおもう。

 黒髪くろかみ黒眼くろめ大変たいへんめずらしくて、このスラムでおな特徴とくちょうひとにはったことがない。

 ついでにいえば異世界いせかいふう風水ふうすい魔素まそうらない」という一部いちぶ宗教的しゅうきょうてきかんがえによれば「のろわれている」だそうだ。

 だから同年代どうねんだいはほとんどおれ近寄ちかよってこない。

 ただ、さいわいなのは大人おとなたちはこの魔素まそうらないを、これっぽちもしんじていないので、ほかひと同様どうよう差別さべつなくせっしてくれる。

 ようは連綿れんめん子供こどもあいだがれる、よくわからない、あそびの一種いっしゅだ。


 着替きがえはない。たきりスズメなのである。

 おとこざつなシャツと七分丈しちぶたけのズボンだ。

 おんな膝丈ひざたけのワンピースとなっている。

 いろ茶色ちゃいろ

 元々もともと薄茶うすちゃだったんだろうけど、っぱなしのせいかくなっている。

 身長しんちょうびてはいらなくなると、ドリドン雑貨店ざっかてんりにして、中古ちゅうこのおさがりを仕組しくみだ。

 くつはたぶんゴブリンのシンプルな革製かわせい靴底くつぞこでできているから、すべりやすい。


 男性だんせいたち、いておどろけ「おぱんつ」は存在そんざいする。かぼちゃではない。

 おんなはワンピースのしたはノーパンではない。ちゃんとパンツを穿いている。


 パンツは現代げんだいちか形状けいじょうで、男子だんしはトランクスふう女子じょしはゴムがなくてひもパンになっている。

 ひもパンですってよ。


 男子だんしはパンツもえないが、女子じょしはいつのにか毎日まいにちパンツだけは交換こうかんしているらしい、とく。

 ミーニャもおれそとにある共同きょうどうのスライムトイレにっているあいだに、穿えていると、最近さいきんさとった。

 えのパンツはおれたちがあそんでいるあいだに、メルンさんが洗濯せんたくして陰干かげぼししている。


 スライムトイレとはスライムによる完全かんぜん循環じゅんかんしきエコトイレで、地区ちくなにしょ設置せっちされている。

 えたスライムは錬金術れんきんじゅつ材料ざいりょうとして、れるらしい。なに製品せいひんになるかはらない。

 スラムでは個人こじんでトイレをっているひとはまずいない。

 だから排泄物はいせつぶつによる汚染おせんはほぼない。ビバ異世界いせかいなぞ技術ぎじゅつ


「ところで、ギードさん」

「なんだいエドくん


「ギードさんって普段ふだんかなり仕事しごとをしているとおもうんだけど」

「まあ、そうだね」

「その仕事しごといちにちで1,000ダリル以上いじょうかせげているんですか? うちってかなり貧乏びんぼうじゃないですか」

「うーん、じつはね」

「はい」

ぼく仕事しごといていないのかな、ミスとかもおおくて、いつも雑用ざつよう下働したばたらきしかさせてもらえなくてね、それでいちにちちょうど1,000ダリルってかんじなんだ。おな仕事しごとはしてても、日雇ひやとあつかいなんだ」

「そうだったんですか」

「はい」


 日雇ひやといは雇用こよう契約けいやくではないので、福利ふくり厚生こうせいとかもない。

 この世界せかいには元々もともと福利ふくり厚生こうせいなんてないかもしれないけど、定職ていしょくならもっとお賃金ちんぎんがもらえる。


「それから、じつは、これでもかくんでいるなもので、それに世間知せけんしらずだし」

「ほーん」


 やっぱりなにやらあるんですね。


「エドくんも、ここ最近さいきんかせいできてくれるし、いざとなったら、このナイフとかればいいから」


 そういってナイフをせてくれる。


【ミスリルのナイフ 武器ぶき 良品りょうひん


 あれ、なんかこれ既視感きしかんが。


 おれふところからミスリルのナイフをして見比みくらべる。

 なんだこれ、そっくりだ。


「おお、エドくん、きみは一体いったい……」

「これはははのでして」

「ああ、トマリアの……」


 そういうとギードさんは一度いちどをつぶり、空中くうちゅう聖印せいいんる。


 確証かくしょうはないけど、んだわけじゃない。「たび無事ぶじに」という意味いみだろう。


「これは懇意こんいにしているドワーフのナイフでね。エルフぞく親愛しんあいあかしだ」

「こっちのもですか?」

「そう、だとおもう。つまりぼくたちには、とおからずなに関係かんけいがあるのだと」

「そうなんですか、まあらないことは、わからないですね」

「そうだね」


「ちなみにコレ、いくらでれるんですか?」

「そうだな、金貨きんか三十さんじゅうまい、ぐらいかな」


 金貨きんか三十さんじゅうまい、30まんえんか。

 日本にほんとはおかね価値かちちがうから、30まんえんといっても、よくわからないわけだけど。


大切たいせつにするように、それから、けっしてらないこと」

「ああ、れるのに、ってはダメなんですね」

「そうだ。財産ざいさんみとめられない奴隷どれいとされるなら、ったほうがいいかもしれないが、それ以外いがいは、あまりおすすめしない」

「わかりました」


 奴隷どれいには借金しゃっきん奴隷どれい犯罪はんざい奴隷どれい戦争せんそう奴隷どれい法律ほうりつじょうグレーな奴隷どれいりの奴隷どれいなどがある。

 犯罪はんざい奴隷どれいつみかるいならたいきんせば解放かいほうされる。

 ここのスラムがいでは奴隷どれいりは、最初さいしょころはあったらしいが、最近さいきんかない。


「ちなみにですが、ギードさんって手先てさき器用きようですよね」

「そりゃあね、エルフだから、それなりには」

「あはは、そうですよね」


 ふくあんがある。

 下働したばたらきの肉体にくたい労働ろうどうとかより、このエルフのおじさんはせてるし器用きようだったから、そっちのほうがいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る