[総ルビ]異世界転生スラム街からの成り上がり ～採取や猟をしてご飯食べてスローライフするんだ～(web版)

３．次はキノコを採ろう

■３．次（つぎ）はキノコを採（と）ろう

　引（ひ）き続（つづ）き水曜日（すいようび）、午後（ごご）。

　またスラム街（がい）を抜（ぬ）けて草原（そうげん）にやってきた。

　俺（おれ）たちの家（いえ）はスラム街（がい）の中（なか）でも城門（じょうもん）に近（ちか）い、比較的（ひかくてき）いい場所（ばしょ）にある。

　あとスライムトイレも近（ちか）いのがいい。

　この都市（とし）トライエも立派（りっぱ）な城郭（じょうかく）都市（とし）というもので、街区（がいく）の周（まわ）りには石壁（いしかべ）がそびえ立（た）っている。

　しかしスラム街（がい）は外（そと）なので、壁（かべ）がない。

　極（ごく）稀（まれ）に、街（まち）の近（ちか）くにも強（つよ）いモンスターが襲（おそ）ってくることがある。

　ここ一（いち）年（ねん）は平和（へいわ）だったけど、いつまた出没（しゅつぼつ）するかはわからない。

　だから住（す）めるなら城壁（じょうへき）の中（なか）の街区（がいく）のほうがいいに決（き）まっていた。

　お金（かね）ができて成（な）り上（あ）がると、たいていの住民（じゅうみん）はトライエ市（し）の中（なか）に移住（いじゅう）する。

　しかし小金（こがね）ができたくらいの人（ひと）はエルダニアの誇（ほこ）りでもって、意地（いじ）でスラム街（がい）のラニエルダに住（す）んでいる人（ひと）もいる。

　うちは貧乏（びんぼう）だから住（す）み続（つづ）けているタイプだ。残念（ざんねん）ながら、こういう人（ひと）が一番（いちばん）多（おお）い。貧困（ひんこん）から抜（ぬ）け出（だ）すのは難（むずか）しい。

「午後（ごご）はキノコを探（さが）そうと思（おも）う」

「キノコ！！」

「うん、キノコ」

　スラム街（がい）はボロ家（や）が多（おお）いので、中（なか）には家（いえ）が腐（くさ）りかけてキノコが生（は）えていることもある。

　だからミーニャもキノコは知（し）っている。

　というか一度（いちど）うちの柱（はしら）にも生（は）えていたことがある。

「キノコって美味（おい）しい？」

「ああ、だいたいは旨味（うまみ）が出（で）るから、スープにするとうまい」

「へぇ、なんでそんなこと知（し）ってるの？」

「俺（おれ）はエドだからな、母（かあ）ちゃんに昔（むかし）聞（き）いた」

「さすがエドっ！」

　適当（てきとう）に誤魔化（ごまか）す。

　まだ鑑定（かんてい）魔法（まほう）については、打（う）ち明（あ）けていない。

　大丈夫（だいじょうぶ）かどうか判断（はんだん）できるだけの常識（じょうしき）が俺（おれ）にはない。

　スラムで知識（ちしき）を得（え）るのは非常（ひじょう）に難（むずか）しい。

　午前（ごぜん）中（ちゅう）も見（み）たけど、草原（そうげん）は昔（むかし）、森（もり）の一部（いちぶ）だった。

　スラム街（がい）の家（うち）を建（た）てるために木（き）を伐採（ばっさい）した。

　だから切（き）り株（かぶ）がそのままになっている。

　そして切（き）り株（かぶ）からは、よくキノコが生（は）えることがある。

「いいかな？　切（き）り株（かぶ）を中心（ちゅうしん）に、キノコを探（さが）してね」

「わかったっ！」

「調（しら）べる前（まえ）に触（さわ）らないこと、見（み）つけたら教（おし）えてね、食（た）べられるか教（おし）えるから」

「うん！」

　ミーニャと手分（てわ）けをしてキノコを探（さが）す。

　合間（あいま）にカラスノインゲンを採（と）りつつも、キノコ探（さが）しは続（つづ）ける。

　お、あった！！

　茶色（ちゃいろ）いシメジのようなキノコの株（かぶ）が、切（き）り株（かぶ）の横（よこ）から顔（かお）を出（だ）している。

『鑑定（かんてい）』

【エルダタケ　キノコ　食用（しょくよう）可（か）】

　やった。食用（しょくよう）可（か）の表示（ひょうじ）が。

　しかしこれ、生（なま）でいけるか茹（ゆ）でるか焼（や）くかわからないんだよね。

　もしかして熟練度（じゅくれんど）システムなのか。

　たくさん鑑定（かんてい）すれば詳細（しょうさい）になるとかいう。

　色（いろ）も食（た）べられそうな普通（ふつう）のキノコだし、いけるだろう。

「エド！　エドちゃん！　キノコあったよ」

　ミーニャの声（こえ）が聞（き）こえる。

　駆（か）けつけると同（おな）じような茶色（ちゃいろ）いキノコだった。

　念（ねん）のため鑑定（かんてい）を掛（か）ける。

【エルダタケ　キノコ　食用（しょくよう）可（か）】

　同（おな）じだ。よかった。

「エルダタケだよ、食（た）べられる」

「ほほう」

　小（ちい）さなキノコの株（かぶ）が採（と）れた。

　ひと株（かぶ）で一人（ひとり）分（ぶん）くらいだろうか。

　あと二（に）個（こ）くらいは採（と）りたい。

　ミーニャの父親（ちちおや）ギードさんにも、たまにはキノコとか食（た）べさせてやりたい。

　いつも日雇（ひやと）い中心（ちゅうしん）だけど仕事（しごと）を頑張（がんば）っている。

　母親（ははおや）のメルンさんは普段（ふだん）何（なに）しているんだろう。家（いえ）にいるような気（き）がする。

　あ、でも、よく近所（きんじょ）のおばさんと話（はなし）をしたりしてる。

　何（なに）の報酬（ほうしゅう）か知（し）らないけど、イルク豆（まめ）を分（わ）けてもらったりしているのも見（み）たことがある。

　そういえば初級（しょきゅう）回復（かいふく）魔法（まほう）ヒールを使（つか）えるんだった。きっとその報酬（ほうしゅう）だろう。

　スラム街（がい）では初級（しょきゅう）でも貴重（きちょう）な治療（ちりょう）術（じゅつ）師（し）だ。

　また、キノコを探（さが）す。

　探（さが）す、探（さが）す、探（さが）す……。

「エド！　キノコ！」

　ミーニャのほうへ行（い）く。

　茶色（ちゃいろ）いキノコだ。しかしよく見（み）るとなんとなく違和感（いわかん）がある。

『鑑定（かんてい）』

【ドクエルダタケモドキ　キノコ　食用（しょくよう）不可（ふか）(強毒（きょうどく）)】

　おっと、これは。

　めっちゃ危険（きけん）。キ・ケ・ン。

　危険（きけん）が危（あぶ）ない。

「ミーニャ、これはドクエルダタケモドキだよ。似（に）てるけど毒（どく）キノコだから、食（た）べられない」

「えぇぇぇ、そんなあ」

「必（かなら）ず俺（おれ）に見（み）せないとダメだよ」

「わかったっ！」

　ミーニャはニコッと笑（わら）って承諾（しょうだく）する。

　素直（すなお）な子（こ）はかわいい。

　よく見（み）るとドクエルダタケモドキは傘（かさ）の裏（うら）、ヒダが黄色（きいろ）い。

　普通（ふつう）のエルダタケは白（しろ）っぽい。

　微妙（びみょう）だけど確（たし）かに違（ちが）う。

　それからキノコ探（さが）しだけではもったいないので、草原（そうげん）で比較的（ひかくてき）判別（はんべつ）が容易（ようい）な草（くさ）を鑑定（かんてい）する。

【タンポポ草（そう）　植物（しょくぶつ）　食用（しょくよう）可（か）】

　おっと異世界（いせかい）にもタンポポがあるらしい。

　タンポポ草（そう）という、黄色（きいろ）い花（はな）が咲（さ）く植物（しょくぶつ）の葉（は）っぱを採取（さいしゅ）した。

　タンポポの葉（は）っぱはサラダにしてもいけるはずだ。

「ミーニャ、これはタンポポ草（そう）だよ」

「タンポポ草（そう）？」

「うん。これはサラダでも食（た）べられるから、両手（りょうて）一杯（いっぱい）くらい採（と）ってこよう」

「うんっ」

　その後（あと）も歩（ある）いて回（まわ）り、無事（ぶじ）にエルダタケの小（ちい）さな株（かぶ）を合計（ごうけい）四（よん）株（かぶ）ゲットした。

　家（いえ）に帰（かえ）って、夕（ゆう）ご飯（はん）の支度（したく）だ。

　実際（じっさい）に料理（りょうり）をするのはメルンさんだけど。

　イルク豆（まめ）の水煮（みずに）を作（つく）る。これは主食（しゅしょく）といってもいい。

　水（みず）にカラスノインゲン、エルダタケ、少量（しょうりょう）の塩（しお）を入（い）れる。うま塩（しお）スープだ。

　タンポポ草（そう）にも塩（しお）を振（ふ）って、タンポポのサラダ。

　塩（しお）しかないけど、今（いま）は仕方（しかた）がない。

　このメンバーになってから、三（さん）品（ぴん）の料理（りょうり）は日曜日（にちようび）以外（いがい）では珍（めずら）しい。

　スープもサラダも母親（ははおや）トマリアがいなくなってから久（ひさ）しく見（み）ていなかった。

「おいちぃいいい」

　ミーニャも絶賛（ぜっさん）である。

「うんうん、美味（おい）しい」

「本当（ほんとう）、美味（おい）しいわ」

「今日（きょう）は豪華（ごうか）だな。なにかあったのか？　美味（おい）しいじゃないか」

　父親（ちちおや）のギードさんも料理（りょうり）を褒（ほ）めた。

　久（ひさ）しぶりに、食事（しょくじ）らしい食事（しょくじ）をした気（き）がする。

　お風呂（ふろ）というものはここにはない。

　体（からだ）をお湯（ゆ）につけたタオルで拭（ふ）く習慣（しゅうかん）もない。

　二（に）週間（しゅうかん）に一（いっ）回（かい）くらい川（かわ）で水浴（みずあ）びをする。しかしやるのは昼間（ひるま）だった。

　夜（よる）は夕方（ゆうがた）にご飯（はん）を食（た）べたら、すぐに暗（くら）くなってくるので、暗闇（くらやみ）になる前（まえ）に布団（ふとん）にもぐる。

「おやすみなさい。今日（きょう）のご飯（はん）、美味（おい）しかったね。特（とく）にキノコのスープ」

「ああ、おやすみ、ミーニャ」

「おやすみ、エド。んっ」

　ちゅっとミーニャが軽（かる）く俺（おれ）のほっぺにキスを落（お）として、抱（だ）き着（つ）いて眠（ねむ）ってしまった。

　親愛（しんあい）の証（あかし）なんだろうけど、元（もと）男子（だんし）高校生（こうこうせい）としては、非常（ひじょう）にドキドキする。

　ミーニャの抱（だ）き心地（ごごち）は温（あたた）かくて素晴（すば）らしく、俺（おれ）もすぐに眠（ねむ）りに落（お）ちた。