2.そうだ採取をしよう

■2.そうだ採取さいしゅをしよう


 つづ水曜日すいようび

 まだむにゃむにゃぼけてくっついてくるミーニャをどかしてあさ支度したくはじめる。


「エド、ミーニャ、あさはんにしましょう」

「「はーい」」

「いただきます」


 ミーニャの父親ちちおやは、夜警やけいっていて、まだ帰宅きたく時間じかんではない。

 この夜警やけいはスラムがい治安維持ちあんいじ活動かつどうで、大人おとなおとこまわりになっている。

 もちろんクソやすいが賃金ちんぎん発生はっせいするので、みんな面倒めんどうだとおもいながらも、必要性ひつようせい認識にんしきしていて、ことわれないでいる。


 この活動かつどうをするようになってから、このスラムがいよる治安ちあんはだいぶくなった。

 近年きんねん功績こうせきだ。

 スラムがいだから全員ぜんいん貧乏びんぼうだけど、それでもまちとしての体裁ていさいはある。


 そもそも、このスラムがいはちねんまえとなり都市としエルダニアがモンスターの大群たいぐん、スタンピードにおそわれて崩壊ほうかい、そのときに避難民ひなんみん移動いどうしてきてできた難民なんみんキャンプなのだ。


 おれまれるまえはなしだから具体的ぐたいてきなことはらない。

 歴史れきしあさ難民なんみんキャンプがまちになり、そのまま定住ていじゅうしたかたちになる。

 そしてトライエはそんな難民なんみん街区がいくれなかったので、すくなからず軋轢あつれきがある。


まちなか仕事しごとをもらうがトライエのひとつめたい。我々われわれげてきたけどエルダニアのほこりがある』


 ということになっている。

 いつかは崩壊ほうかいしたエルダニアにもどり、まち復興ふっこうするつもりのようだ。

 ただしおれ両親りょうしんも、ミーニャの両親りょうしんもエルダニア出身しゅっしんではないらしいといた。

 おれ母親ははおやトマリアとミーニャの一家いっかもどこかから、ここへながれてきたことだけはたしかだ。


 いい加減かげんこのまめだけの食事しょくじきた。


「ミーニャ、今日きょう採取さいしゅくからな」

「え、あ、なに? おままごと?」

ちがうよ、ものってくるんだ。自分じぶんたちので」

「まぁまぁ」


 ミーニャの母親ははおやのメルンさんがおっとりと反応はんのうした。


 スラムがいには正式せいしき名前なまえはないが、通称つうしょうラニエルダとばれている。

 ラニはふるかたで「ている、○○のようなもの」という意味いみだとおもう。

 もちろんエルダニアのエルダだ。


「いっぱいってきてね。おひるはごちそうね」

「あ、うん」


 おれ微妙びみょう返事へんじをする。

 難民なんみんもと都市とし市民しみんなので野草やそうなんてべたことがないひとたちだ。

 はら限界げんかいまでかせたら、くさべることもあるが、非常ひじょう限定げんていされる。

 それよりもへんくさべてあたる、つまり食中毒しょくちゅうどく下痢げりピーになると、いのちにかかわるので、そういう冒険ぼうけんはしない。

 それなら多少たしょう不味まずくても、我慢がまんしてイルクまめべる、という認識にんしき一般的いっぱんてきだとおもう。


 メルンさんもおままごとだとおもっているんだろう、ちくせい。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした、にゃは」


 不思議ふしぎとこちらでも食後しょくご挨拶あいさつは、わせる。


「ではってきます」

「あ、はい。ってきます」

「はい、いってらっしゃい」


 ミーニャはもちろんついてくる。

 というか、いちねんの99ぱーせんとおれうしろをついてあるく。

 おれ親鳥おやどりでミーニャはヒヨコのようだ。どちらかというと子猫こねこみたいだけど。



 スラムがいはそれほどおおきくはない。

 城壁じょうへきないくらべたら、ぶんいちもないかな。

 こういう計算けいさんができるようになったのは、前世ぜんせ知識ちしきのおかげだろう。

 まえだったら「ずっとちいさい」としかわないとおもう。


 スラムがい家並いえなみをけると、すぐ草原そうげんになっている。

 このへんかぶえていて、になっていて、くさえまくっている。

 それからあたらしくほそ低木ていぼくもあちこちにえている。


 になる植物しょくぶつつける。

 つるせいまるっぱが左右さゆうならんでいる。そしてちいさいがみどりさやえる。


鑑定かんてい


【カラスノインゲン 植物しょくぶつ 食用しょくよう


 前世ぜんせではカラスノエンドウだったか。あれよりややおおきめだけど、これはまめ一種いっしゅだ。

 完全かんぜんおなじであるとはいえないけど、べられなくはない。

 ただし前世ぜんせべたことはない。


「ほら、おまめだよ」

「うん、ってる! これもべられるの?」

「そうみたいだね」

「ふーん、へんなの」


 ミーニャが不思議ふしぎそうにう。


「なんで?」

「どうして、べられるのに、みんなべないの? おなかいてるのに」

「あぁ、それはね、そのへんくさべられるって発想はっそうがないんだ」

「そうなんだぁ、でもエドはってるんだね」

「ま、まあ、おれだからな」

「うんっ、エドはえらいもん。わたしのヒーロー、救世主きゅうせいしゅだもんね」

「ああ」


 よくわからないが、ミーニャのなかではおれはヒーローなのだ。

 なんでも屋根やねのあるいえもなく、あめっていてさむかったときに、いえれてくれたという救世主きゅうせいしゅらしい。

 それ以来いらい、ミーニャはずっとうちにいる。

 さんねんまえはなし、らしい。おれ当然とうぜんおぼえていない。


なまべられるのかな」


 ひとって、ねこいぬみたいににおいをぐミーニャ。

 はなをすんすんさせて、ちょっとかわいい。


まめとおしたほうがいい、とおもう」

「そうなんだ、へぇ」


 豆類まめるいには名前なまえらないけど、人間にんげんにはどくらしい物質ぶっしつふくまれていて、なまべると下痢げりになったりする。ここでは命取いのちとりだ。


 インゲンも枝豆えだまめたしかにとおす。

 ほかにもキノコなんかがなま危険きけんかんじだ。


 いえから背負せおいバッグをってきたので、ってあるく。


 カラスノインゲンは見分みわけやすいくさなので、さがすのも簡単かんたんだ。

 赤紫あかむらさきはながそこかしこでいている。季節きせつはるだった。

 すでにみどりまめになっているものと、はなのものが混在こんざいしている。しばらくはたのしめそうだ。


 いち時間じかんもしないで、りょういっぱいのカラスノインゲンがはいった。


「いっぱいれたね」

「おう」

美味おいしいといいね」

「そうだな」


 さすがにあじまでは保証ほしょうできない。


 いえかえってきた。お昼前ひるまえだ。

 ちょうどいい時間じかんだとおもう。


「ただいま、メルンさん」

「おかえりなさい。いっぱいれた?」

「ああ、まめなんだけどいいかな? カラスノインゲンっていうんだけど」

「いいわよ」


 メルンさんが調理ちょうりしてくれる。

 イルクまめわったあと、カラスノインゲンもみどりさやごと少量しょうりょうしおとおでる。

 さながらスナップエンドウというかんじ。


「なんか、青臭あおくさいっ! でもいいにおいかも」


 またミーニャがはなをスンスンさせていた。かわいい。


 イルクまめ深皿ふかざらうえに、でたインゲンもせる。

 なおミーニャの父親ちちおや仕事しごとっていて、おひるもいない。いそがしいらしい。


「「「いただきます」」」


「うん、なんだか、美味おいしいような、もするっ!」

「ああ、まあまあだな」

「なんだかなつかしいあじがするわ。そういえば、むかしくさもいっぱいべたのよね。サラダとか」


美味おいしいっ、べたことがなくて新鮮しんせんだし、れてくると美味おいしいっ」


 ミーニャがぴょんぴょんねて、よろこんでいた。


「それは、なにより」


 カラスノインゲン、まあまあだけど、わるくはない。

 とくに「イルクまめだけ」よりはずっといい。


 食事しょくじはバランスが大事だいじなのは、前世ぜんせ知識ちしきでは常識じょうしきだった。

 野菜やさい摂取せっしゅりょう圧倒的あっとうてきりていない。だからせやすいし、病気びょうきになるひとおおいんだとおもう。


 こうしてファーストアクションは大成功だいせいこうおさめた。


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